第23話 ボクたちの失敗
ボクの目の前にはメチャメチャおデブな……ブタ? みたいな謎生物が宙に浮かんでた。
「生意気そうなガキんちょどもじゃな、ちっパイの分際で何か失礼な事を考えているのじゃなかろうな?」
あれは……う~ん何なんだろう、よく判んないや。
背中の腰のあたりからロードくんと同じようなコウモリっぽい翼と悪魔みたいな尻尾があるから、普通に考えると『魔族』だと思うんだけど、それを公言すると当の魔族たちからクレームが殺到しそう。
でもそれだけだとロードくんにはちゃんと伝わらないと思うから、元の世界にある何かを例に考える……すると投稿サイトの動画で見たコミケの様子を思い出した。
そこには普通のレイヤーさんたちが日頃からコツコツと積み上げた努力の成果たるコスとの一体感を描き出し、推しキャラの美とスタイルを余す所なく再現し、武具なんかの小道具類についても細やかな配慮が行き渡る中。
そんな匠たちが描き出す映像美とは、余りにもかけ離れ過ぎた謎の物体がチラリと見えた謎の物体。
推しキャラになりたい! それは誰もが許された表現の自由……それはいい。
でも時々だけど、中には見るに耐えないコスプレイヤーも居て、本人は楽しんでやってるんだろうけど、それは絶対に視界に入れてはいけない類いの何か。
さすがに壮年外国人のヒゲモジャの筋肉親父がセーラー服姿でオシオキとか、どう見ても原作が判らないくらい別物になってしまった異形のコスプレイヤーも居たけど、それらはネット映像で見てるだけなら、これほどの有毒性は感じなかった。
でも目の前の謎生物は、あの時の衝撃を軽々と越えて来たんだ!
目の前のブタ……のように見える謎生物は一応人形と呼べる形状はしている。
あのパンパンに膨らんだ風船みたいな身体から、スノーマンみたいな頭部とボンレスハムにしか見えない手足が生えてるモノを人形と呼ぶなら確かにそうだと言える。
そしてパンパンに膨れた胴体はムダに肌色の露出が多くて、身体にピッタリというかハムを熟成させる時に縛りつけるような紐の役割を引き伸ばされた黒いラバースーツが担い、大切な中身がはみ出さないように包んでるようにしか見えないけど、あの体形はどう見てもアニメキャラ風にデフォルメされたブタだよね?
これはヤバイ、見れば見るほどブタに見えて来たw……というか、もう完全にブタにしか見えないや。
だって脂肪の塊にしか見えないからね、アレ。でも、どうやって生命を維持してるんだろ? 早く何とかしないとボクの腹筋が崩壊してしまう!
大きく胸元が開いたピチピチのボディスーツは、ただでさえ面積が少ない布地が更に少なくなるようにデザインされてるのか、本来ならより女性らしさを強調するはずのお腹の素肌さえボンレスハムみたいなプリプリお肉が存在を主張しすぎて、パンパンに膨らんでてセクシーさの欠片もないしオヘソなんか埋まったまま見えない。
それとデリケートゾーンにあるVライン状のスリットが腰骨より遥か上まで切れ込みが入ってるんだけど、そこからハミ出たお肉や、胴体から直接ふくらはぎが生えてるようにしか見えない足なんて、ボクの腰まわりより確実に太い感じだよね。
「妾は夢魔サッキュバス一族が将の一人じゃ。下賤なる人間の軍隊がチョロチョロしてると報告があったから来てみたのじゃが、我らに一言の断りも無くこの様な辺鄙な所へ勝手に城なぞ建ておってナメておるのかえ? ここは責任者が出て来て素直に頭を垂れるのならば赦してやっても良いのじゃぞ?」
この城には認識阻害と光学迷彩が施されていて、偶々とか偶然この場所を通りでもしない限り見つからなかったはずじゃなかったのかな?
