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第9話 宝探し

 ライクが新しく開拓したいと思っている場所は意外にもこの野営地の近くにあった。こんな砦から近い場所なのにいままで偵察に行ったことがないとは驚きだ。


「おい、装備は多目に持って行けよ」古参兵が忠告してくれた。

「あそこは、近場だが、危険なところで何度も調査を中断しているんだ。何かあったときのために備えろよ」


「そういうところなら、黒翼の連中も荒らしていないかもしれないね」

 僕は黙って荷物を詰めているフラウに話しかけた。

「ものすごい、お宝があるかもしれないな」


 その場所は、大きな木の陰に隠された穴の中にあった。草の根を伝って穴の中に降りるとそこにはぽっかりと空間が広がっている。


「ここから先は二人で行動するように」

 ライクが隊のものを集めて指示を出した。もちろん僕とフラウは組まされた。


「アーク、フラウを補助してやれよ」

 一部分しか書かれていない地図を渡しながら、ライクは念を押す。

「今わかっているところはこの地図に書いてある所だけだ。残りはそれぞれが埋めていくように」


「光板は使わないの?」

 フラウがそっと聞く。

「光量不足。それにこの場所では、光につながるのは難しい」

「黒翼のいる場所だから?」

「それだけじゃなくて、ここは繋がりにくい場所だと聞いた」


 そういえば、なぜこの場所で光が使いにくいのか、その理由は僕も知らなかった。フラウがいっていたように黒翼たちがいるから使えないのではなく、使えない場所だから黒い民が追放された、というのが正しいらしいのだが。


 僕らは灯りをともして、他の人が行っていない方向に向かった。洞窟の中は暗く、明かりで照らしても先は見通せない。どこかで水の滴る音がする。じめじめとした床に汚い水が溜まって、足元が危うい。


「まっすぐ行って、左に行くみたいだな」

 僕は手元の紙を照らしてみる。暗い地下の通路で暗い気分になっている僕とは違って、フラウはなぜかとても楽しそうだった。


「みて。ここ、遺跡の中なんだわ」

 フラウが汚い汚れのついた壁をぬぐってもようを覗き込む。

「これ、壁に文字が掘られているでしょう」


 僕はあまり触れたくない壁をおそるおそる触れてみる。

 案内板だろうか。何かの文字のようなものが浮き上がって見える。


「フラウ、詳しいんだね」


「私の家はこういうものを研究していたの」

 フラウは熱心にあたりを調べている。

「最近ではここほどの遺跡は残っていないとされていたのに」


「へぇ」

 フラウの家は学者の一族だったのだろうか。僕には遠い世界の話だった。


「砦もなかなか価値のある遺跡だけれど、未盗掘の遺跡というのはとても珍しいのよ」

 興奮しているのかフラウはいつもよりも饒舌になっている。年相応に、年に似合わない話題ではしゃいでいる彼女はいつもにましてかわいらしい。


 彼女は得々と僕の知らない古い時代の話を話してくれた。どうもここは大災厄以前の町で、光の技術がなかったころの町らしい。“僕”の理解からすると、“あとらんてぃす”とか“むー”レベルの話なのだろうか。


「じゃぁ、いい宝物が見つかるかもしれないんだね」


「というよりも、この遺跡自体が宝物ね」フラウはあちらこちらを明かりで照らしてみている。

「本当はもっと本格的に調べたいのだけれど、光板がないときちんとした測定もできないわね」


 僕は奥のほうの通路を照らしてみた。何かが灯りに反射してきらりと光る。


「なぁ、何か光ったよ。お宝かもしれない」

「アーク、気を付けて。こういう遺跡は崩れやす……」


 最後までフラウの言葉は続かなかった。


 足を踏み外すような感覚。足元のぬかるみが急に消えたような気がした。


 地面が、ない?


 僕はとっさに手を伸ばして何かをつかもうとしたが、指先には何もかからない。

 フラウの小さな悲鳴が聞こえた。


 たたきつけられるような衝撃を背中に感じた。そのまま、加速して下に滑っていく感覚がある。

 “コウソクすらいだー”。“僕”の頭の中で水着を着て滑り落ちていく映像がかすめた。

 必死で壁に手を伸ばして速度を落とそうとしたが、加速は続いていく。


『!』

 フラウが何か叫ぶのが聞こえた。


 次の瞬間僕らはどこかわからない空間に打ち上げられ、暗闇の中で下と思われる方向に落ちていき。


 全身を貫く衝撃が来るかと身構えていたが、何かが僕の落下を和らげてくれた。

 それでも、十分に骨が折れたかと思われる衝撃で僕は息ができなくなる。


 痛みでしばらくは周りがどんなところかすらわからない。


「……アーク、アーク」


 フラウの呼ぶ声にしばらくしてからうめき声で生きていることを知らせる。どうやら致命傷は追っていないらしい。かなりの深さまで落ちたような感覚があったのだが、気の迷いだったのだろうか。


