第12話 オレの実力って事でいいよな?
「勇者スキル発動、身体超絶強化!」
勇者が持つ驚異的な身体能力強化スキルが、一定時間の条件付きとはいえ発動可能となり黒いオーラがオレの身体を包み込む。但し暗黒属性の魔力を持つオレでは、勇者が持つ聖属性に関する能力を引き継ぐ事は出来なかったが、これほどのステータスアップを実感できるとなれば後は何とかなるだろう。聖属性攻撃など、当たらなければどうと言う事は無いからな。
勇者の血を取り込み万全の体制とはいかないが戦いの準備を進める。神の尖兵どもがオレのアンデッド軍団の殲滅を終えて、こちらに襲いかかって来たら手痛いカウンターを撃ち込むつもりだったが、ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべたまま近寄って来ない。
あの全てを見下す眼差しを見る度に、遠い過去となってしまった昔の記憶が脳裏に蘇る。
元の世界で同じ夜の住人たちが、あのイヤラシイ笑顔を浮かべた殺戮者どもに次々と滅ぼされる中、何故このオレが2000年もの長きに渡り生き抜く事が出来たのか? その理由の一つをここで明かしておこう。
今なら女勇者の血を取り込み、通常の300パーセント以上の魔力を纏ったこの状態なら、普段は余り使用しない眷属召喚を行う事が可能となり、オレが元居た世界で共に戦った嘗ての戦友を呼び出す事が出来るようになる。
「幻血召喚! デス子出て来い!」
オレの通常装備である血爪だと、攻撃力とリーチがちょっと足らないっポイので一度引っ込めてから、目の前の空間を突き破るようにして出てきた凶々しい剣の柄を握る。そして力任せに引き抜くと、剣の刀身部分は鍔の根本に少しだけ透明の刃を残すのみで、そこから先は砕けて無くなっている。
だがこの剣こそ、幻血召喚でこの異世界に呼び出したオレが持つ七つの至宝の一つで、元の世界では伝説級とされる魔剣の一振りだ。何故こんなヤバイ代物をオレが所持しているかについては、今は時間が無いので割愛するが、この剣なら物理無効化が付与されているアホ天使どものアストラルボディを斬り刻めるから対天使用兵装として愛用していたのだが、その為には先ずオレの腕を切り裂いて血を吸わせる必要がある。
右手に持つ砕けた刃をオレの左手首に当てて引き絞ると、血は滴り落ちたりせず残った刃へ吸い込まれて行く。すると砕けて無くなっていたはずの刀身がオレの血で再生し始める。最初はダイアのように無色透明だった刃が赤く染まり始め、オレの血に宿る暗黒属性を取り込んで『死属性』が付与されると、今度は徐々に黒が染み渡り漆黒の刃が完成する。
この状態となった剣には銘があり、元居た世界では『死を与えしもの』と呼ばれていたっけ。
こうしてオレが手にした【デスナンチャラ】が持つ雰囲気というかヤバさに気づいたのか、左手で盾を構えた元聖騎士を前面に押し立て二体のエンジェランが攻撃準備に入る。
光の剣を盾の内側に隠す事で攻撃の機先を悟らせまいと考えているようだが、剣自体が放つ聖なる光がヤツのピカピカに磨き上げられた鎧に反射しているから、次の挙動なんて丸判りだと何故気づかないのか。
突き出された光る切っ先を漆黒の刃である【デスナンチャラ】で弾きつつ、ガラ空きとなった右脇腹へ反撃を放つが、ヤツが構えた盾が邪魔で刃がアストラルボディまで届かない。それでも敵の盾を真っ二つとは行かなかったが、大きな傷を付ける事が出来たので良しとする。
「ほい、テレポっと!」
渾身の突きを繰り出して来た聖騎士の背中へ短距離転移し、片方の二枚ある翼をまとめて斬り飛ばしてやると体勢を崩したエンジェランが勢い良く頭から地面へ突っ込む。さすがは元の世界で名のある暗黒剣で、その刃は物理無効を誇るはずの天使をスッパリと斬る事が出来た。それと、この剣で斬られた傷は回復魔法で治癒出来ないと言われてるから、これで片方の飛行能力は当面の間封じる事が出来たな。
