第27話 B級ホラー再び!
早速だが、オレはリンたちが先日見つけたダンジョンを攻略するため、其処へ送り込むパーティの人員選別をしていた。
先ず攻略先であるダンジョンの場所を覚えて転移魔術でパーティの行き来ができるようになったドロシーの参加は決定事項だ。
次に前衛として敵の攻撃から皆を守ってくれるタンク役のレオンも連れて行きたいし、索敵と罠の解除スキルに秀でたクロウリーも外したくない。
それと継戦能力を維持する為に回復要員が必要だが、候補としてはディアーネかプリンのどちらか一人を連れて行くとして、近接アタッカーであるリンを外せないとなると、回復要員はリンと相性が良いディアーネで良いだろう。
前回も城で留守番をさせてしまってるプリンたちには悪いが、今回のメンバーはこれで行くと皆に伝えた。
そこで城に残ると決まったメンバーたちの中に顔には出さないが、心の中で不満に思ってる者が居るかも知れないので、この前みたいに、この城へ攻めて来るバカが居るかも知れないから、皆の帰る場所であるこの城の守りは信頼できる配下でなければ任せる事が出来ないと説得すると、最後は判って貰えたようで安心した。
そして今回城に残ってくれるのはプリン、アイゼン、ユナ、メイの他にエルフの隠れ村から交代当番で、城に戻って来てるデッドエルフのクリディオも居る。
勿論ダンジョンコアのショコラも、自由にここから離れる訳にはいかないので居残り組となる。
ちなみにユナは今回の攻略のためドロシーの姿に変身して貰っており、魔法職が少ない守備隊の主力として活躍して貰う事になる。
ただ頭のネジがキレてしまってるドロシーの魔力量までは完全にマネ出来なかったみたいだけど、ユナの魔法レベルとは関係無くドロシーと同じ魔法が使えるのは正しくチート能力だと思った。
こうして班分けをしてみると、うちのダンジョンは幹部の人数が少なく全員で集まっても小隊くらいの規模にしかならないので、ポイントで召喚できるスケルトンウォリアーたちの数をそれなりに揃えているから今はこれで良いだろう。
あとエルフの隠れ村の近くには約1000体もの屍鬼を待機させたままになってるが、今の所あの戦力を他へ動かすつもりは無い。
今回の攻略にはオレもリンたちに同行するから、途中で狩った魔物の魔石や素材をその場で丸ごと受け取って、オレの影スキルで収納しておけば、ドロシーのボックス魔術に頼らなくても良いので荷物の受け渡しの手間を省ける。
ダンジョンから産出される純度が高い魔石なら、うちのショコラが高いレートでポイント交換出来ると聞いていたので、今回はそれらを発掘するのに必要な、ツルハシ等の作業道具も荷物に入れてある。
こういった攻略時に必要な荷物はオレの影の中にある異次元ポケットに仕舞ってあるから、配下の皆は武器等の装備品だけを手に持って歩いていれば良く、より行軍と索敵にリソースを集中する事ができる。
それとオレが持つ影スキルの中に収納した消耗品等については、ドロシーが転移魔術の研究中に開発した収納ボックス魔術の中にも同じ品物を入れてあるから、もしオレが皆と逸れてしまっても安心してくれ。
オレの影ポケットスキルとドロシーのボックス魔術だが、使い方は似ていてもその仕組みはかなり違っていて、大きさだけを見ればボックス魔術に軍配が上がるが、オレが使用する影ポケットのスキルは魔力を消費しないというメリットがあり、また呪文の詠唱も不要でオレの視界内にあれば半径10メートル程度の範囲の何処にでもアイテムを瞬時に出現させる事が出来る。
オレの影スキルより収納可能な容量が勝ってると知った時のドロシーのドヤ顔が悔しかったので、その後色々と検証するに至ったのだが、使い勝手の点では明らかにオレの方が勝ってると判ったので、悔しそうなドロシーにドヤ顔を返してやったのは言うまでもない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それからドロシーの転移魔術によって、先日訪れたダンジョンがある雪山の中腹部まで一瞬で移動して来たオレたちは更に、リンが持つ勇者スキルのリターンを使用して三日前に彼女が寝起きした40階層にあるキャンプ地まで一気に進む。
