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10号 上

※サブタイトルは「悪魔の指」です。ネタバレを避ける為、伏せました。

 又、これ以降のサブタイトルも同じ理由で伏せさせて頂きます。

 博物館の倉庫。そこには、展示品の補修材の予備や展示予定の品が、厚手の布を被せられその時を待っている。

 机や椅子もあるが、その奥にいた男⎯⎯ラファエルは、少し声を上げた様子で立ち話を始めた。


「ぁぁぁ……その姿、髪の長さこそ違えど、まさに館の絵に描かれている通りです……!」

 いえ、目元も少し違いますが……。ラファエルがそう付け加えていると、お姉さんは言葉を割り込ませて⎯⎯。

「……失礼ながら、この方がお探しの方とは限りません」

 ディアーデは続き。

「そうね。私と忌わく品を繋げられる理由と、目的がわからないわ……」


 その言葉にラファエルは少し驚くと。


「……! では、忌わく品を求めている者も貴女だと……? こんな……偶然が……」

「ちょっと一人で話を進めないで……!」

 ディアーデが反論してラファエルは詫びると自己紹介からする。


「これは失礼しました。僕は博物館で主に受付をしている、ラファエルといいます。……少し興奮してしまい、我を忘れました」


「ではラファエル様。この方を交えての依頼とは、一体どんな内容なのでしょう?」

「いえ、その前に確認をします。貴女方の仰る通り、僕の探していた女性かどうかはわかりませんので……」

「確認……? それはどうやって」


 お姉さんの疑問にラファエルは整息し、やがて語りだす。


「……グレイスバーグで生まれた僕の起源は、アイゼンタールから流れてやって来た者でした。そしてその女性は、かつて城で侍女を勤めていて……名を『リュイス』と」


「!? リュ、イス……それは……」

(……誰だ?)

「ですが、同名の別人ということも……」

「……その通りです。なので、僕の家に遺されていた手記……と言ってもその写しですが、その中身を少しお話ししましょうか⎯⎯」



  ⎯⎯三百年前・アイゼンタール城⎯⎯


『⎯⎯お誕生日おめでとうございます、姫様』

『ありがとう、リュイス……』

 その日はディアーデ、十一歳の誕生日であった。しかし彼女の表情は浮かず、料理が並べられたテーブル反対側の空席を見つめ、侍女から祝辞を送られていた。


『ねえ』

『はい』

『……どうしておとうさまは、いつも居られないの?』

 そう。普段は王として父として、娘と生活を送っている。だがこの日、娘の誕生日には決まって欠席をするのである。

 そんな光景が今年も、ただ何気なく過ぎて行く……はずだった。


『陛下はお忙しくしておいでです。陛下からもおめでとうと伺っております』

 ディアーデは溜め息をして。

『……姫様、今日はお料理がお口に合いませんか……?』

 侍女は、まだディアーデが料理を口にしていない事には気付いている。

『……おとうさまと食べれたら、もっとおいしいのだけど……』

『陛下にも、そうお伝えさせていただきます』

 侍女は王が現れない理由を知っている。だが話すべきではないと言葉を濁した。


『いつからだっけ……』

『? 何がでしょうか』

『おとうさまがたんじょうびに出なくなったのは』

 その言葉に僅かに反応する侍女だが。

『……さあ……覚えておりません』

『その顔は、なにか知っているわね?』

『! …………』

『おしえなさい~~!』

 侍女に掴みかかるディアーデ。

『ああっ! 姫様、お行儀が悪いです!』

『おうじょとしてメイレイします! 知っていることを話しなさい⎯⎯!』



『⎯⎯へいか!』

『ん!?』

 ディアーデは侍女から無理矢理聞き出して部屋を飛び出すと、城内を移動中であった王に対し⎯⎯。

『な……何をしているんだ……! 止めなさいディアーデ!』

 彼女はひざまづいて礼をした。



 ディアーデが侍女の口から聞いたこととは。

『⎯⎯姫様は、お妃様を覚えておられますか……?』

『おかあさま……? いいえ……』

『はい。お妃様は、姫様がまだ小さい頃にお亡くなりになりました……ご病気で』

『…………』

『その時の国は今よりも貧しくて……それは、薬も満足に手に入れられないほどに。……兵の船が遠征から戻ったのは、お妃様が亡くなった数日後の事でした』

『! それじゃ、そのふねがもう少し早くもどれていれば……!』

『そうかも、知れませんね……』

『……おとうさまは、へいしに何て……?』

 侍女は首を横に振り。

『何も。ただ「ご苦労だった」と』

『そん、な……』

『それ以来、陛下は兵達と同じ物を召し上がっています……姫様には良い食事が出来るようにと。ですから誕生日に陛下はお見えにならないのです……。姫様に、何も口にしないことを気付かれないようにと……』


