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最下層の僕と追放された公女様は辺境の地で生き残ります  作者: オカメ香奈


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第92話 責任

 それからすぐに僕はポナペンチュラ8号ちゃんを隠しに行った。8号ちゃんは以前のポナペンチュラシリーズとはまるで別の車のようだった。それまで箱になっていた場所はただの荷台になり、大量の物資が詰めるように改造されていた。後ろから見ると、荷馬車のようにも見える。


「ふふふ、わかったかい。これで、ほかのものが見ても怪しいと思わないだろう。ポナペンチュラ8号ちゃん、荷馬車バージョンだ」

 ポナは得意そうに言う。

「まぁ、後ろから見れば、荷馬車に見えないこともないかな」

 控えめな評価だと思う。偽装はうまくいっていなかった。


「うむ、不満か。実はボクもそうなのだ。完璧な荷馬車仕様の自動車は作れなかったのだ。ボクの英知をもってしても馬型の運転席を作ることはできなかった。でも、後ろは忠実に再現したぞ。これなら怪しまれることなく食料やその他を運べるだろう」


「それはどうだろう……」


「大丈夫だよ。動くところさえ見られなければ。それ以外は普通の馬車でしょ。ねぇ、どうどう? あたしがこのギソウを考えたんだよ」荷物を積んでいたサラが自慢した。「あたしも坊ちゃまの助手として活躍しているんだよ。あ、これ、慎重に運んで」

 手伝いをしている子供にサラは指示をした。

 サラと一緒にいたのはどこかで見たことのある子供たちだった。砦に避難していた黒い民の子供たちだろうか。


「おい、サラ。この子たちは誰だ? あそこのことをこいつらにも話したのか?」


「うん」サラはあっけらかんと認めた。「前にもいったじゃない。いろいろ手伝ってもらってるって」


「こんなに多くとは言っていなかったぞ。僕はせいぜい一人か二人かだと思っていたのに」


「いいじゃない。どうせこの子たちが入れるのは上の層だけ。そこから先は作った扉もあるし、なにより守護者が入れてくれないから」


「……それは、ひょっとして、ポナの助言者とやらかい?」

 古代の“AI”のことだろうか?


「うん。みて、みて」サラは首から下げた袋から小さな玉のようなものを引っ張り出した。「これ、古代人くん3号だよ。下に行けるのは古代人君たちに認められた人だけなんだ」


「ハジメマシテ。ワタシ、古代人くん3号デス」

 聞き取りにくい耳障りな音でそれが挨拶をした。


「………」


「管理者様、認メマス。じー」


「………」


「うむ、やはりそうか」ポナが興味深そうにこちらを見ていた。「実は、僕の助言者はフラウにも同じことを言っていたのだ。きっと、アークとフラウがあそこに最初に入ったから、助言者は二人のことを管理者と……やはり、一度研究施設にくるのだ。大規模な実験するのに管理者の許可がいるとかなんとか、うるさいのだ」


「いけるかよ。やらなきゃいけないことが山積みなんだぞ」


 行かないほうがいい気がした。管理者権限を必要とするポナの実験って何だろう。

 何でもかんでも許可を出していたら、そのうちにこのあたりが吹き飛ぶのではないだろうか。

 とにかく、ポナ坊ちゃまとその機械は人目に触れさせるわけにはいかない。僕は、自覚のない坊ちゃまとお目付け役のサラに砦には車を持ち込まないように繰り返した。


 秘密基地に戻るポナたちを見送ってこっそり僕は砦に戻った。


 戻ると、表のほうがざわついていた。


 魔獣や魔人の襲撃ではないようだ。僕が人の輪をのぞくと、北の王の巨体がすぐに目に飛び込んできた。北の王と一緒にいるのは見知らぬ数人の兵士だった。ジーナや隊長が彼と何かを話している。