「フラウ、大丈夫か?」

 ようやく、小さな女の子を気遣う余裕が戻ってきた。


「わたしは、大丈夫。アークは?」

「僕は……」


 僕は体を少しずつ動かしてみた。大丈夫、ひどい傷はない。

 でも、足を動かすと鋭い痛みが走る。どうやら足首をひねってしまったらしい。


「アーク」

 フラウの姿が照らす灯りと一緒に目の前に現れた。見る限り、彼女はかすり傷程度で済んだらしい。


「よかった。ずいぶん落ちたような気がしたけど、無事だったんだね」


「光術を使ったから」

 フラウはさりげなくすごいことを言う。


「光術をつかった? 大丈夫なのか? 君の光量は?」

「それよりも、ごめんね。アークにもかけたのだけれど、間に合ったかしら?」

「ああ、ダメかと思ったけど、大きな怪我はしていない。でも……足をひねったみたいだ」


 僕はそばにある岩にもたれて、息を整えてた。

 先ほどの人の手が作った場所と違って、ここはずいぶんごつごつしていた。たぶん、自然にできた洞窟の一部なのかもしれない。


「しかし、驚いたな。あんなところに穴があるとは」

 穴などなさそうな場所だったのに、驚きだ。こういうことがあるから地図も作られずに放置されていたのだろう。


 フラウは物も言わずに、僕の足を確かめる。


 重苦しい沈黙に耐え切れずに、僕はあたりを見回した。

 ずいぶん広い空間のようだ。天然の穴なのだろうか。かすかに光る灯りのもとではどこまでこの空間が広がっているのかわからない。


「フラウ、大丈夫だ。ひねっただけだから」

 僕は岩につかまるようにして立ち上がろうとする。


「だめよ。じっとしていて」フラウが僕を押しとどめた。


「でも、まわりがどうなっているかをみないと」


 僕は無理やり立ち上がって周りを明かりで照らしてみた。岩の壁と暗闇。いったいここはどこなのだろう。落ちてきた穴がないかと探したが、暗くてよくわからない。


「まいったな。ここはどこだろう」


 ライクたちが探しに来てくれる、などという気休めをいう気はなかった。ここは地図には載っていない場所なのだ。危険を冒して彼らがやってくることはない。


 自分で何とかしなければ。そう思ったが、足が痛くて動けなかった。


「ちょっと、まって。手当てするから」

 フラウが背負っていた荷物を下ろして布を取り出した。それを巻いて足を固定する。

「他は痛くない? 大丈夫?」


「うん。大丈夫」


「痛いところがあったらいいなさいね、いい? 大丈夫なら、そこに座っていて。ちょっと周りを見てくるから」

 小さい女の子なのに、まるで世話焼きのお姉さんのような口調でフラウは僕に命じた。


「フラウこそ、大丈夫なのかい?」


「私は大丈夫。それよりも、ちょっと休んでいて」

 少女は口を引き結んで、僕のそばから立ち上がると暗闇に向かって歩き出す。

 いったん遠ざかった灯りはすぐに戻ってきた。


「ずいぶん、大きな空間なの。ここは何なのかしら」


「自然の洞窟かな? 前に偵察に行ったときそういう穴に潜ったことがあるよ」


「うーん、壁は自然物らしいけれど、どこか人工物臭いのよ。ここも遺跡の一部じゃないかしら。生き物の気配がないの」

 光板があれば……とフラウはこぼす。


「光板があってもつながらないんじゃないかな」僕が言うと、フラウは目を丸くした。


「つながらなくても、空間探査はできるでしょ。それができれば、この空間の地図を作ることができて……」


「無理だよ。だから、僕らでは光量が足りない。等級が低すぎて、接触することは許されていないんだよ」

 フラウが本当に驚いているのが分かった。


「ごめんなさい。その、アークは……」


「気にしなくていいよ。僕の等級が低いのは生まれつきだから」


「違うの、そうじゃなくて、そうなんだけど」

 フラウは床に目を落とした。

「とにかく、ちょっとこの辺りを見てくるね」


「待って、フラウ」一人で行くのは危険だ、といいかけて僕は言葉を変えた。

「僕もゆっくりと歩いていくから、ちょっと待って」


「無理はしないことよ」小さな女の子に似合わない落ち着いた口調でフラウは僕を諭す。

「ちょっと行ってくるわね」


 彼女は灯りを手にこの空間を調べにいってしまった。



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