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異世界吸血鬼 ~前世も吸血鬼なんだが?~  作者: としょいいん


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20/93

逸話#5 風の勇者フーカの事情(1)

 私の名前は成瀬楓花。


 こっちの異世界では風の勇者フーカと呼ばれている。


 あの日、あの時間、あのゲームの転移トラップさえ踏んでいなければ、今頃は花の女子大生になっていたはずだったのに、何故か意識を取り戻したと思ったら知らない異世界の森に彷徨い込んでいた。


 それでも異世界でゲームの事故に巻き込まれる確率を計算しようとしたのは、あの長くて辛い受験戦争をたった一人で戦い抜いた日々の記憶が、今もDNAの何処かに深い深い傷跡となって刻み込まれているからだと思う。


 こっちの異世界へやって来たのは、かれこれ今から1年くらい前の話なんだけど、あのまま誰にも見つけて貰えず森の中を彷徨い続けていたら、いつか危険な魔物に襲われて死んでいたかも。

 なので森へ狩りに出ていたエルフたちに見つけて貰って彼らの村まで案内されて、そこで客人として村に置いて貰う事になったんだけど、私を見つけてくれたエルフの一人である恩人のイリーシャさんの家に住まわせて貰う事になった。


 私はもう子供じゃないからと自分の年齢を教えたんだけど『18歳なんてエルフでは、まだヨチヨチ歩きの幼児みたいなものよ』と言って、まるで自分の娘のように扱ってくれる。

 でもそう言うイリーシャさんも、まだ若くて20代くらいにしか見えなかったから彼女の年齢を聞いてみると、なんと今年で御年110歳という驚きの回答が返ってきた。


(エルフって、本当に歳を取らない種族だったんだ……)


 そして暫くの間は見る物、触れる物全てが珍しくて、平穏な日々が続いていたんだけど村の中央に聳え立っていた精霊樹に手が触れた時、樹の中から優しい声が聞こえてきた。


 精霊樹の中から現れたのは、自身の事を『風の妖精王』だと名乗った60センチくらいの妖精で、その姿が本当に可愛らしかったから『王様と言うより王女様みたいね』と言ったら、何故か急に笑い出して私と契約すると言ってきた。

 精霊王様が言うには私には大いなる精霊の魔力が宿っていて、精霊契約を行う事でその力を自在に扱う事が出来るようになると教えてくれたから、元ゲーマーの一人として自身の能力アップイベントを黙って逃すなんて無いよね。


 それからある程度ここでの生活に慣れて来ると、このエルフたちを取り巻く世界情勢に関する話もちょくちょく耳にするようになったので、一度イリーシャさんに詳しく教えて貰おうと頼んでみたんだけど聞かなければ良かった。


 それまで何も知らずに楽しく過ごしていた毎日が、ある日突然終わりを告げる。


 この時の私はまだ事態の深刻さが良く判っていなかったんだけど、この世界のエルフは人族の国から常に迫害を受けてる少数民族の一つと言う事で、エルフはドワーフや獣人族と一纏めにして『亜人種』と呼ばれていた。

 それで『亜人種』を捕まえて奴隷にしても法律で裁かれるどころか、人族の国々では普通に売られていると聞いたんだけど、奴隷の居ない国からやって来た私には、とても衝撃的な内容だった。


(そう言えば社会科の授業で、中世ヨーロッパの各国がアフリカとかアジアの国の人々を奴隷にしていたと学んでいたけど、逆に考えればこの異世界が中世くらいの文明だと言う事なのかな?)


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ある日、槍を構えた人間の軍隊がやって来て村の外側をぐるりと囲むと、ここに居るエルフを誰一人逃がさないと叫んでいたのを聞いて、とても怖かった。

 この村にはイリーシャさんの他にも歴戦のエルフたちが大勢居るから、みんなで力を合わせれば何とかなるんじゃないかって思ってた……この時まではね。


 弓と精霊魔法が強力なエルフの戦士たちが、押し寄せて来る人間の兵士たちを相手に必至で戦ったけど、敵の数が多すぎる上に精霊魔法から身を守る金属製の鎧を身に着ていたから倒すのが難しかった。

