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異世界吸血鬼 ~前世も吸血鬼なんだが?~  作者: としょいいん


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逸話#8 エルフの双子・ユナリアの事情(2)

 まだ初夏に入ったばかりだけど農作物の種まきなんかは終わった頃で、街の外では毎年恒例となっているアルニード教国からの侵攻作戦イベントがそろそろ始まる頃だった。

 街の入り口で警備をしている衛兵隊から不審人物を発見したとの報告が入り、その人物が教国方面からやって来たと聞いたので私は天使様の関与を疑った。


 その男が街の中を隈無く歩いて見て回っているから衛兵隊の中から交代で監視を続ける様に命じていたんだけど、これがなかなか尻尾を現さない。そしてシビレを切らした私は、衛兵の一人に何でもいいから理由を付けてここまで連れて来るようにと依頼した。


 そしてノコノコやって来た男を庁舎三階にあるVIP専用の応接間へ通してから、メイにワザと公設秘書としてはかなりキワドイ服を着せて相手の様子を見る事にした。


(こいつやっぱり怪しい! さっきからずっとメイの足ばっか見てるし!!)


 そういえば天使様の弟天使が女性の脚が大好物だって言ってたから、きっとその関係者だと思う。


 でも見た目は上質な黒いコートがとても似合っていて、顔の造りも私たちエルフから見てとても魅力的だったから、自分の脚を見られてるメイもまんざらでは無さそうなのがとても歯がゆい。

 さっきから私が予め作っておいた質問をメイが話そうと頑張ってるみたいだけど、どうも肝心な部分をぼかして誤魔化されてる気がするのよね。


(このままではダメね)


 私も以前にメイとお揃いで買った胸を寄せて強調するトップスに着替えて、脚のラインをアピールするスリットが入ったミニスカートに履き替えて(くだん)の男が居る応接室へ(とつ)する事を決めた。


 でも秘書官の女だけでやって来たと思われても癪だから、一応太守様にも一緒について来てもらう。


 私が部屋に入ると、やはりミニスカートから伸びる私自慢の脚に男の目線が釘付けなんだけど、明らかにメイの時と比べて私のモノを注視していた時間が短いのは何故なのかな?


(メイより十二秒も少ないじゃない!)


 これでもメイとは一卵性双生児だから遺伝子レベルで同じ、いえクローンコピーだと言ってもいいくらいには同じ美脚を持ってるはず。


 なのに彼が私の脚にそれほど注視しなかった理由について、少なくとも幾つかの理由を考えていたんだけど、気がつけば男の視線が私の美貌を通り越して後ろに立たせたままの太守様に注がれているのは何故?


(もしかして気づかれたのかな?)


 もしここで太守様と私たちの秘密について、例えそれが憶測であろうと目の前の男の正体が掴めていない状況でこのまま帰してしまうのはリスクが大きいと考え、廊下で待機してくれてるはずの衛兵に合図を送ろうかと考えていた。


「それでオレをここへ呼んだ『本当の理由』は何なんだ?」


 この男、やはり何かを掴んでいたようね。それなら尚更このまま返す訳にはいかない。


「確かにオレは教国の方向からやって来たが、教国とも教会とも全然関係無いぞ?」


 教会関係者が他国でスパイ活動をしている時に、わざわざ自分から正体を白状するなんて思えるほど私の心は純真ではない。

 だが男がそれから口にした話は私たち双子の関心を引くにに十分な内容だったので、まだ衛兵は待機させたまま、このままもう少し彼の情報を引き出してやろうと思い始めていた。


 そしてこの街から遥か北西の地に、今もまだあると言われているエルフたちの森に隣国の軍隊が向かったと言う話については、私たちも耳にしていたニュースだったので自然と彼の話に引き込まれていく。

 そんな彼が亜人種と差別されるエルフの友人を守るため、精強で知られる教国の騎士や兵士たちと戦って敵を追い返したと言うけど、さすがにこの話の全てをそのまま信じる訳には行かない。