それでも前回リンたちが到達した50階層まで辿り着くには最低でもあと2日くらいは掛かるという事だったが、それはパーティ全員が不死者だからであって、もしこれが生身の人間だけのパーティなら優にその二倍くらいの日数は必要となるだろう。
それでも念には念を入れて万一の時に備え、リンが持つリターンスキルの帰還場所をこの安全地帯に設定しておくため、彼女にはここで眠って貰う必要があり皆で4時間程度の休憩を取った。
休憩を終えてからダンジョン探索を再開するが事前の打合せ通り、敵と罠の探知が得意なクロウリーに先行して貰い警戒体制を維持しながら通路を進む。
そして敵発見のサインがあった時は、リンが音を立てずに接近し相手に襲撃を悟られないまま急所への一撃を加えるが、もし接近を知られた場合や一撃で敵を葬り去る事が出来ず反撃されそうであれば、このタイミングで大盾を持つレオンが前の二人を守る手筈になっている。
それから魔法職であるディアーネとドロシーの二人がレオンからやや離れて続き、オレは前方の様子を一度に視界に収められる位置を歩き、不足の辞退にに備えて最後尾を歩く。勿論だが後方警戒もちゃんとやってるぞ。
この辺りはダンジョンでもまだ浅い階層だから仕方が無いとは思うが、うちの最高戦力を集めたパーティの進撃を阻める敵などこれまで一匹も出てきていない。
上層で出てきたゴブリンやオークを始めとした下級鬼族などは言うに及ばず、ここ30階層から登場するオーガやレッサーデーモン程度ならいくら出て来ようと物の数にならなかったのは言うまでも無い。
道中で出会ったモンスターとしてはオーガの他にもトロールみたいなヤツも居たな。
あと途中にあったボス部屋ではミノタウルスなんかの悪鬼系の魔物が圧倒的に多く出現したけど接近して武器を振るうしか能の無い魔物ではリンとレオンが並んだ前衛を突破する事すら出来なかった。
そして前衛の二人に足止めされている間にクロウリーの弓とドロシーの攻撃魔術によって、魔物が簡単に撃滅されてしまうからその討伐スピートは驚くほど速い。
そうこうしているうちに49階層まで到達して見通しの良い長い通路を進んでいると、先行しているクロウリーからストップのハンドサインが出された。どうやらこの先に大掛かりな罠が仕掛けられていると皆が言う。でもオレの目には何も無いただの坑道にしか見えない。
もしかして、これまでずっと戦いの中に身を置き続けたクロウリーやリンたちと比べて、戦闘以外の事に時間を割いてきたオレとの間に、気がつけば追い付けないほど経験の差が開いてしまったと言う事だろうか?
内心で焦りまくってるオレに「ロードくんはあっちで見てて」とリンがオレを戦闘から少し離れた場所を指示してくれたので安全圏まで移動してリンたちを見守っていると、何故か急に皆がゴソゴソと着替え始める。
女性陣の皆は周囲に円筒形の不可視結界のスクリーンでカーテンを作り、その中で今まで着ていた装備を外して下に着ていた衣服も脱いでから、ドロシーがボックス魔術から取り出した明らかに使い古されたボロを身に着けて行く輪郭がスクリーン越しに見える。ちなみにリオンとクロウリーはその場で着替えてた。
着替えが終わった皆のすがやは、あちこち擦り切れていたり金具が外れていたりと、見るからにボロボロで男は何でも良いのだろうが、女性たちの場合は胸とか脚の大切な部分の布が破けてしまっており、見てるとこちらが恥ずかしくなるほど布面積が少なくとても汚れていた。
はっ!……これはもしかして、オレがいつもダンジョンポイントがキツキツで家計が苦しいなどと漏らしたから、激しい戦闘は始まる前に予め古い服と装備に着替えていたのだと考えた。
(みんな済まない、そこまで困窮していると思われていたんだな……)
オレは自分の目から溢れて流れ出て来るものが、もう何百年も前に枯れたと思っていた涙だと気づいた時、せめて配下の前だけはダンジョンポイントに困っていないフリをしようと心に固く誓った。
「ロードくん、ちゃんと見ててね、ちゃんとだよ?」
健気なリンが自分たちのガンバリをちゃんと見てるように言ってくれているが、これほどオレ思いの配下たちの姿を1フレームも見逃してなるものかと瞬きすらせずに皆の姿を眺める。すると──
――ドゴン!ドカン!バラバラバラッ!!!
リンたちが歩いていた廊下の地盤から突如大きな破壊音が響き、大量の土埃を巻き上げながらより多くの瓦礫と土砂が皆の身体を飲み込み崩落してゆく!
