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最下層の僕と追放された公女様は辺境の地で生き残ります  作者: オカメ香奈


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第85話 知らせ

 それから何回か、ポナ坊ちゃまは試作品を持ってきた。数字が少しずつ上がっていくだけで、違いが分からない時もあれば、格段に進歩しているときもあった。


 そのたびごとに、僕らは神官騎士に見つからないか気を張っていたけれど、ケーラがやってくることはなかった。


「あの女なら、外で体を鍛えていたぞ」

 ポナがそう報告した。


「ラーズ曹長に頼んで、辺境式の体の鍛え方を教えてもらっているとかなんとか、そう、サラがいっていた」


「どういう風の吹き回しなんだろう?」

 僕は驚いた。


「さぁ。えらく熱心だったぞ」

 ポナはなんでそんなくだらないことを聞くのか、と言わんばかりに自分の手元に集中している。

「今日は、新しい種類の魔道具を持ってきたのだ」

 彼は薄い紙を慎重な手つきで広げた。


「なんだ? これ?」

 紙には同心円がいくつも書いてあり、その中に小さな文字らしきものや図形がちりばめられていた。

「あの研究室の基盤に彫ってあった。それを、あの医者が写し取ったものなのだ」


「変な図形だな」

 僕が触れようとすると、ポナは慌てて僕の手を払った。


「やめろ、壊れてしまう。これは、あの記憶装置の中にあったのと同じ素材の紙のようなものなのだ。丁寧に扱わないと、すぐに駄目になってしまう」


「そうなのか? どうやってこれに移すことができたんだ?」


「記録が残っていたのだ。古代語の少しだけできる医者の翻訳と絵からおそらくこういう使い方をしたのではないかと、推測したのだ」

 得意そうにポナは説明する。

「あそこはすごいぞ。古い時代の研究施設が原形を保っている。アークも一度来るといいぞ。フラウもきっと夢中になる」


 そんなことを言いながら、ポナはその上に何代目かのエマちゃん開放計画をのせた。


 起動するといつもと同じように文様が広がり、そして。


「あ」

 フラウが声を上げた。


「どう?」

 ポナはフラウにきく。


「すごいわ。なんだか、魔力が……この感覚はあの地下の洞窟と同じだわ」


「この文様で、遮断して、この装置で残りを吸い取る。完璧だ」

 ポナはウキウキともみ手をしていた。

「後はこの装置を小型化して……」


 フラウは感心しきりだったが、僕はポナの態度に違和感を覚える。


「おい、ポナ」

 僕は帰り支度をするポナ坊ちゃまを呼び止めた。

「おまえ、僕に隠していることがないか?」


「隠していること? どうせ、全部話してもアークには理解できないだろう」

 ポナ坊ちゃまの頭の中は新しい道具のことでいっぱいだった。


「まてよ。お前、誰かに助言もらってないか?」


「誰かに?」

 ポナ坊ちゃまの眼鏡越しでガラスのように見える目が僕をとらえた。


「誰かに、じゃなきゃ、何かに」

 僕は突き動かされるように言葉を重ねる。

「たとえば、“人工知能”……あー、古代人の作ったしゃべる機械とか……」


 坊ちゃまの瞳が見開かれた。

「おまえ、どうしてそれを知っている? まだ、彼らに紹介していないよね」


 ……本当にいたのか。いや、なんとなく“ルンバもどき”が出た時点で予想はしていたけれど。


「ただの推測だ。あまりにも技術の発達が早すぎたから、誰か、何かに、頼っているんじゃないかと思って」


 ポナ坊ちゃまの目がキラキラした。


「おまえ、さすが、ボクの会計士だな。理解が早い。彼らにお前のことを伝えておく。会計士として登録しておくからな」


「まてまて、彼らって、どの程度の知能があるんだ? 話ができるのか? それとも……」


「彼らは掃除をしてくれる。空気もきれいにしてくれる。あそこを人が住めるように整えてくれるんだ。古代人はだな、召使にやらせるようなことを機械にやらせていたのではないかと、僕らは考えている。銀の国の技術よりももっと発展した形でだ」


