第58話 身体で返して
お前はあれから二千年以上もオレの側に居て支えてくれていたのに、それなのにお前がこちらの異世界に残してきた魂の半身に出逢っても、それがもう一人のお前だったなんて思いもしなかった。
だからあの最後の時、オレに笑顔をくれたんだな。
あれからお前は二千年以上もの長い時を掛けて、つまり今日のこの瞬間に出会うまで気の遠くなるような時間を旅して戻って来たんだな。
すると、お前はこの後の事も知っていやがったんだ、本当に性格が悪いよな、お前。でもここでお前を呼ばないという選択肢は、今のオレには無い。
オレが泣く顔を想像して笑ったとは言わないが、何も知らない純朴なオレの心を謀ってくれた事はキッチリと身体で返して貰うからな!
「古き血の盟約なんて今はどうでもいい! 幻血召喚! シンディエラ! 今直ぐ戻って来い!」
『何だか、とても恥ずかしいのじゃが……』
「何だ、まだどっか悪いのか? 早くいつもの様に『ジャジャジャジャ〜ン!』とかハデな名乗りを上げて出てきても良いんだぞ?」
『よ、よばれて、飛び出て……妾をイジメるのは許してくりゃれ><;』
シンディの身体が黒い魔力に覆われ、徐々に剣の形となるべく凝縮と変形を繰り返す。
オレの目の前には先ほどと同じく剣の形をした漆黒の魔力が揺れる事無く滞空を続けており、その頂部には見慣れた柄が突き出ていて「早く抜くのじゃ、このノロマめ!」と言われているような気がした。
スルリと音も無く引き抜いた漆黒の刃からは、まるで暗い陽炎が空気を揺らめかせるほどの死を纏った瘴気となり周りの空気を蝕んで行く。
これこそオレが過去からずっと共に戦って来た暗黒剣の本当の姿。
聖属性すらいとも容易く切り裂き、生ある者なら必ずその生命を奪うとされる死の魔剣は、オレたち不死者の天敵である天使どもの腹わたを、さしたる力も必要とせず簡単に喰い破る。
今の状態なら何体かまとめて斬り払えるほどの力を感じるぞ。ちょうどあそこに手頃なクソ天使どもが居るから、ちょっと行って試しに斬らせて貰うとしよう。
暗黒の大剣となって現れたシンディから、幾筋もの血管と神経組織がオレの右手に突き刺さり人剣一体の兵器へと変貌する。
テレポを繰り返してザコ天使どもを瞬殺して回るが、即座に天から別の光の柱が降り注いで次の犠牲者の生命を代償にまた新たなザコ天使どもが現れる。
「これではキリが無いな。幻血召喚! ドロシーこっちに来てくれ!」
オレはドロシーを呼び寄せてアルマゲドン級殲滅魔法ミーティアを高速詠唱によって敵軍約六千人の頭上へ落とすよう命じる。
「うちに任しとき! これはキッチリお返しせんとアカンからなw」
地上を見渡す限り、もうそこには敵兵しか生存していないから後は何も気にせず辺り一面を灰塵に帰してやろう。
「アルフィ居るか?」
「マイロード様ここに!」
「今からここにリンを呼び戻す。彼女とプリンの二人でエルフたちの蘇生治療をさせるが、もし生命が助からない者が居れば、彼女からオレの血が入った小瓶を受け取って不死者にしてやってくれ」
「マイロード様、了解DEATH」
「リン! ディアーネはまだ無事なんだな? 今そっちへ行くから、オレと交代してエルフたちの蘇生復活をプリンと一緒に頼む。
もし彼らの中で復活が間に合わず不死の血を望む者が居れば仲魔にしてやってくれ、まだオレの血のストックは残ってるだろ?」
リンや他の配下の位置なら契約の効力によっていつも把握しているから、即座に座標を感知してテレポで移動する。
「リン、どうしたんだ? 何故返事をしない」
「……」
リンは光輝く最高主力状態の聖剣を手に、クソ大天使と睨み合い、その後もディアーネを守っていた。
「もし……だけど」
「ん?」
「もし、ボクとかディアがシンディさんみたいになってたら、ロードくんはあれくらい悲しんでくれたのかな?」
今何故そんな質問がリンの口から出て来たのかは判らない。
もしリンとディアーネの身に同じ事が起きたとしても悲しんで泣き崩れていたとは思うが、それがシンディと全く同じかと問われれば、その回答には言葉を詰まらせたかも知れない。
だってそうだろ?
