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88.交友関係ライン大混線

挿絵(By みてみん)

【妹が水着に着替えたら(3/10)】

 今回はお兄ちゃんは単なるダシだ。



 自分にそう言い聞かせている間に、ようやく握ったスマホの振動が静まり、桜子はしびれた手でポチポチを返す。

『桜子:でさ、りょーにぃも友達誘いたいって言ってるんだけど』

『桜子:男子なんだけど、いいかな?』

返信に、少しの間があって……


『サナ:高校生? 男子はちょっとなあ……』


 海となれば水着。知らない高校生の男子の前で水着になることに、どっちかと言うと奥手なサナの尻込みが画面から感じられる。


『チー:別にいーんじゃん?』

『チー:リョータロー兄の友達だったら』


 どっちかと言わなくても肉食系のチーは、屁でもないようだ。

『桜子:りょーにぃの友達ならおそらく草食(笑』

『サナ:かなあ? だったら、まあ……』

『チー:けど、それだと男と女で2・3になるよね』

むしろチーにとって問題なのはそっちらしい。腕組みして考え込むスタンプが送られてきて、しばし……



ピロン♪ 『チー:アズマ誘わね?』



 思い掛けない提案が送られてきた。

(ほえ、アズマ君?)

桜子は、自分と顔を見合わせるサナが見えるような気がした。

『サナ:アズマか』

『サナ:うん、いいんじゃん?』

今度はサナもあっさり承諾した。

 三人にとって東小橋君は、クラスで一番遠慮のいらない男子で、草さえ食わねえ絶食系で、数合わせには……というと少々カワイソウだが最適任な人材だった。

『桜子:あたしもアズマ君ならいいよー』


 桜子がそう送ると、

『チー:OK、じゃあアズマには私からラインしとく』

一瞬の間もなく返事が戻ってきた。


 続くチーのラインからは、

『チー:アズマ、女子と海なんか絶対初めてだぜ(笑』

『チー:この先も一生ねーだろ』

『チー:私らが誘ってやんなきゃさー』

『チー:(指差してゲラゲラ笑うスタンプ)』

喜々としてアズマ君をディスる表情が、目に浮かんだ。

 チーはなぜか誰によりもまして、東小橋君に傍若無人だった。


 桜子はスマホから顔を上げて、遼太郎を振り向いた。

「りょーにぃ、サナ達いいってー」

「了―解」

「それと、アズマ君も誘うって」

「アズマ……ああ、例の忍者君」

東小橋君緒とは、遼太郎も一度会ったことがある。小太りでキャラ特化型のあの少年には、好感と親近感を持っていた。



 遼太郎は再びスマホを取り上げ、

「って、何でこっちが許可を得る側になってんだか……」

ぼやきつつポチっと通話を掛ける。


 ♪ぴろりぴろりぴろろーん……


『おう?』

「よう、俺だ」

『え、遼ちゃん?! どしたの、事故ったの、どこ振り込めばいい?』

「面倒臭えな、毎回毎回」


 遼太郎はため息をつく。コイツに連絡すると、とりあえずこういうひとくさりがないと、話が始まらない。

「んなことよりよ、なあ、海行かねーか?」

遼太郎が用件を切り出すと、通話の向こうはしばし沈黙して……



『何で青春真っ只中の高二の夏に、ヤロウと二人で海行かなきゃなんねーんだ。頭腐ってんじゃねーのか』


 文字にするとボロクソな言い草だが、口調からやり取りを楽しんでいるのがわかる。遼太郎も心得ていて、

「いいじゃねえか。男二人で海ってのも青春だろ」

『ヤダよ、そんな夢も希望もねえ青春は。それともお前、あんまりモテなさ過ぎてそっち方向にBL(くさ)っちった? 俺のケツ目当て?』

「そういうBL(くさ)り方はしねえ。よしんば腐っても、お前だけは対象外だ」



 遼太郎の軽口に、妹の首がぐりっと回った。

「え、お兄ちゃんBL(くさ)ってるの? あたしというモノがありながら?」

「ナチュラルに割り込んでくるんじゃねえよ」

「ヤダなあ。あたし、お兄ちゃんのそういうとこ、見たくないよ……あれ、ちょっと見たい? 待って、考えをまとめる……」

「まとめてどうする気だ?」

『おい、今の可愛い声、何よ? 妹ちゃ――……』


 ピッ。遼太郎は通話を切った。



 ♪ぴろりぴろりぴろろーん……ピッ。


『ちょ、遼ちゃん、ヒドくねえ?』

「とりあえず話が前に進まん。俺に話させろ」

『おう、話せ』

「俺もお前と二人、夏の海に悲しい思い出を作りに行く気はない」


 電話口でちょっと考えるような間があって、

『何よ、ナンパしに行く(げんちちょうたつ)ってハナシ?』

