第26話 浴場にて
以前から女性は皆お風呂が大好きなんじゃないかと思っていたが、やはりそれは大当たりだったようで、多くのポイントをつぎ込んで態々造ったかいがあったと言うものだ。
もちろんだが男湯もちゃ~んと別に造ってある、女湯より小さいけどな。
我が軍の男性チームに限って女湯を覗こうとするような勇者……ちょっと違うか、そんな不埒な行動をするヤツは居ないと思うが、漫画や小説でよくある様な『お約束』だとか『男女間の甘酸っぱいトラブル』なんて、そもそも性欲とは全く関係の無い不死者ばかりのオレたちには期待なんてしないでくれよな。
レオンも吸血鬼なので普通の人間みたいな食欲とか性欲とは無縁の生物になってるし、このオレのように崇高な理想(美脚への執着など)でも掲げていない限り、不死となった者は異性の肉体そのものに興味を失くしているはずだからな。
男湯の一番風呂はレオンたちが遠慮して譲ってくれたので、今は一人でゆっくりと日頃の疲れを癒やしている最中なのだが、誰も居ないはずのこの浴室内で不意に誰かの気配を感じた。
「誰かそこにいるな? この感じは……もしかしてユナか。こんな所で何やってんだよ……」
「もう、どうして判っちゃうかな。せっかく姿を消してここでずっと待っててあげたのに!」
誰も居ないはずの場所から、ゆっくりと人の形をした影が浮かび上がり10歳くらいの女の子が素っ裸のまま現れる。
ユナはドッペルゲンガーというレアな不死者になったおかげで、誰かの姿形をそっくりそのまま真似る事が出来るのだが、その上コピーした相手のスキルまで使用可能というとんでもないチート能力を持っている。
しかも今みたいに自分の姿を消す裏スキルまで覚えているから、他の皆とは違う存在感を発する不死者となっていた。
「女の子が男湯に入って来たらダメじゃないか」
「今の私は10歳だからセーフだよ?」
あざといほどの小娘アピールだが……今のユナには似合ってるから許す! そう言えば元の世界にも温泉施設が各地にあったが、12才以下で身長が120センチ以下なら大丈夫だったと思い返す。
「ならいいか……」
「「「「「よくないわ!!!」」」」」
すると突然男湯の入口扉が「バタン!」という大きな音と共に勢いよく開かれて、脱衣所から姿を現したのはディアーネとドロシーを筆頭に、その後ろにはリンとプリンも居るみたいだな。
開かれたままとなった引き戸の向こうには、クロウリーが脱衣室の籠にパンツを畳んで入れようとした姿勢のまま固まっている姿がとてもシュールに見えた。
「御方様、そちらの女性は身体こそ10歳ではありますが彼女の精神は立派な成人女性だと伺っていたのですが?」
「そや! 20歳の少女が混浴オーケーやったらウチもええって事やなw」
「あはは、ロードくんゴメンね。ディアとドロシーさんがどうしてもって言うから一緒に来ちゃったよ」
「ロードしゃまの入浴姿を覗こうだなんて、みんな死ねばいいのに」
そう言えばディアーネの指摘は正しく、ユナの年齢は20歳だと聞いた記憶があるな。
だが今のユナは子供に戻っているし、出てきてすぐに大事なところだけは2枚のタオルを巻いて隠してるから、成人女性の美しい身体を惜しげもなく曝け出したキミたちとは違ってセーフでも良いんじゃないかな?
それにユナは精神年齢が20歳だとしても今は10歳の身体に戻ってるから、彼女を見て欲情するほどオレの精神は誉高く育ってなどいない。
逆に頭の中身と身体の発育状態がギリギリ10代後半と言えなくも無いドロシーでも、身体の実年齢は22歳ならそれは完全にアウトだ。
なので早く前を隠しなさいって……。それとディアーネの恵体は何処からどう見ても完全にアウトだから!
オレは決してOP教団に属する者ではないが、高貴な吸血鬼とは言え男の前で恥じらいの心が無いのは、女性として色々とダメだと思うぞ?!
あとちゃっかり後ろから着いて来たボクっ子勇者も上だけじゃなく下も隠しなさい。
キミのボーイッシュでアスリートの様な美しい脚のラインは、見てる者の心を癒やしてくれる効果があるとオレは信じてるが、それは風呂場じゃなくても良いはずだ。
プリンは、そんなに恥ずかしいのならムリして入って来なくていいんだぞ。いつまでもそのままの君で居てくれ。
あとショコラも知らないうちに、自然な感じを装って湯船に浸かってるんじゃない。繰り返して言うがここは男湯だぞ?