 もしこれがゲームの世界だったら、私が敵を全部倒して『オレTUEEEEE』が出来たのに……なんて考えていると、たちまち村の中まで攻め込まれて味方の戦士たちが次々と血を流して倒されて行くのをこの目で見てしまった。


 最初はみんなで頑張れば何とかなると思っていた村の人たちも、ここまで敵の数が多くて装備が整えられた軍隊を相手すれば、もう自分たちが全滅すると気づいて、まだ若い女性と子供たちを先に逃がそうと必死に頑張っていた。


 村長を含めた全てのエルフ戦士たちが敵包囲網のうち、一番薄いと思われる所へ決死の覚悟で突撃して私たちが通る為の道を開けてくれて、普段は武器を手にする事が無い村の若い女性たちが私と子供たちを守りながら人間たちが作った包囲網の外側まで逃がしてくれた。


 でも、さすがに敵もバカじゃないから、私たちが逃げた事を知った敵の騎兵部隊が追いかけて来たので、これらの迎撃に女性のエルフたちが当たるけど、騎馬兵の突撃を盾すら持っていない軽戦士みたいなレンジャーの装備では食い止める事が出来ず、次々と味方の女性たちが圧倒されて行く。


「早く! 早く逃げるのよ! 森の奥まで行けば精霊様たちが護ってくれるから!」


 その叫びがイリューシャたち女性エルフの最後の声だと知ったのは、みんなと一緒に精霊さまが居る森の中まで逃げおおせた後の事で、予め村に何かあった時はここに集まると決めていた場所まで辿り着いた大人のエルフは誰も居なかった。


 でもここで声を出して泣いたら人間たちに見つかる。


 村の子供たちは私以外に20人くらい居たんだけど、中には小さな子供も居るから敵に発見されたらそれで全てが終わる。

 私たちはロクな武器も持っておらず、敵に見つかったら抵抗すら出来ないまま、みんな捕らえられて奴隷にされて知らない人間の国へ売られるのを想像したら足が震えてきた。


 いくら待っても来てくれない大人たちを、いつまでもここで待ち続ける事は出来なかったから、一番年長者だと思われる私が、幼い子供たちをまとめて以前から交流だあった別の村を目指す事にした。


 だってそこしか知らなかったから。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 その村でも『風の精霊王さまの加護』をもつ私はとても暖かく迎えられたけど、つい先日まで私を引き取ってくれたイリューシャさんを始め、村の大人たちが人間の軍隊に殺された記憶は今も生々しく心の奥深くに刻まれてしまった。


(私が弱かったから、恩人であるイリューシャさんたちを死なせてしまった……)


 この村にも自警団があり、ここで最も強い風の精霊魔法が使える私は本人の意思も確認もされないまま、戦士団メンバーの一人として抜擢されたんだけど、子どもたちから『風の勇者』と呼ばれて、この村のみんなが喜ぶ顔を見ていたら断る事なんて出来なかった。


 そしてこの村で戦いの訓練をしていて少し気づいた事がある。


 それは例えば『風の勇者』という称号で、これは私が前世で遊んでいたとても長い名前のVRMMORPGのプレイヤーだった頃に同じ称号を持っていたんだけど、そう言えばあのゲームのアバターもエルフの魔法戦士で風の精霊魔法を得意としていた。


 それなら弓もかなり上手なはずと考えて、イリューシャさんの形見となってしまったエルフ弓を手にして森へ駆け出すと、やはりゲームの時に培ったエイミングの感覚が手に残っていた事を身体が思い出す。

 だけど風の精霊魔法はまだ私のレベルが低くて空を飛べるほどの技術は育っていないけど、目の前の空間にある風の密度を薄くして空気抵抗を減らして、後方から強力な風の圧力で背中を押すイメージをすれば、オリンピック選手の数倍の早さで走れた。


 それでも私はここがゲームの世界に似ていると言っても、他者の暴力によって容易く生命を落としてしまう残酷な世の中だと知ってしまったからか、その事がトラウマのように心の大きな部分を捕まえたまま離してくれなかった。

 だから、いくら『風の勇者』と奉り上げられても、本当の私は自分がとても弱虫だと言う事を知っているし、いざ戦いが始まれば臆病風が吹いて何の役にも立たないポンコツに成り下がってしまう事を感じていた。