 ディアーデは既に冷めきった料理を眺めて。

『……わたし…………いままでそんなことを知らないでいたなんて…………』

 そう小さく言うと、おもむろにナイフを取って立ち上がり⎯⎯。

『くッ!』

『姫様!? おやめ下さい!!』

『はなしてーーッ!』



 ⎯⎯王とディアーデは、場所を変えてここまでの経緯を振り返っていた。

『…………』

 王は玉座に座り眉間を押さえて、ディアーデは彼の前に再びひざまづいていた。


『すまなかった……。だから、もうそれを止めてくれ……自分の娘をひざまづかせる父がどこにいる……』

『いいえ。それではわたしの気がすみません』

『……ではどうすれば気が済む? お前は父に、何を望んでいる? 寂しいのなら、もっと時間を作る努力をしよう、今より贅沢な食事をしたいならそれも考える。それとも……母が欲しいと言うか?』


 王は自分が思い付くものを提案するが。


『いいえ、その中にわたしの欲しい物はありません』

『なら何だと言うのだ……!? 娘を理解出来ぬ父に教えてくれ……!』

『わたしは、へいかと同じであることをのぞみます』

『……陛下、か……』

『へいかと同じ物を食べ、同じ事を知り、学ぶ。へいかと対等な関係に、わたしはなりたいのです』

 そしてディアーデは、いつかは自分に与えられたモノと同じモノを返したいと思う。


『ディアーデ……それはまだ、お前が考えなくてよいのだ……今はまだ娘で居てはくれまいか?』

『ならば、わたしも礼に復すことを止めません』

『……ディアーデ……そこまでするならわかった』

『! ぁ!』

 小さい声と顔を上げるディアーデ。だが王の続けた言葉は⎯⎯。


『侍女を呼べ』

『!?』

 ディアーデはしまったと思う。自分が王に楯突いた責任を、彼女が取らされるのだと幼くとも理解した。


 そして侍女⎯⎯リュイスは⎯⎯。


『⎯⎯いいえ。姫様に命令されたのではなく、私の判断でお話しました。姫様がこのような事態を招いたことは、全て私の想像力不足でありました』

『リュイス!? どうして……!』

『……では、ディアーデの我儘の原因は全て自分にあると、そう言うのだな?』

『間違いございません。申し訳ありませんでした』

 そう言って深く頭を下げるリュイス。

『ちがいます! わたしが聞き出してかってな事をしたの!』

『……下がれ。処分は、追って下す』

 王の言葉にリュイスはゆっくりと立ち去った。


 ディアーデは後悔をした。自分の浅慮が、人一人の生き方を左右させてしまったと。


『……分かるか、ディアーデ』

 彼女は はっ とし⎯⎯。

『対等を望むお前に! 侍女一人に同情し涙するお前に! 冷徹な判断が下していけるのか!?』

 ディアーデは、顔拭い王に向き直してひざまづくと、震える声で口を開く。

『……それでも、わたしは、へいかと、たいとうでありたいとねがいます……』

『何故だ……』

『……へいか……いえ、おとうさま……。おかあさまがなくなったときも、じぶんを、おさえておられたのですよね……?』

『どうして、そう思う……?』

『……だって……だって、おとうさまはおやさしいですから……かなしいはずなんてないんです……』

『…………』

『だから……わたしが、へいかとたいとうになれたら……その苦労を、痛みを……わかちあって、やわらげてさしあげたかった……!』


 その言葉で、しばしの静寂が訪れる⎯⎯。


『⎯⎯ディアーデ……』

『……はい……』

『よく、わかった……私の、負けだ』

『⎯⎯!!』

 ディアーデは思わず抱きかかると父もそれを受け止めた。


 それ以来、彼女が王を『父』と呼ぶことはなくなり、そして⎯⎯。


『ならば、ディアーデ。お前に、あの侍女の処分を任せる……好きにしなさい』

『……はっ』

『それと……』

『?』

『……何も、髪を切るまではしなくて良かっただろうに……』

『ッ!?』

 ディアーデは、右半分だけ短い髪を確認して、赤面した。



『⎯⎯姫様……』


 ディアーデが食事をしていた部屋に戻ると、中に居たリュイスは緊張して目線を下ろす。リュイスから見たディアーデはまだ背が低い。だが、今入って来た姫はどこか大きく、成長したように見えた……。


