第3話 間違ってはいないが・・・合ってもいない
《はい、では先ず初めにこの世界の事柄についてご説明申し上げます……》
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ここは『アイシャンティ・ビヴォーラ』と呼ばれる、まだ神々の影響を色濃く残す世界。
神々と一言で云っても、太陽を象徴する昼を支配する者や、夕方の宵闇と明けの月を象徴する紫の月と、蒼く輝く夜の月にもそれぞれ神が存在するとされ、この三神以外にも神力を持つ者たちが存在する世界。
この惑星にはいくつかの大陸があり多くの国家が存在するが、大きく分けて人間、亜人種、魔族の三つがあると言う。
いつもの異世界あるあるなら、魔族が大きな勢力で人間の国々が困り、勇者を召喚して魔王を倒すのだろうが、それはもうニ千年以上も前に終わっており、今では人間たちが最大勢力となり、他の亜人種や魔族たちを滅ぼすほどの情勢だと聞いた。
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異世界の説明が終わり、目の前に浮かび上がってきた情報ウィンドウから現在の状況を確認する。
このダンジョンが発生してから今までマスターとなる者が現れず、これまでは初期状態のまま放置されていたせいで、規模も小さく魔物もほとんど居ない状態だったところを、先ほどの冒険者たちに襲撃されてコアを破壊される寸前まで追い詰められていたらしい。
幸いな事に、このダンジョンの魔物はスケルトンやゾンビ等のアンデッド系ばかりで、倒されても一定時間で自動で復活するようだが、最後に腹パンしてやった少女神官に浄化されたアンデッドは、新たにポイントで召喚して再配備する必要があり、それなりの手間とコストがかかりそうだった。
(全く、配下の再召喚に必要なポイント出費が地味に痛いな……)
もう消去されてしまった配下の事は仕方が無いとしても、問題は今のままだとこの地下迷宮を守る現存兵力がほとんど失われており、もし今敵が攻めて来たら、その全てをオレ一人で撃退しなければならない事だろう。
見知らぬ異世界へとやって来た初心者たちが、まず最初にすべき事は自身の身の安全をどう確保するかなのだが、オレの場合だと既に自分のダンジョンを所有しており、この中に居る限りにおいてはそれほど危険な状況という訳では無さそうだ。
すると次に問題となるのが食料や水の確保だが、オレの場合は吸血に対する欲求もそれほど強い方ではないし、食事を摂らなくても餓死する事はない。
(不死者とは異世界での新生活を始めるに当たって、これほどイージーな種族は他に居ないんじゃないか?)
だからオレが今最も必要とするのは、この世界の事を熟知している案内人で、ついでにオレのバディ(相棒)としてダンジョンの管理運営にも力を貸してくれると同時に、これからオレがこれから組織する眷属たちのファミリア設立にも、十分な知識持ったそんな頼れる存在が欲しいところだ。
だがオレが求めるバディの理想像にはいくつか条件があって、長い耳と寿命を持ち魔法が得意なファンタジー世界には決して欠かす事の出来ない『あの種族』だけは絶対に外せない。
《マスターから、コアユニットのアバター選択を受け付けました。これよりコアユニットのアバター及びマトリクスデータをロードします》
天井から光のカーテンが降り、それが床に吸い込まれるように消えると、目の前には妙齢で銀髪紅眼の絶世美女が黒っぽいバニースーツを身に纏っていた。
ちょっと気になったのはキャラクリで選んだ種族が『長耳族』だったので、てっきりエルフさんが出てくると思っていたら、長い耳と丸い尻尾を持つバニーガールさんが現れた事かな?
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光の中から登場したアバターは、腰までありそうなシルバーブロンドのストレートロングヘアーで、その頭上には先端の毛に茶色っぽいメッシュの入った白いウサ耳が生えており、その左耳には先ほど受け取ったオレとお揃いのピアスが既に装着されている。
それと今気づいたが、ウサ耳の先っぽと同じくロングストレートの毛先にも茶色のメッシュが入ってるのは、オレがコアの名前をショコラと名付けた影響だろうか?
アバターの容貌は兎人族の獣人らしく、紅い瞳と白い素肌を持つ整った顔立ちは余りにも美人すぎて、エルフっぽく見えない事もない。
彼女の細い首元には白い付襟があり、その首元からバストを斜めに覆っているスーツの胸元から、露になった鎖骨の美しいラインが漢どもの目を捉えて離さない。
もしオレが理性の効かない低レベルの吸血鬼だったら、即座に襲い掛かってあの喉元に牙を食い込ませたい衝動に駆られていたくらいの美しさだ。
それなりに大きく形の良いバストは、限りなく黒に近いダークブラウンのバニースーツに包まれており、彼女の高身長を元に絶妙な縦横比を考えて設定されている。
その胸元が大きく開いたスーツの切れ目から、たわわに実った双丘の谷間が深い渓谷を形造っており、世の男性達の夢と希望がいっぱい詰まってるのが見える。
そして大きく切れ上がった腰のスリットからは、神の造形かと見紛うほど均整の取れた美脚が伸びていており、目の細かいアミタイツに包まれた、健康的な太ももの筋肉が妖艶な芸術品へと昇華されて、足元の黒く艶やかなハイヒールの先まで、妥協を一切許さずに作り込まれた至高の一品だった。
美脚のラインがとても艶めかしく見えるのは、ウサギ獣人特有の足の筋肉が、猿から進化した人族とは根本から異なるからだろう。
ノースリーブから見える白い肩と腕の先には、手首に巻かれたブラックオニキスのカフスで止めた純白の付け袖だけがあり、この黒玉には彼女の身に何かあった時に自動で対象者を保護するシールド機能が内蔵されているとプロパティに書かれている。
いくらコアのアバターがバニーガールで、例えそれがこのダンジョン・システムの仕様だったとしても、このままだと目のやり場に困るので、追加ポイントで購入した黒いロングコートを肩から掛けてやった。
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《マスターからご要望の御座いました、耳と寿命が長くて魔法が得意なアバターを用意させて頂きました》
「確かに……耳は長いな。でもそれってウサギさんだろ?」
《予めお伝えしておきますがダンジョンコアの寿命は無限です。それとコア本体は魔法が得意なので、残りの条件である『長い耳』を持つ種族の中から、最も大きな数値を持つ種族を検索し判断致しました》
「それなら確かに間違ってはいない……のか?」
間違ってはいないが合ってもいない。
だが、このオレが持つ崇高な理想を理解するには、生まれたばかりで人生経験も少ないAIには酷というものだろう。
幸いな事に、見た目的にはオレたち貴族が住まう古城で仕えるには、相応しい容貌を備えているし、戦闘力が弱いと思われるウサギ獣人であっても、彼女に期待するのはダンジョンの管理や運営などのインテリジェンスに関わる仕事がメインなので、そこは気にしない事にした。
それに、これから増えるであろう仲魔の誰かが、ダンジョンと彼女を護衛すれば済む事だしな。