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異世界吸血鬼 ~前世も吸血鬼なんだが?~  作者: としょいいん


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第64話 街の運営

 各自の仕事を終えてまた城の会議室まで戻って来ると、昼間の作業を進めて行くに当たり様々な問題点が出てきた事を皆の意見で知った。


 先ず最初に金貨の数が全く足りない。


 幸いな事に金と銀はそれなりの量があったので、鍛冶師の居ない今の状況ではショコラの錬金術によって何十枚かずつまとめて作っているのだが、これほど大量に通貨が必要になるなど想像してなかったので鋳造施設を準備しておく時間が無かったのだ。


「ロード君、手の空いた私に通貨製造を任せてくれないかしら?」


 農耕地の調査が終わり別の場所で応援に回っていたユナリアが、ここで面白い手品を見せてくれる。


「右手に教国で使用されている1アール金貨が、そして左手にはその素材となる金の小粒があります。そして、これをこうすれば?」


 彼女が自分の両手を一度合わせてから再び開くと、そこには二枚の金貨が存在していた。


「どうやったんだ?」


 ユナリアの説明だと、彼女の持つコピー能力は自身と自身が触れたモノに対してその効力を発揮させる事が可能という事で、同じ素材であれば同じ形にコピーするのは、それほど難しい事では無いと言う。


(まさかドッペルゲンガーに、そんな便利機能があったとは知らなかったが……)


 それなら明日ここを出発するフェイリンには今ある金貨を全て持たせて、その半分ほどをナイスミドルへの返礼品に加えておいて貰おう。

 これで金貨を量産する事が出来れば交易部隊をローテで回す目処が立ったから、エルフたちの食料と生活必需品の買い出しも何とかなるだろう。


 それとシンディのグレーターデーモンたちが作ってくれた耕作地には作物の種が必要になって来るが、それらについてはエルフの街へ手配してる最中だとも聞いた。

 あと紫スライムとパイブーの木の採取に出かけたままのレオンたちが未だ戻って来てないらしいが、彼らに限って心配する必要は無いだろう。


 そして、この城で今は地下一階部分になっている玄関ホールエリアを開放して、エルフたちの天幕をここへ移す事になった。

 これで当面の雨の心配は無くなったが、建物内部にはトイレが無く不便だと意見が出ていたので急遽ダンジョンポイントで作る事にした。


 これから先、城の一階部分は不特定多数の人々が出入りする事になると思うのでフロアの北側にそれなりの大きさの区画を確保して、かなり大きめの公衆トイレを造っておいた。


 完成してから気がついたが、この大型の公衆トイレは元居た世界にあった高速道路のサービスエリアのものに良く似ていた。

 例え別の文明であっても同じ機能を追い求めた結果、似たようなデザインになると言うのは本当だったようだ。


(もしこれが生物なら、収斂進化という事になるんだろう)


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 あれからバ=ロッティが送ってくれた商隊が到着して、エルフたちが当面必要になる食料と生活用品を受け取り、空になった馬車には返礼品として金貨とこの城の地下で採掘した鉱物資源を載せて帰って貰った。


 その商隊と一緒にフェイリンとクリディオの部隊も出発させて、街に必要な資材を買い付けに出て貰ったから、もう今頃は父親のナイスミドルの元を離れてユーデイス領からこちらへ向かっている頃だろう。


 リンが現場監督として頑張ってくれたおかげで仮設住宅も無事完成し、今はそこを仮の宿としてエルフの民たちを住まわせながら、彼らには自分たちの住処となる木造住宅の新築を進めている。

 それ以外に、エルフ戦士団の皆が住む為の兵舎も既に二棟が竣工しており、今は生者と不死者(イモータル)に別れてそこに住んで貰っている。


 エルフたちが働く場所として、城の南側に少し大きめの農地を拵えておいたのでエルフ戦士団を含めても三百人ほどしか居ないエルフたちだけで本格的な食料生産は無理だと考えていたが、各種の精霊魔法に精通した者たちによって豆類等の穀類や野菜類の栽培が始まっており、必要となる人手が驚くほど少なくて別の仕事を与えてやる必要が出て来てしまった。


 彼らの意向を聞いてみると、この土地(と言うか城の地下)には豊富な鉱物資源があると聞いていたらしく魔法具の製作をして他の街で売りたいと希望していたので、現場監督をしているリンと建設工事のベテランスタッフとなったドロシーに頼んで工房区画を増設して貰った。


 そしてオレたちの城だが、街造りの為にいちいち地下へ降りて行くのが面倒になったのでショコラに頼んで地下ダンジョンから城郭モードへと戻して貰ったのだが、小さな地面の揺れを伴って地中から現れるシルヴァニア城を見たエルフたちの驚く姿を見て少し誇らしく思った。


 その時にエルフたちからこの場所を何と呼べば良いかと聞かれたので、ここはシルヴァニアの街だと教えておいたが、それが元の世界の言葉で『銀髪の吸血鬼が治める土地』だと言う意味は伏せておいた。


