第32話 二人の忘れ物
「ユナとメイ、それとドロシーをここへ呼んでくれ」
ショコラにそう告げて、オレは寝てる間に突然改装されていた城の自室で三人を待っていた。
「「ロードくんお待たせー!」」
「ロードはんウチになんぞ用やったか?」
ユナとメイはお揃いのスカートで、丈がちょっと短かい黄色い花柄のワンピースを着てやって来た。
その装いは彼女たちのスレンダーな身体のラインを美しく演出する効果でも付与されているのか、膝上までのスカートから露になってる白い肩と腕、それと生足がやけに眩しい。
白い革紐で編まれたサンダルにはヒールが付いており、前から眺めるとエルフ特有の細く美しい脚線を、更に長く見せて脚の甲を優しく包む革紐がとてもエロチックに見える。
そして足の爪に塗られたワンピースと同系色のペディキュアが、明るく健康的なイメージを演出して、下品なイヤラシさは微塵も感じられない仕上がりとなっていた。
(見えすぎても逆に困るものだな。落ち着けオレ、とりあえず素数でも数えるんだ……)
二人の後からドロシーも部屋に入って来たが、こちらはいつも通りダークグレーのローブの下にはブラとミニスカートしか身に着けておらず、履物は足首までのショートブーツを履いていた。ちなみに家の中では魔女帽は被らないらしい。
彼女はいつも自分の研究室に閉じこもって出てこないから、不健康そうなイメージばかり付き纏うが、これでも人族の街の冒険者ギルドではそこそこ有名な魔術士だったとレオンたちから聞いている。
(服装だけ見れば、お色気ムンムンの大人になった魔女っ子コスなのだが、ドロシーが持つ雰囲気というかオーラが、大阪のオバチャンみたいで色気を全く感じさせない。そんな彼女を見てると気分が落ち着くのは何故なのかな?)
ユナとメイの二人をここへ呼んだのは、以前に彼女たち二人が暮らしていたソドモラの街で天使たちと戦いになり、メイが気を失ったまま意識が戻らなかったので緊急避難的な意味でこの城まで来て貰った訳だが、メイの容態が回復して今はとても元気になったと報告を受けてたので、もし彼女たちがあの街でやり残した事でもあれば、ここで一度その後始末をしに行こうと考えたからだった。
「街の庁舎に居た皆さんと孤児院、それと冒険者ギルドがどうなったのか気になっています」
そう言えば、庁舎に居た職員たちは同僚を守って最後まで冒険者どもを相手に抵抗していたから、あの場所では甚大な被害が出ていたと記憶している。
オレも途中で様子が気になって庁舎まで戻ってみたが、既に事切れている者も多く何十人もの死体をその場で屍鬼や死鬼として黄泉帰らせ、自分の仲間たちを守るように指示したまま、あの場を後にしていた。
それから天使どもに人質として連れて来られていた幼い少年少女のスリグループの子たちも、戦闘が終わった時に気がつけば完全に姿を消してしまっていたから、その後の消息までは確認していない。
最後に冒険者ギルドの存在が悩ましい所だが、あの時のギルド長は天使に身体を乗っ取られて歯向かって来たので、オレがデス子(暗黒剣)で斬り殺してやったから今は後任者が居ると思うが、もしその後任者に天使どもの臭いがしたら躊躇わず惨殺してやるつもりだ。
ドロシーには二人が居た街近くまでのアシとして送って貰うので、目的地に着いた時点で帰って貰う様に説得する。
「ウチも一緒に行きたいんやけど?」
「いや、今回は送るだけでいい」
「なんでやー?!」
それでもドロシーはついて来たがっていたが、今回は二人が居た場所を巡って先に事後処理を済ませておきたかったので、今回は遠慮して欲しいと言ったら渋々だが了承してくれた。
「この貸しはデカイで?」
その後、二人には旅装に着替えて貰い、早速だがドロシーの転移魔法でソドモラの街の郊外にある街道近くまで送って貰った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
二人と並んで街道を東へ進んで行くとソドモラの街はすぐに見えてきた。
そして街の外壁に着いて入場門の行列の最後尾に並んで順番を待っていると、街の衛兵がユナとメイの二人の姿を見つけてこちらに走って来るのが見えた。
「ユナ様とメイ様ではありませんか? 役所の皆が今も貴女様方の帰りを待ってると思います。こちらの入口から入って頂いて結構ですから早く行ってあげて下さい。それとそちらの方は?」
「この前の内戦の時に私たち二人を守って下さった恩人の方です。メイの体調が回復したのでこの街へ戻って来る為に護衛を努めて頂きました。まだ護衛契約が残っていますので、街中での警護を継続して頂こうと考えてますが宜しいですよね?」
こうして何のトラブルも無く街の中へ入れたオレたちは、この街の中心地にある庁舎へと向かったのだが、そこでは不可解な事が起こっていた。
庁舎の一階には受付を始め住民サービスを行う様々な部署で職員たちが今日も忙しそうに勤めているのだが、その衣服は所々が破れてどす黒いシミになっている者たちが居て、彼らもあの時の戦いに巻き込まれて負傷し、血が固まった制服で今も働き続けていたのだった。
良く見ると動きも緩慢でまるで……そう彼らは屍鬼や死鬼などの不死者となった今も、生者たちと一緒に働いていた。