「12砦も落ちたらしい」周りの兵士が噂をしていた。「あいつらは、その生き残りだ」


「……ルネ隊長は、どうした?」クリフは知り合いらしい12砦の隊長を気遣う。


「あの男は、8砦のほうへ避難した、と思う」北の王が答える。「こいつらもそうしようとしたらしいのだが、うまく逃げきれなかったらしい。だな」


「俺たちは、伝令だったんです。あとに残った部隊は……」

 真っ黒に汚れた顔から人相は判別できないが、若い声だった。僕と同じか、少し上くらいの年齢だろうか。


「そうか。よく、ここまでたどり着けたな。ここなら安全だ。休め。そこのでかいあんた、兵士と守ってくれてありがとうな。どこの部族かは知らねぇが」


「俺は北の王だ」

どうどうと、巨漢は名乗った。

「こっちの砦には、はじめまして、かな? 12砦にはしょっちゅう出入りしていたんだが」


「ああ」

 クリフ隊長は少し遠い目をした。12砦も黒い民と協定を結んでいたようだ。王自ら出入りしていたとなると、もっと密接な関係だったのかもしれない。


「王だと? 敵の将軍か?」

 しかし、そんなことは知らない第7砦の連中が色めき立った。


「将軍? 俺は王だ」北の王は耳ざとくその声を拾う。「なんだ、俺の首が欲しいのか? 俺に挑戦したいのなら、いつでもこい。名乗りを上げろ」


「おいおいおい、やめてくれ」クリフ隊長は渋い顔をする。「今は、争いはしない。ここで味方同士争ってどうするんだ。おまえたち、いっただろう? 黒の民とはともに魔人と戦う仲間だと何度言ったらわかるんだ。彼は魔人と直接戦うことのできる数少ない戦士だぞ」


 第七砦の兵たちは黙った。彼らもそれはわかっているのだろう。ただ、納得できるかはまた別の問題だ。


 隊長と北の王は二人そろって隊長の部屋に消えた。現状についての話し合いが行われるのだろう。そして、それがあまり良いものでないことはみんなうすうす察している。12砦が落ちたということはこのあたりで残っているのはこの13砦と8砦だけだ。


 ひょっとしたら、8砦も……


「アーク、隊長が二人一緒にきてと」

 呼び出しがかかったらしい。フラウが僕を呼びに来た。


 隊長の部屋に入ると、いつも隊長が座っていた席にどっかりと腰を下ろした北の王が親しげに手を上げて挨拶をした。


「よう、"導き手"殿。それに、"杖"殿。元気にしてたか」


 いつやってきたのだろう、西の王が優雅に北の王の後ろで優美に壁にもたれていた。それにベルトルト隊長とおつきのハイデ、ライクとケーラ、この砦で士官を名乗れる人物が勢ぞろいしていた。部屋の中はいつも以上に狭く感じられる。僕はようやくのことで扉を閉めて、壁に立った。