たとえアバターだかオートマタだか知らないが、お前も今は生身の身体を持ってるんだから色々と気を付けてくれないと、こっちが困るだろ?
あと、お湯の中から美脚をチラリと覗かせてもダメなものはダメだからな。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あれから女性たちと真剣に協議を重ねた結果、オレたち不死者に性別はあってもそれは生前の姿を保っているからであって、今はみんな不老不死の身体を持っているから肉欲は無いという事で意見の一致を見た。
だから繁殖する必要が無い不死者なら生物の自然欲求として一般的な雄と雌が行う生殖行為など全く必要が無く、それなら例え生前が女性だったとしても不死者に絶対的な性別は無いから、この城にある温泉施設を世間一般の常識に当てはめて無理に男女で分ける必要は無いいう判決が下った。いや、下ってしまったと言うべきか……。
そういえば先ほど浴室入口の引戸を閉めて、オレと女性たち6名だけを室内に残してクロウリーたちを締め出したのは、最後までグズるであろうオレに対して多数決へと持ち込む作戦だったのか?
こう見えてもオレは高位の吸血鬼でロードと呼ばれる不死者へと上り詰めた者だ。
なので本来なら一言命令すれば配下の者たちは逆らう事も出来ず粛々と従わざるを得ないはずなのだが、元居た世界では自由民主主義を掲げる国で長らく暮らしていたせいか、心の奥底では多数意見を尊重しなければならないと考えてしまう悪いクセが抜けず、今回はそこを上手く突かれてしまったのだろう。
それなら例え配下と言っても相手が前向きに不死者ライフを楽しんでくれるのであれば、その気持は尊重してやるべきだろう。
例えば、もし彼女たちが自ら望んで『吸血鬼の花嫁』へと進化する者が居たら、その相手と子供を作る事が可能になるからやっぱり混浴はダメだと教えた場合、今度はまた別のトラブルが間違い無く発生すると考えたら何も言えなくなり、強行採決に持ち込まれて5対1で敗訴してしまった。
(ここは絶対に混浴OKとなる採決へと持ち込まねばなりませんが、御方様の意に反するのは心苦しいので私だけ反対票へ回っても4対2で混浴確定となるハズですわね。うふふ、私って策士w)
「ディアはん、あんたさっきから何か良からぬ事を考えてへんやろな? もしウチらを裏切ったりしたら他のみんなと協力してアンタだけこの浴場から叩き出したるからな。ええか、みんな! 裏切り者には死あるのみやで!」
「ボクはそんなイヤラシイ事とは関係なく、ロードくんと一緒に汗を流したいだけだよ、ダメかな?」
「リン! アナタ、ロードしゃまと一緒にどんな汗をかこうとしてるの? ホント不潔……死ねばいいのに」
「ロ、ロ、ロード様と一体に汗……?」
「ロード君、私の身体はまだ子供だからどちらでも良いんだけど、ここは将来の為に賛成票に回らせて貰うね!」
オレ以外のメンバーを女性陣だけで固めて強行採決に持ち込むなんて卑怯な方法だよな。でも神に弓引くオレたちに『卑怯』とは褒め言葉でもある。
でも男湯は大勢の者が一緒に入る事を想定してなかったから女湯より小さめに設計してあるから、流石に6人もの男女が一緒に浴槽に浸かるとキツキツでいろんな所がつかえてヤバイ。
さっきからオレの下半身に脚を絡めてくるのは誰だ? さっきから色々とデリケート所につかえているから止めて欲しい。
それとそんなにピッタリ引っ付いたらタワワなアレとか太ももとかの感触が生で伝わって来るし、背中に押し付けられた柔らかいメロンはディアーネの仕業だな。いや確かに狭いから仕方ないよね、うん判ってるよ。
こうして男なら誰もが羨むような混浴初体験を済ませたオレだが、性欲の無い不死者の身体ではネット小説に書いてあったほど幸せなものでは無く、ただただ狭くてキツイだけで相手の身体と必要以上にひっつかないよう常に気を張り巡らせておかないと、後で何かの責任を取らされる羽目になる気がした。
でも幸せは幸せなんだけど、何というか……恥じらいとか、キャキャウフフとか、そういった甘酸っぱいシチュエーションを勝手に想像していたのだが、ディアーネとドロシーが争うようにしてオレの身体に触れたり何かを押し付けて来るから、どちらかと言えば捕食者に襲われる小動物の気分が理解できた有意義な時間となった。
