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56.二人でちょっとワルイコト

挿絵(By みてみん)

【二人ぼっちのお留守番(12/14)】

 結局二人は夕食に、ぜんぜん“エモく”ない駅前のラーメン屋さんに行った。

「決まった?」

「う、う~ん……」

メニューをつかんで悩む桜子を、遼太郎はお冷を飲みつつ待っている。

「味噌と担々でまだ決心が……」


 すると遼太郎、悩む桜子にかまわず、

「すいませーん」

「ちょ、りょーにぃ、待って……」

注文を取りに来た店員さんに、

「味噌ラーメンと担々麺、餃子二人前に、取り分けのお椀を」

ぽかんとする桜子に遼太郎は、

「両方食ってみて、好きにすればいいよ」

「え、でも、りょーにぃも食べたいのあったんじゃあ……」

「俺も味噌か担々だったんだよ」

そう言って笑う。



 遼太郎は昔からこうなのだ。お菓子が二種類あれば、必ず桜子に先に選ばせてくれる。ひとつしかなければ、絶対譲ってくれる。

「お兄……りょーにぃって、やっぱりすごくカッコイイね」

「???」


 ラーメン屋さんだけど、これ、めっちゃエモかった。




 **********


「あー、お兄ちゃんのおかげで、食べたいの両方食べれて大満足だよ!」

「そりゃ良かった。なあ、帰りにDVDでも借りてく?」

「いーねえ!」


 昨日買い込んだお菓子が、ゲームしてたせいで、ほぼ手つけずで残っている。今夜はダラダラ映画パーリィと洒落込もう。二人は駅前のレンタル店に寄って、

「何観るー?」

「そうだな。お互い好きなの選んでくるってのは?」

「あ、それ面白い。そうしよ、りょーにぃ」


 店内で別れ、10分後――……



 桜子セレクト(ジャーン!)、『ダークナイト』!


 遼太郎セレクト(ジャジャーン!)、『IT~それが見えたら終わり~』!!


「ぶっ殺すぞ、てめえっ!」

「ジョージィ……ヘイ、ジョージィ……」



 パッケージを見せられた桜子が、遼太郎の胸倉をつかんだ。

「昨日の二の舞じゃねーか。兄はそんなに人の失禁が見たいか。ならば即刻アダルトコーナに去れ。それとも実妹でないと満足できないか?」

「OK、そろそろ俺がゾンビにされそうだ」

「兄が特殊性癖過ぎて、桜子は悲しいです」


 桜子の手を叩いてギブアップした遼太郎、妹の持ってきたDVDを見て、

「ん、それ選んだのか?」

「ほら、一緒に行った映画のパンフに載っててさあ、面白そうだなって。りょーにぃもバットマン好きだし……って、もしかして観たことある?」

「て言うか、DVD(それ)持ってる」

「ありゃ」

遼太郎はアメコミコレクションのひとつとして、このDVDは押さえてあった。1500円の廉価版だが。すなわち、もう何度観たかわからない。



 桜子はDVDのパッケージを見下ろして、

「じゃあ、これはヤメて別のにしよう。あ、『IT(それ)』はナシね」

そう言ったが遼太郎は、

「桜子がそれでいいなら、家に帰って観よう」

「え、でも、観たことあるんでしょ?」


「俺は桜子とこの映画を観たいんだよ」

「ふえっ……?」



 恋人ゴッコ的にからかわれたかと思ったが、遼太郎は真顔である。

「前に映画行った時、桜子と映画の話するのすごく楽しかったんだよ。やっぱ兄妹だよな、あれだけ映画話せる相手、他にいないよ。それ、俺が一番くらいに好きな映画だから、一緒に観てくれると嬉しいんだけどな」


(これ……聞きようによって、めっちゃエモくない……?)


 お兄ちゃんの中であたしが一番なんだ。たかが映画を観る相手だとしても、お兄ちゃんの一番になれたんだあ……///

(がんばれ、桜子……お前がナンバー1だ!)

