第19話 グッジョブ!
「御託を並べるのはもう十分だろう。ここらで決着といこうか。隠れてないで早く姿を見せろよ、お前の正体はロリっ子大好き天使のメタトロリだろ? それとも……足首フェチで少女の履いたサンダル収集が趣味の弟の方か?」
オレはそれを敵対しているギルド長ではなく、エルフの姉であるユナリア本人に向かって問いかけた。
「ロ、ロードさん?! なにを……」
「ロ、ロードさん、急に何をを言いだすの? ユナはユナだよね?」
きっとメイはまだ何も知らないんだろう、それも無理はないか。
メイの最愛の双子で半身でもあるユナの身体には、とてもやっかいな天使が潜んでいて、そいつがメイの魂をエサに別の天使を召喚しようと狙っているなんて、まだ知り合ったばかりのオレの口から聞いても素直に信じられる訳なんて無いのにゴメンな……本当の事を言って。
でもオレの妖怪センサーは、ずっとビンビンで立ちっぱなしなんだ。
最初はゾンビ状態になった太守の怪しい魔力に反応してると思っていたのだが、庁舎からここまで二人と一緒に歩いていた時もそれは変わらなかった。
あの庁舎からここまで貴重な時間を使ってトボトボ歩いて来たのは、ユナの身体と彼女の魂に起こってる症状がどこまで進んでいるのか、ショコラに解析を依頼する時間が欲しかったからなんだ。
あの執務室でオレが二人の身体をジロジロ見ていたのはショコラに映像と魔力のデータを送っていたからであって、性欲を持たないはずの吸血鬼が女性の身体をマジマジと見たくらいで興奮する訳ないだろ。ばか。
だから二人が持つ美術の天才がこの世に創り出したと称してもおかしくない程の、白くてスラリと伸びた純度百パーセントの生太ももを形作る大腿四頭筋のラインが膝で窄まり、脛と脹脛を構成する複種類の筋肉から足首の甲へと続く輪郭を経て綺麗に形を整えられてた脚の指先にある、丁寧に施されたペディキュアまでマジマジと見ていたとしても、それはあくまで情報収集上必要な措置であって、誓って疚しい理由ではないのだよ?
勿論だが後々の証拠保全の為、吸血鬼が持つ高精度立体スキャン能力によって得られた映像は、オレの脳内メモリーにしっかりと焼き付けてあるから心配は無い。
オレがユナ……と言うか彼女の中に天使が宿ってると確信したのはつい先ほどの事だが、彼女が太守を殺害して自分たちの傀儡とする日の夜に、彼女たち自ら右肩の奴隷紋を削り取ったと聞いたのが違和感の始まりだった。
いくらユナ自身が魔術や呪術等に優れたエルフだったとしても、非力な少女が誰の力も借りずに皮膚ごと削り取れるほど奴隷紋は不完全な術式にはなっていない。
もしそれが可能だとすれば、それはオレたちのような不死者か、それ以外では奴隷紋の術式を人族に授けたとされる天魔くらいしか思いつかなかったからだ。
「我ラ神ノ尖兵タル天使ニソノ言動ハ万死ニ値スルト知レ下賤ナ吸血鬼メ。我ノ名ハ【めたとろり】デハナク【めたとろん】ダ! ヨク覚エテオケコノ下等生物メ!!」
やっぱりビンゴだったか……。
ヤツとは元の世界で何度も死闘を繰り広げた敵だったので、ユナの身体をスキャンした時に何故か懐かしくも禍々しい天使どもだけが持つアストラルボディのクソみたいな波長を感じたからおかしいと思ってたんだ。
この畜生天使は、まだ幼かったユナの願いを彼女の魂と引き換えに叶えてやると持ちかけたのだろう。そして生きる事に限界を感じていた少女は、いとも簡単に自分の生命を手放してしまった。
幼い彼女が自分がした選択に気づいた時は既に遅く、決して後戻りできない面倒な契約を、ちょっと古くなった服を着替えるくらいの手軽さだと説明し、尚且つ天使の笑顔で微笑んだのだろう。これは奴らが良く使う手だ。
少しだけだがユナリア本人の魂が持つ波長が残ってるところから察するに、彼女が天使と交わした契約の中には天使自身も気づけなかった抜け穴があり、それが結果として彼女の魂を例え一部でも守る事に成功したのだとしたら大した少女だという事になる。だから絶対に救ってやる!