(でも最近は、新たなエルフの奴隷が市場へ流れて来たとは聞いていないし……)


 人間の軍隊が私たちのようなエルフの奴隷を捕まえてヤル事なんて決まってるから。


 そして噂が流れて来るほどの大規模作戦が敢行されたとすれば、自分たちの街で売り捌けなかった分の奴隷は近隣の街へオークションの商品として流れて来るのが通例だ。


(実際に私とメイもそうだったしね)


「そ、それでロード様はそのエルフ村を護って下さったのですか、でもどうして? 人間は私たちエルフを見ると必ず捕まえて奴隷にしようとするはずなのに……」


 メイは自分でも気がついていないのか、上半身を大きく乗り出しながら彼の話に聞き入っている。


 以前にも相手の話を信じすぎるなとメイに教えた事があったんだけど、彼女に「相手が嘘を言ってたら判るから大丈夫!」なんて自信たっぷりに言われてた私は言い返す言葉がなかった。


 だって、メイは本当に相手の目を見て真実かどうかを言い当ててしまうから。


 メイがそこまで言うなら……と私も考えを改め、私たち二人がエルフであると言う事、そして今はエルフの幻影魔法で隠してるけど、耳の先が切られてしまって失ってしまった事。

 それ以外にも太守様の秘密以外なら街の経済や行政に関する事まで、普段であれば他人には決して洩らしてはいけない極秘事項をいろいろと話してしまっていた。


 いくら身寄りも無く幼いエルフの姉妹が自分たちの身を守る為だったとは言え、今では太守様を差し置いて街一つを自分たち双子の都合が良いように手を加えていると聞いても、彼はそれを否定しなかった。


 それどころか乗っ取られる程度の街の組織と太守様の方が悪いとまで言ってくれた。


 この人なら私たち二人の事情を知れば必ず味方になってくれる。そんな淡い期待を抱いていたのかも知れないけど相手にも事情があり、そう簡単に(しかもたった一度の邂逅で)お互いを親友として認識するには圧倒的に時間が足りていなかった。


 私は歯噛みをする。


 目に前に居るこの彼こそ、これからの私たちに必要な力を持っていると確信に近い予感を感じているけど、これまでの人生においてメイ以外の誰も信用せず、誰も本当の意味で信頼する事すらしないで生きてきた経験が、目の前の彼に頼ってはいけないと頭の中で警鐘を鳴らす。


 それは私の守護天使様でさえ最後は味方では無いと告げる私のカンが『この人ならもしかして?』と思わせるのだから警戒しない方がどうかしてる。


「もうオレの潔白は証明出来ただろうから、そろそろ帰らせて貰う」


 そんな私の悩みを知ってか知らずか……彼がこの部屋を去ると言って来たけど、もう私たちに相手を引き留めておくだけの理由が無い事を私は恨めしく感じたし、メイも寂しそうにしてる。


 彼が挨拶を済ませてから扉を開けて、この部屋から出て行ってしまうまで彼の背中をじっと見つめていたけど、メイと二人でこの後すぐに公務を始める気にはならなかったので、お互いに話もせずソファーに座ったまま考え事をしていると、二階の事務室に居る職員の一人がやって来て、毎年やって来るアルニード教国からの侵攻軍が、今年は街まで攻めて来たと衝撃の報告を受けた。


 この報告を受けた時点でもう既に敵軍が街のすぐそこまで侵攻していて、街への攻撃がこれから開始されると予想されるので、この街に居る衛兵隊を集めて街の西側を集中的に守る必要がある。


 でもこのタイミングで冒険者ギルドから、私とメイの二人が太守様を殺して教国にこの街を売ろうとしていると告発をされたと言う報告も同時に齎され、もう既に私たち二人の捕縛依頼を受注した冒険者たちがこの庁舎の近くまで押し寄せて来たと聞く。


「太守様と秘書官のお二人はこの執務室に居て下さい」


 これまで私たち二人で必死に積み上げてきたものが、音を立てて崩れて行こうとしていた。


 この庁舎に勤める者のほとんどは戦いには向かない非戦闘員がばかりで、当直の衛兵たちだけでは数が多いと予想される冒険者たちを相手にどの程度持ちこたえられるかも判らなかった。


──ドゴンッ!ガガンッ!