 この街で働くエルフで農業に従事する者たちが育てた作物のうち、彼らだけで消費し切れない分については一旦オレの城で買い取って近隣の村や街の市場で売る事にしたのだが、彼らの代表をしているフーカからそれらの作物を税として納めると言って来た。


 さすがに収穫量の半分以上もタダで受け取る訳には行かなかったが、オレたちがこの土地に彼らを迎え入れる準備を見ていたエルフたちの総意だと言うので、今回に限り有り難く受け取っておいた。


 彼らが言うには何から何までタダで準備して貰っていたので居心地が悪かったらしい。

 ただ次からは今回受け取った半分だけを税として受けとり、残りの半分は通貨で支払うと言っておいた。


 これは彼らに良い顔をする為では無く、この街に貨幣経済を導入する為の布石でもある。

 この街に住む者同士で商売が成り立つようになるには、この先まだ何年もかかるとは思うが最初の一歩は踏み出しておきたかった。

 

 魔族やエルフと比べて能力平均値が低い人族が、他の種族を圧倒してる原因の一つとして圧倒的な数の多さと貨幣経済による国力の集中がある。

 そして、その人数の多さを生かして装備品の数々で武力の低さを補い大きな戦力としているのは、人間の社会に根付いた貨幣経済が大きく寄与しているとオレは見ている。

 

 ただオレたち不死者(イモータル)は生きる為に必要となる物が少なくて、需要と供給のバランスが取りづらく経済を発展させるのが難しいと言った問題がある。

 そこで使用する金の量はそのままに、街の中で使用する貨幣のデザインを別の物に改めて、更に製作過程の中でオレの魔力が込められた血を一滴混ぜる事によって魔貨を造り出した。


 魔貨に使用するオレの血は城の地下にあるドロシーの研究所で培養設備を新設しておいたので、最初にいくらかの献血をしておけば後からいちいちオレの身体から抜く必要も無くなる。


 この魔貨を集めて身に付けていれば不死者(イモータル)として能力アップが可能となるのだが、それにはかなりの枚数が必要となるように薄めておいた。

 それと製作の事情で魔貨とするのは金貨のみだが、銀貨と銅貨を集めて両替すれば魔貨が手に入るから金貨以外の魔貨は必要が無かった。


 ただ、このシステムだと魔貨を溜め込んだ者が多く居ると流通しなくなるので、ある程度の枚数を持って城に来れば、それと交換でオレの血爪によるクラスアップをしてやる事で魔貨が循環するような仕組みにしておいた。


 また工房で製造される魔法具についても当面の間は農作物と同じ税率にしておいて、それ以外の物はオレが一旦買い取ってから街で消費しない物については別の街との交易品とする。


 他所の街や村と交易して、まだこの街で生産出来ていない様々な品物を手に入れる為に、それ専門の部署を作成する事になったので、その責任者としてメイプルを指名しておいた。

 彼女ならソドモラの街を姉のユナリアと一緒に運営していた実務経験があり、オレの城に住む仲間ではただ一人の生者と言う事もあって、オレたち不死者(イモータル)では気が付かない事にも対処して貰えそうだと思ったからだ。

 

 オレが天使(エンジェラン)どもとの戦いから戻って来て、不死者(イモータル)の身体にムチを打つようにして働き詰めだったのは実は疚しい理由があったのだが、街の整備がある程度の形まで進んだ事で、オレ本人ですら忘れていた約束を思い出させる事態が発生してしまう。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「マイロード様、戻たアル」


 その日の午後にフェイリンがユーディス領との交易から戻って来て、オレが彼女の父親のナイスミドルへ持たせた手紙の内容を聞いたと言ってきた。


 確かあの手紙には、エルフたちの食料と生活必需品の代金とお礼の品をナイスミドルが必ず受け取るように、フェイリンをオレの元へ嫁がせる結納品の一部だみたいな内容を書いていたっけ? 今、冷静になって考えると何故そんな内容にしたのか自分でも疑問なのだが、吸血鬼の王(ヴァンパイアロード)が一度口にした言葉を無かった事には出来ない。


 あの時、天使(エンジェラン)どもと戦ってシンディを失い心が傷ついたオレを優しく見守ってくれて、もしオレが死を望むなら一緒に死ぬとまで言わせてしまった相手の望みを、そのまま無視する事は出来なかったのは確かだ。

 その時に流したオレの血がシンディの胸に垂れてしまい、今の彼女は殭屍(きょうし)なのに吸血鬼(ヴァンパイア)ウィングが使えるなど中途半端な能力者になってしまっている。


 あの戦いで滅びていたかも知れない不死の生命だが、フェイリンの他にもオレの血を欲しいと望む者たちが居れば与えてやろうと思ったのは確かで、その順番とか色々と話し合いが必要だと言い出した皆がオレを置いて五階にある大会議室へと駆け出して行ってしまった。

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