第67話 シンディとのひととき
告死天使どもとの戦いを何とか切り抜けた後、避難して来たエルフたちが生活出来るように街の整備も整って来たので、あの時オレの血が欲しいと望んでくれた女性たちと、今回改めて『血の契約』を行う事にした。
(今夜は満月だから、より強力な血の契約を結ぶには丁度いいタイミングだ)
そして、もう既に彼女たちの順番が決まっているらしく、今夜の午前零時にシンディから来ると聞いている。
――コンコン
「開いてるよ」
「お邪魔するのじゃ」
今回、改めて女性たちがオレの部屋へ来る理由だが、まだ十分にオレの血を与える事が出来ていなかった者が多く居たので、今回新たに希望する者には改めて儀式を行うという趣旨だったと思う。
それなのに最初にやって来たのはオレが『血の儀式』を行うまでも無く、元からほぼ無限に近い寿命と魔力を持ち、暗黒剣にして堕天使の細胞で甦った不死の身体を持つ、元サッキュバスのシンディだった。
「とりあえず、するか?」
「もちろんじゃとも」
事情を知らない者たちが聞けば「リア充爆発しる!」などと、声を裏返らせながら慟哭する姿が見えそうな気がするが、そこ違うからな?
今更シンディと眷属契約をしたところで、オレと互角かそれ以上の能力を持つ彼女には、これといったメリットがあるとは思えない。
それでも「相手が希望するならオレの血を分け与える」と言ってしまった以上、それを希望してこの部屋を訪れたシンディを何もせず帰す訳にも行かない。
「これでいいかの?」
オレの部屋にある、何故かとても大きなベッドに腰掛け、自身の首筋が露となるように長い髪をかき上げ、顔を少し傾けるシンディを見ていると胸がキュっとなる想いがした。
「ちょっとくすぐったいぞ?」
「んぅ」
女性の白くて美しい首筋に、いきなり牙を突き立てるような野暮な事はせずに、最初はキスをするように唇の先を軽く押し当て、彼女の皮膚に薄い唾液の跡を残す。
吸血鬼の唾液には神経を麻痺させる効果があり、これで皮膚を破って頸動脈へ深々と牙を突き刺したとしても、シンディが感じるのは痛みでは無く愉悦の感覚。
「ぅうぁ」
オレたち吸血鬼の牙には血管が通っており、相手の頸動脈の内側まで達した牙の先端が、シンディの血液を血管から溢れさせて、オレの口内へと吸い込まれて来る。
そして血を吸うと同時にオレも自分の唇を噛んで傷を付け、血を失って血圧の下がった彼女の血管内に不死因子をたっぷり含んだオレの血を送り込む。
オレたち吸血鬼が別名で『血の悪魔』と呼ばれる理由がここにある。
オレたち吸血鬼以外の者が今のオレと同じ行動をしても、お互いの血が混ざるだけで自分の血だけを相手の体内へ送り込む事は出来ないだろう。
それは、オレたち吸血鬼が持つ『血を自在に操る』能力によって、相手の血と混ざる事無く相手の血管内へと自身の血を送り込み、その体内から細胞組織の書き替えを行うからで、何故その様な事が出来るのかと聞かれても、それはオレが吸血鬼の王だからとしか答えようがない。
ただ、一口に吸血鬼と言っても全ての吸血鬼が同じではなく、これら眷属契約についてはケースバイケースという事もあり、こちらの世界に居る吸血鬼の場合は良く判らない。
シンディの甘くて芳醇な血液は、まるで柑橘系果汁のような、彼女が堕天使の身体を手に入れる前と同じ味がした。
オレたち吸血鬼は血の味について好みと拘りがあり、彼女の血は味以外にもそこに含まれる魔力の濃さと色も合わさり、正に『極上』と評しても良いレベルのものだ。
ここで余り吸い過ぎるとシンディが貧血になってしまうので、彼女の血を取り込んだ分だけ今度はお礼にオレの血を彼女の中へと注ぎ込む。
「これくらいでいいか?」
「ぅふぅ、もう終わりなのかや?」
まだ十分では無さそうだが、もう必要と思えるだけの量をシンディの身体の中に注入した。
「主殿、これはすごい血なのじゃ。妾の魔力と融合して新しい力が生まれて来る気がするぞえ」
シンディの青白く燐光する身体がとても美しく次の瞬間、彼女の背中から黒い猛禽類のような堕天使の翼が現れる。
最初に左右一組二枚の翼が現れ、それが羽ばたいて残像を残すようにして四枚から六枚へとその数を増やして行く。
「どうじゃ、見事なものじゃろ?」
「ああ、とてもキレイだ」
褒めて欲しそうだったので素直に声葉にしてやると、急に恥ずかしそうな顔をする。
「あ、主殿にこれを見せておくのじゃ」
シンディの身体を包んでいた青白く優しい光が、彼女の背中にある六枚の翼へと集まって行く。
漆黒の堕天使の翼に集まった光が徐々にその明るさを増して行き青い光の塊となり、光の集合体となった翼の輪郭が溶けて形を変えて行くと最後は六振りの剣となった。
今シンディの背中には彼女が変身する暗黒剣のデザインに似た六本の剣が、漆黒の鞘に収められた状態で翼の様に広がり浮かんでいる。
「妾の娘たちじゃ。まだ意識は芽生えておらぬがいずれも自分の意志を持つ存在じゃ。この娘たちも必ずや主殿の助けとなろう」
(えーと、もしかしてなんだけど、たった一回の行為で六つ子が授かったって事でいいのかな?)
いくら外見が若いままだと言っても、オレもそろそろ二千歳を超える大人の男だから、いきなり六本の無機生命体の娘が出来ちゃったとしても別に慌てる必要は無いよな?
「まだ赤子ゆえ、名前なぞこれからゆっくり考えてくれれば良いのじゃ。任せたぞ主殿?」
シンディがそう言うと背中にあった六本の剣が翼に戻ると、彼女の背中へと収まって行く。
「まだ、この娘たちを他の者に見せるのは時期尚早じゃから、当分の間は妾の中で育てておくから安心するのじゃ」
「よ、よろしく頼む……」
まだ父親になった自覚は無いが、オレの行為によって生み出された瞬間を見せられているので納得するしか無い。
元居た世界では自分のお腹を痛めて子供を産む母親とは違って、子供が産まれてから一緒に過ごす時間が父親を作って行くと聞いた事があるが正にその通りだと思う。
シンディに再確認したところ全員が娘だと言う事だったので、これからゆっくりと女の子の名前を考えておかないといけない。
そして時間の流れとは早いもので、シンディとこれからの事についてもっと話し合っておきたい事もあったのだが、もう次の順番の者が来る時間が迫っている。
「では主殿、妾はこれで暇するのじゃ。名残惜しいがまたなのじゃ」
「ああ、シンディまた明日な」
シンディの八頭身は確実にありそうなスタイルを後ろから眺めながら扉が閉まって行くのを見送ると、今度はまた別の扉からノックの音が聞こえて来る。