だがせっかくのお湯に肩まで浸かっていたのに、それでゆっくり休めたかと言えば正直微妙なところだと申し上げねばなるまい。
(何より湯船に対して人数が多すぎるのは失敗だった)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして温泉を出てから、ショコラに呼ばれて彼女の作業室へとやって来たオレは、大きめの作業台に広げられたシンディのラバースーツを見せて貰った。
「先ずはこちらをご覧下さい」
シンディのラバースーツはオレが勝手にラテックス系の素材だと思い込んでいたのでそう呼んでいたのだが、そう言えばこの異世界でゴムを主原料として量産加工された素材をまだ見た事が無かった。
それなら何の素材から作られているのかと思いショコラが解析を進めた結果、このスーツは暗黒竜の翼膜を加工したものだと言う事実が判明した。
「困ったな、暗黒竜の素材なんて何処で手に入るんだ?」
「暗黒竜は先の大戦で絶滅したと過去の記録にありますが……何とかなると思われます」
ショコラの説明では、この城が建っている場所こそ数百年前の先代魔王がこの世界全ての勢力を相手取りお互いの生存を賭けて戦った激戦区の一つだという事らしく、運が良ければ城の地下深くに何らかの素材が残ってる可能性が高く、もしそうならダンジョンポイントを利用して地下の拡張を少しずつ行えば、採掘は可能だと言う事だった。
(ほんとに何でも出来るんだな。ダンジョンポイントって有能すぎるだろ)
それと暗黒竜の素材の他にも何か色々な素材が埋まっているとの事だったが、いかんせんダンジョンポイントが残り少なくて全ての素材を掘り起こす為の坑道を整備するのは無理かも知れないと言われて心が現実に戻って来た。
シルヴァニア城はまだ防衛戦力が十分とは言えず、今も未公開ダンジョンみたいな状態のままだから冒険者たちを招き寄せて倒し、その魂を暗黒の女神へ捧げていないからダンジョンポイントを稼げていない。
先日シンディが召喚した大勢のグレーターデーモンをいくらやっつけても、通常の魔獣とくらべて僅かだが経験値にはなるが死骸は消えてしまい、肝心の魂魂が元の世界へと戻されてしまうから、素材をコアに捧げる事ができずダンジョンポイントが全然稼げていない。
(召喚獣を倒してダンジョンポイントになるのなら、この世界の戦力バランスが一発で崩れてしまうからな)
それならどうすれば良いのかと言う事になるのだが、仮に今からこの城をダンジョンとして公開してもネットすら無い異世界文明だと、各国の首都や人口を多く抱える都市などにしか新聞が発行されておらず情報が拡散するまでにはかなりの時間……もっと平たく言えば何年もの年数が必要となるだろう。
だから、それだと時間が掛かり過ぎてシンディのボディスーツ修復に必要な素材を集めるのに一体どれだけの時間が必要になるか判らないから、今回は別のダンジョンを攻略してポイントを稼ぐ方法を採用する。
そう、あの時リンたちが50層辺りまで攻略を進めていながら、シルヴァニア城が攻撃されたと知らせ聞いて途中で戻って来てしまったあのダンジョンだ。
今から他のダンジョンを探して一から攻略を始めるよりも、例え50階層までとは言え色々な攻略情報が判っている場所の方が対策を立て易いからな。
あのダンジョンにはデモーニッシュと名乗る悪魔族が最下層で支配者として君臨していると、ディアーネたちから報告を受けており、その他にもオーガなんかの悪鬼族などが配下として従っているのも既に知っているし、それ以外にもどんなモンスターが出て来るとか、地下迷宮の構造や通行ルートなどの情報が既に判っている場合は非常に対策を立て易い。
それに50階層までの正解ルートとか、その途中にある罠の位置や種類なんかも判ってるらしいから、あのダンジョンを再攻略するのに、かなりの時短に繋がる見込めそうだと考えながらオレたちは皆で集まりパーティ編成や攻略方法などについて話し合った。




