逸話#2 魔女っ娘ドロシーの事情
ウチがロードはんと初めて出逢うたんは、プリンお嬢さんと一緒にサントールっちゅう、人族の世界では最北端とされる、魔族との紛争地域へ向かったのが切っ掛けやった。
プリンお嬢さんのご実家は、領地は小さいながらも名家のお家柄で、先々代のお妃はんが確か王族の血筋ちゅう事やから大したもんやでほんま……で、その特別な血筋を守る為、お貴族様にはナイショで王家から護衛が何人か遣わされるんやけど、ウチらの場合はプリンお嬢さんが急に北へ向かう事になってしもて、今は誰も手が離せへんかったから、急遽ウチらのパーティに白羽の矢が立ったんよ。
ウチはこれでも昔は辺境警備隊で働いとった事があったから、その時の名簿に名前が残っとったみたいで、その伝手で依頼が来たんやと思うとる。
でも辺境警備隊での生活はえろぅ気を使うよって性格的に合わんかったんやろな。今ではそこを辞めて街にある館の中で大好きな魔術の実験をしながら、ゼゼコが必要になったら、気の合う仲間たちと冒険者稼業で暮らして行くようになった。
ま、冒険者っちゅうても、ウチは魔術士やから、どのパーティからも引く手数多やったんやけど、以前から良う知っとる後輩みたいな子らと組んで依頼を受けるようになったんや。
パーティっちゅうても、その時々で野良パーティに混じって依頼を達成するんやけど、たまたま気の合うもん同士になった今回のパーティが意外と気に入ってな、それなりに楽しい日々が続いとった。
それからウチらはこの街では、ちょっと名の知れたBランクパーティっちゅう事になって、今回みたいに、急なお貴族様とか教会絡みの依頼案件が来た時なんかは、大抵ウチらに回って来よる。
この教国で一番偉いんは教会やけど、王家もまだ権力を持っとるみたいやから命令は絶対や。ほやさかいウチも気合いを入れて、プリンお嬢さんの護衛をあんじょうする為に冒険者ギルドでみんなと一緒に待っとったんよ。
レオンとクロウリーの二人は今でこそケチな冒険者なんてやってるんやけど、以前は聖堂騎士を目指してガンバっとった若もんらで、その頃にいっぱい助けたった事があって、それから除隊した今でも懐いてくれとる後輩みたいなもんや。
それでプリンお嬢さんの話やったな?
そうそう、王都のギルドで待ってたってとこまで話したんやったな? 大丈夫や、覚えとるで。そんで案の定と言うか、やっぱりというか、お嬢はんって背はちんまいけど可愛い少女やったから、何人もの初心冒険者が声を掛けようしとっんやけど、その背後には聖堂騎士の二人がキッチリ固めとったさかい、下心丸出しやった奴らは近寄れへんかったみたいやな。
そんな不届きな奴らは、お嬢はんの目が届かんとこでキッチリ『社会のマナー』っちゅうのを、レオンたちに教えておくように言うといたから、もう二度と変な気は起こさへんと思う。ウチも元は辺境警備隊所属やしギルドでは数少ないBランク冒険者として模範にならなあかんから、これでも気ぃ使って生きとるんよ。
それでどこまで話したんやったっけ? ウチのロードはんのカッコ良さについてはもう話したかいな
? そやそや、まだ出会う前の話やったわ。
それで何やかんやあったんやけど、このまま北にある城塞都市の何やったかいな……ま、名前なんか何でも良いやろ。それで、そのナントカっちゅう最前線の街まで真っ直ぐ北上してもおもろないから、ここはちぃーっとお嬢はんの社会勉強も兼ねて、長旅を楽しみながらブラブラと道中を楽しもうなんて、みんなで話しとったんや。
するとやはり『持っとる』お嬢はんの運の強さは違うたみたいで、お花積みに行ったと思ったら、森の中で隠されたダンジョンの入口を見つけて来よった。そんで弓士のクロウリーが調べてみたら、まだ誰も足を踏み入れた跡の無いまっサラなダンジョンやったらしく、女やったら処女やで処女w。みんな大喜びや!
