第28話 ガバっと頂いちゃいなさいw
そして今、オレの目の前にはデモーニッシュ族の40名全員がゾンビ兵となって整列していた。
「総員整列ぅ! 進軍始めぇえええええ!!」
レオンの大きな掛け声に呼応するように、二列縦隊に整列したデモーニッシュ・ゾンビの新兵たちが地下迷宮の最奥を守る大扉をこじ抜け、その先にあるエリアへと侵攻を開始する。
途中で見つけた玄室の中も隈無く押し入って、先ほどまで展開されていたB級ホラー映画さながらのワンシーンを何度も再現しながらの蹂躙が続く。
ここで気を付けたいのは既に配下となったデモーニッシュの魔石を回収するタイミングだろうか。
当初の目的とは言え、彼らの魔石を回収してしまえば当然その個体は滅びてしまうし、余り長くそのままにしていると今度は情が湧いて抜き取るのが可愛そうに思えてくる。
結果として、このダンジョンの最終フロアが60階層だと判ったのは、50層の攻略を終えたその翌日の午後だった。
あの落盤事故を装った罠が仕掛けてあった50階層こそが彼らの最終防衛線であり、そこから下の階層は全てデモーニッシュたちの居住区となっていた。
最終フロアである60階層の玉座の間へ到着すると、オレがショコラが居たダンジョンへやって来た頃のような、ほぼ初期状態のまま改修された跡がないコントロール・ルームがあり、その玉座にはデモンロードが一人静かに鎮座していた。
その姿は黒髪黒目の中肉中背イケメンで、どうみてもオレが元居た世界の極東島国の特徴がある事から、きっと彼もオレと同じ様に異世界へやって来た来訪者なのだろう。それと種族は違えどクラスはオレと同じロードで間違い無さそうだ。
ここで少しでも気を抜けば殺られるのはオレの方である可能性も否めないが、オレたちとデモンロードの間にはヤツの元配下であったデモーニッシュ・ゾンビがズラリと並んで肉の盾を作っていた。勿論その中心には一際体格の大きい獅子獣人が大盾を構えている。
「エリーゼ、何故そんな所に居るんだ? 俺たちはこれからもずっと一緒に、この世界を手に入れるゲームをしながら楽しく暮らすんじゃなかったのか?」
なるほど……アイツもエルフの隠れ村に居た勇者フーカと同じで、この世界をゲームの世界か何かだと勘違いしたまま暮らしていた訳か。そして、こちらの世界で出会ったこのエリーゼという女と一緒に世界征服の夢でも膨らませていたのだろう。
彼が何も考えずに暮らしていたとは言わないが、中長期的な成長戦略を持たないまま安易に勢力を増やしてばかりいたので、同族以外の配下もほぼ全て同じ系統の悪鬼系ばかりとなっていたか。
オレも他人の事を言えた義理ではないが、同系統の味方が多いというのは同じ弱点を持つ味方が多いという事でもあるので、今回の様に種族相性の組合せによっては最悪の結果となる。
何より接近戦しかできない悪鬼ばかりを集めた部隊など、体力の限界が無く負傷しても動き続ける不死者を相手にしては一溜りもない。よって一度でも劣勢に追い込まれると、そこから逆転する為の一手を探し出すのは難しかったのだろう。
そんな彼の今の姿は、ともすればショコラたちイエスマンに周りを囲まれて気分良くお山の大将を気取り、ゆったりとゲーム攻略を気取っていた場合のオレの姿でもあった。
彼もオレも同じロードクラスの存在だ。
配下を抱えて一族の未来を切り開くべく闘い続けなければならない運命を持つ者同士が出会ったならば、後は雌雄を決して戦う以外にオレが成すべき事など他に無い。
だからオレは決断する。
「貴様がエリーゼか、こっちに来い」
「ハイ、ろーどサマ」
どうやらデモンロードの想い人らしいエリーゼを呼んでオレの前に立たせると、この女魔族はとても男好きする魅惑的なスタイルをしており、コイツの正体を知らなければサッキュバスと見間違えてもおかしくないくらい美しい容貌をしていた。
