第8話 配下たちのアレコレ
「それで一体何が不満なんだ? このオレに何か要求でもあるのか? このダンジョンへ態々やって来て大切なコアを破壊しようとしていたのはお前たちの方だろう? お互いに生命を掛けて闘い、その結果として負けたのだから謝罪と賠償を要求するというのは……え、違うのか?」
まず最初に、この少女神官の名前だが、本人曰くプリーナ=シユパリティエと名乗ったが、普段は愛称の『プリン』と呼んで欲しいらしい。それと彼女が城で暴れていたのは、目覚めて直ぐにオレが居なかったので生前の行いが原因でいきなり棄てられたと勘違いしたらしいんだけど、オレが自分の配下を捨てるとか有り得ないのに、ほんとバカなヤツだ。
ショコラからプリンの暴れ方が尋常じゃ無かったと聞いたので、彼女のステータスを確認してみると極レアの吸血鬼になっていた。
それは上位種でもかなりレアとされる『吸血鬼の花嫁候補』だったのだが、オレと特別な間柄の異性しか成れないはずの存在が何故かそこに居た。
『吸血鬼の花嫁候補』とは文字通り『吸血鬼の花嫁』の『候補』の事で、彼女たちは不死の血を分けてくれた相手に対して絶対の忠誠心と愛情を持ち、共に永遠の時を歩んでくれるパートナーと成り得る存在で、そんな相手が居れば誰も知らない異世界での生活を『ぼっち』で過ごす事は少なくなるはず。
(まだ『候補』で『花嫁』では無いから、それほど気にする必要はないのか?)
これもショコラに聞いたのだが、こちらの異世界でもオレ以外の吸血鬼は太陽光が弱点で日中での活動に大きな制約があったり、弱い吸血鬼なら灰塵と化して滅びてしまうらしいのだが、プリンは元々あった聖属性の加護をそのまま継承してるおかげで、オレと同様に太陽の光で滅びたりはしないそうだ。
ただ普通の人より少し眩しく感じると思うがその程度だと思う。
プリンは元神官の中でも優秀な者が選ばれる『聖女候補』として、生前から適性のあった聖属性魔法を有したまま、今は闇属性魔法も行使できる暗黒神官となっていた。
こうして聖属性魔法を扱える、この異世界で最初の吸血鬼となっていた。
(これって明らかにチート能力者だよな?)
ダンジョンマスターとなってからまだ2日ほどしか経っていないが、不死者ばかりの配下が順当に増えてきた。
内訳としては100騎以上もの軍馬を備えた約200体のゾンビ部隊の他に、聖属性以外の全ての魔法が使える魔導リッチの他にも、聖属性が使える特異体質の吸血鬼が仲魔となり、あとは元居た世界のスパコンを遥かに超える演算能力を持つダンジョンコアの彼女も居る。
これで、とりあえず最低限の頭数だけは揃ったが、この異世界にある人属どもの国家連合との戦いを考えると、まだまだ満足出来る規模では無いが今は出来る事からコツコツ進めるしかない。
そこで最初に仲魔となった元B級冒険者のレオンたち4体とデッドエルフら3体を呼び出して、オレの血爪から不死の血を追加で与えてやると、全員がランクアップを経験した。
(レオンたちが死鬼から吸血鬼へと進化し、アルフィリオらデッドエルフらはヴァンプエルフへと至ったので、これで少しは安心して近接戦闘を任せられる)
これら吸血鬼4体の中には女性冒険者で魔術士のドロシーも含まれていたが、オレの血を注いで直系の吸血鬼になったからといって、必ずしも『吸血鬼の花嫁』になるとは限らない。
それは不死者にも様々な種族があって、本人が不死因子をその身に宿す時に心の底で願う強い想いが影響してくるから、必ずしもオレにとって都合の良い不死者に成るとは限らないと再確認できた。
だが玉座の間を出て行く際にドロシーの背中が少し寂しそうに見えたので、もし本人が希望するのであれば、今の身体の状態が安定した後で、もう一度クラスアップの機会を与えてやるべきか? 誰しも、より高位な存在へと至れるチャンスがあるならそれを望むよな。
こうして一度に7体もの直系吸血鬼を誕生させる為に、少なくない血と魔力を消耗したせいで眠気を覚えたオレは、城の最上階に造ってある寝室で休む事にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そしてオレが眠ってる間に、女性キャラの誰かがベッドに潜り込んで来るような胸熱イベントなど、別に期待はしていなかったが起こる事も無く普通に目が覚めた。
やはり不死者にキャキャウフフなイベントなんて、実装されてなくて当たり前だろう。
フラグすら立たないオレたち不死者に限って無いとは思うが、配下の反逆による流血シーンなど別の意味でシーツが赤く染まる可能性も微粒子レベルであるからな。
ここは素直に運営……じゃなくて、この世の邪な神様に感謝の祈りでも捧げておくべきか?
