ドレスの色は
アルディスから目を逸らした先に、一際目を惹く色がそこに在った。
「ああ──形は分からんがあの色はお前に似合いそうだ」
白に近い銀のような──白に銀を散りばめたような、月の光にも似た色──アルディスならこの色かと、つい口に出た。
アルディスに視線を戻すと、頬が少し染まっていて、そんな顔を己は初めて見た、と思った。
「……綺麗な色のドレスだな──ありがとう、アズール」
照れたようなその表情に、どきりとさせられる。
つい最近、気付かされた──アルディスも女なのだという事実を思い知らされるようで。
そっと気付かれぬように視線を外へと向ける。
──己の気持ちが変わらぬように、これ以上気付かぬように。
「お待たせしました、小物はこちらの箱、ドレス本体はこの箱になっております」
両手にリボンのかかった箱を二つ重ねて持った店員が近づいて来て言った事に、空気と雰囲気が一気に変わった気がしてほっと息をつく。
「ああ、ありがとう。
勘定なんだが──いくらになった?」
サイフの中身を思い出しながら店員の耳元に顔を近づけて訊ねる。
「アズール……」
ドレスの値段を聞いていたら、ぐいっと上着の裾を引っ張られた。
「……アルディス?」
「くっつきすぎだ───店員が困るだろう、少し離れろ」
後付のように言葉が続けられて、これは所謂焼きもちというものなのか? などと考えて、愛想笑いを浮べたまま、肩を震わせて笑いを堪えているような店員から身体を離す。
「こちらが請求金額です」
店員から紙が差し出されて、そこに書かれた数字はなんとか己の予想を上回る事はなかったが、ギリギリであったのに盛大に息を吐いた。
サイフから勘定を渡すと、サイフが軽くなった気がしてちょっと胸に寒い風が吹いた。
「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしてます」
店員に見送られて店を出る。
己の腕にはドレスと小物の箱が二つ、アルディスの横を歩いていると、買い物に付き合わされた荷持つ持ちのように見える。
「しばらくは酒も買えないな……」
溜息と共にぼそりと口に出てしまう。
酒だけではなく、昼飯も外では食えないのだが。
「アズール、もし、もし……その……いやいい……」
歯切れ悪そうにアルディスが言う。
何を言おうとしているのかは分からないが、こういう時は促さずに黙って待つことにする。
「……あのさ、俺が、昼を用意したら一緒に……どうだろう?」
「ああ、それは助かるなぁ。
しばらくは昼抜きかと覚悟してたとこだし──」
にっ、と笑ってアルディスの顔を見下ろすと、その顔が照れたように染まっていて、奢ってくれるというわけではなさそうだと言葉が途切れる。