第14話 めぐり逢い異世界
その後エルフの隠れ村を訪ねて、人間の軍隊による村への侵攻作戦がオレの必死の説得によって中止された事を伝えるととても感謝されたが、オレと仲魔たちが装うコートや衣装の色が黒で統一されていたのを見て、どこかの国の暗殺部隊と間違われたっぽい気がする。
エルフの勇者フーカはここでは『風の勇者』と呼ばれて、エルフの村ではとても大事に扱われていたが、勇者といっても彼女の正体は元世界のJKで命を掛けた闘いや戦争をとても怖がっていた。だから無駄に高いステータスを誇っていても戦士としてはポンコツで、長い寿命を持つエルフの彼女だが、いつまで生きていられるかは彼女を取り巻く社会情勢によるところが大きいだろう。
例えネトゲの中では強いプレーヤーだったとしても、それは自分の生命に直接危険が及ばない電脳仮想空間内に限った話であって、彼女が実際の殺意を目の当たりにして恐怖で手足が竦んで動けなくなったとしても誰も責められない。ネトゲや小説の中とは違う異世界では、普通に刺されたり斬られたりしたら本当に死んでしまうからな。
そう言えば、オレが元の世界でニート生活をエンジョイしていた頃、ヒマを持て余した時期があり『超ウルトラスーパーファイナリーゴールデンファンタジークエストプレミアムデラックス2』という、当時は同時接続者が100万人を超える国民的VRMMORPGがローンチされて、オレも実際にそこで遊んだ経験があった。
そのネトゲの中でもオレは吸血鬼を選んでプレイしていたが、顔見知り(と言ってもお互いにアバターの姿しか知らないが)の一人に風の精霊魔法を得意とするエルフ戦士(♀)の有名Vチューバーが活躍していたが、誰も知らないうちに居なくなったと話題になった。
あの時の人物もアカウント名がフーカだったと聞いたような気もするが、流石にこの村の彼女とは別人だろう……と思っていた時期がオレにもありました。
「あの……もしかして、とても長いタイトルのRPGをされてたりしませんか?」
「もしかして君も?」
世の中には本当に数奇なめぐり逢わせというものが存在する。
オレと直接の知り合いではなかったが同じネトゲをプレイしていたと知り、少し嬉しくなって声のトーンが上がってしまいそうになる。これは滅多に同じ国の出身者に出会わない辺鄙な外国旅行をしていた時、不意にすれ違った同国人と出会ったような感覚に似てる。
「昨日は助けて頂きありがとうございます。そして不審者だと思い込み失礼な態度を取ってすみませんでした。あの時は焦っていたので全く気づかなかったんです。あ、私向こうの世界……と言って良いのかどうかは知りませんが森野楓花で今はフーカと呼ばれてます」
「オレは……とりあえずシルデビとても呼んでくれ」
あのとーっても長いタイトルについては現役プレイヤー1000人に凸して、クイズ形式のアンケートを運営が行っていたのを思い出す。何しろ生死を掛けたクエストの、それも戦闘の真っ最中に『運営』の腕章と名札を付けたアバターとNPCが突然割り込み「このゲームのタイトルを正しく答えて下さい!」なんて問い詰める様子が動画配信サイトで生中継された。
それを見たネットユーザーたちには好評を博していた反面、当のプレイヤーたちからはやや不人気なイベントだったと記憶している。それは今まさに生死を分ける闘いの最中に、プロの造形師さんがデザインしたセクシーでエロっちい妙齢美女と美少女たちが、バインバインに揺れるアレとか、ヒラヒラした超ミニスカから生脚を惜しげもなく晒してやって来るから、そちらに気を取られて集中力を別の方向へ向けてしまった男性プレイヤーの多くが事故死して、それを切っ掛けにパーティ壊滅へと繋がる事故が多発した。
その後クエストが失敗に終わり、街へと強制送還されたメンバーたちが男女でいがみ合いパーティが解散する事例も多く、その事は後世まで語り継がれている。