「おはようございますマスター。シルヴァニア城の北東にあるエルフの村に動きがありましたので、ご報告させて頂きます」
「判った。そのまま報告を頼む」
ベッドに寝そべったたまま、ショコラから話を聞ーー!! ちょっと待て。お前いつからこの部屋に居たんだ? 確かオレがこの部屋に入って寝た時には誰も居なかったし、ちゃんと鍵は掛けてたはずなのだが……。
オレの疑問の声を、まるで聞こえていないかのように完全スルーしたショコラからの報告は続く。
あの時、オレが配下にしたヴァンプエルフの3体が襲った約200人の騎兵たちだが、やはり何処かの国軍に所属する先行部隊だったようで、彼らが一人も帰隊しなかった原因を調べるため、今度は敵の本隊が出張って来たみたいだが、それも折込み済みだ。
何故なら、あの時オレの配下となったゾンビ部隊約200体が今も付近で待機中となっており、エルフの隠れ村に何か異常があればシルヴァニア城へ通信が入るようになっている。
尤も村の周囲にはエルフたちの結界が張ってあったので、余り近づき過ぎると感知される恐れがあったので少し離れた場所、それも地中に潜ませているから村のエルフたちは誰も知らない。
そして木陰には監視用の屍虫を配置してあり、村の付近で何か異常があればリアルタイムでシルヴァニア城から探知出来るシステムが設置されていたのを知り、うちのダンジョンコアであるショコラがチョー出来る子だったと認識を新たにする。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
目覚めてから執務室の椅子に座り報告書を読んでいると、ショコラが紅茶セットを乗せたワゴンと共に入室して来る。
血液とは異なる赤色を目で楽しみつつ口に運ぶと、元の世界で愛飲していたハーブ茶と同じような味をゆっくりと楽しむ。
それなりに時間を掛けて報告内容を頭の中で纏めた頃、ショコラが淹れてくれた紅茶を飲み終える。すると、それまで時間を計っていたかのようなタイミングで扉がノックされた。
「入れ」
そう短く返事をすると入口横で待機していたショコラの手によって扉が開かれ、先ほどまで読んでいた報告書の作者であるヴァンプエルフが入室してきた。
「そんなに心配そうな顔をするな」
「いえ、決して、その様な事は……」
他者から見れば無表情としか思えないと言われる不死者だが、オレからしてみれば感情豊かな表情にしか見えない。彼にして見れば、オレの配下となってまだ日が浅いため、あの時に眷属契約した内容について、ちゃんと最後まで履行してくれるのか一抹の不安が拭い切れないのだろう。
その気持ちは察してやるがオレたち不死者の契約とは、その後配下となり絶対的な命令権を持つ上位者となっても反故にする事はない。いや、それは出来ないと言うべきか。
彼にしてみれば報告書を上げてオレの命令を待ってる間中ずっと、故郷の村へ侵攻して来る人族の軍隊が刻々と迫っているから気が気じゃないのだろうが、まだ時間は十分にあるからそんなに心配するなと言っても、まだオレへの信頼度が低いのか不安そうな無表情は解れない。
なので彼らの期待に応えるべく、ポットの紅茶を残したままデッドエルフたちを引き連れて、エルフの隠れ村方面へと向かう。すると、その途中でアルニード教国の軍勢(と言っても2000人ほどしか居なかったが)が北へ向かって行軍しているのを発見したのは運が良かった。
さすがに今回は魔術士や神官らも同行しており 、いくら個々の強さで勝るオレの配下たちであっても、まだ不死者としての経験が浅い彼らでは、この戦力差で無傷での勝利は難しいだろう。
もし無策のまま攻撃を仕掛けると、前衛の重装騎士たちに足止めされている間に後ろから火炎系魔法で反撃されたり、不死者が苦手な神聖魔法によってヴァンプエルフたちが取り返しのつかないダメージを負わされたりするのが厄介だ。
一応、中位の吸血鬼と成ったアルフィリオたちであれば、下位の神聖魔法くらいならレジスト出来るとは思うが、敵神官のレベルや適性が高かった場合を考えると一概に大丈夫とは言えないからな。
それでもヴァンプエルフたち3体は、眠くなるくらいまでオレの不死因子を身体に注ぎ込んだ自信作なので、それなりの力を持つには至っているはずだと信じて進む。
何よりエルフの隠れ村を救いたいと望んでいるのは彼らなのだし、もし不運にも名誉の戦死を遂げてしまった時には城の地下に立派な墓碑を建ててやるからな。
目の前を進む軍隊の行軍を見ていると、今回は敵の本体とい事でそれなりの規模だというのに騎兵がほとんど見かけなかったのは、もしかしてヴァンプエルフたちによって先の戦闘で殲滅された約200名の騎兵どもが唯一の騎馬隊だったのだろうか?