『……貴女の処分を、陛下から仰せつかりました』

『は、はい……』


『リュイス。貴女の一生を、私に捧げなさい』


『! ……そ、れは……』

 リュイスは口を押さえて⎯⎯。

『つまり、貴女にはもう自由がありません。それを今回の処分とします。……不服ですか?』

『い、いいえ!』

 騎士でないにも関わらず、ディアーデにひざまづくと。

『寛大な処分……慎んで、お受け致します……!』



 ⎯⎯それから⎯⎯


 

『⎯⎯殿下、お着物がご用意できました』

『ええ』

『まさか城下に下りたいだなんて……』

『平気よ。髪も短いし、こうして変装もするんだから』


 ⎯⎯さあ早く早く。

 着替えた二人が部屋から出て行くところを、王は穏やかに、遠くから見ていた⎯⎯。




『⎯⎯まさか姫様に、武術の稽古を請われるとは、思いもよらないものですな』

『ええ。私も剣を使えるようになりたいの』

『はは、良いでしょう⎯⎯!』


 ⎯⎯側近の男とディアーデは剣⎯⎯訓練用⎯⎯を構え相対し。

『どうです? 重いでしょう?』

『そんな、こと……』

 ディアーデは虚勢を張るが、その体は震えている。しかし男は構わず。

『では、そのまま私に斬りかかってご覧なさい』

『……う……』

『心配は無用ですぞ。私にケガを負わせてもそれは私が未熟が故ですので』

 男の言葉は本音だが、ディアーデには出来まいという建前も込もっている。


『た、たああ……!』

 よたよたと、危なっかしい足どりで立ち向かうディアーデ。それは当然⎯⎯。

『ぬん』

『あッ!? きゃあ!』

 男はディアーデの手から剣を叩き落とすと、意識が剣に向いている彼女に軽く足をかけて転ばせる。


 離れて見ていたリュイスが止めようとするが、同じ位置で見ていた王は腕を伸ばし遮ると、彼女に首を横に振って応えた。


『ぅぅぅ……取れないぃ~……』

 ディアーデは、膝をつきながら落とされた剣を拾おうとしているのだが⎯⎯。

『…………』

 男は剣身を踏みつけることで拾わせまいとしていた。

『⎯⎯ッ!』

 そんな男に、ディアーデは下から睨みつけて⎯⎯。

『ははは……申し訳ない! 嫌がらせがすぎましたかな』

 そう言うと男は、剣から足をどかしてひざまづき、ディアーデの目線に合わせる。


『良いですか? 剣を持てば、誰でも強くなれる訳ではないのです』

『だから、こうしてくんれんを……』

『ロクに振るうこともできないのに、ですか?』

『う……じゃあどうすれば……』

『簡単です』

『えっ』

『剣を使わずとも、戦えるようになればいいのです』

『!』

『姫様は賢く居られる。きっと、自分には重たい兵器が使えないからと、剣を選んだのでしょう。ですが、それもまた一つの手段にすぎません』

『……剣が使えないなら、使わない方法……?』

『その通りです。姫様が望むのであれば、そちらも自分が教えましょう。そして、それでもまだ剣を使いたいと思うのであれば、あなた様が成長なさってからでも遅くはありません』

