第65話 第五回定例乙女会議
SIDE:闇の聖女ディアーネ
皆様、これより第五回定例乙女会議を開催させて頂きます。
今回も一人の欠員も無く全員参加と言う事になりましたが、皆様が現場を離れる事で街の運営に支障を来さないか心配です。また今回から初参加となるフェイリン様も加わって、総勢
別に皆様をこの部屋から排除しようと考えている訳ではありません、あくまで、そう、あくまでこの街に住む方たちの事を思っての発言ですので、リンは今の私の発言を議事録に残すのは止めて下さいね?
さて、前回の苦しい戦いを終えた事で、御方様の心に変化の兆しが現れてきました。
これはシンディ様を一度失った事でお心にスキが生じたのか、それともここに居る皆様を二度と失わないよう強化する為なのかは判別出来かねますが、私たち一人一人と向き合いその心を受け入れて下さるなど、この様なチャンスはもう二度と巡って来無いかも知れません。
ですから、その前に皆様の意見と希望をまとめておいて、お互いの利害がぶつからないよう予め協議をしておく必要があると考えたのです。
先ず最初はシンディ様から伺います。
今は元の様に人型の姿となっていますが、これから御方様とは、どういったお付き合いを希望されますか?
そんな小さな声では皆に聞こえません……これからも仲良く暮らして行きたいのですね? 了解しました、その線で行きましょう。『シンディ様のご希望は現状のまま』とリンに記録するよう指示をさせて頂きます。
え、何ですか、このままの文章ではダメなのですか? それなら何と書けば良いのか、ちゃんと仰って頂かないと記録が残せないのですが? とりあえず『二人で仲良く』と書き足しておきます。
それからフェイリン様は、御方様から正式に吸血の儀を経て『吸血鬼の花嫁』を希望されるという事ですね。
既に不死者となられている貴女様が、別の不死者になれるかどうかは判りませんが、それで宜しいのですね?
例え花嫁の能力に目覚めなくても貴女の脳内でなら花嫁にはなれますからね、では次に参りましょう。
フェイリン様と同じく、御方様との吸血の儀を望んでおられるのがメイプル様です。
彼女は姉のユナリア様と同じエルフの双子で、そのスラリとした長身に備わった長く美しい二本の脚が、御方様のお心を捕らえて離さない美女なのです。
もし彼女が『吸血鬼の花嫁』となってしまえば、現状として私以外に子供を授かる事が可能な成熟した肉体を持つライバルが出現してしまいますが、そうなりますと彼女の姉であるユナリア様もメイプル様の能力をコピーして同じ能力を手に入れてしまいますから、一気に二人もの花嫁が増えてしまう危険があるのです。
え、プリン様ですか? 確かにあの方も花嫁候補のお一人ではありますが、未成年のまま不死者と成られたので身体があれ以上成長されませんから、私のライバルには成り得ません。
だって御方様にはそう言った『属性』をまだお持ちではありませんから、今後もその様な高貴なご趣味を持たれないよう、私がお守りして行かねばなりません。
プリン様とドロシー様も私と同じく、お腹の奥底にドス黒い欲望を隠しておられるみたいですが、御方様を前にすると途端にヘタレてしまいますので、ある意味では安心して見て居られますよね。でも御方様はそんな彼女たちにも『花嫁』になれるチャンスを、お与えになるおつもりのようです。
そしてリンです。
リンも間違いなく御方様の事が好きなはずなのですが、これまで一度も私にその胸の内を明かしてくれません。
どれだけリンを観察していても彼女の本心が判らいのですが、それより重要なのは今の彼女がどの様な不死者に至っているのか、それすら全く判らない事です。
もしかしたら私が一番警戒しなくてはいけないのは、私の一番身近に居るリンなのかも知れませんね。
あと今日の会議で決まったのは、この城の最上階にある御方様のお部屋へ伺う順番です。
御方様の居室を中心に、時計と同じ十二室の女性たちの個室が設けられていて、明日の夜中の午前零時から一時間ずつ該当する部屋の女性が御方様の元を訪ねる事に決まってます。
先ず最初は零時方向に私室を持つシンディ様を皮切りに、一時と二時はユナリア様とメイプル様が、その次は三時にショコラ様、四時にフェイリン様、五時にドロシー様、六時にプリン様、七時にリンで、そして最後の八時が私の順番です。
あと九時から十一時までのお部屋は空室のままですから、御方様と最後まで一緒に過ごせるのは私なのです。