《その偶々が起こってしまったようですね……これはまた城の防衛機能を見直さなくてはなりません》
「ここはロードしゃまのお城なの、許可の無い者を通すなんてムリ。それにアナタみたいな醜悪な生物をロードしゃまにお見せ出来るワケ無いでしょ。早く死ねばいいと思うの」
《あれは旧魔王軍にも所属していたとされる夢魔族の一人ですね。あの程度の実力で私のマスターを配下にしようなどとは生かして帰す理由が見当たりません》
「このちっパイチビどもがエラそうにしおってからに……妾のこの美しさが理解出来ぬとは憐れな者じゃな、せめてあの世で悔いるがよいぞ! 皆の者総攻撃じゃ! こやつらに夢魔一族の恐ろしさと妾の美しさをとくと教えてやるのじゃ!!」
インプやレッサーデーモンといった悪魔族では比較的下位とされるモンスターたちが上空と地上から同時に侵攻を開始するが、プリンさんが張ってくれたシールドの結界魔術を破れなかった魔族たちの足が止まると、アイゼンさんがベルムントさんの援護を受けながら迫り来るレッサーデーモンの群れ目掛けて突撃して行く。
敵の数は多くても100体ほどしか居ないけど、相手の言葉を信じるならロードくんが先日敗走させたエルフ村への侵攻部隊を探しに来た偵察部隊だったのかな? 相手が只の人間たちならいざ知らず、ボクたち不死者が守るこの城を攻めるには戦力がかなり少なかったみたいだね。
帰ってきたばかりのボクたちだけどロードくんの大切な城を攻撃されてるのに、このまま指を咥えて見ているわけにはいかないから、みんな各自で何をしなければいけないか考えて個々に反撃を開始する。
「なぜじゃ?!なぜこんな片田舎に、勇者や聖女を超えるほどの聖属性魔法の使い手たちが揃って居るのじゃ?!」
次々と倒されて行く部下たちの様子を見て、さっきのおデブさんが焦ったように叫んでいるけど、ボクとディアの二人は元々キミたちが探していた人間の軍隊と一緒に居たから、どのみちこの結果は変わらなかったと思うよ。
それに今や不死者となったボクたちは肉体的な意味で疲れ知らずになったし大きなケガを負っても直ぐに直ってしまうから、こと継戦能力という観点から見れば生者の頃と比べて確実に強くなってるからね。
もしボクたちが帰還していなくても、この城にはプリンさんたちが残ってくれてたから滅多な事にはならなかったと思うけど、それでも戦いに『IF』は憑き物だから、ここは気を引き締めて対応しよう。
《緊急連絡です。マスターからディア様かプリン様へ応援要請が届いていますが、何方が向かわれますか?》
ロードくんは今単身で人間たちの国へ向かい、そこで人探しをするって聞いていたけど向こうで何か大変なトラブルに巻き込まれて困っているのかも知れない。こっちはまだ戦っている最中だけど割と余裕がある雰囲気だったけど別の意味でみんなに緊張が走る。
「このディアーネが御方様の元へ今すぐ参らせて頂きます!」
「プ、プリも行く!」
《マスターはこちらの戦力低下を危惧されていますから、どちらかお一人で良いと賜っておりますが?》
「プリンさんは元々この城の防衛メンバーですから、ここは是非私ディアーネが伺わせて頂きますとお伝え下さい!」
「ここには、みんな居るから大丈夫、それよりロードしゃまが心配。絶対にプリが行くの」
困ったなぁ、ロードくんが応援を欲しがるくらいだから早く行ってあげないといけないんだけど、ディアもプリンさんも二人とも自分が行くと言って聞かないや……でもショコラさんが言うにはロードくんの魔力が減るのを危惧して、一度に何人も配下召喚させるのは心配だって言うんだけど、どうしようかな。
「なんでやー、なんでウチを呼ばへんのやー! ウチならどんな状況でも根性で何とかしてみせたるのにー! 例えそれが苦手な聖属性でも、なんぼでも使て見せたるわー!」
すると何故か聖属性魔法が使えないドロシーさんまでが急に自分が行くと言い出してダダをこね始める。別にドロシーさんでも良いのならボクでも役に立てそうな気がするけど、今のあの三人の鬼気迫る空気の中にはとても入って行ける気がしない。
