第34話 ギルドでの一幕
カラン──と乾いた音がした。
何処にでもありそうな小さな鐘が取り付けられた木製扉をくぐると、建物内にはオレが過去にネット小説で読んだ馴染みのある光景が広がっていた。
(元の世界で読んだマンガやラノベと同じみたいだ)
扉から入って正面にあるのが受付カウンターで、その横には各種案内を行っている若い女性たちが並んで座っており、更にその奥には素材などの買い取りカウンターがあった。
この配置は冒険者ギルドの定番レイアウトみたいで、案内カウンターの反対側には居酒屋と小さな商店が併設されており、今も複数の冒険者たちが屯している。
冒険者登録すら行っていないので、そんなオレたちがいきなり最高責任者であるギルド長に会わせろと言っても無理な話だと思うから、とりあえず今日のところは冒険者登録でも済ませておいて、ここで働いてる職員たちの仕事ぶりでも見ておこうと思った。
せめてあの騒ぎの時にオレの配下となった者が一人でも居てくれれば話は早かったのだが、生憎ここに居る職員たちは皆が生者ばかりだった。
最初に訪れるのは勿論案内カウンターだが、この時間は空いてる事もあり、このまま登録の流れとなった。
「当ギルドへようこそ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「オレと後ろの二人の計三名で冒険者登録をお願いしたい」
「はい、それではここで受け承ります。先ずはこちらの用紙に必要事項をご記入下さい、代筆は必要でしょうか?」
そう言えばダンジョンマスターとなった時にショコラから貰ったピアスのおかげで、相手が話す言葉は理解出来るようになったが、まだこちらの世界で文字を書いた経験が無かった事に気づく。
「必要ありません」
オレがどうしようかと考えていると、直ぐ後ろに居たユナが代筆を断ってくれた。
ユナとメイは元々この街の太守の秘書官として働いてきたので、これまで様々な書類に携わる仕事を熟してきたから、当然の如く文字の読み書きを習熟している。
そんなユナとメイに記入を任せて必要事項が埋まった書類をカウンターへ返すと、それを読み上げた受付嬢からは特に何の確認もされずに受理された。
さっきの書類には何が書かれていたんだろうか? ちょっと気になるが、オレはここでそれを聞くほど空気が読めない吸血鬼ではない。
「この度は街の元執政官であるユナ様とメイ様、それとお二人の護衛という事でロード様の三名を当ギルドにおいて冒険者登録をさせて頂きます。今後も何か御座いましたら私シェイミーが担当を務めさせて頂きますので何なりとお申し付け下さい」
さすがに長年この街で働いていたユナとメイはそれなりに有名人だったという事らしく、それも好意的な憧れに近いものを感じる。
だがこれで無事に登録も終わったのでカウンターの側にあるクエスト受付用の掲示板を覗いてみたが、特にこれといって気になる依頼や募集は張り出されていなかった。
それからホールの端に置かれている椅子に腰掛け、ユナとメイの二人と会話をしながら冒険者とギルド職員たちの動きを確認していると、先程の受付嬢がまたやって来て二階にある応接室まで来て欲しいと頼まれた。
「それで、オレたちを呼んでるのは誰なんだ?」
「当ギルドの責任者です。先任のギルド長がこの前の騒ぎで亡くなられましたので、その後任の者が挨拶をしたいと申しております」
先任のギルド長が仕出かした事件によってユナとメイが居たこの街の庁舎は大きな被害を被っているし、この街の太守もあの騒ぎの中で亡くなった事になっている。
そして、あの騒動の中心人物だと思われる相手がわざわざ訪ねて来たと報告を聞き、直接会ってオレたちの正体を確認すべくこちらに面会を申し入れてきたという所か?
こちらとしては、あの騒ぎによってユナとメイの身柄をオレが引き受ける事となり万事めでたく終結した事になっているが、後任のギルド長にして見れば先任者がここで何を仕出かしたかなんて当然知ってるだろうから、今まで行方を眩ましていた二人がひょっこり姿を現したので、さぞ驚いた事だろう。
きっと今頃は護衛を連れて現れたユナとメイに対して素直に謝るべきか、それとも威圧して口を閉ざしておくように脅しておくべきかなんて下らない事でも考えているのだろう。
受付嬢の案内で建物の二階にある応接室へ案内されると、そこで待っていたのは三十歳くらいの眼鏡を掛けたいかにも仕事が出来そうなキャリアウーマンがソファーに腰掛け、ユナとメイそしてオレの三人を待っていた。
足を組まずに揃えて座っているのは彼女の性格によるものなのか、それともこちらに対して礼儀を尽くしたものかは判断が難しい。
「ユナ様、メイ様、それと護衛のロード様で宜しかったですよね? この度は当ギルドによる騒ぎについて先にお詫びを申し上げておきます。私は王都から遣わされて参りましたミシェルハイファーと申します。以降はミシェルとお呼び下さい」
近くでよく見ると三十代と言うより二十代中頃と言ってもおかしくない容姿を持つ美女で、見事な金髪のセミロングと、ややキツイ印象を与える目元が他者を寄せ付け難い雰囲気を作り出している。
彼女の装いは身体のラインがよく判る、ピッタリとしたダークグレーのスーツ姿で膝下までのタイトスカートとなっており、少し深めのスリットから垣間見える黒いストッキングに包まれた脚は、男ならイヤでもそちらに目線を奪われる秀逸なデザインとなっていた。
「初めまして、私が元執政官のユナリアで、こちらが元秘書官のメイプルです。そして私たち二人の護衛としてここまで同行して頂いたロードく……様です」
ユナが後任のギルド長と話しているのを後ろからジッと聞いていたが、前任者による庁舎襲撃事件としての真相は本人が死亡したため不明とされている。
だが、ギルドとして王国への報告義務がありミシェルさんが調べた内容によれば教国との繋がりが見えてきたと言うが、まだハッキリとした証拠が無く現在も調査が進められているといった内容だった。
いくらギルドの命令とは言っても地方行政を担う庁舎の内まで侵入して職員たちにケガをさせたり、最悪死なせたりした者たちの処遇については今も頭を痛めてるところだと言う。
でも、その者たちを有罪とすれば今度はギルドの命令に従った者たちを断罪する必要があり、そうなると今後の運営に支障が出るし、かと言って無罪にすればこの街に住む被害者の家族たちがきっと赦しはしないだろう。
それと今回ここを訪れた目的は、あくまで冒険者ギルドが天使とか教会に乗っ取られているかどうかの確認をしたかっただけなので、新しく赴任して来たミシェルさんの話を聞く限りはその心配は無さそうだと判断した。
これでユナとメイに関する事で一通りの確認を終えたわけだが、太守のボンボンを牢屋に放り込んだままだったのを思い出したので、後でこの街の警衛所へ寄ってから帰る事にした。
この街で新たに不死者となった者たちは、皆元気で暮らしているだろうか?
あの衛兵たちを見る限りだと楽しくやって行けそうだから、そこまでの心配は必要無さそうだと思ったが、念の為に今後の事を考えてユナにはいくつかのアイデアを授けて不死者たちの生活をサポートして貰う様に頼んでおいた。




