第24話 悲しいけどコレ戦争なのよね!
実はさっきから、そうじゃないかなー……なんて思っていたんだけど、あのブタさんが召喚魔法を使用する度に身体の輪郭が少しずつ痩せ細って行くみたいなんだ。
これは目測なんだけど、グレーターデーモン1体の召喚につき体重が1キロくらいは減ってるんじゃないかな? そして、これまでにボクたちが倒したグレーターデーモンの数はもう軽く500体を超えてる……。
ハッと意識を取り戻して相手の姿を探すと、そこには信じられない事に元の世界でイメージされている様な、正に究極のエロチズムとスタイルを併せ持つ美しいサッキュバスがそこに存在していた。
それもピッタリと身体にフィットしたラバースーツはそのままに、世の男たちの夢と理想を『これでもか!』と言うくらいパンパンに詰め込んだ『たわわに実ったアレ』と引き締まったウェストライン。
もちろんあのデップリと太っていたはずのポッコリお腹は今、ペッタンコに引っ込んで小さい縦長のお臍がコンニチハしている。
そして何よりセクシーとヘルシーが同居する健全なエロチズムと芸術性の融合により新たな境地へと登りつめ、今や神の領域に達したと言われても全く違和感を感じないほどスタイリッシュでワガママな完全無欠かつ究極のボディライン。
そんなセクシーダイナマイツな妙齢美女が究極的に小さな布面積しかないラバースーツに身を包み、デリケートゾーンから腰骨の上まで大きく切れ込んだハイレグからは正に『女神の如く』と表現するに相応しいセクシーな太ももが顕現し、ボディスーツと同じ黒っぽい謎素材で生成されたニーハイブーツとの間には白く艶かしい絶対領域が存在する。
それはただでさえ長く美しい美脚のラインを最高のシチュエーションで彩る舞台装置の如く機能し、より際立たせる効果を伴って見る者の目を魅了する。
その瞬間、ボクとショコラさんの脳裏に天啓が轟いた!
あの姿……と言うかあの脚は完全に反則だよね? もしロードくんが一目でも見てしまったら完全にイチコロみたいな予感がするから、絶対にアレの姿を彼の目に触れさせる訳にはいかないから今ここで何とかするよ、みんな!!
「ショコラさん、ディアとプリンさんとドロシーさんにも緊急連絡をお願い!」
《存じておりますわリン様! 全てお任せを!!》
敵サッキュバスの脂肪がほぼ無くなった姿を見れば、彼女の魔力が切れかけで召喚魔術によるグレーターデーモンの増援が終わった事を意味するんだけど、今一番の問題はそこじゃない。
あの見るからに男を虜にするスタイルは胸だけを比べても、うちのディアに勝るとも劣らないボリュームだし、彼女の細くてキュっと括れたウェストはプリンさんレベルの細さだ。
そして何より恐ろしいのは、あの超ハイレグ仕様のラバースーツとニーハイブーツの組合せによって強調された、とても長くて誉れ高い美脚ライン。元々の上背が高い事もあってボク唯一の自慢とも言える脚線美も、あの長さと全体的なバランスという観点から考えれば対抗するのはちょっと厳しい……。
そんな男が見れば十人中十人が魅了さられる事間違い無しの美脚美女を、ワザワザ自分たちが敬愛するロードくんに敢えて見せたいと思うだろうか? いいや思わない! これは想いを寄せる乙女たちにとって『決して負けられない戦い』がそこに存在していたんだ。
幸いな事に今敵はたった一人なのに対し、こちらはショコラさんまで含めれば5人も居る。
元居た世界で偉い人が言ってたよね?「戦いは数だよアニキ!」って。
これを卑怯だと言うなら言えばいい。元の世界でも一人しか居ない悪者怪人を、5人かそれ以上の正義の味方が寄って集ってボコボコにするのは『お約束』として許されていたはずだからね?
