ディアナの恋 2
夕食をディアナと一緒に食べたものの、周りの奴等の視線のせいか、同じテーブルに座るアルディスの視線のせいか、せっかくのローストビーフは味がしなかった。
砂を噛むような肉の味に肩を落としながらの夕食、己と正反対に明日の夕食に思いを馳せているのか、やたらと機嫌のいいディアナ。
「まぁ、とりあえずは明日騎士長に話しとくから、一張羅でも着て、化粧して、騎士長が見たことない別嬪なお前になって待っとけ」
カランとフォークを置いて、ディアナに告げる。
騎士長が騎士服で行くにしても、ディアナにはドレスに近いような、騎士長が見違えるような服装で行けるような店を、といくつかの店を思い浮かべる。
あれだ、デートに最適なムードのある洒落た店で、前もっていい席を予約しておける融通の聞くような……とそこまで思い浮かべて、己にその心当たりがないのに気付いてがくりと肩を落とす。
「じゃ、俺はちょっと色々準備があるから先に行く」
二人に軽く手を上げて席を立つ。
とりあえず、街に出て店を当たるのが早いかと食堂を出て廊下に出ると兵舎の出口に向かう。
扉の前で、ふとこういう店探しに向いた人物がいたのを頭の端に思い浮かべる。
「ああ、あいつがいたな……」
今から探してでも助言を受けるべきだろうか。
「ふむ」
食堂では見かけなかったので、ドアに背を向けて各人に割り振られている部屋へと向かう。
該当の人物のドアの前でノックを数度し、応えがあるのを待つ。
「──誰だ?」
「俺だ、アズールだ。ちよっと知恵を借りたい」
ドアが開いて、部屋の主が出て来る。
部屋の主はデュークスと言い、本人は興味がなくともやたらと女受けがいい顔をしている。
騎士としての腕も立つし、はっきりいって俺よりずっとイイ男だろう。
黒い髪は己と違いさらりと肩口に流れて、長めの前髪から片方ずつ違う色をした瞳が覗く。
寡黙な印象の強いこの男は、無口そうに見えるが、話す必要のある時には意外に雄弁だったりする。
「ふむ……それなら川沿いにあるあの店がいいだろう、窓側の奥の席なら他の席から離れているし、雰囲気もかなりいいはずだ」
「さすがはデュークスだな。じゃあちょっと行って予約してくる」
「何か煩い事を言われそうになったら、俺の紹介だと言えば何とかなるだろう」
「……お前、そんなにその店に出入りしてるのか?」
「いや……前に行った時に、その店の問題を処理したから貸しがあるだけだ」
「なるほど……」
深くは聞かない、がいざとなれば名前を出せば良いというのはありがたい。
デュークスに礼を言い、店へと明日の夜の予約をしに行く。