第38話 本当の宝物
オレがゴースト女の話を聞いて、先ず最初に思ったのは……。
「話が長い! 長過ぎる!」
もしこれが永遠の生命を持つオレたちで無ければ、もうとっくの昔に除霊されていた事だろう。
確かに彼女の人生には多くの不幸があり、同情すべき点も数多く見受けられる事は確かだ、でも話が長い。
ぶっちゃけオレは、この塔の入口を守ってた強面の動く鎧みたいな配下がもっと沢山欲しかっただけなので、ここに奴らの仲魔が大勢潜んでると考えて塔の中を登って来ただけなのだ。
だがゴースト女の話を聞いて、この塔の最上階にはもっと面白そうな『何か』が隠されてるされてると思い、俄然興味を持ってしまった。
(この塔の最上階には絶対『何か』がある!)
そう考えたオレは、古びているが造りのしっかりした塔の最上階を目指す事を皆に告げる。
ゴースト女には悪いが、吸血鬼のオレには血の流れる身体を持たない彼女をどうする事も出来ず、その事を詫びてから足早にその場を立ち去った。
「ねぇロードくん、あの幽霊の彼女を救ってあげられる方法って無いのかな?」
「あの女が今もここに残っているのは、何か大切な心残りがあって本人がそれを忘れてしまっているから成仏できないのだろう。せめて死体でも残っていれば方法はあったかも知れんが……」
「もしかして幽霊には脚が無いから、やる気が出ないとか思ってない?」
(ギクギクッ!!)
ば、ば、ば、ばかな事を言うもんじゃない。
確かにオレは美脚の持ち主には頗る甘いが、それでも相手の事を良く調べもせず、それだけで人物評価を変えるような行いをした覚えは……覚えは無いとは言わないが、大体さっきのゴースト女と美脚の話を持ち出して一体オレにどうしろと言うんだ?
「もし、この塔の中に彼女の遺体が残ってたら救ってくれるんだよね?」
「あ、当たり前だろ、ばかだなぁリンは、ははは……」
「ボク思うんだけど、さっきの幽霊の彼女の上背の高さと骨格の位置から考えると、スタイルとか全然期待しても良いレベルだと思うよ? きっと消えてて見えなかった脚のラインはかなりのモノだと思うし」
「御方様、リンの発言には仮定と憶測、そして願望が多く含まれていますから、それをそのまま信じてしまうのはどうかと思いますわ」
「妾には、あの幽霊が浄化を望んでいるように見えたぞ?」
もしかしたら、さっきのゴースト女を浄化してしまえば、あの鎧騎士たちも一緒に消えてしまうのではないかといった可能性が頗る高いのだが、それはオレが最も望まない結末だと言える。
何故なら死者たちの想いのうち、一番色濃く残っているのは彼らが死ぬ直前の記憶だからだ。
もしあの鎧騎士たちが、最期まで自分たちの生命を掛けて守っていたのがあのゴースト女だったとしたら、彼らの望みが彼女の安寧だったのは想像に難くない。
この塔の入口の他に10階と20階のボス部屋で侵入者を待ち構えていた鎧騎士たち合計7体の身柄(鎧本体)は確保出来てるから、後は階段の瓦礫を撤去して最上階に居るであろう塔のラスボスを、ポコッと倒して連れて帰れば、我が軍の人手不足解消の一助になるだろう。
あとリンがあのゴースト女の事を気にかけてるっぽいので、もしこの塔の最上階に彼女の完全な状態の亡骸とまでは言わないが、腕や足の一本でも残っていれば、後はディアーネの魔法で何とかなるし、今回のケースに限って言えば本人の霊魂が直ぐ其処に居るから、修復が終わった肉体に魂を呼び戻すのは、それほど難しくないはず。
それとゴースト女の心残りとなってる何かについても、恐らくだが最上階のボス部屋にあると考えている。
あのゴースト女の境遇に憐れみを感じない訳ではないが、オレと同じ不死者として幸せな第二の人生を歩んで欲しいと思っているから、出来れば彼女には浄化ではなく、この世に留まってくれる事を望みたい。
その為には彼女の遺体か細胞の一欠片でも良いから、何処かに残っていないか探し出す必要がある。
(最悪、血の一滴でも残っていれば、何かしらの方法はあると思うのだが……)
そんな事を考えつつ、先を急ぐオレたちは通路の天井付近を飛行する事で不要な戦闘を避けながら進んで行ったのだが、30階へと続く階段の入口が瓦礫で完全に塞がっていた。
このままでは先に進めないので、ここは頼りになる妖精さんに協力を仰ぐとしよう。
「プチ幻血召喚ラスティ……この先に階段があるはずなのだが、この瓦礫が何処まで塞がってるか調べてくれるか?」
「オッケー任セトイテ!」
黒い影の妖精さんが瓦礫の隙間へ飛び込んで姿が見えなくなったが、ほんの数秒で戻って来た。
「エート、コノママ真ッ直グ30めーとるモ進メバ、ソノ先ハ広イ空間ニナッテルヨ!」
オレはラスティに礼を言ってから召喚を解除し、彼女を元居た異次元へと返してやる。
「ミンナ、マッタネー!」
さてと、ここから先へ進む為にはいくつか方法はあるがどうしたものか。
「ボクのグランドクロスで、あの瓦礫を吹き飛ばしてやれば早いんじゃないかな?」