だからユナは契約前に天使の助力によって、一時的に無効化された右肩の奴隷紋を自分の手で皮膚ごと削ぎ取り、拙いながらも自分で治癒する事が出来たのだろう。
天使の力があればそんな痛みを伴う方法ではなく、魔法でキレイに消す事も可能だったはずなのに、敢えて少女が激痛に顔を歪める姿を見たいが為に教えなかった可能性が高い。
とても痛かっただろう……可愛そうに。
まだ子供だったユナとメイは、それはさぞ可愛かった事だろう。その可愛さは神の尖兵たる天使の一柱がその姿形に惚れて天界では禁じられているはずの契約前行動を行うくらいだからな。
それでこの畜生天使はユナとメイが自分たちの力を必要とするように、その後の運命にも手を加えやがったのだろう。
そしてその次は美しく成長した妹のメイプルにまで食指を伸ばして、彼女たちの魂をヤツラの聖なるアホ神にでも捧げようと企んで今回の騒ぎを起こしたに違いない。
何しろオレとアイツらは仇敵と言っても良いほどの関係だし、有史以前からの長い付き合いだから天使どもの行動原理なんて見なくても判るのは、元の世界で嫌と言うほど顔を突き合わせてきたからだな。
そう言えば……元の世界でめっきり見かけなくなったと思ったら、こちらの異世界でオイタをしていたとい訳か。うらやma……ええい、許さんぞ!!
メタトロリよ、自分の手の内で転がしてると思い込み最後まで喰いつくそうと考えてた企んでいた無垢な(?)少女の魂はさぞ美味かったろう。だが目先の欲に囚われてただの美味しいエサだと考えてた少女に一杯喰わされたと知った時のお前の顔を心底見たかったよ。
まだ残ってるユナの魂よ、キミにはオレが元居た世界で最高の賛辞を贈ろう「グッジョブ!」とな。
あのロリ天使が乗り移ってるユナの身体が成長しているのは、それが彼女と交わした契約の一部となってクソ天使が拒否出来ない条件として交わされた文言に盛り込まれていたのだろう。
例えばエルフの双子だと知らないまま「妹が大きくなるまで待って!」みたいな事でも言ったんだと思うけど、まさか契約相手の事をちゃんと精査もせず先に天力を貸してしまっており、後からそんな条件を言われた結果だとしたら、ほんとにザマァだな!
……とは言っても相手がまだ子供なので完全に大人の身体へ成長するまでの間に、何とか騙くらかしてユナの魂を全て平らげてから、後に残ったメイも美味しく頂くつもりだったんだろうが知れば知るほど、ほんと反吐が出るほどのクソ天使どもだ。
それでも、なかなか上手く事が運ばずに時間だけが経ってしまい、美しく成長してしまった彼女たちの姿(美脚)を見て、今度はあのロリ天使の双子の弟だとされるナントカフォンがメイ(の足首)を我が物にしようと企み、最後はギルド長まで裏から操って太守から二人の身柄を買い戻すように働きかけていたようだが、二人の傀儡となった太守は決して首をタテには振らなかった。
当たり前だろ。
すると本性を表したメタトロリが地上に降臨するため、遥か天空からユナに照準を合わせたとしか思えない神々しい光の柱が本流となり彼女の頭上から降り注いだ。
《神敵発見! コレヨリ強制介入ヲ実行スル! 女神様ニ許可ヲ申請! 許可ノ受諾ヲ確認! めたもるふぉーぜ開始!》
(いやよ、契約はまだ残ってるはずなのに……)
聖なる光を受けたユナの全が『聖銀』と呼ばれる、この世に存在しない金属から生み出された鎖によって雁字搦めに巻き取られてゆくが、これは天使どもが契約者を真の依代として使い潰す時のやり方で、神の鎖によって縛られたユナの全身を光の中へと引きずり込み、光そのものが二対三組で合計六枚もの純白の翼を持つ大天使の姿へと変貌する。
それを見ていたギルド長や大勢の冒険者どもの背中から二枚の翼が生えてきて、次々と下位天使の姿へメタモルフォーゼしいてゆく。
普通に考えると最悪の展開だな。
今の時点では、まだナントカフォンと魂の契約を済ませていないメイの身に危険は少ない。何故なら今ここで彼女を殺してしまえば弟との契約が出来ないから、奴らとしては逆にメイがオレに殺されないように守ってあげないといけない立場とも言える。
(もしヤツに弱みが有るとすれば、そこしかないだろうな)
下位天使だけなら別に何体居てもどうという事はないのだが、戦闘モードになった大天使を相手にしながらユナリアの魂を取り返すのはかなりしんどい……と言うかメンドイ。
やってやれない事は無いと思うが一歩間違えば二人とも失ってしまうから、ここは慎重に事を運ぶ必要がある。
「メイよく聞いて、あの男は私を殺しに来た悪魔なの。あなたも天使様と契約して一緒に戦ってくれるわよね? だって私たち、死ぬまでずーっと一緒に生きるって約束したでしょ?」
さすがにその手は汚いぞクソ天使め!
