第66話 どれほどの罪?
SIDE:闇の聖女ディアーネ
本当に何と言う事でしょうか……。
御方様のお部屋へ伺う為に、誰もが一分一秒を惜しんで念入りな準備をしているこの時に、わざわざこのタイミングを狙ったかの様に傍迷惑な輩たちが、城下町の外に姿を現したとショコラ様から伺いました。
このまま放置して街に侵入でもされて、万一にでもエルフの民たちに被害が出てしまえば、今夜の御方様との逢瀬のチャンスがパーとなってしまいますので、これは由々しき問題です。
御方様がこの事を知ればきっと飛び出して行ってしまわれますから、御方様には内密のうちに私たちだけで処理してしてしまおうと言う事になり、御方様へは『些細な事』として、ショコラ様から明日の朝にでも事後報告のみをして頂く事で皆様の合意を得る事ができました。
そうと決まれば出撃あるのみです!
皆様には御方様の部屋へ伺う順番が遅い、私とリンの二人だけで良いと申し上げていたのですが、午前零時が順番となっているシンディ様以外の全員が会議室を出て城を後にします。
「ホンマ、なんで今夜に限って、そんなしょうもないヤツが来よんねん! タマ取るだけでは絶対に許さへんからな!」
怒り心頭のドロシー様が、賊をゼッコロにして次の実験素材にしてやると囁きながら廊下を進みます。
「ホント、ただ殺すだけじゃダメなの。この世に産まれて来たコトを後悔する程度じゃプリの乙女心は収まらないの」
この世にはとても恐ろしい、と言うか悍ましい『乙女心なるモノ』が存在する事を私はこの時初めて知ります。
「確かドッペルゲンガーを見た者には死が訪れるのよね?」
いつもは冷静な子供姿のユナリア様も、今夜の招かれざる客には怒りを抑えられないようです。
「私はちょっと眠いかな?」
まるで寝る前のお花摘みにでも行かれるような雰囲気をされてるはメイプル様でしょうか?
私には無いこの天然に明るい性格は、きっと御方様のお心を癒やして差し上げているのでしょうね。
「ねぇ、ディア。この街に手を出すなんて余程のバカなんじゃないかな? もしボクが襲撃する側だったとしても、この城のメンバーを相手に生き残れる自信が無いんだけど……」
でも、私たち全員を相手に生き残ったシンディ様という過去の事例がありますから、今回は最初から全力で行きたいと考えています。
あの時は当初の想定より時間が掛かり過ぎてしまったせいで、お休みになられるはずの御方様がご登場されてしまいましたから、今回は先ず相手全員を防音結界に封じ込めて声を出せない様にしてから『ポア』しないといけませんね。
あ、『ポア』と言うのは教会で古くから使用されてる隠語で、『殺す』とか『消す』と言う意味の言葉です。
ま、どちらにしても、これから行う事に違いはありませんが……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
SIDE:謎の盗賊団
俺は今、夢でも見てるのか?
街の防護壁を登っていると、その真上にはベッピン揃いの女たちが立っていた。
しかも全員が貴族や王族の姫君かと思えるくらいの美貌とスタイルをしてるクセに、どいつも色街の商売女たちが纏ってる様な、薄くてヒラヒラした下着みてぇなモンを身に付けて俺たちを誘ってやがる。
俺の真ん前に居る女も、そりゃあベッピンさんでもの凄ぇパイオツをした上玉だ。
その上玉が真っ暗闇の中で真っ白な素肌を晒して俺の事を誘ってやがる。
「そこでそのまま待ってろよ?」
俺たちはロープをよじ登る腕に更に力を込めて、上まで一気に登った後のご褒美を脳裏に浮かべてウキウキ気分だった。
ただ気がかりなのは俺たちが五十人以上も居るのに対して、上の女たちは十人も居ねぇからヤリ過ぎてしまえば直ぐに壊してしまうから、これは気をつけねぇといけねぇな。
ま、女はアレだけじゃ無ぇはずだから、おこぼれに預かれねぇ者は、そのまま壁を駆け降りて街に隠れてる女を探しゃいいだろ。
俺は目の前に居る、黒いレースの透き通ったネグリジェから見える爆乳に、むしゃぶりつきてぇ一心で壁を登る手足に一層の力を込めた。
◆◇◆◇◆
SIDE:闇の聖女ディアーネ
私以外の皆様も、今回の盗賊には余程頭に来ていたのでしょう。
本来なら御方様以外の異性には決して見せないはずの姿のまま、皆が城を飛び出して来てしまっていたのですから。
ですが『ポア』する前に相手の脳に高濃度の暗黒魔力を流してやれば、記憶どころか人格すら消えて無くなるのは間違いありません。
でも、それだと後悔させる前に死んでしまいますから、そこまで彼らの記憶に拘る必要はありませんよね?
