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異世界吸血鬼 ~前世も吸血鬼なんだが?~  作者: としょいいん


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逸話#4 光の勇者リンの事情(2)

 あれは荒野で見つけたエルフたちの集団を罠に嵌めて壊滅させた後の事で、『風の勇者』なんて祀られていい気になってるエルフを捕まえてやろう意気込み、逃げ延びた数人のエルフを追いかけヤツラの隠れ村を見つけて味方の軍が攻撃を初めて少し経った頃だったかな。


 そんなイケイケムードの中、近衛騎士が周りを固めてるにも関わらず、あの暗殺者は何の障害もなくルバロッティ侯爵の背後に近づいて来た。男の手には蒼い短剣(?)のような凶器が握られていて、今まさに殺害しようとする瞬間を狙って、ボクが持つ聖剣イクシスで斬り飛ばしてやった。


「何者だ!!」


「それはこちらのセリフですよ、正体不明の暗殺者さん!」


 でも、これで勝ったと思っていたボクは、ここで大きな勘違いに気づく。何とこの男は斬り飛ばされた右腕の肘から先を念動力で引き戻して元通りにくっついてしまったのだった。


「その回復力! もしかして高位の魔族なのか?!」

「その聖剣、もしかして勇者の一人か?」


 この時に始めて敵の姿を見た。それは漆黒の装備の上から同じ黒のオーバーコートを纏った銀髪の暗殺者。


 顔は好みというかバッチリストライクゾーンの内角低め……なんて野球用語を言っても判らない人の方が多いよね。自分でも何言ってるか判らなくなってきたけど、日本人の顔をベースにして色々と西洋っぽいハーフかクォーターみたいな感じかな? と、とにかくボク好みでカッコ良かったんだ。


 確かにアビゲイル団長も男前だし、ロウザ師も昔は色街でブイブイ言わしていたとご本人の口から聞いていたけど、ボクには全然ピンと来なかった。だけど今目の前にいるこの暗殺者君は出来ればこの手で殺したくないなぁ。


「リン! 大丈夫?!」


 強敵を前にボクが動けないと思ったディアがすぐ隣に来てくれて、アビゲイル団長とロウザ師も一緒に戦ってくれると思うと心の底から勇気が湧いてきた。


「こいつはきっと高位の魔族だよ。どんな能力を持ってるか判ったものじゃないけど、必ずここで仕留めておかないと後で大変な事になるよ!」


 さすがに魔族が相手とは言え、ボクたち勇者パーティの四人が相手では勝てないと判断して逃げようとするけど、みんなで囲んで相手の退路を阻んでやった。ボクたち四人のうちの中の誰かを攻撃すれば、他の三人が止めを刺しに行くとアイコンタクトで互いに確認を行う。


「おっと、逃がさないと言ったよね?」


 相手はかなりの熟練者だ、それも物凄い高レベルの魔族だと感じる。さっきから四人で相手のスキを伺いながら囲んでいるけど、こちらから仕掛けても手痛いカウンターを食らうイメージしか見えない。


「ロウザ師とアビゲイル団長は、あいつを挟んで二人で動きを封じて下さい! あとはボクとディアの聖魔法で何とかします!!」


 これは敵の動揺を誘う為の謳い文句だ。


 こんな風に強敵と出会って攻撃する機会が得られない時、相手から先に手を出させてカウンターを叩き込む為の合図だったりする。


 こうすればアビゲイル団長がその左手に持つ大きめの盾を構えてボクとディアの前に立ち、ロウザ師がその背後へと回り込んで相手の動きを封じる作戦に見える。このまま何も出来ずに固まってくれればボクとディアの攻撃魔法二連撃先に詠唱を終えるか、不用意に動いた敵のスキをついて団長とお師匠様が決着をつけてくれる。


 この状況に焦れた暗殺者が先に動く気配を見せたので、その動きに反応したお師匠様の刃が敵に襲いかかろうとした瞬間、残像のみを残してヤツはやって来た……ボクかディアを殺し切る為に。


