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最下層の僕と追放された公女様は辺境の地で生き残ります  作者: オカメ香奈


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第68話 偵察

 ポナのメモに書いてあった魔道具がすべてそろった後も、銀さんはそわそわと僕らの周りに付きまとっていた。


「ああ、ありがとう。もういいよ。必要なものはそろったから」


「イイエ。ワタシ、マダ、お手伝イシマス」

 余計なお世話というか、ずうずうしいというのか。エマの隠れているところを突き止めようとする魂胆なのだろう。


 僕は断固として断るつもりだった。


「いいわ。じゃぁ、このあたりにあるものを積み込んでちょうだい」

 ところが、フラウは彼の参加を認める。


「フラウ、あいつは怪しいよ」


「そうね。でも、目くらましにはもってこいでしょ。彼をおとりにしましょう。アークはラーズ曹長に二三日留守をすると伝えてちょうだい。こっそりとね」


 僕はフラウにいわれたとおりにラーズ曹長のところへ話をつけに行った。


 フラウのお願いというと、曹長はすぐに許可を出してくれた。


()()にいくんだな。いいぞ。なるべく早く戻って来いよ。いつ、ライクが戻ってくるかわからないんだからな」


()()()()()はどうなっていますか?」僕は尋ねた。


「ああ。上々だ。思っていたよりも、みんな、うまいぞ」曹長はにんまりした。「やってみれば、結構いけるもんだな」


 ラーズ曹長のことは暴力をふるうひどい上官だと思っていたこともあるけれど、今はなかなかの漢だと僕は見直していた。何よりもフラウに甘いというのが、いい。フラウちゃんのお願いなら何でも聞いてくれる。本当に、彼が変態(ロリコン)でよかった。


 僕が、フラウのところに戻った時にはすべての荷物を詰め終わっていた。予定していたよりもはるかに多い量の荷物に僕は目を疑った。


「これを全部持っていくのかい?」


「ええ」フラウは涼しい顔をしている。

「さぁ。ポナ車に乗って頂戴。出発するわよ」


 こっそりと僕たちは砦を出た。


「あいつを連れてきてよかったのかい?」


「後をつけられるよりもましでしょ」

 フラウは後部の荷台に押し込めた銀さんを窺う。

「アーク、とりあえず野営地を目指してちょうだい」

 そう言って彼女は自分の光板を開いた。

「そのあとは、こんな風にぐるりと野営地をめぐって、またここに戻ってくれるかしら」


「いいけど。荷物はどうするんだ?」


「わたしが、運ぶわ」


 僕はフラウの顔を見返した。


「あれだけの量を? 一人で?」


「本来頼まれていた量はそんなに多くないもの。あれなら、光衣を使えば運べるわ」


「でも、フラウ……」


「私たちは見張られているのよ。直接運び込んだら、場所がばれてしまう」


 フラウは僕を元気づけるようにうなずいた。


「光衣を使えば、気配をごまかすこともできるわ。銀さんに運転をさせて。彼、自分が言っている資格を持っているなら、運転できるはずだから。あなたは、わたしの光板を使って道を誘導してちょうだい。私はすきを見て、車から降りる」

 彼女は認識票を外して僕に渡した。


「すまない、フラウ」


 あれほど、規則を守ることにこだわっていたフラウにこんな行為をさせるなんて。僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。こんなにいい子を利用している自分が、ものすごく汚い生き物のように思える。


「気にしないで。これはわたしのためでもあるの」


 フラウはちらりと笑うと銀さんを呼びに後ろの荷台に行った。ほどなくして現れた銀さんはいつものように陽気だった。


「ワタシ、運転も得意。ナンデモ、運転デキマース」

 それを、川下りのときに聞いておきたかった。先に知っていたら、絶対こいつに運転させたのに。


 たしかに、銀さんはこちらで見た誰よりも運転に慣れていた。彼が片言で語ったことによると、彼の国ではこういう乗り物は当たり前なのだそうだ。


「ミンナ、運転デキマース。ミンナ、車、大好キネー。特ニ男の子」


「なぁ、そのしゃべり方やめたらどうだ? きちんとしゃべれるんだろ、帝国語」

 僕は理解しにくい変なしゃべり方にうんざりしていった。


「それは、無理デスネー。誰ガ、聞いているか、ワカリマセーン」


「ここにいるのは僕たちだけだろう。そんなに気にしなくても」


 銀さんはあいまいな笑い方をしてごまかした。


 そうか、“盗聴器”か。“僕”が心の片隅でつぶやいた。

 ここにそんなものがあるかどうか、僕は知らない。でも、ありえないことではなかった。


 “位置”がわかるのなら、“盗聴”することもできるのではないか。僕はあちこちを探りたい気持ちを抑えた。おそらく何らかの魔道具の類だろう。

 あとで絶対に怪しい道具を見つけ出してやる。そう僕は心に決めた。用心に越したことはない。


 ただでさえ、僕らの”位置情報“は上官には筒抜けなのだ。注意してしすぎることはない。


 仕掛けたのは、黒翼か、それとも、こいつ本人か? 鼻歌を歌いながら、器用に荒い道を運転する男を横目に僕は考え込む。


「なぁ、こっちの話もしたんだから、そっちの話もしてくれないかな」


「ワタシの話デスカ?」


「別にあんたの経歴を語れっていうんじゃないんだ。その、銀の国ってどんなところなのか、僕は知らないから」


 ああ、と、銀さんは納得したような顔をした。


「アークさんはどのくらい知っているのですか?」


「うーん、南で帝国と戦争しているんだろ。このあたりに飛行艇を飛ばしてきて、変な服を着ている」


「ソレダケ、デスカ?」


「うん」


 銀さんはぐるりと目を上に向けた。

「アナタモ、兵士ですよね。敵のことを学ばないのですか?」


「そうだけど、ここは黒の大地だからね。敵は黒翼。銀の国のことなんか別に知らなくっても問題ないよ。ここは戦とは関係ないだろう」


「なぜ、戦争をしているかも()()()()知りませんよね」


 知らない。僕たちのような底辺の民がそんなもの知っているわけがない。かろうじて、神殿の説教話で英雄の物語を聞くくらいだろうか。ただの宣伝で、歴史ではない。


「そんなもの知らなくってもいいだろう。それよりも、銀の国の魔道具の話がいいな。ポナみたいにみんな魔道具を使っているのだろ。この車みたいに」


 銀さんはいきなり車を停止させた。


「アークさん。チョット外で休憩しませんか?」


「え? 外に行くの? 危なくないかな? 最近は魔獣とか、魔人とか出没しているから」


「ワタシ。外の空気を吸いに行きまーす」


 銀さんは窓から身を乗り出して、そのままポナ車の上に乗る。

 なるほど、ここではできない話というわけか。僕も同じように車の上へ這い上がった。



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