第15話 次の街へ
エルフ村ではアルフィリオたちの他に新たな仲魔となる者は出なかったが、これからも交流を行える場所の確保が出来たし、アルニード教国へ帰投する将軍と兵士たちの中にもアンデッドとなりオレの配下へ加わった者たちが多く居るから、これらの事柄は将来に向けて布石の一つが打てたと考えるべきだろう。
また光と闇の両属性魔法を扱える勇者と聖女の二人を新たな仲魔に加える事が出来たし、アルフィリオたちのように優秀なデッドエルフが配下となった事で異世界召喚直後の状態と比べれば幾分かマシな状況となったと言える。
それでも異世界にある人族連合の国々から見れば、オレたちみたいな存在は彼らの信仰上決して相容れるような関係は望むべくも無いし神の名において十字軍侵攻は必ずやって来ると思う。
それに魔の森から更に北の地に住まう魔族どもにつても決して友好的な相手だとは限らないし、それどころか魔族というくらいだから力にモノを言わせてグイグイ攻めて来てもおかしくない。
あとはプリンが言っていた『特異点』についてだが、これはオレのように元の世界で強力な力を持ったまま、こちらの異世界へとやって来た存在として認識すれば良いだろう。確信は無いがそうそう外れていないと思う。
こうして整理してみるとフーカが居るエルフの隠れ村以外は全て仮想敵国か敵対組織ばかりなので、いつ何処かから襲撃されてもおかしくない状況だ。なので今後も自前の戦力拡充は進めておくべきだろうと考えながら飛行していると、もう城郭の外側に新造されたばかりの防護壁が見えて来た。
この前、魔女っ子ドロシーが造り上げた防護壁は一見しただけでは何の材質で出来ているのか判らない艶の少ない黒っぽい岩石の様な素材で出来ており、もしかするとオレの知らない凄い材質で造られたのかも知れないが詳細は聞いてない。
後で遠方から見た時のカムフラージュとして、防護壁の外側を普通の岩山のように偽装しておくようドロシーに頼んでおこう。
その防護壁を越えて更に進めば、ようやく我がシルヴァニア城へと到着する。
「お帰りなさいませ、マスター」
「何か変わった事はなかったか?」
飛行したまま城門を潜らずに玉座の間がある階の窓から直接城内へ入ると、たまには城門を通らないと門番を任せている者たちから不満が出そうだと告げられた。
「魔の森の更に北方で何か異変があったようです」
この城を中心とした半径10キロの範囲にはポイント召喚したスケルトンソルジャーたちを徘徊と見せかけて巡回警備を行ってる他に、この城を中心とした東西南北全ての方向へも部隊を派遣し情報収集を行っている。
それで北の地へと向かった部隊のうちいくつもの小隊が北の地から戻って来ていないらしい。ショコラが言うには魔族領内でもオレと同じように『次世代魔王』と成りうる力を持つ者たちが現れて、早くも権力闘争を始めたのではないかという予測を聞くと少し楽しくなってきた。
オレは元の世界で神の軍勢に敗北し、追い詰められた極東の島国で隠遁生活を送って来たが別に平和主義者という訳ではないし専守防衛を謳っている事もない。あれは今から200年以上も前の事だったが、中世から近世へと時代が進むにつれ、オレたち夜の住人が人間どもに歴史的敗北を喫する原因となった革命があった。
それまでの時代では何事にも人の手が必要で教育を始めとする様々な分野が遅れており、世界中のどの国も農業や林業それに漁業等の古来からある一次産業を主体とした社会が成り立っていた。
まだあの頃は魔術や呪いの力が信じられていたので油断していたら、いつの間にか石炭を使った蒸気機関が発明されて、それらを動力とした様々な機械も開発され、やがてそれらが石油に取って代わられて、現代に入ると電力の安定供給が始まっていた。
そして最後には禁忌とされていた核エネルギーにまで手を伸ばす様になると、人間たちは子供ですら、もう誰もオレたちのような夜の存在を信じなくなってしまっていた。
