表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/48

02号 新発明で新発見 中

 あれから俺たちは一時間程狩りをしている。始め三十分は少し慌ただしかったが、現在は順調そのものである。

 気掛かりはこのまま杞憂であってほしいと思っていた。


 ただ、想定外はおきた。

 袋の大きさの不安は的中し、かさばる毛皮に苦戦しながらテレサは転送していた。

 狩りのペースが早く、スクレータもなかなかの速度で剥ぎ取りを進める中、転送だけが滞り気味になったので少しペースを落とす意識した。


 しかしそれから二時間程のころ、俺は違和感を覚えはじめた。




「よーしよし、いい子だからこっちおいでー」


 シャー! フシャー!!


 マオは一メートル程先の大鼠とにらめっこをしている。大鼠はしきりに威嚇を繰り返すだけで、追ってくる気配がない。


 マオは目の前の大鼠に気をとられすぎた。


 (ガ ッ ブ)


「ッ!? ぃっ……きゃあァァァァ⎯⎯!」




 何往復目か分からない獣道を掻き分け、釣り出しを繰り返す。

 そして、レウスがそれを倒すのを確認した後、俺は聞く。


「なぁ、聞きたいんだけど」

「ん? ……なに?」

「最後にマオが釣り出したのは、いつだ?」

「……え」


「なあ、二人はマオの釣り出しを見たりしたか?」

 テレサとスクレータは顔見合わせた後、こちらへ向き首を横へ振った。

「……ごめん、なさい。おれも見てない……。ずっと、釣り出された敵しか見てない……」

(おいおい、これは……) 


「みんな、狩りはここまでだ。撤収する」

「えっ」

「マオがはぐれた。しかも夕暮れの近い時間帯で。早く見付けないとこの森の中あいつ一人野宿だ」


 3人の顔色が悪くなる。


(くそっ、結局気掛かりが当たっちまった…!)


 地理に不慣れなパーティーが釣り出しの形をとるのは危険が伴う。敵に追われながら陣に戻らなければならない所を、不意に別の敵と鉢合わせる等してパニックになり方向感覚を失えば陣には戻れない。気掛かりだったことが、今まさに起きてしまったと疑う。

 

「レウス周辺の警戒、テレサあとどのくらいの転送量だ、スクレータ剥ぎ取り前を俺も手伝う」


「お、おう!」

「えっと、まだ沢山あります!」

「お願いします、あと少しです!」


「テレサ、剥ぎ取りが終わるまで転送。残りは袋に入るだけ詰めるんだ!」


 「はい!」

 

 ここから王都までは約一時間半。完了して撤収するつもりだったがやむを得ない。すぐに見つかればまだ王都へ帰れるはずだ。よし、なら今持てる分だけを回収してマオを探しに⎯⎯。


 がさ、がさがさがさ…


 思考と撤収が纏まる前に、辺りを大量の敵の気配が包む。それに皆は動きを止めて。


「……撤収止め。テレサはレウスの後ろ、スクレータは俺の後ろだ。レウスは自分が傷つく前に倒せよ、マオがケガしてたらテレサ頼りだからな」


(いかん、短時間で刺激しすぎたなこれは……早く片付けてマオを探しにいかなければ……!)




「はぁ……はぁ……」

 (く……しつこい……)


 マオは正面の大鼠に気を取られている隙に、足下にいた別の大鼠に左足をかなり深く噛まれ、陣の方向を無視して逃げ出した。そして今、尚も複数の大鼠に追われており、痛みを無理矢理こらえて走り続けていた。


「っ……! しっつこいってばぁ……!」


 少しでも追い払おうと、走りながら弓に矢をつがえ振り向き放つ…が。

(ん……っぐ!?)


