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最下層の僕と追放された公女様は辺境の地で生き残ります  作者: オカメ香奈


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第38話 自動車

「坊ちゃま、ご無事でしたか」現れたのはポナ家の召使と思しき人物だった。


 あれ? 秘密のうちに家出をする計画ではなかったのだろうか?


「うん、すんなりといったよ。まかせておけ」

ポナはまたまた謎の自信を見せる。


「こちらです」

男は背を向けて案内する。


「おいおい、秘密の家出じゃなかったのかよ」僕はポナに耳打ちした。


「家出? 何のことを言っているんだ?」

 ポナは不思議そうに聞く。

「ボクは砦に行きたいといった。お前は連れて行ってくれるんだろう。僕のおもちゃたちが待っている場所へ」


「……ひょっとして、老ポナもこのことを知っていたりする?」


「親父? もちろん。勧めてくれたのは、親父だ」


「……」


「さぁ、こちらです」

召使が町はずれの掘立小屋まで僕らを案内する。


「ああ、愛しのボクのポナペンチュラちゃん」小ポナは入り口に突進する。「会いたかったよぉ」


 僕は、エマを背中から降ろして掘立小屋に近づいた。馬車と聞いていたが、馬はいない。


「おい、どこに馬がいるんだ?」


「馬? 何のことだ?」

 上機嫌になったポナはなかにある荷馬車とおぼしき物体から布をはずしていた。


「見ろよ。ボクのつくったポナペンチュラ3号ちゃんだ」


 磨き上げられた金属の鈍い光沢が灯りに反射した。

 僕は、ここで初めて“ばす”を見た。いや、大きさと鉄格子のついた窓から“ばす”よりも“そうこうしゃ”を連想させる車だった。


「ぽなぺんちゅら……ちゃん」


「そうだ。ボクの頭脳が作り出した自動車、その名もポナペンチュラ3号ちゃんだ」


「……馬はどこだ?」


「何をバカなことを言っている。これは自動車だ。おまえ、自動車を知らないのか?」


「いや、知っているけれど。誰が動かすんだよ」


 ここでは、自動車は等級の高い人間にしか使えない。もちろん僕にも、おそらくポナ坊ちゃまにも使えない。運転手はどこだろう? ひょっとして、さっきの召使の人が運転するのだろうか?


「ボクが作ったんだ。僕が運転するに決まっているだろう」


「? でも、おまえ、等級低い、って言っていなかったかな?」


「等級なんか関係ない。ボクの車は等級0でも運転できる特注の車なんだ」


 僕は息をのんだ。


「すごい。ひょっとして、僕でも運転できるのか」僕は思わず叫んでしまう。


「ああ、おまえでも誰でもだ」


「やらせろ、やらせて、いや、ぜひ運転させてください」


 僕の脳みそが興奮した。今の瞬間なら小パナの前で土下座してもいい。子供のころからずっとあこがれていた。車輪のつくものを運転するということを。


 “僕”はそれこそ物心つく前から、車に乗りまくっていた。小さな赤ちゃん用のおもちゃから、三輪車、“遊園地”の“ゴーカート”。”げーむ”でもレース物はお手の物だ。さすがに、親の持つ自動車は乗れなかったが、こっそり田舎のおじさんの“軽トラ”も運転したことがある。夢の中の“僕”は“自動車教習所”に通う費用をねん出するためにバイト中だった。


 夢の中で、それを僕は常々うらやましく思っていた。こちらでは僕たちの光量では運転できなかったし、そもそも自動車自体が走っていない。


「いいだろう。やらせてやろう」

 僕の熱い視線に小ポナは得意げだった。


「こちらから乗るのだ」


 僕はワクワクと胸を躍らせて車に乗り込んだ。車には運転席側の扉はなく、後ろについている扉を開けて中に入る。


 中はちょっとした倉庫のようになっていた。角灯で照らすと寝床のような棚や、それこそ訳の分からない工具と服が一緒に入っているような棚が並んでいる。そして天井からは無数の魔道具が下がっていた。


