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01号 一流冒険者、記者に転身す! 下

 ……俺は同伴にあたり、決めている事がある。それはこのパーティーに感情移入しない、ということだ。だからさっさと自分の課題を済ませて、いろんな格上のパーティーに移りながら冒険者をしようと思っている。


 理由は、練度が違う者が混ざるとパーティーの『空気』が乱れるのだ。実際レウスは今のやりとりを不快に思ったはずだし、他の三人は俺に意識を向けすぎだ。


 レウスは俺が抜けるまでの辛抱であればいいだろう。しかし三人が俺に向いたままでは、抜けようとする際後ろ髪を引くかも知れない。

 それは彼らの成長を妨げていること、俺が彼らに合わせて冒険することになり……互いにメリットがないのだ。


(……ドライになるんだ。これでいい)

 ……この時の俺は間違いないなく、そう思っていた。


 森に入り数時間、遭遇しては狩るを繰り返す。


 大鼠の武器は繁殖力だが、五感の鈍さが弱点である。聴覚は人のそれに近いが、視覚は人の半分以下。なので素早くともきちんと狙えば攻撃は当たる。

 嗅覚と味覚は食物かどうかを判断するほどしかないと言われる。足裏の触覚は、こちらや仲間の位置を知るために機能しているらしいが、その別はついておらず、仲間であれば匂いで、そうでなければ例え自分より大きい相手だとしても飛び掛かってくる、と勘も鈍いのだ。


(ふむ……)


 皆の現在の実力を整理する。


 一番気になったのはマオだ。奏楽の効果を初めて目の当たりにしたが、力強さや魔力に働きかけたり、身軽にかわしてみたり、なによりその演奏が心地よいものだった。


(もしかして、地方特有に魔法が派生したものかもな)


 しかし、レウスが抜かれ攻撃がマオへ向くとすぐに劣勢だ。

 弓では近すぎたり離れすぎたりと適切な距離が取れていない。それを指摘したら我流だと言った。棍は何度も振るとすぐに疲れ、奏楽も精細さを欠く。下から掬い上げる攻撃は疲れにくいだろうが、大鼠は空中で受け身を取り、決定打をも欠いた。


 次はスクレータだ。剣士時代の頃、別パーティーの魔道士を見たきりだが、強力である。基礎魔法である『火球』を直撃させられれば一撃なのだ。

 が、レウスと狙いを被せることが多く、攻撃力を生かせていない。また正面ばかりに気を取られ、側面を突かれる場面も多々あった。その度にテレサから治癒を受けるので負担になる、と指摘しておいた。


 レウスの動きはまずまずだな。足運びや敵との距離の取り方、盾で受ける場面は出来ている感じだ。

 守備的な立ち回りが出来る反面、攻撃はやや無駄が多い。手負いの鼠に大振りを入れたり、細かい攻撃を当ててばかりでしまいに魔法で焼かれたりなどだ。しかしこれは感覚の問題もあり、経過観察といったところ。

 あとは味方との距離意識が薄く、彼を抜いて一気に敵が詰め寄ると、そこから攻撃が分散しテレサの負担となる。俺は指摘を迷ったがここは飲み込んでおく。


(先の態度からすると余計に悪化しそうだしな。自分で気付いて欲しいところだ)


 そんな中でテレサは頑張っていると言える。練度の低さからくる負担に、しっかりと踏みとどまっていた。

 とはいえまだ冒険を始めたばかりの少女、疲労で集中が切れると、足は止まり周囲の警戒も甘くなった。そのカバーに俺が入るのだが、その時の僅かな傷も彼女は回復しようとする。なので、相手の状況を見て優先するか判断しろと指摘する。

 そしてすぐに彼女はそれ飲み込んでいった。


(大したものだなぁ。今は重めの負担がこの先減っていけば、アンクに迫る実力者になるかもな)



 ⎯⎯影を見て大分日が高くなったので、俺は休憩を提案する。


「さんせ~い!」

「僕も魔力を休ませたい、です」

「あ、私も……」

「ちょッ勝手に指示すんなよ、おっさん」

「してないさー。だから君がみんなの意見を聞いて決定すればいいだろう」

「……わかった、休憩に入る。けど、言おうしたところおっさんが先に言っただけだから」

 勘違いすんなよと、更に付け加えた。皆、苦笑いしやれやれといった表情だ。


 幸いにも最近行われた宿跡を見つけた。これはどういうことかと、彼らに簡単な問題を出す。


「安全にキャンプが出来た証拠、ですよね」


 正解だ。冒険者になるものは機を見計らい、一ヶ月の座学研修を修めなければならない。今のはそこで基礎となる問題だ。


 王都からそう離れていないため、大鐘の音がここまで届く中、マオが薪となる小枝を集め、俺は火をおこす。スクレータは精神統一し、レウスは水を飲んでいる。

 そしてテレサは水と食材や、器具を出し軽食の準備をしだした。火おこしを終え、気になった俺は尋ねる。


「テレサ、君ずっとそれ運んでいたのかい?」

「え? はい。さすがに戦闘中は降ろしてますけど」

 そう微笑んで答える。


(……なんだこの子の負担は……生活系の装備くらい分担するものだろう……)