そうと決まれば皆様が一斉にこの会議室を後にして、今日のお仕事を終わらせる為それぞれの持場へと戻って行かれますが、今日の夜十二時までには、まだ十分な時間はありますが乙女の準備には色々と時間が掛かるのです。
かく言うこの私も新品の勝負下着とか、湯浴み用の香油ですとか、この日の為に準備した品々がありますので、本日の街づくりのお仕事は早めに切り上げさせて頂こうと考えています。
どうか皆様、今日の午後は大きな怪我をされません様にご自愛下さい。
私もプリン様も余程の大怪我で無い限り、診療所には戻りませんので、あしからずです。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
SIDE:謎の盗賊団
俺がその街の噂を耳にしたのは、手下の一人が荷物を満載にした商隊を見つけたと報告があったからだった。
その商隊には黒塗りの馬車が十台以上も連なっていて、その護衛は二十人も居やがったんだが、俺たち『夜の団』の手勢も今では百人を超える大所帯となっているから、今根城にいる者たち全員で夜襲すれば一瞬で片がつくはずだ。
黒塗りの馬車なんて、この辺りの貴族や富豪で使ってるのを見た事が無いから、積荷の一部か全部かは知らねぇが、決して公には出来ねぇ禁制の品々が積んであると考えた。
「これは一財産築けるかも知れねぇな」
黒塗りの馬車に持主を示す紋章の類が一切無い所を見ると、これは盗賊に襲われて被害が出たとしても公に出来ねぇ積み荷に間違い無い。
それに、ただの商隊なら二十人もの護衛なんて雇えるはずが無いので、これは間違いなく何処かのお貴族様が国に内緒で運んでるブツだと思う。
あれだけ多くの護衛は確かに邪魔だが、お貴族様の私兵程度なら倍の人数で襲いかかれば、積荷を放り出してでも自分の命を選ぶはずだ。
黒塗りの馬車をこのまま追いかけて、奴らが休憩するか野営するのを待ってから一気に襲うと手下どもに声を掛けておく。
その間も馬車は走り続けるが、その速さが尋常じゃ無い事に気づく。
普通ならあんな速度で馬を走らせ続ければ、必ず途中で潰れてしまうはずなんだが、あの商隊の馬たちは、ずっと早駆けのまま疾走を続けてやがる。
このままだと俺たちの馬の方が先にバテてしまうんじゃねぇかと危惧していたが、商隊の進行方向が真っ直ぐ北を目指していやがる事に手下の一人が気づいた。
それなら相手に合わせて無理な追跡なんかしなくても、後からそれなりの速度で追いかけて行けばいつかは追い付くって事よ。
しかし、この方角に街など無かったはずだが、もしかしたら新しい開拓村でも出来たのか?
もしそうならその村ごと襲ってやれば、馬車の積荷以外に村の食料と女も手に入るから、俺たち盗賊には良い事ずくめにならぁな。
それにしても黒塗り馬車の馬は足が早かった。あれほどの馬なら是非、俺たちの足として使ってやらねぇとな。
途中で何度か休憩を挟みながら、それでも黒塗り馬車の積荷を脳裏に浮かべながら夜の森の中を進む。
もうこの辺りは『魔の森』と言って、魔物が出没するはずなんだが、俺たちはツイていたのだろう、魔物の類いには一度も出くわさなかった。
それと、もうこんな時間になってしまったが、今ならあの黒い馬車の商隊も何処かで休んでいるはずだから、このまま進んで行けば奴らの寝込みを襲えると考え、手下どものケツを叩きまくって後を追い続けた。
すると魔の森のド真ん中に、これまで見た事もねぇ街が出来ていやがった。
その街は、とても登れねぇほどの高さで造られた真っ黒な壁があって、中へ入るどころか、中を伺う事すら出来やしねぇ。
まともに考えれば、こんな物騒な魔の森の中に街を造るぐれぇだから、俺たち盗賊なんか何人居たって歯が立たねぇ事くらいは判りそうなもんだが、仲間たち全員を引き連れてこんな辺鄙なとこまで出張って来たからには、手ぶらで帰る訳には行かなねぇ。
俺たち盗賊にもメンツってもんがあって、それが無くなっちまえば、俺を殺して新しいカシラが現れちまうからな。
これくらいの規模の街なら、普通は防護壁の上を衛兵たちが交代で警備してるものなんだが、目の前の街には衛兵どころか松明の一つも灯されて無ぇ。
これはもしかすると街を造ってる最中で、十分な数の衛兵がまだ居ねぇって事なんじゃないか? それなら、まだこの街の奴らが寝てるうちに火を着けて燃やしてやれば、パニックになって逃げて来た者を殺して回れば直ぐにカタがつくはずだ。
勿論、殺すのは男だけだ。
俺は手下どもに命令して壁にロープを引っ掛けてよじ登り、略奪と殺戮の開始を告げた。