遼太郎は電話口のこちらでニヤリとして、

「いいや、“持参”だ」

またしばし、相手の沈黙……


『遼太郎サン、俺、ずっと前から遼太郎サンのことが……』

「ヤメろ」



 相手のテンションが明らかに変わった。

『何よ、遼ちん? え、遼ちんがセッティングしてくれってこと?』

「ふっ……俺はこう見えて、割とモテるんだ」

年下とか、身内とか……ウソは言ってない、ウソは。

『遼ちんセッティング、俺ペッティングくらいは期待していいってこと?』

「それはお前の頑張り次第だ」

まあ、その努力は青少年育成条例に基づき、全力阻止するがな。


「で、どうする? 予定空いてるか?」

『バカヤロウ。親の葬式があってもその日は空けるわ』

「バカはお前だ」



 こっちの予定が固まったら、また連絡入れると告げ、「待ってるぜ、アンド、愛してるぜ遼ち……」という相方の返事の途中で、遼太郎は通話を切った。

 その様子をじっと見ていた桜子が、

「……何か、漏れ聞こえた感じ、ちょっとイメージ違うかも……?」

おずおずと首を縮めて言う。確かに、アイツは“THE アホの男子高校生”と呼べる男だ。女子中学生と引き合わせるには、多少不適切な面もあるかもしれない。


 が、遼太郎はケンタローを知っている。


 妹やその友達に会わせたら、まあバカはやるだろうけど、断言できる。お調子者(バカ)だけど害はない男(いいヤツ)なんだ。

「大丈夫。俺はアイツのこと、ちゃんと制御できるから」

遼太郎が笑って言うと、桜子は深刻な顔をして……


「それって……エントリープラグ挿入!的な……?」

「頭腐ってんのか、バカ妹」



 キョドりながら赤くなる妹に、遼太郎は呆れ顔をする。

「はあ……むしろ、俺にはお前の方こそ制御不能だわ」

「えッ?!」

遼太郎の言葉に、桜子がビクッと肩を震わせた。

「エントリープラグ……?」

「ヤメなさい」


 海に行けるとなってテンションが上がったのか、妹のジョークがキワドイ。

「お兄ちゃん……桜子をそんなふうに言うこと聞かせる気……?」

「なワケねえだろ」

「でも……後ろ(・・)だったら、ギリセーフ?」

「いい加減にしろよ?」


 ぱぁん! 遼太郎のツッコみが、突っ込み禁止の妹のお尻に見舞われた。桜子はぺたんと床に尻をつく。

「ほらあ……お兄ちゃん、お尻好きじゃん……///」

「いや、違う……」



「何やってるの、あなた達……」


 あ、母さんがいた。



 硬直した遼太郎をイケニエに、桜子がおかーさんにしがみついた。

「おかーさぁん! りょーにぃ、いっつも桜子のお尻叩くの!」

「おま……いや、母さん……」

「遼君?」


 抱き寄せた娘の、ニヤリとした顔は、息子を見る母の視界の外だ。

「遼君と桜子の仲がいいのはね、いいと思うんだけど。でも桜子は女の子だし、もう中学生だし、お尻を叩いたりとかは、お母さんどうかと思うわ」

「ぐ……ああ、うん、わかった。気をつける……」

腑に落ちないことこの上ないながら遼太郎も、桜子と自分のこの頃の妙な距離感を、疚しいとは言わないが、母が納得する説明ができるとも思えない。



 敗北に沈み、睨む遼太郎に、桜子が口パクを寄越す。

(ゴメンね、りょーにぃ。ホントは桜子、りょーにぃのお尻好き、妹として受け入れる覚悟はあるからさ///)

(そうかよ、大問題だな……じゃあ、後でしっかり受け入れてもらうぞ)


 遼太郎のアイコンタクトに、桜子がわざと顔を赤らめる。

(エントリープラ……)

(それを妹として?)

ダミープラグ(・・・・・・)なら……)

(自分が何言ってんのかわかってんのか?)

(持ってそう……)

(何をだよ?!)


 後で5発叩かれた。



 こうして数日間あっちとこっちで連絡が交わされ、自然、桜子と遼太郎が繋いで幹事役になる。当初の桜子達の計画からは、ちょこっと変更はあったけど、ともあれ夏だ! 海だ! 青春だあ!


 六人六色の思いが集まる、その中心にある思いは、さて……?




挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 遼太郎のまわりはこんなのばっかりですな。 実にラブコメ環境でいいことですww [気になる点] アズマ君の今後の活躍具合ですかね? [一言] コトレットさんでもそうでしたが、ゴゴさんのお話は…
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