「ウチやー! ウチが行かんとあかんのやー! 巨乳でも美脚でも勝てへんさかい実力でアピールするんやー!」
この城に居る女性たちはみんな美女や美少女ばかりだけど、ドロシーさんの容姿が他のみんなと比べて特に劣っているというワケでは無いとボクは思ってる。
ドロシーさんはいつも研究室に籠りきりで確かに『健康美人』という印象では無いんだけど、ボクより年上で大人の女性のはずなのに子猫みたいな雰囲気があって、年齢の割に幼い感じもあるから、そのギャップが彼女の個性というか独特の魅力があるというか……もし元の世界だったら、それなりの需要がありそうだしネットアイドルくらいなら成ってたかも知れない。
《でもドロシー様はこの城の秘密兵器ですから敵の攻撃が終わるまでは、こちらに居て頂きたいとマスターも考えて居られるようです》
「ほな敵さんを全部シバキ倒したったら行ってもええんやな? それならカンタンや! 直ぐにでも逝けるでー!」
どこをどう聞いたらそんなふうに理解出来るのかさっぱり判らないんだけど、ドロシーさんが俄然やる気(殺る気?)を見せて、これまで聞いた事もない様な古代語による呪文詠唱を始めてしまった。
(ドロシーさんから膨れ上がる魔力が尋常じゃない気がするんだけど、これってボクたち味方は大丈夫なんだよね? 信じても良いんだよね?)
この城にはみんなも居るから、そんな酷い戦略級魔法なんて使うはずが無いと考えていたボクたちは甘かったのかも知れない。
《マスター、ドロシー様を止めて下さい! 彼女がアルマゲドン級広域殲滅魔法ミーティアの詠唱に入りました。高速詠唱モードも使用していますのであと三十秒ほどで城の周囲半径数十キロの範囲は確実に焦土となってしまいます!》
今からボクかディアが持つ最上級の結界魔法を唱えたとしても、高速詠唱まで併用しているドロシーさんより先に発動させる事が出来るだろうか? でも事態は一刻を争う今、ボクたちに迷っている時間なんて無かった。
(みんな! 逃げte……!)
もうこうなったらドロシーさんを殴ってでも止めないと敵どころか味方も巻き添えにして一面がクレーターだらけの焼け野原になってしまう!! と思った瞬間、ドロシーさんの詠唱が聞こえなくなり本人の姿も消えてしまった。
(一体何が……もしかしてロードくんがドロシーさんを強制召喚して、みんなを救ってくれたんだよね?)
敵味方を問わず、みんなで一斉にこの付近から逃げ出そうと走り出していた状況の中、突然その原因たるドロシーさんが消えてしまったで周囲の皆は何というか、このまましれっと戦闘を再開をしても良いのかな? みたいな微妙な空気になってしまった。
「コホン、皆静まるのじゃ! どうやらあの天災みたいな女が居なくなったみたいじゃから攻撃再開! 全員突撃するのじゃーー!!」
そん空気をモノともせずに、あのブタみたいな……自称サッキュバスが叫ぶ。
おかしいなぁ、ボクが元居た世界でサッキュバスと言えば、モデルさん並みのスタイルとルックスを備えた絶世のエロチック美女で、男性の夢の中に現れてその精気を吸う悪魔だと思ってたんだけど、さすがにアレがそうだと言われたら、元の世界のサッキュバスがいかに男性の夢と希望を具現化したイメージ商売だったという大人の事情を知らされた気がするよね。
もう相手方の実力というか戦力も大体把握したから、ここを抜かれてロードくんのお城が攻撃を受けるような事にはならないと思うけど、それでも万が一という事もあるから集中力を切らさないように頑張らないとね。
あと残ってるは、あのブタさんとその周りに居る魔族が十数匹だけだから、敵さんの命運もあと少しだね! でも今から止めを刺しに行こうというタイミングで半泣きのドロシーさんが急に戻って来たと思ったら、有無を言わせずディアとプリンさんを拉致って三人一緒に転移して消えちゃったんだけど、今のはナニ?