ずっと一緒に苦しい人生を共に歩んできた姉の願いを、ここで無視できる妹なんて居ないだろう。例えその正体が姉の身体を乗っ取り魂まで貪り喰おうとしてるクソ天使だったとしてもだ。
愛しい姉の姿で、そして優しい姉の声で子供の頃一緒にに誓った約束を今さら反故に出来るなんて事、きっとできやしない。
この絶対に「NO」と言えない質問を妹に投げ掛ける事によって、クソ天使にとって都合の良い、たった一つの言葉を引き出そうとしてるのが良く解る……でもメイは返事をしない。
「メイ! 答えてはいけない。そいつはユナの姿と声を真似て、キミから都合の良い言葉を引き出そうとしている悪神の使いなのだから」
「本当にユナなの? でも私どうすれば……」
ちゃんと事前に教えてあったのに、こうなったらユナもメイもまとめて何とかするしかないか。
「ちょっとくすぐったいぞ?」
オレはユナへと一歩踏み出そうとしたメイを後ろから問答無用で抱き抱え、天使どもが並ぶ広場から離れた場所まで一気に飛翔しながらメイのか細い首筋へ牙を立てた。
「ロードさん、急に何を……ぅう……」
「ちょっとだけ眠っていてくれ、これから起こる事をキミに見せたくないんだ。本当にゴメンな」
オレの唇が触れて唾液が付着した部分が麻痺して、皮膚を突き破ったオレの牙がメイの頸動脈に喰い込むが痛みは無く、それが心地良いと感じる信号となって彼女の脳を眠りに誘う。
まだメイを不死者にするつもりは無いが、今は彼女の血に秘められたエルフの魔力と彼女だけが持つ珍しいスキルを少し借りるためにメイの血が必要だった。
ササっと一瞬で最低限必要な量のみ吸血してから、メイが今から始まる戦いの余波に巻き込まれないように離れた場所へ安置しておく。
こうしておけば奴らがメイの身体からオレの不死因子を浄化する為には大天使の施術が必要で、その為にはオレとの戦闘を終わらせて治癒に専念する必要があるから、余程の事が無い限り先に彼女へ手を出すような事にはならないはず。
「ついに本性を表したな! この薄汚い吸血鬼め!」
唇の端に付着したメイの血を拭ってから急いで広場まで戻り、オレは対天使用兵器としていつもお世話になってるインテリジェンスなウェポンを呼び出す。
「幻血召喚! デス子、出番だぞ!!」
オレの眼の前にある空間を破って現れたのは、以前にも呼び出した暗黒剣の長い柄。この剣の刃はいつも何故か折れてしまっているので、今回もオレの血で元の形に戻しておかないと。
これはリンとディアーネを監視していた二人の英雄が天使の中に取り込まれた時、この剣で物理無効のアストラルボディを突き破って、鎧の中に取り込まれていた英雄たちの身体を滅ぼした呪いの武器だ。
「現世ノ武器デ我ヲ滅ボス事ナド不可能。中ニ居ル女ヲ殺シテ我ヲ天界ヘ強制送還シテモ、マタ他ノ者ト契約シテ戻ッテ来レバ良イダケノコト」
《呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん! 今日も元気な暗黒剣! みんな大好きデスブリンガー様とは妾の事じゃ~!》
このちょっと煩いデスナンチャラではあるが、オレがこの剣にマジで力を込めればこの世界に顕現した大天使のアストラルボディなど貫くのはとても容易い。
『先に血管あ~んど神経系統を接続完了なのじゃ、今ならシンクロ率もアップしておるから最初から飛ばしていくぞぃ!! それで今回はあの旨そうな血の匂いがプンプンするクソ天使どもをブッた斬れば良いのじゃな?』
呼び出したばかりの暗黒剣の刃は折れたままの状態となっており、剣を握ったままの右手首にある血管目掛けて柄の各所から黒くて細い何本ものチューブが突き刺さり、不死因子と暗黒属性を持つ魔力が剣本体けと吸い上げられる。
一気に血を吸われて血圧が下がった影響により一瞬だけ眼の前が霞むような気がしたが、気がつけば折れて無くなっていた刃が完全に元の長さを取り戻し、見た者の背筋を凍らせるような死の気配を漂わせ始める
「そうだ思い切りやれ!」
オレがそれだけ答えたのは、メタトロリたち高位の天使が持っている精神の先読み能力を警戒したからで、こちらの本心を隠すためデス子の言葉は否定しないでおいた。
『どうしたのじゃ?!今回は召喚の代価(血)がちと少なくないかえ?!』
それは前回は魔力の供給元であるボクっ子勇者の死体が転がっていたからであって、今回は魔力が多いエルフとは言え、まだ生きてるメイの身体から全ての血を抜く訳にはいかないだろ?
