第47話 エルフの村、再び!
ドロシーの転送魔法であれから直ぐにリンたちが居るエルフの村へと到着し、シンディとフェイリンの二人についても今回初めて顔を合わせる事になる、エルフ戦士団のメンバーたちと紹介をしておく必要があった。
生憎、風の勇者であるフーカについては、最後にこの村を出発した避難者たちを護衛する為に出発しており、もうここには居なかったので、それはまた次の機会にと言う事になった。
「マイロード様、いよいよ敵の本隊が動き出したようです。この村の避難民たちはもう森の中へと進行中でありますが、足の早い敵部隊についてはまだ警戒が必要な距離までしか進めておりません」
デッドエルフでエルフ戦士団のリーダーを務めているアルフィリオからの現況報告では、まだこの村に留まって敵を引き付けておく必要があり、エルフの避難民たちが森の奥まで進む為には、まだ多くの時間を稼ぐ必要があると説明された。
「敵軍の数は一万二千程度だと聞いてるが間違い無いか? それと、敵に捕まってるエルフの人数と場所は判っているのか?」
ショコラからの報告を元に現場責任者であるアルフィリオとクリディオから事情を確認するが、敵軍本隊へ放った斥候がまだ帰還しておらず正確な数は判らないと言う事だった。
「敵に捕まったエルフたちが向こうに居る以上、一方的に広域殲滅魔法で敵を殲滅する訳には行かなくなったな」
それと今回の敵軍には教国の聖堂騎士団と彼らに従軍している高位神官も多いと聞くから、普通一般に用いられる広域魔法程度なら防がれる可能性も高い。
それでもうちのドロシーなら広域殲滅魔法が大好きだから、敵の集団魔防シールドが張られていると知れば意地でもやってしまいそうな気もするが……。
個々の戦闘力においては圧倒的強者のオレたちだが、エルフたちを捕虜にされた事で広域殲滅魔法を封じられてしまうと一万人以上の敵軍を相手に白兵戦を挑むのは余り得策とは言えない。
味方であるエルフ戦士団の者たち全てを集めたとしても二百名ほどしか居ないし、エルフは元々がスカウトとして活動している者が多く、森の木々に隠れながら弓でのゲリラ戦を得意とする一方で、眼の前の敵と前線で直接対峙して殴り合う様な戦い方には向いていない。
それとオレが到着する前に、敵の先発隊を取り込んだおかげで今や千体以上に増員されたゾンビ兵だがその足は極めて遅く、乱戦に持ち込まないと聖属性魔法によって纏めて殲滅されてしまう可能性が高い。
それでもエルフの戦士たちを防護壁の上に並ばせて、近くまでやって来た敵兵に対し弓で応戦させてやれば被害を抑える事が出来るし、その状況まで持ち込んで敵の真下から屍鬼兵に襲撃させてやれば混戦必至となるだろうし、その状況まで持ち込めば敵の攻撃魔法も撃って来れなくなる。そうなれば数では圧倒的に不利な我が方だが簡単に敗れはしない。
もしオレたちが生者の集まりであれば、いくら味方に勇者と聖女が居るとは言っても余程の条件が整わない限りこの戦力差を覆しての勝などムリな話しだが、幸いな事にオレ直属の配下たちはその全員が太陽の下でも活動出来る不死者だし、その上スタミナの心配も無い。
だから乱戦が長引けば長引くほどこちらが有利となる事実は変わらず、そのまま夜になるまで持ちこたえる事が出来れば戦況は一変するだろうが、それには天使の介入等の不確定要因が無ければと言った条件付きになるが、今回も何やら嫌な予感が拭えない。
「マイロード様、先ほど敵の神官の一人を捕縛しておりましたので、その処遇についてご判断をお願い致します」
あの忌々しい人間たちの軍隊に対して、煮てやろうか、それとも焼いてやろうかと思案しているとデッドエルフのアルフィリオが、まだ若い女性神官を一人連れて来た。
ここへ連れて来られるまでの間にかなりの抵抗をしたと見えて彼女の白かった神官服の至る所が泥で汚れているが、それ以上の酷い目に会わされた様子も無く元気そうで安心した。
「わ、私をどうするつもりなのですか?」
この異世界には戦争時の捕虜に関する条約などある訳が無いので、大抵の場合は男なら殺すか死ぬまで強制労働させて、女は奴隷にして夜の運動会をさせるのが一般的な捕虜の扱い方だと聞いている。
それにオレが元居た世界ではジュネーブ条約の様な戦争時の捕虜の扱いについての取り決めはあったが、それでも捕虜の虐待や女性兵士への暴行は決して無くなりはしなかった。
「もし、エルフの女性がお前たちに捕まれば、どんな扱いをしてくれると言うんだ?」
もう既に判っている答えを、何故か目の前に居る真面目そうな女神官の口から聞いてみたくなったのは、この女がオレの嫌いな教会関係者だったからだろう。
「丁度あそこに正義の敵軍が見ええて来たな。向こうからこの女神官の姿が良く見えるように、村にある見張り櫓の上にでも縛りつけておけ」
それからリンとディアーネの二人には、ドロシーの転送魔法によって一度この村から離れた森の中まで送って貰い、敵軍がエルフたちを捕縛する為に部隊を先行させているみたいだから、そいつらに保護させて敵本隊へと戻って欲しいと伝えておく。