 今思い起こせば最初の村に住んでいたエルフたちも強かったはずなんだけど、そんな個人の武勇など人間たちが組織した数の暴力で押し切られればひとたまりも無かった。

 もし本当に私が勇者なら、あの時イリューシャさんたち村のみんなを救えたはずなのに私には逃げ出す事しか出来なかった。

 少なくとも私が元の世界で読んでいだネット小説の主人公たちは、ほんの10歳くらいの子供でも敵を無双していた話が多かったのに、私にはとても無理だと思った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 そうして次の村でも人間たちの軍隊に怯えながら暮らしていたんだけど、やはりと言うか、いつも来るんじゃないかとか、来たらどうしようなんてビクビク考えているとアイツらはまたやって来た。

 以前に暮らしていた村が人間たちの居留地となり、そこを拠点にして森を伐採して耕作地を広げていたみたいだけど、とうとう次のエルフの村を見つけた人間たちが再び軍隊を組織して攻めて来たみたい。


 この村は森の中と言っても少し外れにあり、ここからエルフと交易をしている街へ工芸品を送って外貨を稼いでいたから余り奥には造らなかったのだと思う。

 そして外で稼いだお金を使って、エルフ村の中では生産出来ない品物を仕入れて、ここから更に森の奥にある街へと送っていたんだ。

 この村は森の中にあるいくつかの交易拠点の一つだったから、いつかは人間たちに目を付けられると考えて、それなりの準備は進めてあった。


 だけど、まさか人間の勇者が聖女と英雄二人を伴ってやって来るなんて想定していなかったんだ。


 こんなちっぽけな村一つを相手に、あれほど大規模な軍隊を差し向けて来るなんて、これって完全に過剰戦力だよね?


 いくら私が弱くて臆病でもエルフの『風の勇者』が真っ先に逃げ出すなんて出来ないし、私と子供たちを迎え入れてくれたこの村を見捨てて、もっと奥にあるエルフの街まで逃げたとしても、アイツらは必ず追って来る。

 そして、もう逃げる場所が無くなって森の奥で一網打尽にされるくらいなら、いっその事ここで死ぬまで戦った方がいいに決まってる。

 きっと私一人では人間の勇者と聖女には歯が立たないと思うけど、それでもここで頑張らないとまた後悔だけの人生が待ってる。


 そんなのはもうイヤだ。


 最初に滅ぼされた村の最後を思い出せば、このまま村に立て籠っていたても周りをぐるりと囲まれて逃げ場が無くなってから、火矢とか炎系魔法で村を燃やされてメチャクチャにされると思う。


 そうさせない為に今回は私を含むエルフの精鋭たちで、まだこちらに向かって呑気に行軍している最中の敵を奇襲する事にした。


 だから奇襲攻撃を行うのはアイツらが森に入る前に最後の休憩を取っている所で、なるべくなら暗い夜の方がいい。

 もしこの攻撃で敵の司令官を仕留める事が出来れば、攻めてきた軍隊を瓦解させるか退却させる事が出来るかも知れないから私たちはそれに賭けた。


 そして敵兵たちが寝静まる頃を狙って敵の野営地に夜襲をかけたんだけど、何らかの方法によって私たちエルフが攻撃して来る事を知っていたみたいで、こちらが攻撃しようとした矢先に敵の伏兵が姿を現してエルフの戦士たちを逆に襲ってきた


 私たちエルフは人間より長寿で魔法に関する能力が高く、身体も軽くて素早いし優れた視力も持っているけど、これらの能力は森の中のように地形が複雑で中距離から遠距離での戦いに特化しているから、敵に接近されて力と力のぶつかり合いみたいな消耗戦は苦手なんだ。

 だから私たちエルフの戦士に多くの戦死者が出るとしたら、今みたいな戦況に持ち込まれた時だとみんな知っていた。


「な、何だ! あの光は!!」

 

 人間たちの野営地の後方から魔術の光が打ち上げられると、まるで昼間のように明るく周囲が照らし出された。

 それはまるで元の世界で見た野球のナイター照明のように明るく、圧倒されるほど眩しい光の塊が敵の後方から一斉照射されたと理解したのは、視界を奪われた仲間たちが次々と倒されて行く声を聞いた時だった。


(これって照明弾じゃ?)