桜子の脳内で、M字ハゲのオッサンが親指を立てて(サムズアップで)祝福してくれた。



 思わずぼうっとした桜子に、遼太郎が少し苦笑いした。

「けどこれ、女の子ウケしない映画としても有名なんだけど」

「いいよ。りょーにぃがあたしと観たいなら、何だって」

「じゃあ、『IT(これ)』でも?」

遼太郎が顔にパッケージを突きつけてきて、桜子はニッコリ笑って兄の頬をちぎる勢いでつねった。

「それ以上見せたら、マジでお風呂も一緒になるからな」




 **********


 結局、立ち寄ったものの手ぶらでレンタル店を後にする。



 すっかり暗くなった帰り道、並んで歩いていると、遼太郎が言う。

「アマプラ入ろうかなあ、たまに一緒に映画観るなら」

「いいね、これからも時々一緒に観よう」


「あたし、りょーにぃと一緒だったら、きっと何観ても楽しいなあ」


 そう可愛いことを言うものだから、遼太郎は思わず妹に頭をポンポンした。すると桜子はニッと笑って、

「ところで、エッチなDVDは持ってないの?」

遼太郎の足を止めさせた。

「モッテナイヨ……」


 チョットシカ。



 遼太郎の棒読み台詞に、桜子の目がキラキラと輝き出した。

「りょーにぃ、それも今日一緒に観よう!」

「アホなこと言うな」

「あたし、りょーにぃと一緒だったら、きっと何観ても楽しいなあ」

「いや、アカンわ。兄妹でエロDVD観て楽しくなったら」

「楽しいコト、しちゃう?」

「泣かすぞ」

「ヒィヒィと?」

この流れになると桜子が強い。劣勢の遼太郎、安易に桜子の手を引いて道の端に誘導、よそ様の塀に壁ドンするという軽挙に出た。

「オマセな小猫ちゃんだな。けど、好奇心は猫も殺すと言うぜ……?」


「兄の”悪魔将軍“をナメるなよ……?」


 桜子がビクッとして、首から上を真っ赤にして、震えながらうつむいた。

「お兄ちゃん……あたし、“そんなこと”できないよぅ……」

「え……あッ!」

遼太郎は自分の言葉に含まれる……というか直球に気づいた。

「フェ……って言うの? 恥ずかしいよう……」

「違う! 違います! そういう意味じゃない!」

双方自爆、この戦いに勝者はなく、ただ屍だけが地に転がった。



 遼太郎は桜子からそっと身を離し、二人はしばし無言。やがて桜子が、

「あたし、お兄ちゃんがどういう女の子がタイプなのかな、って……」

「兄の女性の趣味を、それで計ろうとするな」

実際のところ遼太郎は、出演者の容姿よりシチュエーションを重視する派だ。故に手持ちのDVDを二人で観た場合、画面の内と外で“時が止まる(ザ・ワールド)”。

 ちなみに遼太郎の持つDVDの出所の概ねは、Z指定ゲーム同様、親友(あくゆう)江坂健太郎(ケンタロー)その人である。


 チラッと、見上げる桜子から、遼太郎は顔を背ける。妹よ、男の心の内側を、女の子が覗き込もうとするもんじゃない。外からは見えないものなんだ。古いアニメソングにもあるだろう? ♪男には自分の世界がある……


 ♪喩えるなら空を駆ける、マジックミラー貼りになった車――……




 **********


 家に帰って、今夜は滞りなく順番にお風呂を使って、遼太郎は部屋にDVDを取りに行き、桜子はお菓子の準備をして、此花兄妹は二日目の、二人での最後の夜を万全の態勢で迎える構えだ。


 DVDをセットして、ソファに座った遼太郎は、

「もう観れる?」

キッチンの、パジャマ姿の桜子に声を掛ける。すると桜子は冷蔵庫を開けて、

「お兄ちゃーん、こんなの見つけたよ~?」

カウンター越しに、悪い顔と声を返してきた。その手にあるのは……



 缶チューハイ、ピーチ&マンゴー味。


 確かそれは、母さんが何かで貰ってきて、1か月ほど前から冷蔵庫に入れっぱだったやつだ。父さんは甘い系はやらず、母さんは基本的に飲まないので、ずっと冷蔵庫の肥やしになっていたのだ。

「酒か……」

「えへへ、ダメかな……?」

ダメかと言われれば、まあ、ダメだろう。自分も桜子も未成年です。

(うーん……)

けど、桜子なんか飲んでみたい年頃だろう。好奇心、あるいはオトナ気分。自分も覚えはある。遼太郎は頭の中でリスクの算盤を弾く。



 まず親バレ。両親ともに放置していた酒だし、なくなってもすぐには気づかないかなあ。後でバレても、時間が開けば開くだけ今更感が出るし、

(最悪、俺がコッソリちょこちょこ飲んでたと、ひっ被ればいいか)

中学生の妹に飲ませたよりは、お咎めは少なそうだ。


 次に飲酒そのもの。チューハイ1本くらいどーということもないと思うが、万が一桜子が目を回したとしても、

(明日も休みだし、母さん達が帰ってくるのは夕方だろうし)

それも何とかなるだろうと思う。


 最大の懸念は、酒飲んだ桜子がどうなるんだ、ってことだ。


 普段でさえ暴走超特急が、酔うとどうなるか、考えると興味深いと同時に怖ろしくもある。

(♪汽車は闇を抜けて、光の海へ……)

地上からテイクオフして、暴走列車が銀河鉄道になりかねない。


 何か、脱ぎそうだし。



 とは言え……

(いくら桜子でも、チューハイ1本で前後不覚になりもしないか)

遼太郎とて、大きな声じゃ言えないが、ビールの1本2本飲んだことはあり、別にそこまで酔いはしなかった。

(どうせ寝落ちしちまうくらいだろ)

後始末はできそうだ、と遼太郎は踏んだ。父さん母さんがいないのも今夜だけ、固いこと言いっこなしだ。


「……他に何があんの?」

「後ねー、グレープフルーツとブドウとー」

「じゃあ、グレープフルーツ」


 正直、自分もちょっと飲みたいし。



 遼太郎がそう言うと、桜子がイヒッと笑った。

「いいの、りょうにぃ~?」

「ま、今夜は特別ってことで」

遼太郎が片目をつむると、桜子は満面の笑みで両手に缶を持ってきた。ポテチをパーリィ開けにする。DVDをスタートする。


 カシュッ……缶を明けて、軽くぶつけ合う。


 桜子はお酒を飲むこと以上に、遼太郎とワルイコトしてる、二人で秘密を分かち合うことが嬉しいようだ。

「乾杯っ、りょーにぃ!」

「おう、乾杯」



 画面に、WとBのログマークが映し出される――……




挿絵(By みてみん)

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