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最下層の僕と追放された公女様は辺境の地で生き残ります  作者: オカメ香奈


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第80話 面接

 少年が部屋を完全に去ったのを確かめてから、西の王がかすかに肩をゆすって緊張を解いた。


「それでは、ここから先は我々だけで話し合おう。去りなさい」

 彼女が後ろを向いて、合図をすると西の王の後ろに控えていたジーナさんたちが一礼をして部屋を出て行った。北の王も軽く手を挙げて同様の合図をする。


 それを見てデヴィン神官も僕らのほうを振り向いた。


「君たちも去りなさい。ああ、フラウ殿とアークは残って」


「え? 私ではなくて、アークですか?」

 ケーラが慌てて、聞き返した。


「そうだ。二人は残って。ライク殿、よろしく頼みます」

 ライクも驚いていたのだろうが、無表情のままうなずいた。


「僕が残っていいのかな? いいんですか?」

 僕は神官に尋ねた。


 老人は小さくうなずいて、僕のきき間違え出ないことを証明した。


「二人とも好きな椅子に座るといい」

 西の王が僕たちに椅子をすすめる。本当にいいのだろうか。フラウは目で了解を取ってから神官の隣の席に座った。そして僕は東の王が座っていた席に恐る恐る腰を下ろした。椅子は思った以上にやわらかく、座り心地がよかった。


「まぁ、見ての通りだ」

 北の王が手を広げて見せた。


「困った事態じゃの。想定以上に」

 デヴィンは頭を覆う仕草をする。


「申し訳ありません。事態が呑み込めていないのですけれど、これはどういうことなのでしょう」

 フラウがきく。


「見ての通りだ、お嬢ちゃん。大王と南の王は不在。東は、あんたたちには協力しない。この土地をまとめる柱がない、そういうことだ」

 北の王は端的に説明した。

「つまり、この爺さんの目論見はうまくいかないということだな」


「デヴィン様、それは」


「わしは、ここに住んでいる民とともに魔人の大量発生を抑えることができないかとそう思って王と話し合いに来たのだよ。だが、大王は不在。黒い民もまとまっていなかった」


「そもそも、それはあんたたちのせいだろうが」北の王は舌打ちをした。「あんたたちが魔人の大量発生を起こしたんだろう。そのせいで、南はぐちゃぐちゃだ。あそこはもう人の住む場所じゃねぇよ。東があんたたちに愛想をつかす気もわかるぜ」


「しかし、どちらにしてもまとまらなければ魔人には勝てない」デヴィンは組んだ手の下からこちらを見つめた。「帝国だけでも、黒い民だけでも、あれを退けることは不可能だ」


「帝国が全力であたれば、何とかなるんじゃないの。俺たちを便利のいい雇われとして使おうと考えなければなぁ」


 北の王は脇を向く。


「だが、内地は動かない。今いる兵で何とかしなければならないから、あなたがここに来た。そうですよね」

 西の王は静かに尋ねる。


「我々としても、焦ってはおるのじゃ。ただ、今まで積み上げてきたものが邪魔をしてうまくかじ取りをすることができない」


 ふんと北の王が鼻で笑う。


「あの、バカ騎士を見ればわかる。ああいうやつらばかりなのだろう。そして、あいつらが上に上がってものを決める。ろくなもんじゃねぇな」


「とはいえ、我々だけでは力が足りないのは本当だ」西の王は腕組みをした。「手を組む相手がいるのなら手を組みたい。だが……フラウ殿はどう思う?」


「私の意見ですか?」突然話を振られたフラウはまごついていた。「私は、私も手を組むことができればそうするべきだと思います。事実、砦では」

 フラウは言いかけて話をやめた。

 デヴィンがいる前で僕たちの砦と西の王が共闘関係にあったことを話すことはできないと思ったのだろう。


「フラウ殿。ここで話したこと、聞いたことは、誰にも漏らさない約束だ。また、何を話してもそれでのちに咎められることも許されない」西の王がフラウに話を促す。「我々の協約のことはデヴィン殿はすでにご存じのはずだ。そうでしょう、導き手殿」


「まぁ、おおよそはな」


「しかし、お嬢ちゃん、本当にそう思っているのか? あんたはもともと皇帝の妃となる予定だったんだろ。当然、全能なる方とやらを信じて、秩序とやらを守ろうとしてきたはずだ。そんな、あんたが俺たちのような秩序から外れたものと手を組むなんていえるかな」


「できると思います。いえ、できます」フラウはきっぱりという。「みんな、そうしてきたではないですか。現実にそうしなければ生きていけないのなら、そうします」


「それじゃ、普通の、何もないときは俺たちとは仲良くしなくてもいい、そういうことなんだな?」


「いえ、それはちがいます。わたしは、普段から互いに助け合うことはできると思うのです。

 私は、全能なる方は偉大だと信じています。内地ではその偉大なる知恵の恵みですべてがうまくまわっています。偉大なる方に感謝を。

 ただ、神官様がおられる前で、このようなことを申し上げるのは大変失礼なこととは思いますけれど、ここは内地とは違います。内地のありようをこの土地に当てはめようとすることは、かえって物事をゆがめてしまうことになるのではないでしょうか。ここは、特殊な場所です。光の乏しい場所で光は役に立ちません。別の秩序が生まれるのも、仕方ないことかと。その違いは考慮されるべきかと思います。