「銀の国? まさか銀さんが研究所に行ったとか言わないよな」


「あいつはボクの研究を盗もうとしている泥棒なんだろう。ボクが許可するはずはないだろ」


 疑われたポナはさすがに腹を立てた様子だった。あらかじめあの男をスパイだと教えておいてよかったと僕は胸をなでおろした。


「そうだ。お前にボクの助手としての仕事を与える」

 ポナは背中に負った袋から、ジャラジャラと小さな道具を取り出した。嫌な予感がした。


「いらない」


「待て、まだ何も言っていないぞ」

 ポナは不思議そうに聞く。

「これはだな、ボクの試作品、エマちゃん開放計画小型版だ」


「あー、やっぱりいらない」


「失礼な奴だな。話も聞かずに」

 自分も人の話を無視する癖に、坊ちゃまは僕の態度が気に入らないようだった。

「この実験を手伝うのだ。なに、やり方は簡単だ。無学な会計士でも扱えるように極力簡単な仕組みになっている……」


 ポナのいう()()()()()は僕の理解に及ぶ代物ではない。ようするに、この上の突起をぽちっと押せば実験ができる、ということだけ理解した。


「ようするに、フラウに頼んで、いろいろなところで使ってほしいということなんだね」


「フラウちゃんだけじゃないぞ。神官とか、神官騎士とかもいるんだろ? あいつらの魔力を吸い取れるかの実験をするのだ。フラウちゃんの魔力は吸い取ることはできるけど、ほかの人も同じような効果があるかわからないだろう?」


 はいはい、と請け負ったが、それを行うつもりはなかった。

 なんで、僕がそんな危険な実験をしなければいけないのか。見つかったら言い訳もできない。


 でも。確実にポナの機械は進化している。


 あと少しだと思った。

 あと少しで、エマは地上を歩くことができるかもしれない。ポナの研究は()()()()()のおかげで普通では考えられないほどの速さで進み、そのことがことさら僕の気分を明るくしていた。


 今は顔を見ることができないけれど、そのうちに会いに行ける。

 偵察任務が始まったら、こっそりと会いに行こう、そんなことを考えていた。


 報せが入ったのは、長雨の後の晴れた日だった。


 魔人が出なくなって久しかった。もう、二度と現れないのではないか。そのうちに偵察任務が再開されるのではないか。小銭稼ぎをしたい曹長たちはそのことばかりを口にしていた。


 僕は、フラウとケーラが一緒に体を鍛えるのを手伝っていた。

 ケーラはなぜか、僕たちと一緒に訓練をするようになっていた。騎士の彼女が一般兵士と同列の訓練をするのはどうかと思ったけれど、彼女なりに体を鍛えることの必要性を感じたようだった。騎士のプライドを捨ててまで思いつめるようなことはなかったとおもうのだが。


「ケーラさんはさすがだわ」

 フラウもそうした女騎士の努力をみて、彼女への評価を変えているようだった。


「フラウもずいぶん動けるようになったと思うけれど」

 最初の頃の体力のなさが嘘のようだった。今の彼女は僕らと同じ訓練にほぼついてくる。農作業も人一倍こなしていた。だが、彼女はそれでも自分に満足していなかった。


「でもね、ケーラさんには負けるの。だって、わたしはどうしてもみんなに追いつけないんだもの」


「そりゃぁ、フラウが小さいからだろう。もう少し体が大きくなれば、できるようになるさ」


 彼女が大人になったらどんな感じなのだろう。前よりも少し背が伸びたフラウをみて、僕は想像した。愛らしい今のフラウもいいが、年頃になったらみんなの目を引くような女性になるだろう。


 そんな楽しい妄想を膨らませているときに限って悪い知らせがやってくる。


「姫君、すぐに、隊長の部屋にきてください」

 ライク准尉が血相を変えてフラウを呼びに来た。


「どうしたのですか?」


 聞き返すフラウに答えずに、ライクはケーラにも声をかける。


「ああ、騎士殿もご一緒でしたか。 デヴィン様はどちらに?」


「デヴィン様は、お昼寝の時間かと……デヴィン様!」

 また洗濯女の後をついて歩いている神官を見つけて、ケーラは慌てて捕まえる。

「お二方とも、隊長の部屋へ。アーク、おまえもだ」


 僕らが隊長の部屋に行くと、久しぶりにまじめな顔をした隊長が待ち構えていた。


「どうしたというのですか?」

 フラウが尋ねると、隊長は黙って光版を見せた。


「………第七砦からの救援要請? え? これは……」

 覗き込んでいたケーラがフラウから光板を奪い取るようにして書いてあることを確かめる。


「救援要請じゃない。これは……」


「第七砦が陥落した」

 隊長が硬い声で僕らに告げた。



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