そしたらレオンが是非中の探索をしたいっちゅうもんやから、一応はお嬢はんにも相談したら、何と一緒に行きたいっちゅう事になってな、まだ出来立てホヤホヤの地下迷宮やから、強いモンスターなんか全然おらんやろうけど、これはお嬢はんにとって良い経験になると思ったんや。
中に入るとやっぱり出来たばっかで魔力もろくに貯まっとらんのか、出てくるモンスターも弱っちいヤツしか居らへんから、ウチの見込んだ通り初期のダンジョンで間違い無かったわ。ウチらのパーティはお嬢はんの回復魔法も含めて、みんな中々の実力者揃いやから、それはもうほんまに強かった。途中で出てくるザコのアンデッドなんか、お嬢はんの祈りの魔法で一発やったから、そのまま最後の部屋に着くまで問題なんかなーんもあらへんかった。
でもな、こんな弱っちいダンジョンやからウチらも気が抜けとったんかも知れへんけど、こんな低レベルなダンジョンに、あんな強いボスが出てくるなんて普通は思いもせぇへんで。やってもザコが軒並み一桁のレベルやったし、中ボスモドキっぽいのも居ったけど、やっぱザコやった。そやからまさかラストの部屋やから言うても、出てきたラスボスが測定不能レベルやなんて、だーれも思わへんはずやからウチは悪ないで。今ならそのボスの戦闘力が五十三万とか言われても信じてまうレベルやからな。
ウチらかて決して弱いワケあらへんのに「あっ」ちゅう間に、ウチとお嬢はん以外の四人が全滅しよった時はマジで焦ったわ。
そいつは真っ黒な服を着て、見るからにウチらと同じ人族のようにしか見えへんかった。でもな、マトモな人族が、ダンジョンのラスボスとして出てくるなんて聞いた事あらへんさかい、いくら顔がウチ好みやったとしても、ここは心を鬼にせなあかんと思ったんや。
「これでも喰らえ !ファイアーランスや!!」
そら、こんな狭い場所で火炎系なんて、頭がどうかしとると思われても仕方あらへんけどな、人間イザちゅう時は、自分が日頃から使てる一番信頼出来る魔法が咄嗟に出てくるもんなんや。
せやからウチのファイヤーランスは、余所さんの魔術士たちと比べたらけっこう強いんよ。でも、いくら強い攻撃力と追尾性能を誇る魔法を撃っても、相手が消えてしもたらどうにもならへんかった。ウチが渾身の魔力を込めた攻撃魔法は、それを撃つ時に腹パンされて、その激痛でキャンセルさせられたから不発やった。
それにしても、まだ子供も産んどらん若い女子のお腹にパンチてソレはないやろ……鬼やでほんま。これが原因でヘンな趣味にでも目覚めてしもたら責任取ってくれるんやろな。でも今なら、そんなとこもステキやなぁなんてアホなこと誰にも言えへんけどなw。
ちこょっとの間やったけど、気を失ってたウチはあの男に起こされて意識が戻ったらすぐに身体を確認し始めた。いくら体型がスットントンやからって、これでも女の肉体を持っとるからな。そやさかい何ぞ悪さでもされるんかと思っとったんやけど、なんもされとらんかった。
「先ず聞くが、お前たちの名前は?」
「う、うちらをどうするつもりなんや?!」
その男は、気を失った女の一人も手籠めに出来ひんようなヘタレやと勘違いしたウチは、ここでアホな事に決定的なミスをしよった。
「キャッ!」
男やったら必ず胸とか下半身に目が行くようローブの前を自然な感じで開けたったのに、ウチの身体なんかちぃーっとも見いひんまま、ウチの首根っこをいきなり掴んで上に持ち上げよった。
あれは地味にキツかったで……。
気管と頸動脈の両方を一緒に締め付けられて肺と脳に血が巡らんようになるし、足は爪先立ちになるさかい脹脛の筋肉がバクバク酸素を消費するんや。それで今度は少しでも足の負担を軽くしようとして相手の右手に両手で掴まってガンバるんやけど、普段つこてる筋肉が違うもんやから四十秒くらいが限界やったわ。これはウチもまだまだ鍛えなあかんと教えてくれたんやろな、感謝せなあかせんでほんま。
「ぜぇぜぇ、はぁはぁ……」
もうあかんて。
もう何も考えられへん。
とにかく酸素が必要やと全身の細胞が叫んどるし、悔しいけど意識が朦朧として何もわからへんようになってしもたわ。そんな時にあんな事されたらもうどうにもならん。頭では卑怯やと思うんやけど、身体が言う事を聞かへんようになる。
ローブの前が開けて、痩せっぽちな太腿が見えていたんを優しく閉じてくれた。それから強く抱しめられて首にキスされたと思とったら、その瞬間頭の中がグルグルするし、身体が火照って仕方がないよなった。
首から伝わって来る男の唇の冷たさが、ほんまに心地好くて気がヘンになりそうやったわ。まだ男を知らへん身体やのに、アソコどころかそのもっと奥にある所が疼いて仕方あらへん。もう内股とか全身が汗でムレムレになってるんやけど、匂いがキツいとか思われてへんか心配やわ。ウチもやっぱ女やってんな。
「ウチの名はドロシーよってロードはん、これからもあんじょうしたってやw」
元から魔力は多い方やと思っとったけど、今のウチは以前の数倍、いや数十倍の魔力を扱えるようになっとる気がする。それでもこの力を与えてくれた目の前のロードはんには、ちぃーっとも敵わんと思うから不思議やわ。
このウチの新しい力でロードはんの力に成りたい。そう考えとったら、この出来て間が無い城郭の周りに強固な防壁を造って欲しいと頼まれたさかい、ちょと本気見せに行って来るで。ウチは世界で一番尽くす女やからな。アピール、アピールっと。