 ほんの一瞬、それも瞬きすか許されないくらい瞬間の出来事だった。


 ボクの目にはヤツが消えたように見えたけど……まさかね? ファンタジーの異世界に慣れてしまっていたボクは、あの暗殺者が行った転移を目で見ておきながら、そんな魔法はまだ無いはずだといった常識が目の前の現実を拒否するという愚挙を犯してしまう。もうこの状況から考えて一番最初に狙われるのは回復役のディアのはず。そう考えたのも束の間の事で、気がついた時にはボクの目の前でディアが斬られていて彼女の首の付け根から胸元までザックリと斬られて大量の血が噴き出した。


 このままだとディアが死ぬ!


 今すぐに治癒魔法をかけないとディアが死ぬ。そんな事あって良いはずがないし、ある訳がない。ボクは敵の目の前だったにも関わらず暗殺者へ無防備な姿を晒してディアの止血に努めた。ここでボクを殺せるなら好きにすればいい、でもディアだけは必ず助けて見せる。だからディア、ボクを置いて逝かないで、お願いだから。


 勇者の高位治癒魔術のおかげで、とりあえず傷口からの止血には成功したみたいだけどディアの顔色がとても悪い。やっぱり血を多く失い過ぎたのが原因なのかな? このまま斬られた傷が開かないように固定して安静にしていれば、また元気になってくれると思う。だって神様に祝福を受けたボクとディアが人類の敵である魔族になんて負けないはずだから。


 ディアの治療に専念していて気がつかなかったけど、ボクの知らないうちに魔族の暗殺者はどこかへ去っていた。きっと団長とお師匠様が追い払ってくれたんだね。


 この襲撃騒ぎの後、教国軍は攻撃を中断してエルフの隠れ村から少し離れた場所を野営地に定め、周囲に生えてる樹木を兵士たちが切り倒し、それを魔術士たちが乾燥させてから薪へと変えていく。そしてポッカリと空いた地面には野営の為の天幕を張っていく。こうして多くの天幕が設営されても騎士や兵士たちの人数が多く、日が沈むまでの短時間では全員が休める数を準備するのは難しい。


 勇者パーティが使う為に張られた天幕は士官用の物より更に大きくて、これなら4人が一緒に泊まれるサイズとなっていた。その天幕の中、ただひたすらディアの身体に聖属性による治癒と回復魔法を掛け続けるボクの努力も虚しく彼女の容態はこれ以上回復しそうに無い。

 現に今も全身が汗ばみ苦しむばかりで一向に病状が良くなったようには見えない。それどころか陽が沈んでから、まだそれほど気温が下がった訳でもないのディアの身体が急にガクガクと震えて止まらないし、顔色も真っ青であんなに魅力的だと言われていた唇からは血の気が失せて紫色に変色してしまっている。


 これはあの邪悪な魔族が何らかの毒を凶器に塗っていたに違いないと考え、解毒魔法の《キュアー》も掛け続けているんだけど何故か効果が上がらない。解毒魔法は毒に関する知識が重要とされていて、まだ経験の浅いボクの知識だけでは何の毒によるものなのか、その成分すら見当がつかなかった。


 もしこのままディアを死なせてしまったら、ボクもすぐに彼女の後を追いかけよう。


 そう心に決めて簡易ベッドの上に横たわるディアを両手で包み込み、彼女に頬ずりすると気分が少しだけ落ち着いてきた。冷えきった彼女の顔はとても冷たく、ボクの治癒魔法でこれ以上の回復が望めないなら、ボクの体温で彼女の身体を直接暖めてあげたいと思った。


 そんな時、天幕の外で団長とお師匠様が昼間の魔族と話している声が聞こえてきたので、咄嗟に体が跳ねるようにして天幕の外へ飛び出してしまった。


「な、何しに来たんだ?!」


 そもそもディアがこんな目に会ったのは全てこの魔族のせいだと思うと、フツフツと湧いてくる敵意を押さえる事が出来なかった。そんなボクを見てもアイツは落ち着いた声で、ともすればとても心配げな声でボクに話しかけて来る。


「お前の治癒魔法だけでは、そのおっぱ……聖女を救えないんじゃないかと思って様子を見に来てやった」


 今確か『おっぱい』って言おうとしてた?!