それで彼女は最初ここがゲームの世界だと思っていたらしく、やけにリアルなステージだと感動していたそうだ。それは自分の姿が育てていたアバターそのものだったし、ゲームで使っていたスキルと魔法がそのまま使えたからと告白されたが、それでも実際に目の前でエルフたちが殺されるシーンを見て怖くなり、ゲームなら消えてしまうはずの死体がそのまま残っているのを見て、ここがリアルな現実世界だと認識するようになった。
それとオレの場合もゲームで使っていた『吸血鬼』アバターのまま、こちらの異世界へ来てしまったと
誤解されてるようだが、態々本当の事を教える必要はないと思ったので彼女が気付くまではこのままでも良いかなと思った。
「シルデビ様は、何処かのクランに参加されているのですか?」
「オレは『クラン』ではなく、お互いを家族のように護り合う『ファミリア』を作ってるところだ。フーカも良かったら一度うちのハウスへ遊びに来てくれ」
「ええ、是非伺わせて頂きます!」
こちらの異世界へ召喚されて『風の勇者』に祭り上げられた彼女は、エルフ族の誰からも大事にされていたが、エルフ族の誰からも心の距離を感じていたようだった。
彼女の存在そのものがエルフたちに取って敬うべき存在である以上、エルフたちの意見を無視して簡単にオレたち城まで来いとは言いづらいが、こうして本人が希望するなら別に構わないだろう。そして彼女にエルフの隠れ村の安全について、今後はオレのファミリアで護らせて欲しいと説明したが、これは亡くなったアルフィリオたちの願いであり彼らとの契約を履行する必要があったのだ。
彼女はあくまでオレがプレイしていた種族が『吸血鬼』であり、本当は元の世界の現代人だと誤解しているようだが、それをそのままエルフたちに説明する事は出来ないらしく、オレの事はとりあえず死霊魔術士の友人として紹介してくれる事となった。
これでこの村の防衛戦力として屍鬼やスケルトン、それに死鬼などのアンデッド軍団を派遣して村の周囲を哨戒させる事が可能となった。エルフたちとこれからは良き隣人として付き合っていけば、元の世界から来たフーカを守ってあげられるからな。オレは同じ文化と価値感を共有する相手には優しい吸血鬼なのだ。
それでも最初のうちはエルフたちから気味悪がられていたアンデッド軍団だが、屍鬼の呼び方を『フレッシュゴーレム』、そしてポイント召喚したスケルトンを『ボーンゴーレム』と変えた事で、僅かずつだがイメージ回復は徐々に回復されて……いけばいいなぁ。
また屍鬼のように見た目がアレなアンデッドは全て地面の下で待機任務を命じ、非常時以外は外に出るなと厳命しておいたが、日常会話が普通にこなせる死鬼たちについては村の中でエルフ戦士たちと共に守衛任務を任せて互いに交流を深めておくように言ってある。
あれからアルフィリオとベルムントそれにクリディオたちの三体は、このままエルフ村で専属守備隊として故郷に残っても良いと言ったのだが、この村には屍鬼から昇格させた死鬼を現地責任者として常駐させ、彼らはシルヴァニア城と村を往復で交代任務にすると言って聞かない。なのでここは上司たるこのオレが懐の深さを見せて本人たちの意思を尊重する判断をした。決して部下たちの圧が強く、それに屈した訳ではない。
最終的にエルフ村方面守備隊の規模は、当初考えていたものより少しだけ大きな規模となったが、村の中には数体の死鬼が常駐巡回し、村の外ではフレッシュゴーレムとボーンゴーレムの小隊を複数班徘徊させて、いかにもアンデッドが彷徨う不吉な森を演出した。それと地面の下には約1000体もの伏兵たちが今も出撃の時を夢見て眠っている。
これらの防衛網を敷いた事で、当分の間はフーカが暮らすエルフ村の心配はしなくても大丈夫だと思う。そろそろ眠くなって来たオレは、村の外で長い間待たせておいたファミリアのメンバーたちと合流し皆でシルシルヴァニア城へ戻る事にした。