彼女の切れ長の目には美しく輝くブルーグレイの瞳が印象的であり、赤くて細い冷酷そうな唇がまだ大人に成り立て女性を匂わせる雰囲気をしている。そして白い肌より更に白い銀髪はデモーニッシュ族では珍しくない色みたいだが、彼女の容貌にもとても似合っており、あのデモンロードの男が執着するのも無理はないと思えた。
そんな美女がビキニアーマーみたいな身体のラインを全く隠さないエロっちいスーツを纏っているから、うちの女性陣の手前だと目のやり場に困るが、ここは心を吸血鬼にして次の行動へ移る。
オレは、わざとエリーゼを片手でぞんざいに抱き寄せ、彼女の柔らかなお尻の肉が変形する様を男にマザマザと見せつけるよう指を食い込ませると、少し痛かったのか女の口から吐息が溢れ出る。
「ァア、ろーどサマ……」
食い込んだ指の間からエリーゼの尻肉が圧力に押し出されて指の間から零れ出る。なかなか弾力のある良い肉をしてるな。後は自分が惚れてた女の尻に他人の指が喰い込む様を見せつけられて相手がブチ切れのを待つ。
「おい貴様っエリーゼに何をする!! 今直ぐそのうす汚い手を離せ!!」
オレの左手をの指先を尻の肉から割れ目の奥へ撫で付けるように動かすとエリーゼの口から更にいやらしい艶のある声が漏れ出す。
そしてオレの右手は尻から腰へ背骨のラインに沿って段々と這いずるように徐々に上へと動かし、彼女の後頭部の髪を無造作に掴んで少し汗ばんだ艶めかしい首筋をオレの口元まで引き寄せる。
「頼む! それ以上彼女に手を出すのは止めてくれ! この通りだ!!」
「この女が大切なら、お前がここまで来い」
たったこれだけの事で半泣きになったデモンロードなど、最早オレの敵ではない。
アイツの彼女を人質に取ったままヤツが一人でオレの目の前までやって来た時、サクっと首を刎ね飛ばしてやれば、これでダンジョンの攻略が完了した。
(あっけないものだな)
この女がそれほど大切な存在なら、常に自分の後ろで守っておかなかったヤツのミスだ。
種族は違っても階級は同じロードクラスだったオレたちが、もし本気のガチで殺り合っていたら結果が変わっていた可能性もある。
しかし、ここは弱肉強食が蔓延る異世界。
元居た世界で教え込まれた道徳心が邪魔をして、大切な女一人見捨てられなかったヤツの甘さが敗北の原因だ。
何たってここは自由とか平等なんてその概念すら生まれてない異世界だから、当然のように人権なんてバカな事を考える輩は居ないし、LGBTQなど踏みにじられて当然の世の中。
あそこでオレの配下となってしまったエリーゼを見捨てる事無く、既に不死者の門を潜ってしまい後戻りが出来ない女の為に、たった一つしか無い自分の生命を躊躇せずに差し出したヤツの想いには称賛を覚える。
「ディアーネ。すまないが、この男の首を治してやってくれ」
多分この男とエリーゼという女魔族は将来を誓い合った仲なのだろう。
もしオレのダンジョンがポイント不足に悩まされていなければ、きっと今もデモーニッシュ族のみんなと楽しく暮らしていたはずだ。
もしこの男がエリーゼを始めとした、ここにいる女たちを差し出し自分だけでも生き残ろうとしてくれたなら、今のオレの心はもっと晴れやかな気分になっていたはずなんだ。
ヤツとてデモンロードの力を持つ異世界からの来訪者だ。オレがちょっと気ままに首をはねたくらいで簡単に魂まで消滅したなんて思っていない。
「お前、まだここに居るんだろ?」
あれだけ執着していた女を置いて自分だけ先に逝くはずが無い。
そう確信めいたものを感じたオレは、ディアーネの治療で首が繋がった男の腹部目掛けて、いつものように蒼い血爪を深々と突き刺してやる。
相手はデモンロードだから、レオンたち一般人よりちょっと多めにオレの血を注ぎ込んでも大丈夫だろう。たぶん。
血爪の先から溶け出したオレの血が男の細胞組織の中に不死因子を送り込み、彼の細胞を一から造り変えて行く。
もし普通の死体に、これほど大量の不死因子を一気に注入してやれば黄泉帰るどころか真っ白な灰になってしまうのだが、そこはさすがにロードブランドを信じて事を進める。
