第11話 とにかくスゴイ自信
「今度の勇者はハズレでしたね、ロウザ師」
「左様、やはり戦争の無い世界から来た魂魄では、いまいち使い物にならぬな。それより大切な聖女を失った事の方が教会としては大事件じゃろう。後で教皇たちに報告するのがちとホネじゃて」
頭を失った首から真っ赤な血溜まりを作るボクっ子勇者の身体が倒れているすぐ横で、二人の英雄剣士が何事も無かったかのように会話を続ける。
剣聖が手に持つ刃から滴り落ちる真っ赤な雫が地面に赤い染みを作る様は、気が狂った画家が描き出す一枚の宗教絵画でも眺めているような気がした。
すると二人の身体から眩しい青白色の光が発っして、全身が金ピかの鎧を纏ったお伽噺に出てくる神の使いのような姿へと変貌する。
彼らの背中には二対四枚の猛禽類を思わせる大きくて白い翼が生えており、その姿は紛れもなく元の世界で戦った神の尖兵の姿に他ならない。
「まさか、異世界にも【神の尖兵】が居るなんて知らなかったな」
翼が四枚あるのは中位クラスの証で、そんな天使どもを同時に二体も相手するなどマジでヤバイ状況だが、ここは屁のツッパリでも強気で押していこう。
こういう場合は先に心が折れた方が負けだと、ネトフレたちがいつも言っていたからな。
「ヨモヤ我ラ二柱ヲ相手二、無事二逃ゲラレルト考エテオラヌダロウナ。コノ下等ナ魔族メ!」
「ヨクモ我ラガ庇護スル聖女ト勇者ヲ亡キ者トシテクレタナ。コノ礼ハ、ソノ身デタップリト受ケ取ルガ良イ」
「確認しておくけど、おっぱ聖女の方はいざ知らず、ボクっ子勇者の首をはねたのはお前たちだからな?」
もしかするとオレがこの異世界へやって来て、ある意味最大のピンチが訪れようとしている。
いくらオレが強いと言っても、あの二体の中級天使を同時に相手にするのはさすがヤバイ……とオレの妖怪センサーが告げている。
何がヤバイって……自分たちが首をはねたボクっ子勇者の罪を、彼奴らの脳内では既に不思議変換されており、このオレが殺った事になってるのがヤバイ。
いくら天使様だと言っても、無限の時間を生きていれば精神が老化しボケてしまうのは仕方が無い事なのだろうか?
だとすれば彼奴らに何を言っても無駄だ、こうなったらオレも腹を括るしかない。
天使どもとの戦いなど元居た世界で何度も経験してるから、例え中級二体が同時に相手する状況でも上手く立ち回れば何とかなると思う。
ただ、まともに正面から戦えばオレとほぼ互角の戦闘力を持った中級天使どもが、オレより優れた飛行能力を発揮して上空からの急降下突撃を敢行して来るから、その対処には少しだけ難儀しそうだ。
「テ、テレポ!!」
敵の刃がオレの身体を捉える寸前、残像が残るくらいまで引き付けてから相手の背中へ短距離テレポートを繰り返すが、二体の天使がお互いの背中をカバーし合っており、なかなか決定打となる一撃を与える事が出来ない。
「テ、テ、テレポ!!」
(こんな事なら昼間にテレポを見せるべきじゃ無かったな)
もし今回のテレポが初見だったら確実に片方の翼くらいは斬り飛ばせたと思うが、本当に惜しい力の使い方をしてしまった。
だがいくら二対一で不利な状況とは言っても、逃げ……回避に徹した吸血鬼の反射速度と身体能力なら、深刻なダメージを受ける事無く何とか均衡を保つ事が出来ている。
かと言って、今のオレに確たる勝算があるわけでは無いが、そうかと言って全く何も無い訳でも無い。
言ってる意味は良く判らないと思うが、とにかくこのスゴイ自信だけを頼りに起死回生の手段を一歩ずつ手繰り寄せる。
こんな感じで細かいテレポを何度も繰り返しながら、ボクっ子勇者(の身体)が倒れている場所から、かなり離れた所まで来たオレは素早く配下を召喚する。
「アンデッドウォリアー召喚!」
天使どもにはメッチャクチャ弱いアンデッドだが、それなりの数を一瞬で揃えるなら彼らしかいない。
地面の中でずーっと待機させていた屍鬼兵たちを呼べば、すぐに応えてくれた。
赤黒く変質した腐りかけの筋肉組織の間から、やや黄色く変色した骨が見え隠れする腕が地面から無数に生えてきて、次々と地上へ姿を現すオレのアンデッド軍団たち。
その数は大体200体くらいだとい聞いていたが、これだけ居れば数秒程度の時間稼ぎくらいは出来るはず。
君たちの死(消滅)は決して無駄にしないから安心して先に逝ってくれ。
《皇国の興廃コノ一戦にアリ、総員一層奮起努力セヨ!》
この命令は配下のアンデッドたちに己を顧みず敵に吶喊する事を強制する呪文だ。
これによってオレの周囲に湧いて出た配下たちに1ランクアップのバフが授かり、全ての屍鬼が死鬼並みのステータスとなり突撃を開始する。
この他にも、ここには凡そ100体以上ものデスホース部隊も居るが、こいつらは他に使い道があるので参戦はさせず待機命令を継続させる。
何たって神の尖兵たる天使どもは悪のアンデッドが大嫌い。
だからこんな時間稼ぎミエミエの作戦でも、自分たちの神が治めるこの異世界にアンデッドが蔓延るなんて接待に許せない。そうなんだろ?
たった200体ほどしか居ないアンデッド軍団をムリに統率はせず、各自バラバラで別々の方向から突撃させる事で聖属性魔法の広範囲攻撃によって一撃で壊滅被害を被る事を防いでおく。これで少しでも稼ぐ時間を伸ばせるはずだ。
こうしてアンデッド狩りに夢中になったアホ天使二体を放っておき、オレはテレポで天幕の所まで戻り、首から先を失ってしまったボクっ子勇者の死体に彼女の頭部を戻してやる。
いくらオレが長い年月を生きてきた吸血鬼だと言っても、さすがにこれまでに首から先がチョン切れた死体に噛みついた記憶は無い。
それでも今はそんな贅沢を言っていられる状況では無く、異世界転生を経験した事で他の一般人より魔力成分がメチャクチャ多く含まれている勇者の血を口いっぱいに頬張る。
最初はチョットだけ舌先で舐めて味と匂いが大丈夫そうだったので牙を突き立て、まだ体内に残ったままになってる、体温がやや冷めた血液を凝固が始まる前に一気に啜り取る。
そして勇者の身体から無くなった血液の代わりに、オレの牙の先から闇属性魔力を伴なった不死因子を持つ血を注ぎ込む。
それが相手の全身に隈なく広がるまで多少の時間は掛かるが、これで暫く放っておけば徐々に身体細胞の改変が始まってゆくはずだ。
吸血鬼としては吸血衝動が弱いオレだが、吸血して魔力を多く含んだ血液を取り込む事によって、相手の能力の一部を自分のモノとする事が出来るのはオレ固有のスキルだ。
それに今回の勇者の血は魔力がかなり濃いみたいだから、小瓶にいくつか残しておこう。
勇者の吸血効果は絶大で、これまで神の尖兵二体を相手に手こずっていたのがウソみたいで、今ならあの二体より遥かに強くなったと自信が持てる。
この数秒で先ほど召喚したアンデッド軍団はほぼ壊滅していたが、彼らはその役割を十分に果たしてくれたといえる。
後はゆっくりと草葉の陰からオレの活躍を見てくれよな。