今から思い返せば、あの当時において最優先事項として重要視していたのは敵戦力どもの殲滅で、それも別次元から次々と送られて来る様々な能力を持つハンターたちの撃退であった。
ハンターたちの中には少数だが、何故か戦いが苦手な生産系の能力しか持たない者たちも居て、これと言った戦闘能力を有していないザコなど何時でも殺せると考えたオレたちは、手強い戦闘能力をもつハンターたちを優先して殺して回っていたのだが、まさかそれが後の敗北に繋がる等なんて、この時は誰も気づかなかった。
今考えると何故あの時オレたちを倒すべく異次元からやって来たはずのハンターどもの中に、戦闘以外の能力を与えられていた者が存在していた事に何の疑問も抱かなかったのだろう。
今なら判る。
あの時は戦闘能力に優れたハンターどもさえ倒せばこれまで通りの生活に戻れると考え、わざわざ目の前にやって来ては派手な攻撃能力を自慢するように放つハンターを狩らせるのが神の思惑だったのだ。そしてあの如何にも地味で弱っちく見えた生産系の能力者こそが、元の世界そのものを変革するジョーカーだったのだ。
だから今報告があった魔族領の異変については、それが純粋な力と力のぶつかり合いであり、こちらに被害を及ぼさないのであれば無視して構わないだろう。
それに怠惰で知られるこちらの魔族に限って無いとは思うが、生産系勇者ならぬ生産系魔王などが居た場合は速攻で潰しておきたい案件だが、今は手持ちの戦力から考えると遥々北方まで送る戦力がない。
シルヴァニア城の玉座に座りショコラが用意してくれた黒檀の机の上で、これからの事をいろいろメモっていると、エルフ村から一緒に戻ってきた配下のうち飛行能力に優れた者たちが早くも城に到着い始めた。
「ロードはん、ただいま帰ったで。やっぱウチが一番みたいやさかい、そこんとこ宜しゅう覚えといてや!」
「ジェットエンジン付きの箒なんて反則なの。それと早く下に降りて来るべき。ロードしゃまより高いところから挨拶するなんて死んでお詫びするレベルなの」
いつも元気いっぱいで決して死者には見えない魔女っ子ドロシー(実はエルダーリッチ)と、元は教会で十分な教育を受けたにもかかわらず、ちょっと舌足らずで口が悪いプリンの二人だが……ちょっと待ってくれ。
ついさっきドロシーが窓から飛び込んで来たのは見たが、プリンは何時から其処に居たんだ?
「リンも早くこっちへ来なさいよ、そんなとこに居ても御方様にお声を掛けて頂けないでしょ?」
「でもディア、ボクたちはまだ新参者だから少しは遠慮しておこうかと……」
プリンと同じく教会関係者で元聖女のディアーネと、彼女と一緒に亜人種迫害をやっていた元勇者のリンが扉から姿を現す。彼女の本名は結城凛音で、天使に殺されて魂が地獄へ向かっている最中、強制的にこの世に呼び戻した経緯があって、その時に彼女もオレと同じ異世界からの来訪者である事を知った。
まだレオンたちの姿が見えないが、この勇者たち四体のアンデッドは元からの資質が高かったので他の者たちと同じように比べてやっては可愛そうなレベルに達している。
「レオンたちが帰って来たら次の作戦を始める。各自出撃の用意を整えておいてくれ」
後から帰ってきた残りの配下の者たちには先ほどまで書き溜めておいたメモをの写しを配り、次の出撃準備をするように命じておく。
何と言っても彼らと彼女たちは不死者だから疲れを知らない身体を持っているし、黄泉路から戻ってきた精神も人間だった時のそれとは比べようも無いほど強化されてるから問題ない。
だって暗黒属性に属する不死者揃いのオレたちが、ホワイトな労働環境なんて望んでいたら、それこそ罰が当たるだろう。ブラックよりもなお黒い……暗黒とか深淵とも呼べる労働環境だったとしても、みんな喜んで働いてくれるとオレは信じてる、信じてるからな!