 下の階からは既に大きな戦闘音と怒号が鳴り響いており、庁舎内に居た職員たちが徐々に上の階へと逃げて来る悲鳴と足音が聞こえて来た。いくら私達を守る為とは言っても、さすがにこのまま部屋の中でじっとしてる訳には行かない。


──ガシャン!!


 部屋の入口にばかり注意していたせいで、私達の後ろにあるバルコニーから大きな窓ガラスを破って誰かが飛び込んで来るのを見逃してしまった。


 急なアクシデントだったので驚いたけど、それでも何とかメイだけは背中に庇って侵入者と対峙した。


「「な、何しに来たの?!」」


「さすが双子だ、こんな時も声がピタリとハモってるんだな、ちょっとした野暮用を思い出したんだよ」


「あなたやっぱり教会の回し者だったの? それともギルドの?!」


「どちらもハズレだ、ツベコベ言ってないでついて来るんだ。この部屋に留まっていても階下から攻撃されたら防ぐ手段が無いからな」


 彼は早くついて来いとばかりに一度だけ私たち二人を見てから廊下へ出ると、今度は鼻唄を歌いながら歩いて行ってしまう。


「ここで防戦していても事態は良くならないぞ? 一階からお前たちの仲間が助けに来てくれるはずだから、こちらも移動して相手を挟み討ちにするんだ」


 もう二階まで攻め込まれているこの状況で、さすがに一階からの増援は期待出来ないと思うけど、彼の確信めいた話し方だと、まだ私が知らない事でも起こっているのかと思って窓から外を確認した。でも、この庁舎の周りに味方は一人も残ってなくて、ここから見えるのは抵抗して殺された者たちの死体だらけだっという事しか判らなかった。


(どこかに救援部隊でも隠しているのかしら?)


 もう夕日が沈みかけていて、細くて長い廊下の突き当りにある窓から赤い日射しが差し込み大きな影を作る。


 廊下の先にある階段からは、大勢の厳つい冒険者たちが上がって来て私たちのすぐ前まで近寄って来るというのに、彼はまだ異国のメロディーを口ずさんでいる。


「オイお前、その後ろにいる女は太守殺しの大罪人だ、大人しくこちらに渡せ!」


「ちょっと煩いな。お前たちみたいにカスの魂しか持ってない奴らは、廊下の端に寄ってオレたちの邪魔をするんじゃない」


 彼がそう言うと冒険者の男たちは、わざわざ私たちが通れるように端へと寄って通路を空けてくれた。


 意味が分からない。


 だってそうでしょ? 彼は魔法なんて使っていなかったし詠唱すらしていなかったのよ。


「ね、これってどうやったの?」


「企業秘密だから簡単には教えられないな」


 この一言で彼がまだ私たちを信用していない事を感じて少しだけ寂しい気持ちになる。


 そして彼はそのまま階段を下って行くんだけど、そのすぐ下で繰り広げられている阿鼻叫喚の場面が見えていないのか、何も気にせずそのまま下へと降りて行く。


 彼が殴り倒した冒険者たちは何故か混乱していて、再び起き上がるとすぐに味方であるはずの冒険者仲間やギルド職員たちに素手で掴み掛かかったり、噛み付いたりとその姿はまるでゾンビでも見ているかのようだった。


(これって本当に混乱してるだけなのかな?)