今一番大事なのは、これから始まる御方様との大切な時間を邪魔されない事と、次に邪魔なこの男たちをお方様に知られる事無く、確実に『ポア』する事なのですから。
死ぬ前に私の勝負寝間着の美しい姿を見られるなんて、この男たちはそれだけで産まれてきた甲斐があったのでしょうが、その記憶はこの後で完全に消去させて頂きます。
亡くなった後も彼らの魂が輪廻の輪に戻れないよう念入りに、呪いの結界で封じ込めておいてあげますから、ご自身の身体が腐り果てて行く様子を実際の痛みを伴いながら体験されると良いと思います。
これは私の前に運良く辿り着いた方だけの特典です。
他の方たちは、また別の方法で蹂躙されると思いますが、それは決して生易しいものでは済まないでしょう。
ドロシー様のように、ご自身はおろか三親等の身内の方までまとめて呪い殺されたり、プリン様のように半分だけ生かされたまま永劫の苦痛を与え続けられるなんて、ご不幸以外の何者でもありませんからね。
ユナリア様とかその他の方も私に言わせれば似たりよったりの酷さですから、どう考えてもサクっと『ポア』して差し上げる私の方が優しいですよね?
リンなんて生きたまま魂を削り取っていますが、あれでは肉体を斬られるより激痛に苛まれてしまい精神に異常をきたしてしまいます。
人格が先に壊れてしまえば、いくら苦痛を与えても本当の意味での罰とは成り得ませんので、そこの所を忘れないよう心に留め置いて今夜の犠牲者さんたちに、ご自分たちが何をしたのか滾々と思い知らせてあげる必要がありますね。
◆◇◆◇◆
SIDE:謎の盗賊団
これは一体全体どうなってやがるんだ?
街壁を登っている最中に突然、身体の自由が効かなくなっちまって今では声を上げる事も出来やしねぇ。
壁の上に居たベッピンの顔を見上げる事も出来ねぇどころか、周りから聞こえて来るはずの、仲間どもの怒号や奇声も何も聞こえて来やしねぇ。
俺は確か街壁を登っていたと思っていたんだが、気が付けば大きく掘られた地面の穴の中に倒れているんだが、一体何があったって言うんだ?
横を向いて倒れているおかげで、視界の端の方にチラリとベッピンの姿が見えてはいるんだが、今はもう指先すら動かす事が出来ねぇ。
おい、まさかこの俺を埋め殺そうとか考えているんじゃ無いだろうな? おい、よせ、土なんか掛けるんじゃねぇ!? 俺はこんな所でおっ死ぬ様な男じゃねぇんだからな!
だから、よせって! 俺を埋めるんじゃ無ぇ! 俺たちが悪かった! 頼む、この通りだ! もう二度と悪さなんてしねぇから、こんな所に埋めないでくれ! なんで声が出ねぇんだよ、クソッ!
さっきから目の前が真っ暗になり、もう何も見えやしねぇし、息が詰まって呼吸も出来ねぇ。
窒息死がこんなにも苦しいなんて夢にも思わなかったぜ。
こんな事なら刃物でバサッリとやってくれた方が全然マシってもんだ。
……それで、俺は死んだのか? でもそれなら今も続くこの痛みと苦しさは何なんだ。
目も見えず、耳も聞こえず、叫ぶ事も出来やしねぇのに、全身を真っ赤に焼かれた針で突き刺される用な痛みがずっと続いてるし、その痛みが段々と強くなって今では激痛となっている。
想像してみてくれ。
窒息による苦しみが続く中、全身を針で突き刺される激痛が同時に襲われて、普通なら気を失うか、意識そのものが無くなり痛みから脳が開放されるんだが、何故か意識が明瞭なまま気を失う事も許されず、死ぬほどの激痛に苛まれる続けるんだ。
こんな罰を受ける俺たちは、一体どれほどの罪を犯したと言うのだろうか?
地面に埋められる時に聞こえた女たちの話し声だと、未来永劫だなんて抜かしてやがったが、本当にこんな状態のまま永久に苦しみ続けなければならんのか?
誰か教えてくれ、頼む……。