これは推測だが、あの時オレが庁舎の周りに倒れていた死体を屍鬼や死鬼として黄泉帰らせ、押し寄せて来たギルドの冒険者たちと戦う様に命じたのだが、彼らがアンデッドとして仮初めの生命を与えた時、殺されてから余り時間が経っていなかったおかげで本人たちの意識と人格がまだ残っており、他にまだ生きてる仲間たちを守るように命じたのだ。
あの時のオレはユナとメイの二人の身を案じて急いでいたから、彼らがその後どのような戦いをくぐり抜けて生き残った(?)のかまでは知らない。
だが一部の者がそれなりにレベルアップした所から察すると、彼らもまた多くの冒険者どもの血肉を啜ったのだという事が判る。
この庁舎の中では、そんな不死者と生者の役所職員たちが一緒になって街の復興処理を担っていたのだった。
「おいみんな、あれユナ様とメイ様じゃないか?」
「ほんとだ、やっぱり生きておられたのですね!」
「みんな、もう大丈夫だ! お二人が戻って来てくれたぞ! おれたちの救世主様が!!」
三階にある太守の執務室の机の上には、部屋の天井近くまで積み上げられた未決済書類が深い渓谷を作り出していて、それら全てが二人の帰りを待っていた。
「でも太守様が亡くなってしまわれたから、もう奴隷の私たちだけで決済なんて出来ないわ」
これまでこの街の問題はほぼ全て二人が中心となって処理してきたのは知ってるが、それはこの街に住む誰もが太守が生きてると騙されていたからで、二人が決済した書類の最後には必ず太守のサインが入れられていた。
それは庁舎の中だけに限らず、現地まで直接足を運んで市民たちから話を聞き、商店や職人ギルドと連携を図ってこの街を徐々にだが少しずつ良くする為に、それこそ身を粉にして働いて来た二人だが、例えお飾りだったとしても最終責任者として太守の名前が必要だったのだろう。
「太守様なんて、あんなのただの飾りです! 偉い人にはそれが判らんのです!」
「この庁舎はお二人さえ居てくれれば80、いや100パーセントの処理能力を発揮出来ます!」
この庁舎で勤務する者たちは二人が太守の奴隷である事を知っており、最初の頃はユナとメイの二人をただの奴隷として接していたはずなのだ。
それが結果的に自分たちの居場所を守る為だったとしても、決して自分たちだけの為では無くこの街の皆の為に努力を積み重ねて来た結果が認められて、奴隷であったはずの二人が今ここに居る職員全員からこれほど慕われ、また頼りとされる存在にまで成長したのだろう。
「私たち二人がこの街へ戻って来たのは太守様の秘書官に戻る為ではありません。メイの体調が回復したから二人でこの街がちゃんと元の生活へと戻れているか確認しに来ただけです」
この部屋に居る職員たちからは「そんな事言わずに!」とか「どうか私たちを助けると思って!」などと様々な助力を求める声が上がるが、ユナとメイは決して首をタテに振る事は無かった。
「ユナあったよ、これだよね?」
「そうそう、これで合ってるわ」
メイが三階の執務室にある隠し金庫の中から持って来たのは一枚の書類だった。
それもこの国では契約書などに使用する上質の紙で、それをメイがユナに手渡すと書かれている内容を確認してから丸め、筒状の入れ物に収めてオレに手渡してきた。
「ロードくん、これを受け取ってくれませんか?」
オレはユナから手渡された書類が入った筒を、足元にある影(異空間にある収納ボックス)へ放り込んだが、知らない者が見たら手品で消してしまったとしか思えないだろうな。
「では皆さん、私とメイは新しいご主人様にお仕えする為にこの街を離れる事になりました。今まで色々とご協力を頂き本当にありがとうございました」
そう言って深々と一礼してから外へ向かって歩き出したユナとメイの背中を追うように、オレも執務室を後にするが、部屋の中からは今も「そこを何とか!」とか「見捨てないでー!」と言った悲痛な叫び声が、いつまでも木霊のように響いていた。
「これで本当に良かったのか?」
「うん、今の私たちには別の目標が出来たからね!」
ユナは不死者になってまだ間がないが、それでも二度目の人生をこうして前向きに生きて行こうとする姿を見せられると、何故か救われた気がするのはどうしてなんだろうな。
ユナたちと他愛もない話をしながら歩いていると、彼女たちが太守の名義で支援していた孤児院が見えてきたが、その建物の屋根は既に焼け落ちてしまって窓と入口の扉も破壊されて吹き曝しの状態となっており、もう人っ子一人住める状態では無くなっていた。
「こんなの酷いよ……」
「みんな何処へ行ったのかな……」
レンガ造りの壁だけが辛うじて残ってるだけの孤児院の建物は、これまで何年も凌いで来た風雨の跡と内部に残されたままの壊れた家具や生活道具が打ち捨てられており、布などのように劣化が酷い物は時間の流れがここだけ早く過ぎ去ってしまったかの様に寂れていた。
恐らくだが、ユナとメイはあの時のドワーフの孤児たちの姿を確認して安心したかったのだろうが、あれから少し時間が過ぎてしまったので会う事は叶わなかったが、あの子供たちも今頃また何処か別の場所で逞しく生きていると信じるしかない。
そして二人と最後に向かったのは、今回の来訪で一番行きたくなかった街の冒険者ギルドだった。
前任のギルド長は天使に唆されてユナとメイを拐おうとしていたのでオレが斬り殺してやったのだが、次の責任者が天使たちの支配を受けていないかどうかだけは確認しておきたかった。
そう考えながらオレたち三人がギルドの扉を開こうとした時、背後からオレたちを呼び止める声が聞こえてきた。




