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号外 冒険者の起源

 ⎯⎯クロイツェン王国はかつて、二度危機に見舞われた。


 一つ目は約三百年ほど前に起きた、王国の西に位置する隣国『アイゼンタール王国』による侵略。

 そしてもう一つは、約五十年前に起きた『大恐慌』である。


 侵略は、当時完全に姿を消していた魔法使いを発見し、説得に成功したことでアイゼンタールを撃退。危機を回避すると、魔法使いの社会進出が始まった。


 大恐慌では国であらゆる資源が枯渇した。田畑は不作が続き、山や森では獣、海や川では魚が激減、木は取りつくし鉱脈は枯れた。

 水だけは、魔法使いが生み出したものを魔動器で濾過することで繋いでいたが、それ以外では魔法使いですら出来ることはなかった。

 その数年後……未曾有の危機に国は新たな政策を開始する⎯⎯。


 それが冒険者だった。


 当時の冒険者に求められていた活動は、王国領中を捜索し、新たな資源や農地へと開発出来そうな土地を発見すること。今までの王国では安寧と平和が続いていたために、ここまで大規模な捜索をする人材と、開拓を進める技術や専門家が廃れて不足していたのだ。

 そして発見者には規模に応じて褒賞金が支払われた。金や宝石等、貴金鉱を発見した冒険者が一財産を築くと瞬く間にその話は広まり、諸外国からも絶えず人が来るようになった。

 

 やがてそれが浸透して行くと、あらゆる者が現れ問題になる。


 今なお続ける者、引退しここへ住む者、挫折し帰る者、志半ばで倒れる者……。

 そう言った問題の露見が在り方を少しずつ見直され、現在の冒険者へと姿を変えていった。


 ここではそんな時代に誕生した冒険者の話をする⎯⎯。




 ある四人の冒険者、二組の夫婦の間にそれぞれ子供が生まれる。


 一人は男児でクラッドと名付けられた。父はハーマン、母はアルバという。

 もう一人は女児で名はカタリナ。父はロビン、母はエリーだ。


 互いの両親は冒険者であるため定住地がなく国籍もない。この場合子も無国籍となりこれは彼らだけでなく、国でも問題として提起されていた。これの何が問題か?

 それは子に「身分を証明するものがない」ということだ。両親たちは冒険証が発行されるため、身分が証明できる。しかし子の身分は証明出来ないため、人さらいなどと間違われるケースが後を絶たず、また実際にも起きていたため問題となった。


 そこで国は冒険者の年齢制限を撤廃し、零才から冒険証を発行することで仮の身分証とした。

 これにより、彼らを始めとした冒険者の子供にも身分が証明出来るようになり事故は減少した。


 そもそも彼らも子供が生まれたことで冒険活動を控えるつもりでいたのだか、数多の冒険者が王都へ押し寄せ引退し定住を始めたため、既にここに住む所はないという。定住出来なければ籍は置けない。籍がなければ定職もほぼ不可能で、宿に泊まり込んで日当の出る仕事を続けるにも限界があった。

 この問題に国は王都の宅地開発を進めたが、需要と供給は釣り合わず価格も競争率も激化していった。故に国はこの問題の解決に更に踏み込む。


 ギルドを通し町や村の開拓を発注し、報酬を「自身で開拓した土地に定住して良い」とした。

 とは言え、それぞれの町と村にも開拓限度がある。だがそれも土地を受注者で分けていくので、一世帯で持てる土地も自然と収束した。


 四人は情報を集めると、王都から南の町ビーク、もしくはそこから更に東へ進んだ村⎯⎯ハイデンにならまだ土地があるかもしれないとわかった。

 

 

 四人は四日かけハイデンへ到着する。彼らも数年程は冒険をしてはいたが、妊娠発覚後は両母は安静に、両父は日当の出る仕事を回る、と冒険者としての活動は久しいといっていい。

 ビークの町には一足遅く、すでに別の冒険者が開拓を始めていたのでここまで来たのだった。


 彼らは村長に挨拶に行き、六人の冒険証を見せると話しを通してくれる。すると村長は、彼らが村に何が出来るかを尋ねた。


 ハーマンは船と木材を扱える。元は王国の東端の港町で船を作り漁師を乗せた。だが不漁になり漁師が港から去ったため冒険者になった。この村は海よりも山が近く森に囲まれている。船の出番はないので、彼は村の木こりと大工となった。

 ロビンは食事が作れる。彼はハーマンと同郷であり親友。町では酒場の主人として漁師や船乗りの憩いの場提供していたが、廃れる港町を離れ三人と冒険者になった。自身で釣った魚や育てた作物でも食事を出していたので、村の農業と開拓者の炊事となった。

 

 ハーマンとロビンは冒険者になる際、町で住んでいた家を引き払っている。子が生まれると知って籍の確認をしたことがあったが、今は別の人が住み籍はなかった。


 アルバは弓が扱える。射手として傭兵をしていたが、冒険者募集の噂を聞きこちらへ渡ってきた。彼女は狩猟が出来るので、肉を確保したり魔獣が出た際の戦力となってもらう。

 エリーは薬草や食料になる野草の知識と治療の心得がある。実家が医療に従事していた。冒険でも彼女は仲間の治療を担当していたので、この村でも住人の診療をすることになった。