大事な事は二度言っておかないと何か落ち着かない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ショコラの報告にあったように北方の魔族領に、もしオレと敵対するような魔王候補が出現したとすれば、その攻略にはリンとディアーネの二人が活躍してくれると信じてる。
今や聖光属性の魔法をそのまま受け継いだ『光闇の勇者』へと成長したリンは、能力バランスの点から考えても一番の適材だと思う。だって元々は魔王を倒すのが本職だったからな。
それと勇者パーティ随一の回復役だったディアーネだが、彼女のステータスを確認して驚いた事がある。何故なら完全な魔法職だと思っていた腕力等のステータスが、勇者リンとほぼ同じかそれ以上に高かったから。もしかしてディアーネが聖女になる前は神官兵として修行を積んでいたのかと聞いてみたが、今世では修行をしていないそうだ。あと「今世って何?」と聞いてみたのだが、そこは乙女の秘密という事で詳しくは教えて貰えなかった。
話が逸れたが、もし『特異点』が現れても魔王殺しのプロであるリンとディアーネが居るから、それほど不安視する必要はないな。そこに魔法使いポジのドロシーも加えたら戦略級レベルの魔法戦も何とかなると思う。
この他のメンバーとしてはパーティ全体を護る盾職として獅子獣人のレオンと、後衛職の護衛兼狙撃手として弓士のクロウリーが居れば、それこそ普通の魔王なんて瞬殺出来そうな気がしてきた。
そう言えばレオンは猫科の獣人だから人間と比べて数万倍の嗅覚があるし、聴覚に至っては獣人最高クラスだからパーティの戦闘に立って敵の探知にも期待できる。
オレが獣人最高クラスと言った時ショコラの目が不意にこちらを向いた。ちゃんと解ってるって。確かに獣人最高クラスの聴覚を持つレオンだが、お前には絶対に敵わないってな。何しろ耳の向きだけを変えて周囲360度方向のパッシブレーダーを持つ上に、昆虫型ドローンからの無線通信、それに衛星監視カメラの目を持つ君には異世界中の何処にもライバルなんて存在しないからな。
それでレオンが城から離れる事になったので、彼の後任としてリビングアーマーのアイゼンが交代で任務を引き継いでくれるから城の警備シフトに穴を空ける心配は無くなった。オレたちアンデッドは疲れ知らずだから一人で十分なんだ。
場内の警備ならショコラがカメラとセンサーで24時間警備をしてくれてるし、ゴスロリメイドみたいな格好をしたプリンが、いつも城の中を歩き回ってるから不審者が忍び込めるスキなんてほぼ見当たらない。それにデッドエルフたちがエルフの隠れ村と城を交代で往復してる影響で街道から魔物の出現率が減ったという報告も受けてるから、今は平和って事でいいんじゃないかな。
こうしてリンたち新生勇者パーティを北方にある魔族領へと送り出し、現地で情報を集めながら魔王候補が居そうなダンジョンを探して貰うと同時に、これから城で必要となりそうな鍛冶や錬金術で消費する資材も集めて欲しいと伝えておいた。
魔王候補が強くなる前に探し出して『ポア』できればいいんだけど、もし見つからなくてもその途中で立ち寄った街や村で名の知れた職人や技術者が見つかればいいなと思ってる。
戦うしか能の無い戦闘特化の者どもなら殺せばそれで終わりだが、生産系の能力者をオレの目が届かないところで成長させてしまうと、元居た世界のように文明レベルが進み過ぎてしまい後からでは手に追えなくなる事を過去の苦い経験から学んでいるので、こちらの異世界では初期段階でそれらの兆候を発見してオレの管理化に置いておきたい。
これからの基本方針としては『富国強兵』策を元に、近くにある街やダンジョンから攻略して支配地の拡大と配下の両方を増やしながら、産業革命を引き起こすレベルの技術者たちをオレの元で飼い殺しにしておけば、最終的にはオレたちアンデッドが安心して暮らしていける夢の国が出来ると信じてる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
リンたち勇者パーティを城から送り出してから、人間社会に紛れ込んでいるかも知れない生産系勇者の所在を掴むべく方法を色々と考えていたが、まだこの異世界の社会情勢などに詳しく無い自覚があったので何処かの街で人間社会の情報収集を優先する事に決めた。
別働隊となったリンたち勇者パーティの状況については、出来る子AIのショコラから定期連絡が貰えるから特に心配する事も無かったので、オレたちと敵対するのが決まってるアルニード教国を超えて更に東方にあるエルドラン王国まで行ってみる事にした。
エルドラン王国はアルニード教国と国境を接している中規模の国家で、これまで毎年のように両国の軍が争っているらしく国境沿いの街の治安は余り良くないと聞く。紛争の原因としては天主教を広めたい教国側がエルドラン王国内での布教活動を求めて実力での抗議を繰り返したのが発端だとされおり、これを頑なに拒否するエルドラン王家と貴族たちは国を挙げて反抗の構えを見せている。
