第62話 エルフ難民救済
いつまで経っても泣き止まないチンチクリンをリンとディアーネの二人に託して、オレはあの場所から逃れるようにして城まで戻って来た。
《おかえりなさいませ、マスター》
「ただいま。それで、ここに送られて来たエルフたちは今どうなってる?」
エルフの村を守る戦いでは辛くも勝利をお収めたオレたちだったが、村を守っていたエルフ戦士団の約半数が戦死するほどの大被害を受けていた。
住み慣れた村を離れたエルフたちだが、魔の森の更に奥地にあるエルフの街を目指して疎開していた者たちの約半数に当たる百名ほどが敵に捕まってしまい、その者たちを救出してドロシーの転送魔法でシルヴァニア城まで緊急避難をして来たのだった。
それまでこの城に居る者たちは不死者となった者がほとんどだったので、普段から食料の備蓄を余り必要としていなかった。
その為、この城で唯一の生者であるメイプルの為に必要な食材以外の食べ物としては、女性たちの美容の為に摂取が必要なコラーゲンを含む食料がいくらかある程度で、それらを腐らせないように食べ切れる量しか在庫していなかったはずだ。
《エルフ村の方たちですが、当面のニ〜三日程度なら手持ちの食料で賄えそうだと代表の方から伺っておりますので、その食料が無くなる前にメイプル様が近隣の街から食料を買い出して戻って来られる予定です。
また、その護衛としてベルムントが彼の部隊であるデッドエルフ二十名とデッドホースに引かせた馬車十台と同行していますので、食料の他に必要となる生活用品などの品々も手に入ると思われます》
お金については以前にシンディのスーツを修繕する素材を発掘した時、この城の地下から様々な鉱物資源を発掘出来ていたので金貨と銀貨を急いで錬成して持たせてくれたそうだ。
クロノとカイのダンジョンからも、貨幣製造の為に必要な金と銀と胴が早々と送られていて当面の間はそれらでエルフたちに必要な物資を購入し続ける事が出来るが、それでも永遠にという訳にはいかないので、ここはエルフたちと話し合ってこれからどうするのか決めておかなくてはいけない。
「エルフたちの代表者って誰なんだ?」
《フーカ様という方で、マスターのご友人だとお聞きしていますが?》
そう言えば村での戦いが終わってから、エルフたちを街に送り届けた戦士と一緒にフーカも戻って来ていたな。
「それなら、ちょっとフーカに会って来るよ」
天使たちとの戦いが終わりまだ城に戻って来たばかりだというのに、エルフたちの問題を解決するためフーカを探しにエルフの野営地まで出かける事にした。
(いつも思うけど、疲れを知らない不死者の身体って本当に便利だよな)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
いつもなら城の窓から飛び出して行くのが普通だったが、先の戦いで敗北しそうになった時に城郭部分を地下に隠しておくように命じておいたが、今もそのままとなっている。なので、たまには歩いて門から出て行くのも悪くないと考えて長い廊下を抜けて門から外へ出る。
門の外には真紅のフルプレートを纏った重騎士が門番をしてくれており、彼は確かカイのダンジョンに居た七騎士のうちの一体で、生前はカイの恋人となったゲルダ公女の家に使える近衛騎士だったとも記憶している。オレはまだ名前を知らない彼に頭を下げて一礼してからその前を通り過ぎ外へ出た。
門を出て真っ直ぐ南北に伸びる大通りを歩いて行けば、そこかしこに野営用の天幕が所狭しと並べられていて、天幕で囲まれた中央部の広場には新たな井戸も掘られて、その周りには簡易な竈が作られていた。
「あ、シルデビ様、ちょうど良いところに!」
背後から声を掛けられて振り向けば、エルフ難民たちの代表者をしているフーカが居た。
「戦いが終わったばかりで忙しい時期なのにゴメンね。でも食べ物とか、それ以外にも色々と必要な物があるから皆で話し合っていたところなの」
フーカの説明では今ここに居る百名ほどのエルフ難民と、生者と死者を合わせて二百名以上も居るエルフ戦士団の全員を魔の森の奥にある街で受け入れて貰うには、やはりそれなりの準備期間が必要となるらしく、いずれその街へドロシーを一度行かせて彼女の転送魔法で送るにしても、当面はこちらで面倒を見て欲しいと言う事だった。
オレが守ると言ったはずのエルフの村があんな結果になってしまったので、エルフ難民たちの面倒を見るのは全く構わないと言うか、責任を感じているから頼って欲しいとさえ思ってる。
ただ、先ほどの戦いで戦死したエルフたち百名ほどが今ではエルフの死鬼(うちではデッドエルフと言ってる)となってしまっているから、何の事情も説明しないまま彼らを街に行かせてしまえば新たな問題が起こってしまうかも知れない。
フーカはオレが元の世界でプレイしていたネトゲ仲間で、オレの事を今でも『吸血鬼と言う種族を選んだ』人間のプレイヤーだと思っている。
だから彼女にはオレが正真正銘の吸血鬼で、過去の大戦時に核攻撃を受けて二度蘇った過去なんかは話していない。
ここでエルフ難民たちと一緒にフーカが暮らす事になれば、元ベテランプレイヤーの一人だった彼女が見れば、オレがプレイヤーとしてかなり逸脱したチート能力を持ってる事に気づいてしまうだろうが、それを今から心配してエルフたちと距離を置くという選択肢は無い。
もし彼女たちと距離を置くなら教国軍との戦いに参加すべきでは無かったが、この異世界へ来て偶然にしろ出会った知人を見す見す殺させるなんて出来なかった。