 アルバとエリーは元々東の大陸に住み、渡って来て冒険者になった。二人の出会いは、アルバが軍に雇われ、魔獣討伐の行軍中に襲撃され大ケガを負った時、運びこまれたのがエリーの家だった。

 それからアルバが回復しエリーを渡航に誘ったのがきっかけである。そしてこちらの港町に到着した際、酒場でハーマンとロビンに出会いこの二人もまた、町を出て冒険者になるというところだった。


 村での開拓生活が始まった。


 五年、十年、二十年……と長くとも短い時間が過ぎると、クラッドとカタリナの二人も健やかに育ち、その間にも新しい住人が増え、開拓は終了し村は十二分に発展する。


 そして彼らがここへ来て二十と四年目の事。



「⎯⎯はッ!? 冒険者に戻るだって!?」

「そうだよクラッド。言ってなかったかい?」

「な……父さん、母さんは本気で言っているのか!?」

「そうとも。俺達は元々そのつもりだった」

「達ってなんだ……まさかカタリナの両親もそうだってのか?」

「そうだ。ふっ、今頃あいつらの家でも、おんなじやり取りしてんのかねえ」



「二人ともどうかしてるわ! この年でまだ冒険するだなんて!」

「……カタリナ、訂正させてくれ。二人ではなく四人だ」

「もうあなたったら、そこなの? ふふ……」

「……! 何がおかしいの? 私はあなたたちを心配しているのに!」

「……心配しているのは、私達も同じだ。私達もあの二人が心配だから行くんだ」

「なら母さんたちが止めればいいでしょう!?」

「そうね。止めないのだから、きっとどうかしてるのね。カタリナの言うとおりよ」

「……どうしてそこを否定しないの……」



 この数日後クラッドとカタリナの説得も空しく四人は冒険者に戻った。


 四人も突然戻ったわけではなく、再開の為に少しずつ準備や情報を集めていた。

 そしてその準備は四人だけでなく、村に残した二人に自分たちの技術や知識と経験を身につけさせた。

 

 彼らはギルドでこれまでの変化の説明とそれに伴う手続きをする。


 冒険者が格付けされたこと、格に合わせて渡航出来ること、格が上がると引退や死亡の保険が出ることだ。それと新規の者は課題期間が発生するようになったが、彼らには関係無い。

 予め情報を集めていたので滞りなく進める。あの時まだ零才冒険者だった二人も、今は王国民として籍を置いているので、死亡保険の受取人とした。


 こうして彼らは冒険者として復帰した。


 


「あなた、母さんから手紙が」


 父さんたちが復帰すると定期的に彼女の母から手紙が届くようになった。

 大体月に一度くらいだが彼女はとても嬉しそうにする。

 

 しかしそれも一年程で終わってしまう。


 彼女からまもなく俺たちの子が産まれるという頃のこと。

 俺は雪がちらつく中、外から戻るところだった。丁度家の前で郵便屋からいつもと様子の違う手紙を受け取ると、不思議に思った俺はその場で手紙を開けてしまう。


 「これ、は……そんな……」


 そこに書かれていた事は、北西の大陸の国『マウンデュロス』という所で俺たちの両親が冒険中に亡くなったという訃報であった。

 その時俺は口を抑え、必死に嗚咽を堪えた。彼女が不安定な時期にこんな事を伝えられるはずがなかった。


 俺たちの子が無事産まれるとこの事を明かす。


 「私たちの子を……、見て欲しかったのに……」

 その時の彼女が今でも頭から離れない。




 ⎯⎯だというのに、何故俺たちは自分たちの子を冒険者にしてしまったのか。

 彼が決心した時、既に心のどこかで「諦め」があったのか。⎯…気のどうかした親の子だからか、自分たちを含めてそれが連綿と続いているのか……。


「ただいま」

「おかえり」

 彼女が外から戻って来た。

「懐かしい、母さんの手紙ね。もう、いつから読んでいたの?」

 と、そう言うと、はい、と手紙を差し出す。

 どうやら届いたことに気づかないほど読み耽っていたらしい。


「あぁごめん」

 と、手紙を受け取る。

「ぁ……あいつ、剣士の時に手紙なんかよこさなかったくせに…」


“~新発明の試験終了~ 新しい魔動具『転移袋』の試験が行われた。この『転移袋』であるが、袋の中に入れた道具等を、ある地点から別の地点へと転送できる魔動具で、実用化されれば輸送時間に劇的な短縮が見込まれる。また手紙等を転送すれば離れた相手ともやり取りが可能となり、情報収集の効率化の側面もあると試験中に発見された。現在はまだ出力や魔動石の原価などの問題が未消化だが、実用化へと確実に前進している。私は期待して、これを待ちたい⎯⎯⎯⎯„


 そして最後には息子のサインが残されている。


(これが、お前の新しい道なんだな。……ライト)


 父はその記事を壁に張り、息子の足跡とした。

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