そして今回の勝利条件とは即ち、あのサッキュバスの肉体をロードくんが目にする前に、この世から完全に消し去る事……これに尽きる。
(特にあの脚だけは微粒子レベルまで粉々に分解しておかないと!)
さて、これでもう殺るべき事は決まったから後は実行するのみだよ、みんな準備はいい?
気がつけば既にディアとプリンさんも隣でスタンバってるし(いつ来たんだろ?)、肝心のロードくんはショコラさんの案内で上手く自室まで誘導してくれたみたいだから後顧の憂いは無くなった。
「確かに、あの胸は私の存在も否定しそうですから、このまま生かして返す訳にはいかないわね」
ディアが深刻そうな目で敵サッキュバスのたわわなアレを見ながらそう呟く。
「何あの服、あんなエロっちい格好でロードしゃまに近づこうなんて死ねばいいのに……いえ、今ここで消えてもらうべきなの♡」
プリンさんはぎ自身の少女体型に少しコンプレックスを抱いてる感じだから、自分より背が高くてスタイルの良い大人の女性を相手にすると、攻撃力が超絶アップするスキルの持ち主だ。
(でもボクが元居た世界でなら、キミにも立派なファンが出来ると思うんだけどな?)
「なんやあれ、あないな別嬪さんをロードはんに会わせてしもたら、ウチの立場がのーなるやんか!!」
もう十分に大人の女性なのに、いつも籠りきりで魔術の研究ばかりしているせいで何ともメリハリの少ない身体を持つドロシーさんは、どちらかと言えばプリンさんとよく意見が合う。
二人とも顔は悪くないし……ううん、それどころか十分に美女・美少女の部類だとは思うんだけど、自身のスタイルに自信が無くてコンプレックスを拗らせてしまってるのか、時々それが相手に対する攻撃衝動として抑えられなくなる時があるんだよね、きっと。
それでボクの意見はと言えば、やっぱりあれは存在しちゃダメだと思ってる。
だって、もしロードくんがあの脚を見てボクの脚でため息なんかつかれたら、きっと再起不能になる自信があるからね。それにショコラさんも、あの脚はロードくんにとって良くない症状を引き起こすはずだと語っている。
名も知らぬサッキュバスさん本当にゴメンね、とりあえずだけど先に謝っておくよ。貴女にとって例え偶然だとしても、こんなキリングフィールドへと迷い混んだ自分の運命を呪って貰うしか無いんだ。
悲しいけどコレ戦争なのよね!
そう! ボクたちは何も悪くない。そんなボクたちと偶々出会ってしまた貴女の不幸が全て悪いんだ。
もういくら逃げ回ってもムダだよ? 早く観念してその長くて美しい二本の脚を細切れにさせてくれないかな?
ボクの横ではディアが貴女の胸を消し炭に変えてお城の畑に蒔きたいと言ってるし、他のみんなもキミの身体には色々と納得いかないみたいだから。
痛いのはきっと最初だけだから早く覚悟することだよ。ダイジョウブダイジョウブ、きっと地面のシミでも数えてればスグに終わると思うから……ね? だから早くこっちにおいでよ。
「何が『ね』じゃ! 可愛く言っても殺意が漏れすぎじゃ!?」
サッキュバスが必死で叫ぶ抗議の声なんて誰にも聞こえないし聞く耳なんて持ってないよね? だってキミはもう最初からここには来なかったし存在すらしていなかった事になるんだから、聞いてもムダなんだよ。
これはボクの個人的な見解では無く、ここに居るみんなの総意だから今すぐ生きるのを諦めて次の人生へ旅立つために心の準備をしていなよ。
「誰か、だれか助けてたもれー! こーろーさーれーるーのじゃー!! ぅひぃーー!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺は自室へ戻ると、ショコラが勧めたとおり、ゆっくりと身体を休めていた。
