第60話 堕天
SIDE:死天使アズラエル
我が仕えていたはずの女神は我が本当の危機に陥った時、我を見捨てて救いの手を遣わさなかったのである。
だが、それももう良いのである。
我とて女神の持つ二つのたわわなアレに惑わされていただけで、魂の奥底から仕えていた訳では無いと己の心の声を聞いたのである。
我の契約者を我が義体の内部へと閉じ込めていたにも係わらず、彼の腕と足を斬り落とされて物言わぬ芋虫となった時、我の運命は決定されたのであるな。
生ある者なら何者でも斬れぬモノは無いとされる暗黒剣ですら、我がこの世に顕現させたアストラルボディを傷付ける事など出来ないと思っていたのである。
実際に斬られても突かれても我の身体は少しも痛くなかったのであるが、それは物理攻撃無効と言う我が仕える神が定めた神聖なルールであったハズなのであるが、まさかあのような手段を持って我の精神を攻撃してくるなど思いもしなかったのである。
我の中に居る芋虫が暗黒剣に斬られる度に泣き、貫かれる度に叫ぶのであるが、その芋虫は自身の肉体を動かす事は出来ず、これらの絶叫は全て精神の内側でのみ轟くのである。
最初は泣き叫ぶ芋虫の精神波などこれっぽっちも気にしていなかったのであるが、暗黒剣が芋虫の身体を傷つける度に、こ奴の中にあった神を崇める気持ちが段々と呪詛を吐く様になっていったのである。
斬られれば斬られるほど、貫かれれば貫かれるほど、この脆弱な芋虫の精神は神への感謝を忘れ身体の痛みを与え続ける悪に対して簡単に屈服し精神が折られていったのである。
我のアストラルボディをいくら攻撃されても、我の存在そのものにダメージを与える事は不可能であるのだが、我との契約によって精神的に繋がり同化した芋虫の身体を損傷させる事によって精神を蝕まれる苦しみが、これほど己の不死身を呪う事になろうとは想像もしなかったのである。
我とて最初から女神の胸に傾倒していた訳では無く、今代の女神が誕生した後に我ら天使が生み出されたのであるが、我はあのOP至上主義に精神を真っ赤に染められたウリエルたちとは違っていたのである。
しかし天使と言えど仲間との協調関係は必要であるから、その評価対象となる巨乳・美乳を持つ清らかな乙女の肉体と魂の簒奪に勤しんでいたを過去をふり返れば、いつしか我もその価値を共有していたのであろうな。
我の目の前には先ほどから選手交代した新たな乙女の大きくて柔らかな二つのマシュマロが、彼女の両手で寄せて上げられる事によってその魅力がさらに強調されて、我の中に居る芋虫の魂の震えが我にまで伝わって来るのである。
だが我に言わせれば、最初の聖女の胸の方が一回り以上は大きかったと見抜いていたのであるが、大天使スキャンというレアな能力を持たぬ芋虫風情では、寄せて上げられたパンパン状態のアレに反応してもしかたが無いと思うのである。
そんな魂の苦痛と悦楽が繰り返される中で、つい先ほどから芋虫の精神に変化が現れ始めたのである。
それはこの世の全てとも思えていた、あの柔らかでぷにぷにした二つのメロンを見せられると何故か急に怯えてしまうようになったのであるが、その頃から芋虫の精神の中にドス黒い神経毒のような思念が混ざるようになっていったのである。
我が力を与えた最初の頃は我と神への感謝の念が感じられたものであるが、それが今では悪の暗黒剣で斬られる度に、この運命が全て天に組みした罰であったかの如く芋虫の精神を後悔と懺悔が蝕んで行ったのである。
たわわなアレを見せられて、少しでも精神が乱れれば即座に暗黒剣による無慈悲な斬撃が加えられたかと思えば、続けて二本の御神体を見せられた時、今度は逆に精神に揺らぎが見られなければ再び暗黒剣による無慈悲な刺突が繰り返されるのである。
我の精神と身体に痛みは全く感じないのであるが、芋虫めの脆弱な精神が我と同調している以上そこが我のセキュリティ・ホールとして存在し、そこから送られて来るドス黒い呪詛のパケットが我の精神を汚染し続けるのである。
我の精神には『聖なる護り』と言うセキュリティプログラムが実装されてはいるのであるが、我と同調した芋虫のアカウントからダイレクトで送られてくる、様々な苦痛や後悔の思いは女神印のセキュリティーを潜り抜けてダイレクトに我のシステムを侵食して行くのである。