「なんだ、これは」


「エマちゃん用に改造したんだ」嬉しそうにポナ坊ちゃまは説明する。

「なるべく光を通さないように床と天井に呪を書いてみた。窓も特性の光を封印する素材が使われている」


「すばらしい。君は本当に天才だ」

 僕の最大限の賛辞に小ポナは鼻高々だった。


 あとについて乗り込んだエマも目を丸くして、車内をみている。


「それで、運転はこっちだ」


 仕切られた布をはぐると、明らかに広告用の光板とわかる巨大な板が張り付けてあった。


「これで、こうやって……」ポナが手形をあてると、光版が起動した。


「す、すごいな」


「お前も登録してやっていいぞ」


 僕はがくがくとうなずく。


 普段だったらむかつくいい方だが、今の僕はポナ坊ちゃまの足でも舐められる気分だった。


「これで、前進、後退、方向転換……加速と、減速、あ、それは自爆用の装置だ」


「そんなものどこで使うんだよ」

 慌てて僕は光板から手を離した。


「証拠を隠滅するときに必要だろ」ポナは当たり前のように言う。「他にも、武器はあるぞ」


「そろそろ出発されてはいかがでしょう」

 僕は召使の男に呼びかけられてもう約束の時間が迫っていることに気が付く。


「ポナペンチュラ様のことはよろしくお願いいたします」従者は深々と頭を下げた。「最後に坊ちゃまがお友達と過ごしている姿を見ることができて、よかったです」


 友達が誰一人としていなかったのか、ポナ……確かにいそうにはないけれど。


「さぁ、出発だ」


 灯りをともすと、道がはっきりと見える。


 僕は意気揚々と車を運転した。幸いにもここの車の動かし方は単純で、“レースゲーム”にはまったことがある“僕”の腕をもってすれば、楽勝だった。


「おまえ、すごいな」ポナは僕の腕に驚いているようだった。


「まぁね。ポナも変わろうか?」やはり”ゲーム”は変わらないと悪いだろうか? 


「いや、いい」


 フラウと待ち合わせた途中の村まではあっという間だった。


 村はずれに留めてあるフラウの馬車を見つけて、僕はそのわきに自動車を止めた。


「やぁ」


 顔を引きつらせているフラウとヴァイスさんの前に、僕と坊ちゃまは見せつけるようにして自動車から降りる。


「アーク、これは、何?」

 フラウが悲鳴に近い声で尋ねる。


「ああ、これは……」


「ポナペンチュラ3号ちゃん、です」

 坊ちゃまが僕の前で胸を張る。


「ポナペンチュラ坊ちゃま? なんであなたがここにいるんですか?」と、ヴァイスさん。


「ああ、それはね」僕はなるべくさりげなく聞こえるように言葉を選ぶ。「彼も砦に行くんだって。いろいろな道具を直接仕入れたいらしい」


 フラウは僕と坊ちゃまの顔を交互に見る。


「それは、それは……でも、あそこは軍の施設で……」


「問題ないよ。砦にはほかにも民間人はいるじゃないか。姐さんたちや、畑を耕している人とか、サラだって、な?」


「でも、彼は……その、お父様は、ポナペンチュラさんは、このことをご存じなのかしら?」


「親父? 最近、怪しい奴らがうろうろしていて……」


「それは、大丈夫だ。息子をよろしくといわれた」

 正確には、老ポナ本人ではなくて召使からなのだが。


「それで、うしろの、それは、何?」

 フラウは震える声を隠さない。


「これは、ポナペンチュラ3号ちゃんだ。ボクの最高傑作だ」


「馬はどこかしら?」ヴァイスさんが車の前に回って確かめる。


「馬? あんな凶暴で野蛮な生き物をボクが扱うわけないだろう。これは()()()だ」


「自動車!!」フラウとヴァイスさんが絶句している。


「そうとも、自動車だよ。古代文明の英知を集めた僕のかわいいポナペンチュラ三号ちゃん」


「誰が、だれが運転してきたの?」


「僕だよ。フラウ。すごいだろう。この車。僕でも運転できるつくりなんだぜ」


 僕が作ったわけではないのだが、今は僕もこのポナペンチュラ3号ちゃんを自慢したい気持ちでいっぱいだった。


「アーク、あなたの等級で自動車を運転するのは無理よ。禁じられているわ」

 フラウは僕が神殿に唾を吐いたかのような勢いで非難してくる。


「たしかに、僕は普通の自動車の運転はできないよ。等級も足りないし、光量も足りない。でも、この自動車は、ここにいる天才ポナペンチュラの作品だよ。彼の作品は、普通の自動車ではないんだ。厳密にいうとこれは、彼の作り出した自動車風の魔道具だ。だから、僕が運転しても問題はない」


「なんて、こじつけがましい……」ヴァイスさんが男の声でつぶやく。


「私の知る限りね、アーク、自動車を等級が足りないものが運転することは」

 フラウが突然言葉を切った。


 彼女の目が見開かれる。


「エマちゃん?」


「エマちゃん?」

 ヴァイスさんの声が裏返った。


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