他者との関係において全く同じケースというものは想像出来ないし、相手との心の距離であったり絆の様なものは十人居れば十通りの人間関係がある。
シンディはオレの配下では無かった事もあり、精神的には平等な関係だったと思っていたし、その上でお互いに好意を寄せ合ってこれから先の未来を共に歩んで行ければ良いと考えていた。
だがリンとディアーネの二人は(他もそうだが)最初は敵として出逢っており、戦いの結果としてオレの配下となった者ばかりだ。
だからお前たちが感じてるオレへの想いは全てがそうだとは言わないが、オレの血を分け与えた事によって引き起こされたポジティブな感情が大きく占めているはずだ。
そのせいもあってリンとディアーネの想いに応えてやる勇気が無い事は自覚しているが、シンディという伴侶にしたい女性が現れた今、お前たちの気持ちを弄んだり中途半端な態度で応えてやる事は出来ない。
だから最初はそれほど深く考えずに配下としてしまったが、今はもう家族みたいに思っているし、その結果としてハーレムみたいな状態を作り出してしまったが、これまで誰も選べなかったのは単にオレがヘタレだったからなんだ、ごめんな。
「我ヲ無視スルトハ、万死ニ値スル罪ダト教エル必要ガアルナ!」
オレはクソ大天使の前まで進み出て、無造作にディアーネの身体を引き寄せ片手で抱き寄せる。
もう心まで通わせた暗黒剣であれば、以前の様に右手を繋げて意識をシンクロさせる必要すら無い。
今のシンディは剣モードのままオレの手を離れて直ぐ近くに滞空していて、相手が隙きを見せればオレが命じなくても彼女の意思で斬り掛かってくれる。
精神が弱い者なら、あの漆黒の刃を見るだけで生命を奪われそうになる暗黒の剣撃を防ぐのは、さぞ難しい事だろう。
だがあのクソ大天使だけは、中に居る元副団長も生かしたまま捕らえて地獄の辛苦を味あわせてやらないといけない。
あれだけの事をしてくれたんだ、サクっと殺して天界へと逃げられたのでは罰を与える事も出来ないから、あのクソ大天使と中のクソ野郎には、死ぬより辛い目に遭わせてやらないとオレと皆の気が済まない。
下位天使どもの生贄だった約六千名の教国軍兵士たちは、先ほど放たれたドロシーのSBH殲滅魔法によって既に全滅しているから、もう天使のお代わりは出来なくなっている。
常に十二体は召喚され続けていた下位天使どもだが、既に全員が天界へ強制送還されているから、もうクソ大天使の周りを守る者はどこにも存在していない。
「今日ハココ迄にシテオイテヤル、デアルナ……」
飛び去ろうとしていたアズラエルの背中にある六枚の翼を、テレポで転移させた暗黒剣の刃によって全て斬り飛ばしてやる。
(フェイリンの血のおかげで身体強化が発動してるのか?)
途中で減速する事も出来ず、上空からかなりの加速がついたクソ大天使が地表に頭から激突して周囲に砂塵を巻き上げる。
「リンとプリンは大天使の中に居る人間の生命維持を頼む。絶対に死なせるんじゃないぞ!」
それとディアーネ、さっきから意識が戻ってるのは判ってるんだ、だからもう自分の足で立てるだろ? え、まだ膝が痛いのか? ならしょうがないな……って、それくらいなら自分で治せるじゃないか、だから……ん、今度は頭が痛くて魔法が上手く使えない? このまま抱っこしていれば治るのか? それ信じて良いんだな?
オレはディアーネを両手で抱え直して、クソ大天使の処遇を考える。
処遇と言っても判決はもう決めてあるから、後はどの様な方法でこのクソ大天使が生まれて来た事を後悔させるのか? その方法を決めかねていた。




