騎士長とディアナ3
朝の騎士長との茶飲み話は終わった。
朝だけで事足りたのではないかと、昼食の話というものは何にするかというのは、昼までに考えるかと執務室を後にする。
「さて、と……次は……」
ディアナを見つけて夜の服やらをなんとかしないと。
しかし、服屋に任せるといっても、己はあまりそういう店を知らない。
こんな時に頼れるのは……女の扱いに慣れてる奴だろうか、と本人は否定するだろうが、デュークスの顔が思い浮かぶ。
まぁ、奴なら──と考えながら歩いていた所で肩を叩かれる。
「あ、誰だよ」
振り向くと、朝から避けていたはずのアルディスの顔が己の後にあった。
「今朝は食堂に来なかったんだな、アズール」
「お、おう。……おはよう、アルディス」
何か言いたげな瞳が己を見つめていて、言葉につまる。
何を話せばいいか、答えはまだだし、と思うと視線が自然逸らされていき、廊下から窓の外へと向けられる。
「そうだ、お前が適任かもな」
一番ディアナを知っている、アルディスならディアナに似合う服も見繕えるのではないかと思いつく。
何といっても、こいつはディアナの妹だ。
「あーお前との約はちょっと置いといて、だ。
姉の為に一肌脱ぐ気はないか?」
「姉さんの?」
「今晩は騎士長とディアナが一緒に夕食を取ることになったからな、ディアナにこう服やら装飾品とか選んで欲しい、お前ならディアナをより魅力的にする服を選べるだろ?
騎士長が驚くような、見惚れるようなのを頼む」
一気に言い終えると、アルディスが何か呆然といった表情で己を見ていた。
「あー……、騎士長ならお前の兄貴になったとしても、文句はねぇよな?」
「……そう、だな。
騎士長ならディアナを任せても構わない」
ディアナがこの年まで浮いた噂が一つもなかったのには、この妹のせいもあるかも知れないというのは騎士団の中では割りと有名な話だったりする。
ディアナに粉をかけようとする者は、まずアルディスに振り落とされるからだ。
己は、ついこの間まで、アルディスはディアナを姉として以上に好きなのだと、そう思っていた。
その、ついこの間までというのは──アルディスに告白される前という事なのだが。
「ディアナを着飾ればいいのだな、それなら大丈夫だ。
サイズも似合う色も、宝石も、俺が見立てよう。
それで、勘定はどうすればいい?」
「勘定は俺もちで。
あまり高級店でないと助かる、せいぜい出せてこのくらい……で頼む」
こそっとアルディスの耳元に囁く。
「勘定が気になるなら……いっそ、一緒に見に行くか?」
「……そう、だな……お供します……いや、させてくれ」