《おい、もっと血をよこせ。今斬ったヤツからは血が全く出ておらん、これでは全然足りないじゃろ!?》
オレが気に入ってるこの暗黒剣には、唯一と言っても良い欠点が存在する。
《おい、聞いてるのか、このヘッポコ吸血鬼め。返事をするのじゃ、聞こえているのであろう?》
そう、幻血召喚で呼び出した【デスナンチャラ】とはただの吸血剣ではなく、知恵と知識を持つ無機生命体だから……空気も読まずに言いたい事だけをしゃべり続けるのだ。以前に一度ムカっときて完成した刀身を叩き折ってやろうと頑張ったのだが、結局は破壊出来ないまま今日に至る。だが今はその硬さが何より頼もしい。
頭の中で剣が発する声が聞こえるが、いちいち相手をしてる時間が無いのでそれを無視したまま目前に迫る天使二体と闘い続ける。
すると右手に握った【デスナンチャラ】から何本もの血管のような管が伸びてきて、手首の内側にある浅指屈筋や尺側手根屈筋などに突き刺さり、右腕全体を制御する筋肉と神経をハッキングされて制御を奪われる。それと同時にオレの貴重な血を『じゅるり』と吸い上げられる感覚は、何度経験しても慣れるものでは無い。
《これで右腕は妾のモノとなったのぅ。じゃが安心せい、これでお主には指一本触れさせぬからな。しかし美味な血じゃて。この際じゃからたんと馳走になっておくべきかの?》
【デスナンチャラ】から伸びた幾筋もの管が食い込んだオレの右腕が、徐々にそれらと熔け合い剣と融合する。すると、それまで普通のロングソード程度の大きさだった暗黒剣が、更にグレードアップしてオレの身長を超えるほどの大きさにまで成長する。
もう今となっては右手なのか剣なのか判らない状態だが、ただ一つだけ断言出来るのは決してこの右手(?)で背中を掻いてはいけないという事で、何故ならその背中に付いてしまった傷は魔法で治癒出来ない呪いが掛けられているのだから……。
《妾の名はデスナンチャラでは無いといつも言うておろうが、いい加減に覚えるのじゃこの阿呆ぅめ!》
それからは剣を持つ右手は元より、剣を振るための神経と筋肉組織の動きがオレの制御を離れて【デスナンチャラ】へと移行する。
剣に宿った意識体は、差し詰め『剣の精霊』とでも呼んだ方が良い存在らしく、これほどの技術を持つ右手ならオレが直接手に持って闘うより数段強いと云える。その速くて鋭い操剣の技は、この異世界でも最高峰と目される剣聖や聖騎士に勝るとも劣る事は無い。
こうして考えると全て剣のおかげで勝てそうなのだが、例え自分の力だけで勝ったとは言えなくても最後に立っていた者こそが真の勝者と呼ばれるのは何処の歴史も同じ。
(そう、勝てば良いのだ。勝てば──)
例えそれがAI搭載型チート魔剣による他人任せの勝利だとしても、まだ数体残っていたアンデッド軍団を敵の後ろに回り込ませて、玉砕特攻を仕掛けたタイミングを狙った死角からの奇襲であろうと、そのうえ何時の間にかやって来た暗黒神官によって、知らないうちに対聖属性魔法結界で護られていようと、更には遥か上空から魔女っ子が敵の頭上に隕石魔法を降らせて来ようと……。
(もう一度言う、勝てば言いのだ……)
結果として、オレも知らないうちに数多くの仲魔たちの援護と犠牲によって生み出された敵の隙を突くような形で天使の一体、それもかなり手強いと感じていた剣聖タイプの胴体を敵が防御した剣ごとブチ斬れたのは、オレのピンチを察知して各自の判断で動いてくれた仲魔たちを持っていたオレの実力って事でいいよな?
「ソノ剣デ斬ラレタ程度デ、我々神ノ尖兵タル天使ガ滅ビルトデモ思ッテイルノカ」
「全く思ってないよ。だって前らゴキよりシブトイからな」
いくらオレの持つ【デスナンチャラ】が最強ランクの暗黒剣であったとしても、精神生命体で神の尖兵たるアホ天使どもを完全に滅ぼす事は出来ない。だが天使と呼ばれるほど強力な存在が、何の制約も無くこの世に顕現し続ける事が出来るだろうか?