(そして、今回も時間が無いから最初から飛ばして行くぞ!)
この世の金属では決して傷付かないとされる天使どものアストラルボディだが、この暗黒の魔剣を構成する【死の概念】で奴らが持つ絶対防御の結界ごとブチ斬れってやれば、中に閉じ込められた冒険者どもをリアルな意味で昇天させてやる事ができる。
「ぶんそーどノ悪魔ガ何故コノ世界ニ居ルノダ? ソレニ我ノ光速剣ヲ躱セルトハ?!」
『セブンソードの悪魔』なんてヤツは知らないが、お前の攻撃が当たらないのは純粋に技術レベルが違うからだよ……と言いたい所だが、今回に限って言えばメイが持つ極レアスキルの恩恵が大きいな。
今日の昼間に庁舎の応接室で話していた時、メイは自分の事を「私なんて全然大した事無いんです!」と言っていたが全然そんな事は無い。彼女も彼女の姉と同様、あのクソ天使どもが自らの神に捧げる供物に選ぶほどの素晴らしい能力を持っていた。
ちなみにオレは死者の他に死が迫って居る者や死を覚悟した者など、死に纏わる精神状態の者とは精神感応によって心を通わせる事ができるのだが、応接室で話していた時に彼女の手がオレに触れた時に彼女の声が頭の中へ直接聞こえて着た。
それは幻聴では無く紛れもないメイの心の声で、まだスキルとして完全に芽吹いていない未覚醒の精神感応とでも言えば良いのか、まだ未熟な彼女の感応力では親しい姉以外の者と心を繋げた経験が無かったせいで、メイはこの能力を相手が双子の姉だから使えると思ってるみたいだ。
だが、この「親しい姉としか繋がれない」未発達な能力だが、それはオレがこれからやろうとしてる事に対して絶対に必要なスキルで、これがあったから二人を必ず救えると考え今もこうして地道な努力を重ねていると言う訳だ。
そういえば先日に中位の天使を二体も倒して経験値にしてやったばかりだから、この暗黒剣とメイのスキルがあれば、お前程度の大天使なんて経験値の塊にしか見えないな。
メタトロリを相手にする前にデス子を使って魔力量を更に強化すべく、顕現する下位天使どもを片っ端からガワごと斬り殺してやる。
崩れゆく天使のアストラルボディから現れたギルド長と冒険者どもの、まだ温かい身体に向けてデス子を再度突き刺し彼らの体内に残っているまだ温かい血液を残らず吸い上げてやった。
そういえば今周りを見て気づいたのだが、いつの間にか七人居た子供の人質たちが居なくなっているな……今まで全然気づかなかった。さすがは未来のスリ職人たち、逃げ足だけ見ればもう立派に一人前だな。
『だから妾の名前は……もうデス子でいいのじゃ><;』
デス子によって、あの不味くて不衛生なギルドメンバーどもの血液を全て吸い尽くして、そこから抽出されて綺麗になった魔力だけが暗黒剣から血管で繋がったオレの身体へと返環される。
「下級天使どもの血が手に入ったから、次はアイツを呼ぶとするか。だからデス子はもう帰っていいぞw」
まだ戦いに満足していなさそうな暗黒剣だが、これからの段取りをいちいち説明するのも面倒だと感じたオレは、左手の血爪を使ってデス子を握ったままの右手首をスパっと斬り離してやった。
オレとの神経接続が断たれた事で暗黒剣の輪郭が急に存在感を失って朧げになり、漆黒の霧となって異次元の裂け目へと吸い込まれて行く。
『ちょ、ま、こんな返喚方法なぞ……妾は断じて認めnz!!』
こうして無事(?)デス子が消えると、オレの右腕に残ったままの血管とか神経の細い筋なんかも霧散していった。それからキレイな手首の切断面から新しい手を生やせば、これで次の相棒を呼ぶ準備が整ったと言える。