そして貴重な戦力であるはずの騎馬隊だけを先行させた理由とは何か?
これは推測だが、最後まで逃げ延びた女エルフの勇者が敵にとって重要な攻略目標であり、その勇者が敗走していたのは、事前に行われていた戦闘によってエルフの軍が打ち負かされたからだと考えられる。
そして敗色が濃厚となったエルフたちは、自国の希望たる『風の勇者』を生き延びさせて未来に繋げようとしていたのだが、敵が千載一遇のチャンスを逃す訳は無く、脚の速い騎兵のみで構成された追撃部隊を差し向けたという情報は城で紅茶を飲んでる時に読んだ報告書から知っていた。
「マイロード様、そろそろ私ども3名に、出撃のご許可を頂きたいのですが……」
彼らの目の前には、これから隠れ村のエルフたちを攻撃するであろう人間どもの兵士が隊列を組んで行進している。
そして、それを目んみしたアルフィリオたちは血気に逸っており、今すぐにでも出撃したいと言うのだが、こちらから仕掛けるには未だ早い時間だ。
今ここで無策のまま襲い掛かれば、燦々と降り注ぐ太陽光の下で約2000名もの兵士を相手に真正面から戦う愚を犯す事になり、いくら防刃性能のある遮光素材で出来たコートを纏っていても配下の誰かが失われる危険性は拭えない。
オレとしては敵の魔術士たち全員とは言わないが、せめて神官たちだけでも先に暗殺しておかないと、オレの目の届かないところでアルフィリオたちの誰かが倒されてしまうのではと危惧している。
ヴァンプエルフたちの他にも、元騎兵隊のゾンビくんら約200体が地面の下で待機しているが、オレたちアンデッドの力を十分に発揮させる為には、せめて夕刻の時間まで待つ必要がある。
アルフィリオたちヴァンプエルフは太陽光の元だと若干だが活動に影響を受けてしまうし、もし直射日光を浴びてしまえば、滅びこそしないものの重度の火傷を負ってしまう。
それに紫外線や赤外線を遮断するショコラ薫製の黒いフード付きコートを纏ってはいるが、もしそのコートを斬り割かれしまえば、まだ成りたての初心者吸血鬼ではそれなりのダメージを負ってしまうだろう。
「いくらエルフの隠れ村が心配だと言っても、あそこにはしっかりした造りの防護柵もあるし少数だが戦士団の者たちも居るから、そう簡単にやられはしない。だから、確実に村を救いたいのであれば夕刻まで待つべきだ。もしそれまでに人間どもが村の中まで侵攻するならオレが直接乗り込んで何とかしてやるから、今は少しでも太陽が傾くのを待て」
まだオレの配下となって日が浅いため不安そうな無表情のデッドエルフたち。
血の契約によってオレに逆らう事は出来ないが、絶対の信頼と言うにはまだ少し心許ない。
その後、人間たちの軍がエルフ村へ到着して部隊を展開し、攻撃準備を始めたのは太陽が中天を少し過ぎた頃だった。
魔法:魔族や神族や精霊たちが扱う、この世の摂理を超えて魔力によって現象を具現化する能力。
魔術:人族など本来であれば魔法を行使できない種族が、呪文や魔法陣を使用して擬似的な魔法を再現する技術。聖属性魔術は信仰心によって神の力を借りるので『魔法』に分類される。