「リン。そんな事して、もし塔が崩れてしまったらどうするのですか?」
「妾が悪魔たちを召喚して瓦礫の片付作業を命じるというのはどうじゃ?」
一番簡単なのはオレがテレポで向こう側へ跳んでから、仲魔たりを一人ずつ幻血召喚で呼び出すのが確実なのだが、まだ血の契約を行っていないシンディだけは召喚する事が出来ないし、そもそもオレのテレポは目視できない空間を跳び超える事が出来ないから、さて……どうしたものか。
「影ポケット収納!」
どこから持って来られたのか不明だが、階段を塞いでいる瓦礫は至って普通の木材やレンガ等の建築資材で、天井付近の幅5メートル、高さ50センチ、奥行き10メートルほどを影の中にある異次元空間へと収めてみた。
(これなら行けそうだな)
もし今ここに、ナントカと隣り合わせとは言え、魔法の技術に関して天災クラスのドロシーが居てくれれば、あんなに少ない量では無く一気に全ての瓦礫を彼女の収納魔法で取り込めただろう。
だが埋まっているのがラスティが調べてくれた通りのの言う通り30メートル程度の量であれば、オレの影の中にある空間だけでも収容能力が足りると考えた。まぁ、要は使い方の問題だ。
「影ポケット収納! もっかい、影ポケット収納!!」
今度は先程切り取った先にある瓦礫の上部を続けて収納してみれば、ポッカリと空いた穴の向こうに、ここと同じ様な坑道が続いてるのが見えてきた。
(収納限界の一割程度で瓦礫が収まってくれたみたいだな)
「ちょっとこの先を見て来るから待っててくれ、テレポ!」
オレは仲魔たちを置いて瓦礫で塞がれた通用口の奥へと転移し、その周りに罠等の危険物が無いか調べてみるが、特に何も見当たらなかった。
それから影ポケット収納量を再び使って穴の高さを今の倍の1メートル程程まで増やしておいたが、ディアーネとシンディがこの中を通り抜けて来る際に、何処がとは言えないが少し狭そうにしていた。配慮が足らず申し訳ない。
こうして無事に合流できたのだが、埃だらけになった女性たちにディアーネが浄化魔法を使ってくれた。
その魔法は適度に温められた水蒸気と空気圧で埃以外の汚れと皮脂も溶かして除去した後、今度は乾燥させた温風で気流を作り出して乾かすと言ったとても便利な複合魔法で、これによって瓦礫の中を這う前より更に綺麗になった仲魔たちは、見ていて判るほど機嫌が良くなった。
ちなみに、この魔法もドロシーが術式を考案したらしいんだけど、オレは素直にそれを信じる事が出来ない。
だってあいつの部屋だか研究室だか知らないが、其処はまるでゴミ屋敷みたいだから、こんなに便利な魔法があるのなら何故使わないんだ?
あれで自分の事を女子とか乙女とか言い出す神経を、オレは今でも理解する事が出来ない。
瓦礫を越えてすぐ先にボス部屋と思われる部屋の大扉があったが、ここは下の階にあった様に壊れてはおらず、普通に開く事が出来た。
油の切れかけた扉の丁番が金属のこすれ合う小さく乾いた音を鳴らす。
その部屋の中は広くて空気も澄んでいるが灯りは一つもなく、ただ静寂の暗闇だけがこの場所を支配していた。
部屋の中央には一体の古びた鎧が鎮座しており、オレたちが入って来るのを何もせず、ただじっと眺めていた。
光源の無いこの部屋の中で静かに佇んでる鎧には、所々に浮いた錆の他に大小様々なキズが無数に付いており、中でも胸の部分に一際大きな亀裂が生じていた。
古ぼけてくすんではいるが、所々に残る元の部分から色は深い青色だった事を思わせるが、今はくすんだ鉛色にしか見えない。
「お前、まだそこに居るんだろ? 早く出て来いよ」
「オ前タチハ何者ダ、何シニココヘ来タ?」
兜のフェイスガードの右目部分に青白い炎が一つだけ灯り、こちらを見つめ返す。
こいつは恐らくアイゼンと同じでリビングアーマーの一種だと思われる。
そいつが生前身着けていた鎧に血と怨念が染み付いて、本人の身体が朽ち果てた後になっても滅びる事が叶わず、悠久の時を過ごさざる得ない運命に囚われてしまったのだろう。
オレも元の世界で長い間閉じこもって居たから判る。
ましてやここにはネットもスマホも無く、本当に一人きりで時間の流れだけを見つめて過ごして来たのだろう。
「オレはここに、ある宝物を探しに来たんだ」
「フン! オ前モアソコデ転ガッテル奴ラト同族ダッタカ。俺ヲ失望サセタ報イヲ受ケテ貰ウゾ、早ク武器ヲ抜ケ」
「ここに公女の遺体は無いか? お前がこれまで大切に守ってきた女のミイラがあるはずだ」
「ソレヲ手ニ入レテドウスル? マサカ公女ノ身ヲ再ビ汚シニ来タノデハアルマイナ?」
そんな訳無いだろ、オレにはそういったコアでアブノーマルな趣味は持ち合わせていないから心配しないでくれ。
それと、ここは間違いなくアイツのダンジョンで、システムに障害があったとしても今も機能の一部はまだ動いているみたいで何よりだ。
それはあの鎧の後ろの壁に埋め込まれたダンジョンコアが、罅割れた今も砕けずに残っている事がその証拠だ。