 現に、世俗の法と神殿の法の体系は異なります。それはいと高き方の教えを厳格に守るほど人が完全でないために、人に合わせて世俗の法の在り方を緩やかにしたと学びました。ここでも緩やかな適用ができるのではと思います」


「なるほど」

 デヴィン神官はうなずいた。だが、北の王は納得していないようだった。


「それはあんたたちの今までのやり方と大きくずれているんじゃねぇか? 俺たちのことを光を信じない悪魔だとか、野蛮人とかさんざん言ってきたくせによ。

 いいか、神殿は今まで公式には俺たちの在り方なんて一度も認めたことはないんだぜ。光の秩序とか何とか言って、俺たちと土地を争ってきたじゃないか」


「不幸な争いはありました。しかし、()、わたしがみるに、実質的な戦闘は行われていない。

 帝国も辺境の黒い民を帝国民として受け入れました。あなたたちも砦の兵士たちと区分けしてうまくやっていたではないですか」


「うまく、か? あんたたちが気に入らない連中をここに放り出していたのはそんなに昔にことじゃないぜ。今だって、ここを流刑地代わりに使っている」


「それは、」フラウには否定できない話だった。


()()な神殿の手は砦の隅々まで及んでいる。その神殿が、俺たちのことを認めないと言っているんだよ。それでも、あんたは俺たちと手を組めるというのか?」


 フラウはしばらく黙っていた。


「それでも、今の状況ではそれが最善だと思います。そうしなければ、辺境の民はみな殺されてしまうでしょう」


「あんたたちにとって俺たちのような黒い民はいないほうがいい存在なんだろ。敵だ。光を信じない害虫だよ。あんたは敵の民も助けるつもりなのか?」


「それでも、たとえ、黒い民でも、わたしは助けを求めている人を見捨てることはできない」

 それでこそ、フラウだ。子供らしからぬ鋭い目でフラウは北の王を見返していた。

 彼女ならば、フラウならば、助けるだろう。僕たちが助けてもらったように。


「それでは、君の意見はどうだ? アーク」


「へ」


 フラウのことで胸を熱くしている場合ではなかった。今度は、僕にデヴィン神官は話を振ってきた。


「ぼ、僕ですか? ぼ、僕はただの兵士で、すよね」


 言葉が怪しくなる。今、一体何の話をしていたのだろう。突然のことに何を思っていたのかわからなくなる。


「君の意見は」

 そう聞かれて、僕は冗談でも言われているのかと顔をぐるりと見まわした。みんな真剣な顔をしていた。


「僕は、僕は、フラウと同じでいいと思います」

 仕方なく僕はもごもごと言葉を返した。


「アーク。ここでは、身分の差は気にしなくてもいい。神殿もここでの発言を取り上げることはできない」


 西の王が柔らかくいう。

 だけど。僕の中にある警戒心は大きくなるばかりだった。

 彼らは、いつでも、僕を殺すことができる。下手なことを口にすると、それは命取りになる。

 何人もの人たちが消えていったのを僕は見てきた。僕は首を振った。


「そうか」

 僕がそれ以上話すことはないとわかったのだろう。西の王は話を打ち切った。


 ただ一人、デヴィン神官だけが残念そうにこちらを見ていた。

 この人はなぜ、僕をこの場に残したのだろう。

 そのことを考えるだけで気分が悪くなりそうだった。


「西の王、あんたはどう思ってるんだ?」


「私もフラウ殿と同じだな」西の王はあっさりとフラウを支持した。

「東と同じようなことも考えた。だが、私の領域は砦との結びつきが強すぎてね。なにしろ戦士の多くは帝国の出だから、ね」


 それは言っていいことなのだろうか。僕は恐る恐る神官の顔色をうかがう。


「それをいうなら、北の王、あなたのところも似たようなものだろう?」

 大男は肩をすくめた。あれだけ文句をつけておきながら、結局はそういうことになるらしい。


「それじゃぁ、決まりだな。お嬢ちゃんは今この瞬間から“導き手”だ」

 なんだって? 僕の知らない言葉が飛び出してきた。


「“導き手”……それは……」


「そして、そこの、小僧が“杖”だな」


 何を言われているのかよくわからない。確かに同じ言語を使っているはずなのだが、全く意味が分からない。


「どういうことですか?」フラウも同じ状態のようだった。


「おめでとう、お嬢ちゃん」北の王が椅子をたたいた。「聖域において認められた新たな“導き手”に祝福を」


 西の王も同じように椅子をたたいている。


「むむむ、そうするんじゃったかの」

 デヴィンも明らかに二人をまねて椅子をたたき始めた。


 その音は部屋の壁に反射して、響いた。まるで多くの人が拍手をしているかのようだった。

 思わず立ち上がったフラウと、そんなこともできずに呆然としている僕だけがその場の雰囲気から浮き上がっていた。


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