「まぁ、楽にしてくれや」北の王は相変わらず態度が大きかった。「先ほども話していたのだが、状況は、まぁ、よくない」


「よくないなんて、そんなもんじゃないだろう。最悪だ」西の王が言い直した。


「このあたりに残っている帝国の砦はここだけだ」


「……8砦は、も、ですか?」フラウが尋ねる。


「ああ。もう、ない」北の王は簡潔にいいきった。


「砦にいた兵たちは?」


「詳しいことはわからないが、たぶん、撤退したんじゃないかな。あそこの隊長は現実派だからな。全滅した第六砦の愚か者どもとは違う」


「死者を、けなすのはやめろ、バカ。不謹慎な」西の王は足を組み替えた。「とにかく、今ここにいるものだけが辺境の砦を守る最後の戦力だ」


「これからどうするか、だが」

 みんながちらちらとフラウを見ていた。その視線にフラウは落ち着かない様子だ。


「選択肢はほとんどない。ここで籠城するか、撤退するかだ」

 クリフが下を見ながらいう。


「籠城、ですか?」


「ああ、ここにこもって援軍が来るまで待つ。援軍が来れば、の話だがな」


「もう一つは、撤退」


「そう、第12砦や第8砦のように砦を捨てる決断をする。もっとも撤退といっても命の保証はない。途中で魔人に襲われたら、おしまいだ」

 そういって、クリフは確かめるようにフラウを見る。


「それで、なぜ、皆さんはわたしのほうを見ているのです?」

 フラウがついに聞き返した。


「それはだなぁ。嬢ちゃんのいない間に、ちょっともめたんだよ。そこのベルトルトさんだっけ、とクリフ隊長との間でな」

 北の王が頭をかいた。


 まだ、完全に回復していないベルトルト隊長は気分が悪そうだった。それでも、鋭い目でクリフをにらむ。


「クリフ隊長は、撤退を主張した。ベルトルト隊長は籠城を主張して、平行線だ」

 フラウは自分に何を求められているかを悟って唾をのんだ。


「それって……」

 彼女は救いを求めるように二人の王のほうを向く。

 西の王は首を振った。


「撤退などありえない」ベルトルトが吐き捨てるようにいった。「我々は栄光に満ちた帝国の軍だぞ。その威光を汚すような真似はできないだろう」


「そんなこといっても、この状態じゃぁ、戦えない。あの魔人の数を見ただろう。あれでも、まだ先兵だとあんたもいってたじゃねぇか。第六砦を襲った数には及ばないって。このまま戦えば、全滅する。ジリ貧だ」


「たとえ、全滅しても戦うべきだ。それ以外に、我らの名誉を守る手段はない。家門の名誉を守り、誉を……」ベルトルトはせき込んだ。


「名誉、名誉って、そんなものとっくにないだろう。何をいまさらいってるんだ。そもそも、そういうあんただって、第7砦を捨ててここにきてるんじゃねぇか」


「捨てたわけじゃあない。そういう命令だったからだ。盾となり、魔人を引き寄せろという」

 ぎらぎらとした目でベルトルトはクリフをにらみつける。

「その間に、攻勢をかける。そういう話だった」


「……ようするに、餌にされたってわけだろ」クリフが毒のこもった言い方をする。


「たとえそうであっても、これは名誉の問題だ。私は退くわけにはいかない。ルース家の再興のためにも、私は家名に傷をつけるわけにはいかない。これ以上……フラウ殿。あなたならお分かりのはずだ」


「わたしは……私は」フラウは口ごもった。


「もし、不名誉な撤退をすれば、家の名はさらに堕ちる。そうなれば、一族を苦役から救うこともできない。わたしたちは退くことは許されていない。敵が魔人であっても戦うのみだ。帝国の星の旗のもとに死すことはあっても、けして退くことはない。できない。」


「これだから、お貴族様は……」クリフがちっと舌を鳴らした。「家名とか、名誉とか、どうでもいいものにこだわりやがって」


 それは違う、と僕は思った。ベルトルトがこだわっているのは家族だ。大切に飾られていた肖像画の中で微笑んでいた女性と子供たち。


「ひかなきゃぁ、確実に全滅だ。援軍なんか来ない。くるわけがない。ここは、不満分子を効率的に減らすための砦だ。自分たちが手を汚さなくてもいい、厄介者を始末するための処刑場だぞ。黒の町の連中は喜んでいるだろうよ。空きが出てな」


「だが、退いたところでどうなるでしょう。黒の町の司令部はそれを許すと思いますか?」ハイデさんが冷たい声で割り込んだ。「命令を無視して撤退した罪で裁かれるのではないですか? ほかにもいろいろ規律違反を犯しているみたいですけれど」


 クリフが目を細めた。明らかな敵意がハイデさんに向けられる。


「まぁ、まぁ、そんなに熱くなるなって」北の王が会話に割り込んだ。「こんな感じで争っているわけよ。お嬢ちゃん」


「それで、わたしにどうしろと……」


「お嬢ちゃんはこの中では一番地位が高いんだろ。それに、“導き手”でもある。あんたが決めたことにはみんなが従う。この砦の兵士も、我ら辺境の民もだ」


 みんなの目がフラウに集まる。


「……ちょっと、考えさせてください」


 フラウが部屋を出ていく。僕は扉を開けて、彼女を通した。

 そしてすぐ彼女の後を追って扉を潜り抜ける。


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