 痛みで上手く踏ん張れずに、見当違いの木に刺さった。それでは牽制にもならなかったため大鼠が接近し、飛びかかってくる。


「きゃあッ!」


 咄嗟にしゃがむと大鼠はマオを飛び越える形になった。なので、マオは背を向ける大鼠に矢を放つ。

 この時偶然左膝を付く姿勢になれたため、安定した狙いは見事に内一体の大鼠に当たる。大鼠達は矢の当たった個体を先頭にして逃げていった。


 追跡から解放され現在の状況を整理できるようになる。


(だめ……見たことない景色……。でも早くみんなのとこへ戻らなきゃ)


 足を引きずりながらもマオは再び移動する。ここに留まる方が危険だと思ったようだ。


 ……しかし、それも長くは続かなかった。


(……うそ……ここじゃ、ない…)


 たどり着いたのは開けてはいるが、陣にしていた場所より一回り狭く、加えて腰掛け程の岩がある。

 

(……もうだめ……)


 マオは岩に背もたれると緊張が僅かに抜け、冷静さが少し戻る。


(今の装備は、弓と矢束。棍と楽器は陣に置いてきた。道具袋は……あ)


 薬草が入っていることを思い出したので、応急処置をする。


 適当な布で余分な血を拭く。薬草を傷口に当て清潔な布で抑え、最後に包帯で固定する。


 応急処置や素材といった知識は座学で身につけてくる。それはこういう状況に備えて、だ。


 (あ、あれ……なんだか……急に、周りが暗く……)


 応急処置が済んだマオは緊張の糸が切れ、そのまま気を失った⎯⎯。




 俺たちは大量の敵を、二十~三十分くらいかけてようやく最後の一体を倒す。

(大分時間をとられた……なんて言ってられないか……俺が一番足を引っ張ってるしな)

 幸い誰もケガらしいケガはない。テレサの消耗を抑えることはできた。

 

 まずはマオが釣り出しに行った方向へ探しに行く。皆で名前を呼ぶが返事はない。


 足跡は先ほど釣り出しで走っていたため無数に残っている。ここから状況を推理するのは難しい。


 俺たちは更に森の奥へ進むが、僅かな痕跡も見逃すまいと歩みはかなりゆっくりだ。


 更に三十分かけ、まだ新しい人らしき血痕を見付けた。「らしき」というのは正確に判断する術がないから。人でなければその生物特有の匂いが混じるが、少なくともその血からは感じられない。

 そして血痕は、元の陣からかなり離れているので焦りが更に募る。それは一定の間隔で続いていて、足跡の間隔から推理すると、走って移動していたのかもしれない。また、他には大鼠の足跡があり、数から三、四匹と思われた。


 しばらくそれを追っていたが、血痕は小さくなりやがて見つからなくなった。地面も比較的乾いた土から、落ち葉の多いものに変わったため足跡もない。


「……お兄さん……」

「……く、こんなに遠くまで移動しているとは……」

 はぐれたことに気付いてから、一時間が経過しようというところであった。


 俺たちは再び名前を叫ぶがやはり返ってこない。彼らの体力も限界に近いはずだ。


 日も傾き始めたので森は既に薄暗い。

「……あ……」

 そんな中で、レウスが気付いた。


「どうした?」

 と振り返ると近くの木に寄り、これ、と矢を指さすので俺はすぐに近づき確認する。

「これはいいぞ……矢の刺さった角度から考えて、あっちか!」

 俺は矢が放たれたと思われる地点に近い獣道を指した。


(こっちには少し開けた場所があったはずだ……頼むから居てくれよ)


 俺たちは森に「マオ」と、声を響かせながらその道を進んでいった。




(……ぅ)

 マオが気絶から回復する。


 ……ぉ…………~ぉ……


 少し遠くから声が届いた気がした。

 しかし、彼女に声を上げる気力はない。起き抜けで弓を引く力もない。


 横になりながら何とか気付いてもらおうと手頃の石を手に取る、そして⎯⎯。


 …………ぁ~………………ぉ…………お……


 声の聞こえた方へそれを放った。




 がさっ、かつん


 側で物音がし、その正体を考える。

(今のは木に硬いものが当たったような音……マオが、応えた……!?)