「リンとディアーネの二人だけなら、怪しまれずに敵軍に合流出来ると思うから宜しく頼む。もし正体がバレたら戦わずに速やかに戻って来るんだ、いいな?」
「ボクたちなら、そんなヘマはしないから心配しなくても大丈夫だよ」
「御方様、必ずや任務を果たして参ります」
「うちは? うちの仕事は送るだけなんか?」
せっかく聖職者に見える、と言うかそうにしか見えない二人の直ぐ近くに、ドロシーみたいな禍々しい魔導リッチが立っていたら正体がモロバレじゃないか……。
「ドロシーはオレの横で戦局を見極めて、敵が放って来た攻撃魔法に対する防御と反撃を頼みたい」
正直に「お前がそんな格好でそこに居たら作戦が台無しなんだよ」なんてネガティブな言葉では無く、ドロシーがこれからも気分良く人間たちを虐殺してくれそうな言葉を選べるオレは、何と大人な吸血鬼なのだろう。
(ま、今はそんな事より作戦の説明が先だな)
先ず作戦Aについてだが、これはリンとディアーネの二人が教国軍に合流して敵司令官である教会の高位者か聖堂騎士団長をポコっと暗殺して命令系統を瓦解させてくれれば、それだけで敵軍は動けなくなると思う。
だが相手は以前に勇者であるリンを瞬殺した英雄騎士たちの部下で、人間としては相当な実力者だという可能性を考慮し、もし司令官や将軍たちの暗殺が難しそうなら神官たちだけでも無力化して貰う為に別働隊としてシンディにもその力を発揮して貰う。
またディアーネが村を離れても彼女が張ってくれた魔防結界はまだ十分有効だし、ドロシーが戻って来れば彼女が使う無属性の魔防シールドも頼りになるから、エルフ戦士団が立て籠もる村の防衛に関しては余り心配はしていない。
それとフェイリンにはこれと言った役割を与えていないが、彼女には万一村の中まで侵入して来た敵兵の排除をして欲しいと既に命じてある。
「ほな行ってくるさかい、フェイも身体に気ぃ付けるんやで。もしヤバイヤツが現れよったら必ず応援に行くさかい、それまで持ち堪えるんや」
「はい、ありがとうございますアル。ドロシーお姉さま」
フェイリンの様子は彼女の屋敷で出会った時の様な異常なテンションは見せず、寧ろ精神的に落ち着いた侯爵家令嬢としての振る舞いが見られる。
もしこれが彼女の父親が言うように、普段のフェイリンなのであれば無理に遠ざけておく必要は無いな。
「ロードくん、また後でね!」
「御方様、行って参ります」
リンとディアーネの二人はオレの配下となってから、今回のような戦いではいつも中心的な役割を担ってくれているので、とても助かっている。
リンはオレと同じ異世界からの来訪者ではあるが、前世では只の女子高生だった彼女と歴史の裏側でひっそりと生き存えてきた吸血鬼では持っている価値観が違うはずだが今の関係は良好と言ってもいい。
ディアーネがオレの事を特に慕ってくれてるのは理解しているが、それは彼女の短命だった運命をオレの都合で一方的に書き換えた結果であって、何故あれほど気高い人格を持つ美女がオレみたいな不死者に対して好意を寄せてくれるのかについては、きっとオレの血が彼女の精神に多大なる影響を及ぼした結果だと考えてるから、これが彼女の本心だと思ってはいけない。
「主殿、妾も必ずお役に立って来るからの。ご褒美は期待しても良いのじゃろ?」
「なにぃ! ロードはんからご褒美やて?! で、何をくれるねん?」
「ドロシーお姉様、私も何か欲しいアル」
「ちょ、シンディさん、ご褒美とは何の事でしょうか?!」
「みんな少し落ち着こうか」
シンディの役割はリンとディアーネとは別に敵の神官と魔術士を眠らせて無力化する事だ。
暗黒系魔術の一つに相手の睡眠を誘うものはあるが、シンディのスキル《ヒュプノクラウン》なら真横で爆発音がしても対象者が目覚める事は無いらしいから期待出来そうだと思った。
本来ならシンディにはグレーターデーモンを召喚して貰って敵軍を殲滅して貰うのが良いのだが、まだエルフの捕虜が敵軍のどこかに居るうちは大規模な戦闘を繰り広げる訳にはいかない。
そしてエルフの捕虜を奪還した暁には、総勢約一千体以上の屍鬼兵が夜陰に紛れて敵軍へと襲いかかる手筈になっているから、いくら松明と警護の巡回人数を増やしたところで暗闇の中から次々と現れる屍鬼兵を相手に、敵野営地の中ではあちこちで乱戦状態になるだろうから、そんな状況下で軍の上層部を暗殺するか無力化すれば軍の瓦解は必至だ。
それとシンディが夢の中に閉じ込めたままの敵兵たちも寝ているうちに身体のどこかを噛まれて屍鬼兵となってるはずだから、目覚めた途端に以前の仲間や上官たちを襲い始めるだろう。
これなら例え戦力比が60倍くらいある今回の戦いでも何とかなりそうだと思っているが、この異世界には人間以外にもオレたち不死者の敵は多く存在するから最後まで決して気は抜けない。