「オイ! みんな大丈夫か! 返事を、返事をしてくれ!!」
オレは気が焦り今直ぐにでも飛び出そうとした瞬間。
《マスター落ち着いて下さい、リンたちは大丈夫です。みんなは大丈夫ですから、このまま見ていて下さい》
「そうは言っても皆が生き埋めになったんだぞ! さすがにこの状態を黙って見てるのは……」
崩落した直下のフロアでは大量の瓦礫と一緒にオレの配下たちが生き埋めとなっており、このままでは自力での脱出は難しそうに見える。
皆がいくら不死者の身体を持っていたとしても深刻なダメージを受けてる可能性があり、ここは一刻も早く救助作業を行う必要があるのだが、ショコラから再三のように今の場所から動かないようにと懇願されて判断に迷う。
だが、それでも目を離せないでいると……。
高く降り積もった瓦礫の中から突如、白くて細い女性の腕が出てきてゆらゆらと動き瓦礫の表面を弄る。
また別の所からは別の誰かの腕が生えて来るが、終いには瓦礫のあちこちから腕とか足とか頭がゆっくりと這い出て来たので少し安心した。
皆の姿は土で汚れたボロボロの服のあちこちに出血するドス黒いシミのある身体を引きずりながら、階下で待ち伏せていた魔族たちへゆっくりと迫って行く。
そこで引き起こされる惨劇は、まるでオレが元居た世界で見たB級ホラー映画のワンシーンのように衝撃的だった。
リンたちは震えて逃げ惑っている魔族たちを、ゆっくりとした動作で囲んで追い詰め、武器は一切使わずに素手で掴み掛かって噛みついたり相手の身体をちぎったりしながら敵魔族を一人ずつ犠牲者の姿に変えて行く。
パニックに陥った相手の魔族からは、口々に「また出たー!」とか「助けてー!」とか叫んで戦う事も忘れて逃げ回っている。
これは後でリンたちから聞いた話なのだが、このダンジョンの四十九階層にある長い廊下の下には大きな玄室があって、直下階から天井部分を破壊して上に居る敵を床ごと落盤事故に巻き込む罠だと説明を受けた。
そしてその罠を逆手に取って殺された冒険者たちが恨んでゾンビとなり、逆に自分たちを殺した相手に襲い掛かるというシチュエーションを皆で演じていたそうだ。
これは敵の魔族が「こんな酷い殺し方をして、もし恨まれでもしたら嫌だな」といった良心を揺さぶりパニック状態を引き起こす作戦だったらしい。
何よりオレが昔に見たB級ホラー映画そのままのシーンがほぼ完璧に再現されており、途中からは食い入って見るくらい迫真の演技がキラめいており、あれが演技だと予め聞いているオレでさえ感動するほどのレベルに仕上がっていた。
(そこの男魔族! 早く其処から逃げないと、すぐ後ろからドロシーゾンビが迫って来てるぞ! そっちの女魔族はもう足を噛まれて助からないからお前だけでも逃げるんだ! だから、早くそいつを見捨てて、お前だけでも逃げるんだよ!)
オレの目の前で一人、また一人とリンたち不死者に襲われて、倒れて行く仲魔たちを踏み越えながら恐怖の中を逃げ惑う魔族たち阿鼻叫喚が織りなす地獄絵図が広がっている。
中には最後まで自身の背中に同僚や恋人を庇いながらゾンビに捕まってしまい、腕や足それから喉笛など身体中を噛み切られてしまい次々と絶命して行く。
そんな中で特に涙を誘ったのは倒れた仲魔や恋人が再び立ち上がって、それまで庇ってくれていた仲魔の魔族たちを噛み殺そうと迫り来るシーンだった。元恋人に捕まって女魔族が身体を噛み千切られて血と涙を流しながらも、最後まで愛しい彼の名前を呼び続けるシーンは圧巻もので、ここは涙無しには観る事が出来なかったほどだ。
ほんの数分前まで愛しい恋人や気の合う仲魔だった相手がゾンビとなって蘇った姿を見ても、すぐに武器や魔術で攻撃出来る者などここには誰一人として居なかった。
ましてや相手のゾンビは死にたてホヤホヤだから、元仲間からの問いかけに対して不完全ながら返答するくらいの知能がまだ残っており、名前を呼べば返事をするから尚更ながらに性質が悪い。
だってそうだろ? もし愛しい人がゾンビになったと頭で判っていても、以前と変わらぬ姿と声で自分に語りかけて来るから、もしかしたら『まだ助かるんじゃないか?』なんて考えてしまうのは人として正しく仕方が無い感情だと思う。
だから、そんな愛しいゾンビたちが目の前に迫って来たからといって、すぐにその相手を傷つけたり破壊するなんて普通の生者にはどうしても心の中の障壁が邪魔をする。
それでも人は(魔族を含めて)自分が信じたいものを信じてしまう傾向があり、こんな惨状を目の当たりにしても、本来なら戦闘能力で劣るはずのゾンビたちを相手に次々と噛み付かれて勝手に自滅して行く。
最早この段階において、リンたちの勝利は揺るがない状況となっていた。
「ねぇ、どうだった?」
一連の騒動が一旦終息して戻って来たリンたちにそう聞かれたが、ここは素直に「うん、スゴかったよ……」とだけ伝えておいた。
特殊な事情を抱えていたディアーネとは違い、自分から進んで不死者となった訳では無いリンだったが、今では二度目の人生を不死者としての自覚を持ちながら、それなりに楽しんで生きてくれてる事が判り胸の奥にある『何か』が取れるような気がした。