巨乳こそ正義? 美乳こそ至高とな? そんな事は大きな間違いだったのである。
生命の神秘とは女性の下半身にのみ存在し、その神秘なる器官を支える尊き二本の至宝こそ、腰骨から下に伸びる大腿骨と大腿四頭筋が織りなすハーモニーなのである。
その下にも膝裏の膕なる大腿二頭筋から下腿三頭筋へと流れるラインが創り出す陰影のファンタジーを知るべきであるし、踝から踵へ至る素肌の張りの美しさと足の甲に刻まれた幾筋ものライン、そして指先にある爪の形に至るまでどこを眺めても美の集大成なのであるな。
そして、その映像をしかと脳内の記憶領域へと上書きし、たわわな二つのアレから靭やかな二本のアレへと信仰対象の交代が速やかに行われる。
「美脚こそ至高である! 美脚こそ至宝である! 美脚こそ……!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
SIDE:オレ
その時 、神々しい光に包まれた白金色の鎧を纏い、猛禽を思わせる純白色の翼を持つクソ大天使の身体に異変が起き始める。
先ず最初に天使のみが持つ頭上を照らす光輪が、その輝きを失い、やがて消滅すると、その頭上から始まった変化が徐々に身体へと降りて来て、背中にあった翼も先の方から徐々にに黒く染まって行く。
上段ニ翼の変化が終わり中段にある翼も黒く変色し始めた時、白金色の鎧も漆黒の闇色へと変化を始めて銀色だった縁取り部分が血の色を思わせる紅のラインへと変化して行く。
「とうとう堕天したな、これで天界へと戻る事は叶わなくなった訳だが、お前の苦しみはこれで終わりじゃない。これから始まるんだ」
ここから先のシナリオはオレでは無く、シンディからの要望だ。
元々こちらの異世界に留まった折れた剣の魂が、闇の魔力を持つ夢魔と混じり合って生まれた存在こそオレが指輪を贈ったシンディだったのだが、彼女の絶世の美を誇ったプロポーションを持つ肉体はクソ大天使の聖魔力を注がれた事によって相剋反応を引き起こし失われてしまった。
だが魂だけの存在となったシンディはあの時、ドロシーの放った小ブラックホール魔法によって次元の壁を飛び超えて、オレが元居た世界の二千年前へと跳躍する事に成功していた。
(何故、シンディが二千年前へと跳んだのか? 今はまだその理由は判っていない)
そして二千年の間ずっとオレと共に様々な敵どもと戦い二度に渡る核攻撃を生き延びて、こちらの異世界へとやって来たらしい。
だからあの時、クソ大天使を前にしてデス子を召喚しようとしても出てこなかったのは、同じ魂を持つシンディが同じ座標に居たからだった。
もう今となっては鶏と卵の話しになってしまうが、一周遅れで追いついて来たシンディの魂がオレと共にあった無機質生命と融合する事で、やっと一つの意識を持った完全体百パーセントのシンディに成れたと言うか、戻れたと言うべきか……。
だが話はここで終わらない。
自分の肉体を失ったシンディにとっては二週目とも言える今の展開だが 、幸いな事に目の前には堕天使がブラ下がっている。
正確に言えば堕天使の身体と用済みとなったその精神体、それと堕天する前までは必要だったが今は不要となった元契約者の芋虫。
オレは暗黒剣となったシンディの刃を、堕天使の脳天から真下に向けて鍔の根本まで押し込んでやった。
《グゥ●apsアァkφo▲p6@ーー■!!!》
『二千年前はよくも妾を滅ぼしてくれたのぅ? じゃがそのおかげで以前より更に強い身体が手に入ったし、これなら剣と人型の両方に変化が可能な理想的な肉体細胞じゃから、むしろ礼の一つも言わねばならぬかも知れぬなw?』
ヤツの頭の天辺からシンディの暗黒剣が突き刺さり首を貫通して心臓を破壊し、尚且つその下にある重要器官をいくつも串刺しにした状態で、堕天使の身体の内側からシンディが喰らい始めた。
食べると言っても大口を開けて一思いにガブガブやるのでは無く、剣から滲み出た死の瘴気が堕天使の肉体をジワジワと溶解して暗黒剣の内部へと吸収されて行く。
最後に残ったのは元契約者の男の遺体だったのだが、両手足を失って皮膚も爛れて溶け合った芋虫の蛹のようなそれは、この状態になってもまだ死ぬ事も出来ず、これから先の未来も永劫に苦しみ続ける罰を受けた者の末路だった。