元の世界に居る時は核の後遺症もあり色々諦めてニートみたいな生活を送っていたが、やはりネトゲの世界の中だけでは満足出来ない何かを抱えて生きていたんだと思う。
そう自覚出来たのはこちらの異世界へやって来てからだが、こちらで過ごしたまだ短い日々が気づかせてくれたのだろう。元の世界では個人の権利が守られ過ぎていたから、リアルでメイドさんを召し抱える事すら現代社会ではポリコレ批判が殺到したと思うからな。
まだ十分な防衛戦力が整ったとは言えない状況なので、今はこのシルヴァニア城とオレたちの存在を世間から隠してるが、このままだと冒険者たちを城へおびき寄せて倒す事が出来ないから、モンスターの召喚や城の増築に必要なダンジョンポイントを稼ぐ事が出来ない。
今直ぐという訳ではないが、このままポイントを消費し続ければ、いつかはポイントが枯渇してダンジョン運営に支障が出ると思われる。
城郭型ダンジョンの構成としては、以前ドロシーに頼んでこの城を中心とする半径2キロメートルくらいの周囲に高さ10メートルの防護外壁を造って貰ったから、とりあえずその範囲内の全てをダンジョンの地上階に設定してある。
残りのポイントをやりくりしながらではあったが、この城の天守以外に聳え建つ塔の整備とか地下部分の拡張なんかも進めていて、今回は城での生活を営む上で最も重要な施設が完成したとショコラから報告を受けた。
この施設にはダンジョンポイントを惜しみなく注ぎ込み、オレの想いをそのまま再現した豪華施設だから、他のみんなにも是非楽しんで欲しいと思ってる。
これから始まる新しい生活に思いを馳せていると、オレの精神感応に生命の危険を叫ぶ声が聞こえてきた。
オレは死者以外にも死が身近に迫り精神が昂った者や、死を覚悟した者の心の声を聞く事が出来るのだが、今もオレに助けを求める声が頭の中で響くように聞こえたのは決して空耳ではない。
これは死を司る能力の担い手として行かない選択支は存在しない。
「ん? けっこう近いな、ほいテレポっと!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
オレが瞬間転移した場所からはかなり離れていたが脅威の100倍ズームを誇る吸血鬼アイで眺めて見ると、我が軍の女性たちが一人の魔族と交戦中……というか、一方的に集中攻撃を浴びせてるのが見えた。
たった一人で逃げ回る魔族に対して、五人の実力者がそれぞれ自身が誇る最大級の魔術とスキルを駆使し無慈悲ともいえる総攻撃を立て続けに放つ状況は、一言だけ、とても凄まじいものだったとだけ申し上げておく。
それにしても、たった一人で我が軍の精鋭たちからの攻撃を受け続ける中、普通の生者が例えギリギリでも生き残れてるなんて普通では考えられないくらいの大健闘ぶりだと言える。
ボクっ子勇者が放つ聖剣の連撃斬を咄嗟に張った小さな結界サークルで防ぎ、そのスキを縫うようにして突き出される従騎士の長槍に対し柔軟な身体を極限まで捻って紙一重の回避を続ける。そんな魔族が配下たちに対し無理な姿勢から反撃のための攻撃魔法を唱える。
相打ち覚悟で決死の思いで繰り出された魔族の攻撃魔法は、うちの頼れる少女神官の結界によって完全に無効化されてしまい、それと同時に放たれた聖女の魔法が逆に魔族の身体を傷つけ疲弊させてゆく。
(魔族の頑張りは認めるが、あれは時間の問題だな……)
その上、一歩でも間合いを間違えると味方まで巻き添えになってもおかしくないくらいの魔力がギンギンに込められた火炎系の魔法を、目が眩むほどの数を平気で撃ち込む賢者まで同時に相手をしながら、本当に良く持ち堪えてると関心するばかりだ。
「そ、そこのお方! 見た所そなたも魔族とお見受けする。どうか妾に助太刀して頂けぬか!?」