 やっぱり魔族でも胸が大きな女性の方が人気があるんだね……と、そんな事より今はディアの治療をしないといけない。


「そ、そんな事信じられるものか! 今まで何度もピンチになったけど、四人で力を合わせてここまで来たんだ!!」


 そう、ボクたちはこれまで勇者パーティの仲間だけで大抵の問題を解決してきた。だからきっと今回のピンチもみんなで力を合わせれば何とかなるはず……だよね?


「人間の国から依頼されてエルフの奴隷を狩りに来ただけだろ? それをみんなで何か凄い事を成し遂げたかのように言うのは止めてくれないかな……聞いててヘドが出そうだ」


「な、何を!!エルフは魔法の力を独占して、ボクたち人間が住む土地を奪いに来るから……だからボクたちは正義の力で人間の生活圏を守ってる。それの何が悪いと言うの?」


 確かに人間にも悪い人は居る。でもそれは人間だけじゃなくエルフにもドワーフにも言える事だと思うんだ。ましてや獣人なんて強いければ弱い者に何をしても良いなんて言う文化だから、それらの脅威から同胞たちを守る事の何が悪いというのだろうか。


「何も悪くないと思うぞ、力ある者が無い者を虐げるのはこの異世界の理だと思うからな。ただお前たちのように自分に嘘をついてまで醜い行いを正当化するのはどうかと思う。エルフの土地が欲しければ力で奪えば良いし、エルフの奴隷が欲しければ力ずくで犯せば良い、ただそれだけの事だ。間違ってもオレの前で正義がどうとか変な理由をつけて自己弁護だけはするんじゃない、人間臭くて本当にイヤな気分になる」


「ボ、ボクだってそんなの分かってる! それでも人間の、光の勇者という重責が人々の未来を守れってボクの頭の中で響くんだ!」


 それでもボクたちは人間であり人間社会に属して生きてるから、それらの集まりである人間国家に対してと言うか、人生を真面目に生きてる人たちを守りたいと思うし、そうする事が勇者であるボクの責務だと自分に言い聞かせてこれまで戦って来た。


「人間の未来を守る前に、後ろの天幕の中で死にかけてる聖女の未来を救ってみてはどうかな?」


 そうだった。


 ボクが今しなくちゃいけないのはディアを失わないために彼女を治す事だ。でも治癒も回復も解毒も、知ってる全ての魔法を試したけどどれも効果は無かった。このままだと数時間、いや数十分後にはディアがこの世を去ってしまうかも知れないと思うと急に怖くなってきた。


「ダメなんだ。これまでボクとディアの治癒魔法で直せない怪我や病気は無かったのに、ディアの病状は悪くなる一方……。きっとお前に斬られた傷が原因なのは判っているんだけど、どうすれば治るのか全然判らない。このままディアが死んだらどうしよう、ボク一人で勇者なんて続けられないよぅ……」


 もしディアを死なせてしまったらボクも死のう。二人一緒なら死ぬ事なんて何も怖くなんてないよね。そう思い込もうとしたボクのなけなしの勇気を、魔族の男の言葉が粉砕する。


「もしオレが、その女を死の運命から助ける事が出来るとしたらお前はどうする?」


「魔族の言う事なんて、素直に信じられる訳無いじゃないか……」


「お前の言う通りだ。オレが手術をしても救えない可能性もあるからな。それなら、もうここでやる事も終えた事だし帰るとするか」


 もうボクたちに興味を無くした魔族の男が後ろを向いて歩き出す。もしかしてボクはまた間違ったのかも知れない。仮に一パーセントの確率だとしても、今はあの魔族の男の言葉を信じてみるべきじゃなかったのか? そう思うと居ても立ってもいられなくなった。