 入れ込まないと決めているが、腑に落ちずもやもやしていると、お兄さん? と呼ばれてしまったので、慌てて何でもないと返した。


 それから俺は彼らから少し離れて休憩に入る。そして少し経ち、俺が手帳に記入を始める頃には、彼らの談笑が耳に届いた。更に少し経つと⎯⎯。


「お兄さん、用意が出来たので一緒にどうですか?」

 そう軽食を勧めてくれた。


「俺の分まで用意してくれたのかい?」

「はい。同伴の人が来るとは聞いていたので……」

 非常食も燃料も持ち合わせ(加えて自分の都合)があるので迷ったが。


「……そうか、ありがたく頂くよ」

 無下に断ることもできず、厚意に預かることにする。


 俺も囲いの輪に入り、礼を言って軽食を口にする。根菜と干し肉のスープの様だ。うん、美味しい。隠し味に香草を入れると彼女は話す。


「器具や食材といい、軽食というには少し凝っていないか?」

「えっと……家が商店なので、家族が色々用意してくれたんです」

 これでも少なくなったほうで、笑いながらテレサは話す。


 ……商店……エスティード……ターレス……あっ。


「……エスティードってもしかして、ターレスで大きな商家の?」


 ご存知ですか!? と驚くが、王国では割と聞く話だ。何でも東の大陸からの旅商人、つまり冒険者がターレスの元の商店を継ぎ、一代で名うての商家にしたという。

 冒険者が冒険や戦闘以外で名を馳せた、そういう例で有名なのだ。それが今や町長で、テレサは孫娘あたる。


 ごちそうさま、と食べ終わり⎯⎯。

「お兄さんさっきは何を書いていたんですか? 戦闘中も時々書いてましたけど」

「あぁ、あれは今日の獲物の奴らの、特徴を下書きしてたところだ」

「特徴を下書き?」

「そ。受付のお姉さんも言ってたろ? 初心者の記者だって。だから俺が新人に上がるために、清書して提出する課題だな」

 そうなんですね。と聞き終ると、じゃああたしと次はマオが聞く。


「先輩が聖剣を手にいれたってホント? ホントなら一度でいいから見たい!」

「……本当だ。だが、今は手元にない。振れもしない剣を持ち歩いても邪魔なだけだろ?」

 あ~そっかぁ……今度見せて下さい! ……と言われたが、俺は肯定も否定もしないでおいた。


「スクレータはないか」

「そうですね……あれ? 戦闘中に書いてるって言いましたが、インクは使わないんですか?」

「……このペンか? 実はな……そうなんだよ。ある探索中の取得物でな便利なんだ、これが」

「そんなペンがあるなんて……! 魔動具((※1))に通じる父からも聞いたことがないです! どんな原理何でしょう、やっぱり魔動石((※2))が……」


 すると、テレサとマオは苦笑いをこぼす。どうやら興味が沸くとこうなるタイプのようである。


 ……このペンが聖剣であると、彼らが知るのはもう少しあとのことだ。


「レウスは……」


 言い終る前に、彼は立ちあがり剣を抜きこちらに向ける。

 テレサとマオは小さく悲鳴をあげ、遅れてスクレータも小さく驚く。


 いかん、と思った時には既に遅かった。


「……打ち合いをしたいならそう言いなさい。乱暴だな」

「……なんだ、やっぱり戦えるんじゃないか……」

「まあ最後まで話を聞けって。俺はもう本当に剣が持てないんだ。持てたとして、休憩中に真剣を抜いたりはしない。だから……」

「……!?」

「こいつで勘弁な」

 そう言って火おこしで余った小枝を彼へ放る。つまりはチャンバラだ。


「……」

「すまんな、俺が振れるのはその重さが限界なんだ。わかってくれ」

 しばらく黙って冷静になったのか、彼は剣を置き、小枝を拾って構えた。


「そう、剣士たるもの冷静でなきゃ」

 俺も小枝を右手で持ち相対した。深呼吸し⎯⎯。


「……いいぞ、来い」


 俺は体の力を抜き、わざと開いた構えをとると、彼は思い切り踏みこんでくる。


 縦、横、と振るった枝はどちらも俺の目の前を通過する。そして彼は次に振り上げを出す。小枝だから出来る強引な繋ぎだ。


 だが彼は真剣の要領で振るため、無駄な力が多い。まずはそれをわからせるため、振り上げに合わせこちらも振り上げ、彼の枝を打つ。

 彼の力を逆に利用する狙い通り、枝は彼の手から離れ宙を舞う。


 ……さすがに落ちてきた枝が焚き火に落ちるのは計算外だったが……。


「く……もう一度だ……!」

「いいとも。実戦じゃ通用しないけどな」

 と俺は応えた。彼は新しい小枝を拾うと、今度はすぐに向かってくる。その動きは修整されていて、適度に脱力していながらも鋭く、俺を捕らえようと何度も迫った。


(若いと飲み込みが早いもんだ。けど当たってはやれないな)