「あれ? ロードくんいつの間にここへ?」
「御方様! もしかして私に逢いに来て下さったのですよね? ね? ね?」
「ロ、ロードしゃま! い、い、いつこちらに?!」
「あれ~? ロードはん、いつ来たんや?」
「あ、ロード様だ……」
もはや『消し炭の一歩手前』とでも表現した方がピッタリの魔族が、遠くで戦いの様子を眺めていたオレを見つけて同じ魔族だと勘違いしたのか、それとも『そう』思い込まなければ精神的にやってられない状況まで追い込まれていたのか、とにかく死を覚悟して尚も生に執着する相手の精神が戦いから距離を取って見守っていたオレの姿を見つけ出し助けを求めて来たのだ、このまま無視する訳にもいくまい。
「みんな攻撃を止めてくれ。オレはこいつの死を覚悟した心の声を聞いてやって来たんだ。もう相手に戦う意思は無さそうだから許してやってくれないか?」
すると皆は不承不承ながらも言う事を聞いてくれたのだが、目の前にいる気の毒な魔族の生命を奪えなかった事をとても恨めしげな表情で睨んでいた。
いつもは優しい皆がこれほど深い恨みの感情を表に出すのは初めて見たが、あの魔族は彼女らに対して一体何をしてしまったのだろうか? それがもし君主たるオレへの侮辱とかであれば配下となった者たちが暴走するのも理解できるが、それは『血の契約』によって起こる一種の洗脳みたいなものだ。
「ここまで痛め付けたんだもういいだろ? 見たところこちらに被害は出てないようだし、聞けばこの城に来たのは偶々だと言うじゃないか。そんな所に見たこともない城が急に建ってたら誰だって警戒すると思うぞ? だからもう赦してやれ。そんな事より──」
そうそんな事より、多額のダンジョンポイントを突っ込んで城の地下に新しく造った施設が完成したと報告があったから、今から皆で見に行かないか? きっと喜んで貰えると思うから。
だってこのオレが心から欲しかった念願の施設なんだぜ? 何って聞かれても、それはまだ秘密……見てからのお楽しみという事にしてくれ。だって先にそれを言ってしまったら面白くないだろ?
配下の皆も不死者となった事で、これから永遠の人生(?)をオレと一緒に生きて行くのだから、いくら不老不死だからと言っても美容と健康を疎かにしてると髪とかお肌がカサついたら困るだろ? オレが今回皆に見て欲しいのは永遠の美しさを保つための施設だから、早く皆で一緒にお城へ帰ろう!
そう、みんな一緒にだ。
だからオレの目を盗んで誰かがここに残って、そこに居る気の毒な魔族に止めを刺そうなんて可愛そうな事を考えてるんじゃないだろうな?
もし一緒に戻って来ないヤツを見つけたら罰ゲームだからな。え、どんな罰かって? そうだな取り合えずユウとメイが居た遠くの街にでも出向させて二人の代わりに街の運営をガンバって貰おうかな? もちろん無限の生命を持つキミたちだから昼夜関係なく働けるに決まってるよね! ソドモラの街は今復興作業で立て込んでるから、きっと喜んで貰えると思うよ。
こうしてオレの必死の説得により『消し炭一歩手前』だった可愛そうな魔族を無事保護する事には成功したんだけど、さすがに来ていた服とかボロボロの千切れかけであちこち焼け焦げているし、場所によっては溶けたラバー素材が肌に融着したまま酷い火傷になってるから、このまま強引に引き剥がすと傷口が開いて感染症の恐れも出てくる。
「ディアーネ、悪いけどソイツ直してやってくれないか? さすがにこのままでは置いて行けないからな」
いつもなら素直にオレの願いを聞いてくれる心優しいディアーネが、何故か躊躇していると感じるのは何故だろう。もしかしてこの魔族とは何か因縁めいた過去でもあったのだろうか?