「貴方ならディアを救えますか? 出来るんですよね?!」


「確かにオレならそのディアとやらを(聖なる神の軛から)救えるかも知れない」


「貴方ならディアを生かしてくれるんだよね?」


「ああ、オレならそのディアとやらを(永遠に)生かしてやれるかも知れない」


「またディアと話せるようになるのならお願い! ディアを、彼女を助けて下さい! このとおりお願いします!!」


 そう話した途端、ボクの意識はブラックアウトって言えばいいのかな? とにかく突然目の前が真っ暗になって、気がつけば暗くて寒い殺風景な坂道を下へ下へと歩き続けてる夢を見た。


◆◇◆◇◆


 あれから、どれくらい歩いていたんだろう。もういつから歩いてるのかさえ判らなくなってきた。それくらい長い時間歩いているのか、それともまだ歩き始めたばかりなのか、それさえも判らない。


 そう言えば……何かとても大切な事があったと思うんだけど、あれは何だったのかな? それに一人で歩き続けるのは寂しいから、できれば隣に誰か親しい人に居て欲しい。以前はいつも隣に誰かが居てくれたと思うんだけど、やっぱり誰も思い出せないや。


 でもこのまま一人で歩き続けるのは何か不味いような気がする。ここで立ち止まっていれば後ろから誰か来てくれるのかな? やっぱ一人は心細いよ。


 寒くて、寂しくて、心が凍えてしまいそうで、それでも歩き続けていると何処からかボクを呼ぶ声が聞こえてきた。


「おいヘッポコ勇者、そんなとこで何してる。早くこっちへ戻って来い!」


 そうボクは勇者だった。それにしても『ヘッポコ』って……今どき昭和みたいな表現だよね?


 『だった』と過去形なのは、もうボクが死んでしまった事を思い出したから。思い返せばボクはこれまで人間を守るためという大義名分の下に、亜人種や魔族たちと闘い続けて来たんだっけ……。


 最初のうちは元の世界の道徳心が邪魔して、なかなか相手を殺せなかったんだけど、徐々に異世界の空気に慣れて弱いくせに必死で立ち向かってくるヤツラが滑稽に見えておかしくなっていった。それにヤツラを倒せば周りの大人たちはみんな喜んでくれるし、ディアも嬉しそうにしていたからボクはこれでいいと考えるようになっていた。


「ボクの事はもう放っておいてくれないか……。ボクはこの手で多くの亜人たちを苦しめて来たのを思い出したから、このまま地獄へ落ちて罪を償わないといけない。だからこのまま逝かせてくれると嬉しい。それにいろいろとゴメンね。ディアにもよろしく言っといてくれると嬉しい。それじゃバイバイ……」


「何を寝ぼけた事を言ってる。例え地獄に落ちたってお前の罪は消えないぞ? むしろ地上から逃げたと皆に批難される事になるが本当にそれでいいのか? 後悔しないか?」


「……」


 そう言われたボクは、何も言い返す言葉が出て来ないのをもどかしく思った。


 それでも何か言わないといけない、何か一言でも良いから言い返さないと、これまでボクたちが行って来た全ての行いが否定されてしまう気がした。


「でも……」


「お前の身体ならディアーネがキレイに治してくれた。もし戻って来ないのなら、そこら辺に漂ってるテキトーな魂でも憑依させて、毎晩ア~ンな事やこ~んな事をさせてやるから覚悟しておくんだな!」


 大体ボクの頭で何か難しい事を考えるのはムリなんだと思う。それよりいつまでもこんな所にいたらボクの身体の純潔が危ない!


「そ、それはちょっと……」


 でも、ディアが無事だったのならボクはそこへ行かなくちゃいけない、なんて思ってはいるんだけど、どうやってそこまで戻ればいいのかサッパリ判らない、これでも勇者だったんだけどね。


「古き血の契約により汝、勇者リンの魂魄をここに召喚する! 何でもいいから早く戻って来い! ディアーネも待ってるからな!!」


 ディア待ってて、今すぐ戻るから。そう言えばこれまで名前を聞いた事が無かったっけ、とにかくありがと。


 ボクの魂はダイソンの掃除機に吸い込まれる様な感じがして少し戸惑ったけど、何とか無事(?)に元の身体へ戻る事ができた。

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