答えは否である。
それはこの世の誰か……それもかなり高位な魂を持つ誰かが自称『聖なる神』とやらに身も心も捧げる事が顕現する条件。つまり『自身の身体と魂魄それとアストラル体に至るまで、その全て触媒として差し出し契約と言う名の呪いを受け入れる』といった厳しい条件ではあるが、これを満たす事で本来は霊的存在である神の尖兵どもが、この異世界でも神の力を振るう事が許される。
天使どもの聖なる力を源とする攻撃魔法の数々は、うちのプリンが張るマジックシールドによって無効化されるが、こちらの攻撃も天使本体を傷付ける事は出来ても奴らの精神を完全に滅ぼす事は出来ず、暗黒属性による侵食は100パーの確率でレジストされている。
そもそも物理攻撃のみで倒せるような生易しい相手ではない。
一見すると互いに手詰まりみたいな状況で、将棋で言う所の千日手にも見えるが実はそうではない。うちのプリンが持つ魔力は多い方だとは思うが決して無尽蔵では無いし、オレの血でプリンの魔力を回復させるにしても限界はある。
「無駄ナ事ヲ!」
「無駄じゃない!」
確か勇者リンの首を切り落した時に剣聖と聖騎士が光に包まれてあの姿となり、サイズ的にもちょっとだけビックになった。だからあの儀体の何処かには、天使召喚の依代となる剣聖本人の身体が閉じ込められていて、ヤツらの外皮がメチャメチャ硬いのは中の生贄を守るためだと言う理由がある。
《だから妾は【デスナンチャラ】とかいう名前では無いと言うておるだろうに!》
だからオレは【デスナンチャラ】を使って何度もエンジェランの胴体を斬り裂き、身体の何処かに収納されている剣聖本人を探し続ける。いくらエンジェランのアストラルボディが物理攻撃無効だとしも、中に潜む生身の人間なら必ず生命を奪い尽くす呪いの暗黒剣で斬る事さえできれば一撃で葬り去る事が出来るはず。
そしてようやく剣聖タイプのドテっ腹に大穴を穿ってやる事に成功する。これならいくら無敵を誇るエンジェランでも中の人が死んでしまえば後は消え去るしか無い。
顕現した時とは違い全身の光の鎧に赤錆が浮き出てボロボロと地面の上に剥がれ落ちる。あの赤錆だが、その匂いから元剣聖の血で間違い無い。【デスナンチャラ】が元剣聖の身体を斬り割く時、一瞬で全て吸い上げる事ができず身体に残ってしまった血液が、天使のアストラルボディを通過する時に血液が高熱に晒されて一瞬で水分が蒸発し凝固したもの。それがあの赤錆の正体だ。
ヤツらが本当に聖なる存在ならば、あのように自分たちを崇め奉ってくれる信徒たちをその場限りの触媒として使い潰したりなどするものか。あの信徒にも親や兄弟それに恋人や妻、更に言うなら子や孫たちも居たはずなんだ。
それを依代にして自我を奪い、自分たちのコマとして使い捨てるなんて本当に勿体無い事をする。オレなら死んだ後も不死の生命を与えて未来永劫コキ使ってあげられるのに。何しろヤツらは宗教で人間どもを洗脳してやがるから、手駒となる人材には不自由しないと言う事だろう。
オレたちはヤツらが流すプロパガンダによる影響をモロに受けていて、闇魔術とか暗黒魔法と聞いただけで死人も裸足で逃げ出す始末だから不利な状況は否めない。
「キサマ何者ダ?!」
おっと、イロイロ考えていたら天使があと一匹残ってるのを忘れるところだった。だがその天使はプリンとドロシー、それにヴァンプエルフに囲まれて既にボコボコにされていた。
具体的にはプリンが張り巡らせた対聖属性結界に閉じ込められて身動き出来ない状態となり、頭上からドロシーの攻撃魔法によって隕石が絶えず降って来る状況の中、ヴァンプエルフ3体によるアストラルボディの破壊実験が絶え間なく繰り返されている。
ドロシーの結界は上面が空いてるのでは無く、上から下への一方通行でのみエネルギーが通過出来る逆止弁のような働きをする術式となっているようで、面白そうだから今度オレも教えて貰おうかな。
あとは結界に挟まれて身動きできない聖騎士エンジェランのお腹を狙って、【デスナンチャラ】を力いっぱい突き刺せば、これでお終いかな。
《だから妾の名は断じて【デスナンチャラ】などでは無いと言っておろうが!》
「はいはい、ありがとねまた次もよろしく~」(棒読み)
最初はあれほど苦戦して一時はどうなるかと思った天使との戦いだが、大勢の仲間と囲んでプスリと刺し殺す作戦は簡単で良いなぁ。これからもこのハメが通用する限り、この作戦で行くとしよう。