「フーカも色々と大変だと思うが頑張ってくれ。それと城で用意できる物なら何でも提供するから遠慮せずに言って欲しい。あと村の皆には、ここでの生活は心配するなとも伝えておいてくれ」
「みんなのご飯に、寝る所に、水道にトイレ。ホント、人が生活して行くためには色々な物が無くちゃいけないのね」
オレはフーカに連れられて、エルフたちの集落みたいになっている天幕の張られた場所を二人で隈なく見回ってから、彼女を伴って城の地下にある大会議室へと戻る事にした。
オレたちが部屋に到着するとそこにはもう主なメンバーたちが揃っていて、エルフ難民の援助策について話し合いが行われていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
SIDE:闇の聖女ディアーネ
それでは、これよりエルフ難民救済委員会の開催を始めさせて頂きます。議長はこの私、ディアーネが拝命させて頂きますので皆様宜しくお願い致します。
先ず最初の議題は三百名分の住戸をどう確保するかですが、御方様とドロシー様の土魔法を使用すれば直ぐにでも目処は立つと思います。
ですが、どれくらいの規模で何人ずつ別れて住まれるのか等エルフたちの事情もありますが、彼らに石を合成して造った建物に住めと言ってもストレスが心配です。
そこで木造住戸を建築するまでの仮の宿として、城の東側に合成石造りの住戸を用意し当面の間はそこに住んで頂きます。
勿論、彼らは生者ですからその家には水道とトイレも必要になりますし、料理を行う為の台所や食事を行う部屋の他に寛ぐ為の居間、後はプライベートルーム兼寝室と言ったとことでしょうか?
一軒の住戸に子供一人か二人を想定して三LDK平屋立てとすれば、エルフたちが木造住宅へ引っ越した後も別の入居者が現れた時の仮設住戸として再利用出来ます。
そして必要な数なのですが、戦士団に所属していない方々の人数が百名ほどですから、ご夫婦か気の合う方同士で住んで頂けるなら五十戸と予備がいくつかあれば当面の間は足りそうですね。
それと戦士団の方々については、生者と不死者で別れて集合住宅の様な兵舎を建てて頂こうと考えてます。
現在は生者と不死者の数がほぼ半数ずつとなっておりますが、今後の事も考えますと百人用兵舎を三棟建築しておけば将来的にアルフィリオ、ベルムント、クリディオの三名を長とした部隊運用の準備にもなるかと考えます。
常設の戦力が三部隊あれば遠征、防衛、補給兼休養のローテーションが組めますから、これから先も人間たちの軍と戦って行くには、今以上の戦力増強が必要になると思われます。
木材については付近の森から切り出す事としますが、伐採した土地には新たに植林とエルフたちの植物育成魔法を行って少しでも早く元の森に戻せるように努力をしておきたいです。
木造住宅においても基礎となる部分については、合成石造り(錬成コンクリート製)としますので、御方様とドロシー様には早々に現地へ出向いて頂き基礎工事の着手をお願い致します。
もう現地ではリンを現場監督として派遣していますので、現地の事は彼女に指示を仰いで頂けると助かります。
次に食料確保の資金についてですが、現在この城にある金銀で他の街から輸入出来るのは凡そ一年くらいだと考えて下さい。
それまでにエルフ難民の方たちがご自身たちの街へ戻られれば問題はありませんが、もしこの土地に残られる方が居られた時の為に城の防護壁の南側半分を生産農地に変更するようにショコラ様に準備を進めて頂きます。
現地での土壌改良についてはユナリア様が既に作業を開始しておられますから、土地の開墾はエルフの男性たちと一緒にレオン様とクロウリー様にも力仕事を受け持って頂きます。
現在、メイプル様たちの班が食料確保の為の第一陣として近隣の街へと出発されていますが、彼女たちが戻って来られるのが明後日の昼頃として、もう明日の朝には別の街に向けて第二陣が出発していなければなりません。
次の目的地としてはバ=ロッティ子爵の御領地であるユーディス領を考えておりますので、そのメンバーとしてはフェイリン様にお願いするのが妥当かと考えます。
また、彼女に護衛は必要無いかも知れませんが、この商隊にはクリディオ隊に同行して頂きデスホース十頭が率いる馬車の運行管理をお願いしたいと思っています。
シンディ様には御方様の補助としてずっとお側に居て頂きたくは無いのですが、私の口からそれを言う訳には参りません……。
「妾なら開拓の方に行って参るぞ? この人間形態であればグレーターデーモンどもを召喚出来るし、一日もあれば開墾どころか土まで耕して畑にしてやるから待っておるのじゃ」
私、悔しいです。
もし今の私がシンディ様の立ち位置だったなら、絶対に御方様の隣をお留守にする事は出来ないはずです。
それなのに皆が言い出せない彼女の能力の使い方についてご自身から協力を申し出て下さるなど、嬉しい反面身につまされる思いがします。
もしかしたら私は胸のサイズ以外、何一つとして彼女に勝てるモノが無いのかも知れません……。
それでも生前の私とは違い、今の彼女は永遠の生命を持っていますから、ここは焦らずじっくりと御方様の役に立つ為に自分の持てる力を使う事にしましょう。
あとプリン様には城で救護班として私と一緒に待機して頂いて、住戸と兵舎の建築工事や新しい農地開墾に従事した者たちが負傷した際の治療にあたって頂きます。