 そんな彼の行動を注視しながら階段の途中で待っていると、彼がまた私たちの方を向いて一度だけ呼び寄せる仕草をしてからまた歩き出す。


 あれはやっぱり私たちについて来いといってるんだろうな。


 こうして私たちは既に戦いの決着がついた一階まで降りてから彼の背中を追うようにして庁舎の外へ出る。このまま彼を信じてついて行くと決めてはいたけど、まだお互いに知り合ったばかりなので不安が隠せない。


 そんな時、メイとお互いの顔を見てから頷いて、手の指を絡めて繋いだら不安が少し和らいだ気がした。


 その後も彼の後ろについて街中を歩いて行くと街の惨状を自分の目で見る結果となり、もしかしたら私たち二人にもあんな運命が待っているかも知れないと考えたら急に怖くなってきた。

 私は二人の絆を確かめるようにメイと繋いだ左手を見て、彼女の向こうでブラブラしていたはずのメイの左手が知らないうちに彼の右手と繋がっているのを見た時に、これまで抱いた経験の無いとても複雑な気持ちになった。


 いつもそう。


 私とメイは同じ親から双子で生まれて他人が見たら見分けがつかないくらい同じ顔と身体をしているけど、その中身まで全く同じとは限らない、いえ全然違っているかも。メイは私と違って誰とでも気軽に話せて知らないうちに、それでいて簡単に相手を友人にしてしまう。


 いつもそう。


 私が必死になって色々な立場の人と多くの食い違う意見を苦労しながら纏めている時も、メイは知らないうちに周りの人を味方に付けて苦もなく仕事を進めている様に私には見えた。


 だから私とメイは太陽と月ほど違っていると言うのに、私たちを見た人は誰も私たちを見分けられないのが理解できない。もちろん私の月の方だけどね。


 私はさっきメイが彼と手を繋いでいるのを見て何を感じたのかな。たった一人の家族であるメイにもし『いい人』が出来てしまったら、私が一人で残されてしまう事を心配したのか、それとも……?


(ダメよメイ、彼と見つめ合ってはダメ)


 ここで私が入って行けない二人の世界なんて作られたら、ちょっとショックかも。ほら二人とも前を向きなさい、向こうでこの街のギルド長が何か叫んでるわよ、もう!


「待っていたぞ! 冒険者ギルドに逆らうゴミめ!!」


「フォッフォッフォッ。この場所なら其奴らと同じ様な亜人奴隷どもが沢山捕まってるから、そいつらを解放すれば仲間を増やせるとでも考えたのじゃな?」


 確かに相手の言う通り、この区画には多くの奴隷商店があるからそれらの店を襲って多くの奴隷たちを味方にすれば、ギルドの冒険者を抑える事が出来るかも知れないけど、それって解放した奴隷に本人の意思を確認して敵対しない者だけを選別してから奴隷紋を消して、あと武器も持たせてから投入場所の説明など、とにかく面倒で手間が掛かるんだけど、あのギルド長そこのとこ判ってるのかな?


 多分だけど彼の目的は別のところにあると思うよ。


「これを見るがいい!」


 冒険者たちが連れてきたのは、私たちが面倒を見ていた孤児院の子供たち。


「そんな少年のスリ集団なんか連れて来たってオレには関係無いぞ?」


 そうだよね。彼とは何の関係も無い子供たちを連れてきて人質になると思ってる方がおかしい。だけどあの子供たちが私たち二人の人質として、十分に役立つ事をあのギルド長は調べていたんだね。


 だからこのまま放っておくなんて私たちには出来なかった。


「こいつらを殺されなくなかったら大人しく投降して、その女たちをこちらへ渡すのじゃな」


 何も事情を知らない彼が冒険者ギルドの者たちと戦闘になれば、あの子供たちが人質として役に立たないと知って殺されるかも知れない。

 そうなる前に私はメイの顔を見て妹も同じ考えだと確認すると、二人で前へ進み出て相手の要求する通りここで投降する事に決めた。

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