 いくら魔術が普及してるとは言っても、人族では貴重な魔術士の魔力を照明弾として運用するなんて、これは敵に私と同じ現代戦を知る世界からやって来た人が居るということ。


「これは罠だ! 奇襲は失敗だ! 今すぐ村に戻って更に奥地の街まで逃げるよう皆に伝えるのじゃ! でもじゃない! これは命令じゃフーカ! アルフィリオたち三名を護衛につけてやるから今すぐ村へ戻ってこの事を伝えるのじゃ! さぁ早く行け!!」


 何が何だか判らないうちに村長たち多くのエルフたちが応戦している中、アルフィリオさん、ベルムントさん、クリディオさんと言ったエルフ族でも選りすぐりの戦士三人が私の手を引いて戦線から離れる。


(またダメだった、このままじゃ次の村も危ない。でも、どうすればいいの?)


 やっぱり私一人で戦況を引っくり返すなんてムリだ。勇者がたった一人で窮地から逆転するなんて、そんなの一体どこの話よ。


 最初のうちは私の追い風の魔法で他の三人も包んで走っていたので、敵軍からかなりの距離を稼げたけど、距離が稼げた本当の理由は村長を始めとしたエルフの戦士たちがあそこに残って敵の進撃を遅らせてくれたから。

 だから玉砕覚悟で残ってくれた、みんなの思いをここで無駄にしてはいけない……って言うか、そんな事は絶対に出来ないっ!


 途中で何度かの休憩を挟みながら走っていたんだけど、さすがに昨夜から徹夜でずっと人間の軍隊から逃げ回っていたから、そろそろ体力の限界が近づいて来た。


 それでも遥か後ろの方から、まだ見えない追手が迫って来る事だけは感じているから地面に耳を当てて馬の駆ける足音を聞いてしまえば、もう冷静に休んでなんて居られなかった。


 アルフィリオさんたちは、最初から後方に敵影を確認した時点で一人ずつ立ち止まって敵の追撃を遅らせて、私が森まで逃げられる時間を稼ごうと話し合っていたみたい。


「フーカ様だけは必ず村まで届けるんだ!」


 最初にクリディオさんが殺られて、次にベルムントさんも殺されて、そして最後にアルフィリオさんが残って、私が生き延びるための時間を少しでも多く稼ごうとその生命を掛けてくれた。


(みんなゴメン、こんなポンコツ勇者で本当にゴメン)


 それでも目の前に迫った死の気配を感じると、とても怖くて必死に足を動かしたけど……ダメかも知れない。


(もう駄目だ、追い付かれる、だれか、誰か助けて!)


 死を覚悟して、思わず心の中で叫んでしまった。


 エルフの仲間たちが次々と殺されて、もうすぐ自分の番が来るのと思うととても怖かった。

 あと僅かの時間で私の二度目の人生が終わろうとしていた。そんな益体も無い事を考えていると、風の精霊たちが急に騒ぎ出すと人の気配を感じた。


「そこに居るのは誰?!」


 そこに現れたのは黒いコートを纏った二十代後半くらいの男の人だった。


「お、お前こそ誰だ!」


 その人は私に見つかった事にかなり驚いている様子なんだけど、これでも精霊に愛されしエルフの勇者様なんだから、さすがにこの距離まで近づかれたら判るよ。


 相手にジッと顔を見られてハッと気づく。私って髪もバサバサだしシャワーも浴びてないよぅ。


「隠形スキルって事は暗殺者! 私を殺しに来たのね!!」


 ちょっと好みの顔だったから気づくのが遅れたけど、これでも精霊に愛されしエルフの勇者様である私は瞬時に相手の実力を見抜いて警戒し構えを取る。


「大きな戦闘音がしたので確認したかっただけだ。もう事情は判ったから用は無い、何もしないから早く行け」


 もしかしたら背中を見せた途端に襲い掛かってくるかも知れないから、正面に構えたままの短剣はそのまま摺り足で男との距離を取る。

 この異世界へ来て何度も殺されかけた私は、簡単に見ず知らずの相手の言葉を信じる事が出来なかったけど、そんな時男の向こうに騎馬が駆ける時の砂埃が見えてたので、ここは一目散に逃げるしか無かった。

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