戦争を『神の教え』の為と吹聴して、ただ闇雲に侵攻するだけでは戦果は上がらないのだが、戦争の仕方を知らない教会指導者たちは『神の奇跡』のみを信じてロクな作戦も考案せず、いつも少なくない数の兵士たちを死地へ送り出しているので、もしかしたら口減らしの意味も兼ねているのかも知れない。
国境沿いにあった街の小さな図書館で今までの両国の経緯を読んだが、敵国である教会陣営は国力の割にそれほど強力な軍を編成する事が出来ておらず一部の狂信者たちが率いる部隊が手強いと感じるだけで、補給などの兵站を軽視してるのが顕著に書かれていた。
前回の侵攻時では明らかに教国側が優勢だったにも関わらず、戦いの中盤で食料と水が尽きてしまったのか多くの餓死者を出して軍を引き返してしまっていた。あと人数が多い割に兵士が弱いのは、ただの一般人である信者を強制的に召集してロクな戦闘訓練も施さないまま戦場へ送り出してるのが理由だとも書かれている。
これってさっきの口減らし以外にも、教会内で主流派から見て邪魔になった神官を戦地へ送り出して殺してるとか普通にありそうだな。
教会が召喚した強力な勇者に人数に限りがあるのに、とりあえず敵方より多くの頭数を揃えて前進させるだけしか思いつかない上層部が戦争を仕切ってるのだとしたら、教国軍にどれだけ多くの被害を与えたとしても国民が一人も居なくなるまで戦争を止めようとは考えないから、相手国にとって確かに嫌な国なのだろう。
それなりに古い時代から紛争が続いているみたいが、今はお互いに戦争疲れしたのか春の種蒔きや秋の刈り入れ時期を外して雨が少なく夜も寒くない野山に木の実とか果物が豊富な夏の時期しか侵攻作戦が行われなくなったのは、両国がメンツの為に止めたくても止められないというが実情だった。
それも今では夏の風物詩として一大イベント的な何かに変わっていて、あろう事かお互いの国の戦費を削りたい両国の官僚どもが勝手に冒険者ギルドを通じて、戦争に参加する戦力や人員について調整まで行っている始末だ。
もしこれが事実なら過去から何年も続く紛争が一向に収まらないにも関わらず、別の窓口を使って一部では貿易まがいの事まで行われているのを知ったとしても誰もが驚かなくなったのも頷ける。だが、ここで両国の愚かさを罵っているだけでは、この異世界に悪逆の名を轟かせるにはちと考えが足らな過ぎる。
(一流の悪逆を志すには、この紛争で一番得をしてるヤツは誰だ? という視点が必要だな)
元の世界でも永久に終わらない紛争や戦争の影には、必ずと言って良いほど『死の商人』と呼ばれる武器商人どもの暗躍があるのだが、そいつらの正体は後々暴いてやるとして、今はモノづくりの国として有名なエルドラン王国の全てを丸裸にしてやろう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
エルドラン王国の国境近くには『ソドモラ』と呼ばれる中規模の城塞都市があったので、早速中へと潜入して街の中央にある東西を結ぶ大通りを歩く。
さすがに表通りとあって良く整備された街並みだが、紛争が絶えない国境近くの街なのに全く戦火に焼かれた跡を見つける事が出来ないのは、この街の太守がそこそこ優秀な人物だからと推測できる。これは是非とも永遠の生命を授けて即刻オレの配下にすべきだろう。
街中をブラブラ歩き回っていると冒険者ギルドや商店などが立ち並ぶ繁華街に入り、ここから更に進んで学校や各種教会が建てられた区画を通り抜けて行く。まだ、この辺りまでなら一般の旅行者が歩いていてもおかしくない場所だが、ここから更に奥へと続く通りを抜ければ卸しを専門とする中規模の商店や多くの工房が軒を連ねる区画へと様変わりしていく。
そしてそこから更に北へ足を向ければ裏通りがあり、ここは奴隷商人や武器商人など店の前に厳ついオッサンとか兄ちゃんが座っていたりするちょっと危ない場所になる。そのまた隣の区域にはそこそこの大きさの色街も併設してあり、後ろ暗い商売人たちが間違っても表通りを通らずに仕事や商談が出来るように都市計画がなされているようだった。
こんな時、情報を集めるのに都合が良いのは酒場と相場は決まっているが、「オレは吸血鬼なのでお酒は結構DEATH!」なんて正直に告げても、その店に居る女性(それも美女限定)が素直に血を飲ませてくれるとは限らないし、そもそも人間たちの理解は得られないだろう。
だからこんな時は美味しい紅茶を淹れてくれる小洒落た喫茶店で我慢しようと思うのだが、昼間のこんな時間帯にいい年をした大人が働きもせず、ボッチで紅茶を飲みながらケーキを口いっぱいに頬張っていたら目立って仕方がない。
(この案は却下とするか……紅茶なら城でショコラに頼めばいくらでも淹れてくれるからな)
そう言えば元の世界で見たドラマでは「情報は足で集めるんだ!」なんてカッコいいセリフを言ってるオッサンが、薄汚いスラムみたいな街中を駆け回ってた事を思い出したので、この先にあるちょっと治安が悪そうな区画を調べてみる事にした。




