騎士長とディアナ2
朝から騎士長の執務室で、騎士長の淹れた茶を飲んでいるというのは、どうにも居心地が悪い。
何が悲しくて朝っぱらから男と差し向かえで茶を飲んでるんだと、そう思えば気落ちしそうになって、己のありったけの気力を振り絞る。
「あー、実は騎士長」
そろそろ切り出すかと口を開く。
「ん、何かな、アズール」
「今日の昼にだな、ちょっと込み入った話があるんで、あんたとの約をディアナに譲ってもらったんだ」
昼食の約を替わってもらったのだと口にすると、ほんの少しがっかりしたようにも見える騎士長の姿が眼に入った。
「で、その代わりといっちゃなんなんだが、俺が予約していた夕食の店をディアナに提供した。
騎士長にはそっちにディアナと行って欲しいんだ──事後承諾で悪いが、構わないだろうか」
昼が夜になっただけだと、さり気無く言ったつもりだった。
「それは……せっかくの夜を私となんて彼女に悪いよ」
これは、やはりイイ線行くんじゃないのか?
騎士長はディアナを気にしている。
そこに、予約した雰囲気たっぷりの川沿いの席だ、しかも店には告白させる旨を告げてよろしく頼むとまで言っている。
「騎士長が行かないとなれば、ディアナ一人で店に行くはめになるから困るんだ」
「……アズール、君が行けば……」
「俺ぁ、別に約束があるんで無理ってもんだ」
どうやって背中を押そう、と考える。
「騎士長、いつもと違うディアナを見てみたいと思わねぇか?」
どんな格好かは己も知らないので、いつもと違うとだけ言ってみる。
「……私の知らないディアナか……それはぜひ見てみたいね」
後で一応ディアナの選ぶ服を見ておくべきか、と思う。
着飾れ、と言ってきたのだが、万が一にも、考えたくもないが、騎士の礼服とか着て来られては台無しになる。
女の服に特に興味はないが、一応用心の為だ。
せっかく舞台をお膳立てしたのに、それを台無しにされては苦労が水の泡になる。
そう、騎士長も【いつもと違うディアナ】というのに興味を持ったのだから。
しかし、問題がひとつ。
己は女の装いというものに詳しくない、誰か適任はいないだろうか──と思うものの、該当する顔は浮かばなかった。
(いっそ──店で一式揃えてもらうのがいいだろうか、ディアナには今まで世話になってたこともある、そのくらいなら俺が買ってやってもいいかも知れん)
「ああ、そりゃ期待していいぜ」
騎士長に片目を瞑って見せ、にやっと笑う。