「お、俺は確か、さっきお前に殺されたはずじゃなかったのか?」
オレの不死因子をこの男の身体にドバっと注ぎ込んだ結果、彼の種族は【デスロード】へと生まれ変わっていた。
「お前はちょっとそこで待ってろ。次はエリーゼ、お前の番だ。こっちへ来い」
今のエリーゼは屍鬼になってるから、このまま普通にオレから増血させてしまうと彼女の忠誠心がオレで満たされてしまうから、そこへ彼へ想いを残したまま【デスデーモン】に進化させれば二人でまた一緒に暮らせるようになるんじゃないかな。
男の腹から抜いたばかりの血爪を、彼の血に塗れたまま今度はエリーゼの下腹部へと突き刺し背中まで貫いてやる。
当然だが、彼の血液にはオレの不死因子が混じっているが、彼の細胞の中で増殖を始めた彼の不死因子が力強く芽吹いている。
こんな邪道な方法はこれまで試した事は無かったが、オレの不死因子が彼の体内で新たなDNAとなり、それをエリーゼの体内へ注ぎ込んでやれば、オレに対する絶対的な忠誠心をそのままに、それと同じくらい彼への想いを大切にしたいと考える心の余地を残してやれると考えたからだった。
「クロノ様!」
「エリーゼ!」
こうして二人は再び一緒に暮らせるようになり再び永遠の愛を誓い合うのだが、オレたちが居る目の前でイチャコラし始めたので服を脱ぎ始める前に二人の頭へゲンコツを落としてやった。
すると今初めて気がついたかのようにオレたちへの挨拶と自己紹介を始めた。
「俺の名は黒野耀真。こっちではクロノと名乗ってる。それとこいつは、ここに来てから知り合ったエリーゼだ。二人だけの時はエリーと呼んでる」
最初はこのダンジョンに潜んでる敵を全て倒して魔石を奪うつもりでここまで来たのだが、ここに居る全員がオレの配下となった以上そんな事は出来なくなった。
本拠地であるシルヴァニア城を強化する為にダンジョンポイントは喉から手が出るほど欲しいが、ここはこのままクロノたちデモーニッシュの一族が暮らしていけるように維持して行くのが最善だと思う。
《システム310、応答なさい》
そんな時このダンジョンのコントロール・ルーム内に、遥か離れたシルヴァニア城に居るはずのショコラから音声通信の声が聞こえてきた。
〈はい、システム310ここに居ます〉
《ただ今を持ってシステム310をワタクシ、システム457ことショコラのサブシステムとしてパーミッションの再構築を行います。システム310のマスター権限はそのまま保留しますが最上位アカウントを持つアドミニストレーター権限者としてロード様を登録致します。異議は無いですね?》
〈システム310、些細了解致しました!〉
これでオレは、このダンジョンの命令権限も併せ持つ事になったようだ。
あとショコラがこのダンジョンのコアであるシステム310に対して、そのままだと呼びにくいと考えたオレが命名する事になったのだが、何しろ急な展開だったので安易な名前しか思い浮かばなかった。
「元の呼称がシステム310なら『ミント』でいいだろ?」
〈了解しました、これよりシステム310は以後『ミント』と呼称する事に致します〉
《よかったわねミント、あとアバターマトリクスと衣装テクスチャデータについては既にこちらで用意したモノがありますから、ダウンロードして顕現なさい》
〈了解しましたショコラお姉さま、これからも宜しくお願い致します〉
そこに現れたのは、ショコラをJKくらいまで少し幼くした感じのネコミミ娘で、薄いミントグリーンの頭の上にはネコ耳がちょこんと乗っていた。
彼女の衣装もショコラと良く似たバニースーツみたいなスーツを着ていたが、ショコラの服は茶色を限りなく濃くした黒なのに対し、ミントのものは緑を限りなく濃くしたダークグリーンになっている。
ショコラよりかなり若い感じがするのは、彼女の背丈以外にも身体のあちこちがまだ十分に発育していない体型からそんな印象を受けるのが理由で、それでもショコラの妹にしか見えない可愛さなら一部のマニアたちから激推しされる事間違いナシ!