もう完全にこっちが優勢だから別に味方の一人や二人くらい居なく成っても大勢に影響は無いから別にいっか。
ボクは攻撃の手を緩める事無く、身構えてたレッサーデーモンを斬り伏せて最後に一人だけ残ったブタさんを薄くスライスしたハムの盛り合わせにする為吶喊する。
「何故じゃ?! どう見てもただのアンデッドなのに何故それほどの力を持っておる!? 先ほどのチンクシャ魔女といい、お主といいどう考えても強すぎるのじゃー!!」
ボクなんてまだまだだよ。それにアンデッドと一概に言ってもロードくんみたいな規格外が居る事も知らないみたいだね。アンデッド=ザコとは限らないから覚えておくといい。
「じゃが妾もこのままでは終わらぬぞ、来たれ我が最強の眷属どもよ! グレーターデーモン召喚! あの者らの魂を欠片も残さず喰ろうてやるのじゃ!」
これまで配下のインプやレッサーデーモンが全滅しても眉一つ動かさなかったのはコレが理由だったんだね、やっと納得がいったよ。
あのブタさんは召喚魔術の使い手で、最初から引き連れてた100匹の配下たちも全て召喚獣だったんだね。
だから最初に下位系の悪魔を連れていたのは相手の実力を分析していたのか、それとも最初から上位悪魔を呼びっぱなしだと魔力の消費が激しいからエコ運転してたって事?
でも味方の魔法職が三人も抜けた状況で、あんな強そうなグレーターデーモンが50匹も出て来たら普通にピンチだと思うんだけど、勇者のボクが居る限りここは抜かせないから。
それにあいつらの背後からはアイゼンさんたちが戻って来てくれたみたいだし、更にこちらにはレオンさんとクロウリーさんも居るからね。
みんなロードくんの血を貰ったから吸血鬼の飛行能力を授かってはいるけど、まだ空を飛んだ経験が無い者ばっからグレーターデーモンと空中戦をするなんて少し厳しいかも知れない。
ボクがもっと上手に飛べたら良かったんだけど、まだ空中での姿勢制御が甘くまだまだ修行が足らない感じかな。でも幸いな事に敵が放つランス系の攻撃魔法はショコラさんが城のシールド結界で防いでくれてるから城の守りは大丈夫っぽい。
なので今のうちにボクがアイツを斬り刻んで地上へ叩き落としてやれば、後は下に居るみんなが何とかしてくれるはず。
(サクッと倒して、後はシャワーを浴びて早く寝よっと!)
まだ飛び慣れない仲魔たちはには、とりあえず地上からの援護に徹して貰って、ボクが叩き落としたグレーターデーモンをみんなで囲んでボコボコにして貰う。
作戦がシンプルなほどみんなのチームワークが発揮出来るし、やればやるほどみんなも慣れて来たから最後はそれほど苦戦せずに敵の数を減らせる様になってきた。
「まだじゃ、まだ妾は負けておらぬ! 更に来たれ我が最強の眷属どもよ、グレーターデーモン追加召喚! 今度こそ、あの生意気な小娘どもの魂を欠片も残さず喰ろうてやるのじゃ!」
さすがに最初の100体のうち半分くらい倒した辺りからみんなも徐々に慣れてきて、今ではもうすっかりハメ殺し攻略法が確立していた。なので新しく召喚された次の50体も、さほどの時間を掛けずにサクサク倒せてしまった。
「まだまだ妾もこのままでは終わらぬぞ! もっと来たれ! 我が最強のはずの眷属どもよ! グレーターデーモン2倍召喚なのじゃー!!」
いや、いいんだけどね。もう今はレオンさんたちも段々上手く飛べる様になって来たから。
さっきからボクの負担も段々少なくなってるし、みんなも余裕を持って倒せるようになってるから、後は50体だろうが100体だろうが余り変わらない感じかな。
「ぜぇぜぇぜぇ、妾はまだ負けてはおらんはずじゃ! もっともっと来たれ! 我が眷属たる大悪魔グレーターデーモン追加召喚なのじゃ!!」
もう本当にキリが無いな〜と考えながら次々と召喚される経験値の塊を、ボクたちが寄って集ってボコボコにハメ倒していく。
こうなったらもう、あのブタさんの魔力が切れるかボクたちの体力が尽きるまで戦いが終わる事は無いと覚悟してたんだけど、迂闊なボクたちはその瞬間まで相手の変化に気づかなかった。