 しかし俺はレウスに意識を向けすぎた為、地面のわずかに浅い窪みに気付かず、足をとられる。それでも無遠慮に狙うレウス。


(やば)

 と思った時には、受け刃するように彼の枝を止めてしまった。

(あ、これはちょっと俺もやりすぎだ)


「あ~、このままだとキリがないから火が消えるまでにしよう。な?」

 だが決定的な場面を逃したレウスに返事はなかった。


 いつまで続くか不安でいたが、焚き火が燃え尽きると、彼もまた燃え尽きてくれた。



「⎯⎯……あ~、くっそ……」


 結局、仰向ける彼の枝は俺に一度も届くことはなかった。


「おい……、へばるほどムキにならなくてもいいだろう?」

 そう言って出した左手を彼は、一瞬考えてから掴み起きてくれる。

(少しは納得してもらえたのか……な?)


 最後のほうでは、受け刃する場面が増えていたので、短時間で良くやったと思う。


 その後はきちんと消火をし、午後の狩りへ戻った。

 入口へ戻る頃には一袋半ほどの前歯、草食の鳥、昆虫、爬虫を少しずつ討伐した。


 尚、肉食は鼠を減らしてくれるので、今回は対象ではない。


 俺たちは袋を渡すと、兵士からは報酬内容の記入と完了印を押された受領証を返却され、ギルドへ報告に戻る。

 帰りは行きよりも静かな気がした。


「ただいま戻りましたー」

「みなさま、お疲れさまでした。確認いたします。少しお待ち下さい」


 ギルドへ着き受領証を預かる受付がそう言うと、奥の部屋へと消えて行った。


 その間、彼らに初めての冒険の感想を聞けば、思い思いの返答をするなか、レウスは答えなかったので「……レウス。少しやりすぎたか? 悪かった」とこちらから言うと、いや……、と一言だけ返した。


 そして受付が戻り報酬が行き渡り、明日の予定を確認し解散となった。今日より少し遅く出発する予定だ。

 因みに今日の俺の報酬はない。支払いは同伴依頼完了か、初心者課題完了後にそれぞれ払われるためだ。


 ギルドを出る黄昏時、彼らは俺の宿とは逆方向に歩いていったので、新しい方の宿を使っているのだと思う。あちらは商店の近さが利便性となっている。



 ⎯⎯その後。夜になり、夕食を済ませて湯屋から戻る。

 解散のあとは宿に戻り課題である清書を進めていた。


 部屋に入りランプを付け、その続きをしようとペンを持つと俺の腕をもっていく。


“退屈„

 と一言そう書かれた。俺は軽くため息を吐き⎯⎯。


「俺もそう思う」

 と同調すると。


“とても自伝に書く程の内容じゃない。書き出しも古めかしい„

「……知ってるよ。つかその話はするな。俺だって今すぐ書き上がる物じゃないってわかってる。というか紙をあんまり使わすな、安くない。……今日はずいぶん噛みつくな? 機嫌悪いのか?」


“べ つ に い つ も ど お り„


 しかしその筆跡は普段より荒々しいもので。

「……いや、明らかに怒ってんじゃねーか……」


“ただ……„

「ん?」

“あの子たちと話す時、無理して笑ってるのばればれ、だから気分が悪い„

 

 そう図星を突かれては黙るしかなかった。


“疲れた、もう休む„

「おいまて。これから清書の続きが……」

 ペンは応えなかった。

 

(……仕方ないだろ、既に終った俺からすれば、これからのあいつらは眩しすぎるんだ……)


 こうしてやることを無くし、記者依頼初日は終った。

 それからその夜は、眠くなるまで月と星を見ていた。

※1 小説世界の主用燃料。こちらの世界で言うところの電池、バッテリーに近い。連続使用で内包魔力が切れるが、ほっておけば魔力が回復するので、半永久燃料とされる。

※2 魔動石で動く装置で、持ち運べる大きさの物。持ち運べないほど大きくなると魔動器と名称が変化。なお「魔道具」と同音だが、世界独自の言語で会話しているので、紛らわしくなることはない。



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