例の如く、ミントもネコミミを付けたキャットガールでは無く『猫獣人』だと言い張ってるが、この異世界に居るはずの、まだ見ぬ本物の猫獣人は目からスクリーンを映写したりしないはずだ。
「ミント良く似合ってるぞ。これからもクロノとこのダンジョンの事を宜しく頼む」
〈お任せ下さい、アドミン様〉
ミントのマスターは今もクロノのままだから、オレはアドミニストレーターを略してアドミンという事か。
《ではミント、今現在のダンジョンポイント開示を命じます》
〈ショ、ショコラお姉様! それだけは!!〉
ショコラが言うには、このダンジョンは60階層もあってそのうち50階層までは対冒険者を想定した狩り場となっているし、そこに常時これだけの人数の配下が暮らしていたのなら毎月配給される基本ポイントの量も多く、しこたま貯め込んでいるはずだと言っていた。
〈ショコラお姉様! そんなにいっぱい取られてしまったらワタシたちのダンジョンが干上がってしまいますぅ!!〉
《何を言ってるのよこれくらいで大げさな。今はもうワタクシの植民ti……じゃなくてパートナーとなった訳ですからこれくらいの上納……じゃなくて援助はして頂かないと、ドロシーという名の『火の車』が転がり出して、そのダンジョンを燃やし尽くしてしまっても良いのですか?》
〈意義あり! 今の発言はパワハラワードとして記録し、然るべき役所へ提出させて頂きます!〉
《ドロシーさーん! ちょっとあそこでナマ言ってるJKネコミミをこんがり焼いてみませんか? きっといい匂いがすると思うのですが?》
〈アドミンさまぁー! 助けて下さいー! ワタシこのままでは焼き殺されちゃいますぅー! システムは熱に弱いんですぅー!!〉
ショコラがポイント獲得の為にワザと嫌われ者役を買って出てくれているが、さすがにこれはやりすぎだと思う。
「ショコラ、余り阿漕な真似はやめておけ。今はもう仲魔となったミントをいじめても仕方が無いだろ?」
《マスター、このミントは特別会計の予算を隠しています。その金額はこれまでの収支データから逆算すると、最低でも四億ポイントは下らないはずなのです!」
「ちなみに、うちの予算はどれくらい残ってるんだ?」
《凡そ二百万ポイントです》
「ガバっと頂いちゃいなさいw」
《了解致しましたw》
〈ひぃーオニだー! ここにオニが居るぞーー!!〉
まさか、うちのダンジョン資産の二百倍ものポイントを貯め込んでいるとは思わなかったが、悪鬼族の配下も含めれば総勢数百人以上は居たと思うから、うちより多額のダンジョン・ポイントが必要だったのは判ってる。
でも最初は、このダンジョンを根こそぎ狩ってポイントにしようと考えていたプランがボツとなったから、今はその代替案として彼らの生存に必要なポイントを残しオレは心を鬼にして取り立てる事にした。
(すまんな。吸血鬼も一応は鬼だから優しくはしてやれないんだ)
こうしてミントの協力(?)により、彼らが所有していたダンジョン・ポイントのうちの約半分(約二億二千万ポイント)を手に入れ、これでシルヴァニア城の地下資源を発掘予算を確保する事が出来たのだった。