 思わず早足になった俺たちは、獣道の先でマオを見付けた。


「大丈夫かマオ!」

「ぅ……う、ああああぁぁぁ……!」


 側で寄せ起こすと抱きつかれ嗚咽されたので、少しでも落ち着かせるために明るい口調で話し掛ける。


「どうした? このくらいで。この先もっと大変になるんだぞ? ……まあ、無事でよかった」


「……ご、ごめんなさい……みちにまよって……」


「うん、知ってる。だから探しに来た。よかったな、迷ったのが(ここ)で。それに俺は同伴者だからな、謝らなくていい。けど、みんなにはきちんと感謝しような?」


 マオは俺に抱きついたまま鼻をすすりながら頷いた。


「ケガはないか?」


「……えっと、ねずみにあしをかみつかれて……てあては、したんだけど……」

 そう言って左足を見せてくれる。


「……うん、きちんと止血されてるな。立てるか……?」

 手を貸しながら立たせてみる。


「……ぃった!? やくそうもつかったのに……」

 俺はマオを岩に座らせる。

「……もしかしたら……。マオ悪いけど包帯剥がさせてもらうな」


 俺は懐から万能ナイフを出すと慎重に包帯を切り、固定された布と薬草を少し剥がす。傷は修復が始まっているが、そこには鼠の前歯が刺さり残っている。恐らく深く刺さり、神経まで届いてると思われた。


(参ったな、前歯が残ってる。抜くと出血が再開するし、放置すると病気になる可能性がある)

 前歯が残ってから大分経過しているはずなので、毒気抜きと止血を同時に行わなければならない。


 俺は近くで見ていた皆から協力してもらう。


「テレサ、解毒はできるか?」

「え、と一応は修得してますが、試したことがなくて、効果があるかわかりません……」

「いやそれでいい、精神集中に入ってくれ。スクレータ悪い、俺の道具袋とって来てくれ」

 

 テレサはああ言ったが俺は彼女を信じることにした。また、この空き地へ来てマオを発見した時、思わず袋を降ろしてしまっていた。


「おれは……警戒してればいいか?」

「そうだ」


 自ら判断してくれたので指示する手間が省けた。これからも自分で判断出来るようになって欲しい。

 話しながら、包帯や布を取るなどして処置の準備を進める。


「ぅく……この袋、僕らと同じ大きさなのに、ずっと重たい……!」

「ああ、ありがとう」


 そう言ってスクレータから袋を受けとると、中から水薬瓶を取り出す。


「それ……まさかポーション!? 高級品じゃないですか……!」

「……えっ、ポーション……? 高級……品?」

「こーら集中切らさない。仲間を助けるんだから……よし、合図したら解毒だ」

「ご、ごめんなさい……!」


「マオちょっと痛いけど、辛抱だぞ」

 俺は瓶の栓を抜き、傷口からゆっくりと水薬を掛けていく。そして慎重に前歯を抜いた。


「テレサ頼む」

「はいっ……!」


(あとは新しい薬草と布を当てて、包帯で固定して……)


「これで応急処置は終わりだ」

 皆が安堵の表情を浮かべる。


「そっか…よかった。じゃあ、帰ろうか」

「だめだ。それは止めよう」

 レウスが無謀を言うので諌める。


「俺たちだけならまだしも、足を痛めたマオに合わせて今から移動した所で、どの道森の中で日没だ。それならまだ明るい内に野宿の準備をしよう」

 野宿と聞いて皆の顔は安堵から不安の表情に変わる。


「……あからさまな顔だなぁ……。この先冒険に出ると、きちんと宿に泊まれる事の方が少ないぞ、と」


 そう言いながら俺は自分の袋から、非常食や火を着けるための木炭を出し、野宿の準備をしていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