『…………』


 殿下、次のご予定が……。離れて見ていたリュイスが声を掛ける。その側にもう王は居ない。

『……ええ!』

 ディアーデは悩むように立ち上がると、その声に応えた……が、男に向き直り。

『あの、ありがとうございました……』

『! こちらこそ、ご無礼いたしました』


 男は訓練場から離れていくディアーデを見ている。

『殿下、か……』



 ⎯⎯数年後。


『⎯⎯今、何と言った?』


 ディアーデと王の会話、そしてそれを周囲の兵達が聞いてる⎯⎯。


『はい。私も船で遠征に行かせて下さい!』

『何を言っているのだ!? それに許可を出すと思うか!』

 その言葉にディアーデは少しムっとして。

『私が戦う術を身に付けたのはこの日のためです!』

『馬鹿な! 分かっているのか!? 遠征というのは戦いばかりではない!』

『知っています! 生活する術や航海術も勉強しました!』

『きっとお前のことだ! 夜の番まですると言い出すのだろ!?』

『勿論です! それも自室で少しずつ慣らしました!』

『よくやる! ……と、言いたいところだが駄目だ!』

『何故ですか!?』

『……はァ……。ディアーデ、お前が補佐についてくれて助かっている』

『あ、ありがとう、ございます……?』

『だが、私の娘ということを抜きにしても、お前は姫なんだ! この国の、王女なんだ! そんな人間に番をさせて、兵達が休めると思うか!? 寝ている兵にも気を使わせたいのか!?』


 兵の一人が小さく吹き出す。


『………』

 ディアーデは自身の立場が姫であると改めて思い知り、次の言葉が出ない。

『……夜くらい、兵達を休ませてやれ……』


 王の言葉に しん とその場は静まるが。

『ぁ~~……笑いたい奴は笑っていいぞ。アイゼンタール王が、許す⎯⎯』

 

 そして、城内中に笑い声が響き渡った。兵達は、仲睦まじい親子の掛け合いが可笑しく、それは王と王女にも伝播して⎯⎯。


 その日はディアーデの人生の中で、もっとも笑った日となった……。




『陛下』


『どうしたディアーデ?』


『はい。誕生日が、近いですよね。そこで、ずっと贈り物をしたいと考えていました』


『何……? わしのか……』

『はい。……入りなさい』


 と、ディアーデに促されて入って来た者は⎯⎯。

『陛下。絵師を呼びました……絵を贈らせていただけませんか⎯⎯?』


『……』



『⎯⎯』

『?』

 絵師と王が会話しているがディアーデは聞き取れず不思議に思う。


『どうなさいました陛下?』

『いや何、お前とわしの、二人の絵に出来ないかと訊ねたのだ。お前も、こちらに来なさい』

『あ、ありがとうございます……』


 王は椅子に腰かけ、その隣に佇むようにディアーデは立つ構図である。

 ⎯⎯そして、絵師が休憩を提案してその日はここまでとなった時。


『少しだけ見せてくれない?』

『えっ!?』

 ディアーデの言葉に絵師はキャンパスにそそくさと布を被せた。


『ディアーデ!』

『は、はい!?』

 ふぅ、と王は小さく息を吐いて。

『……完成前の絵を見られる事は、絵師にとっては恥ずかしいものだ……察してやれ……』

『ご、ごめんなさい……そうよね……』

 と、王は覗こうとするディアーデを諌めた。


 

 月日は流れて⎯⎯。


『ディアーデ、来なさい』

『陛下?』

 王に呼ばれ、ディアーデは ハッ とすると、早足で遅れないように付いていく。


 二人が到着した部屋。そこには既に運び込まれ布を被せられた⎯⎯。


『肖像画……!』

『ああ、先程な。ディアーデ、捲りなさい』

『は、はい!』

 ディアーデは、自分の絵なのだから本人が取れば……とも思う。だが望まれては従うのみである。そして、その理由は明らかにされた⎯⎯。


『こ、れは……どう、して……』

 絵を露にして、ディアーデは慌てて振り向く。そこには、書かれているべき王が居らず、自分一人だけであったからだ。


『ありがとう、ディアーデ。良いものを贈ってくれて……』

『そん、な……わたしは、陛下を、残して頂きたかったのに……』

『いいや。贈られたわしが良いと言っているのだ。これが、良い』

『……陛下……』


 ⎯⎯二人は部屋を後にして。


『あの、陛下。一つ欲しい物が……』

『……ほう。ディアーデにねだられるのは何時ぶりか……』

『私の誕生日に、陛下の絵が頂きたいです……!』

『なるほどな。……だがそれは難しい……』

『あ、いいえ! 困らせるつもりは!』


 二人は足を止めて。


『いいや違う。それはな……』

『は、はい……』

『わしが描かれてやらんからだ!』

『ぁ!? 陛下~⎯⎯!?』


 年甲斐もなくはしゃぐ王を、ディアーデは追い掛けて⎯⎯その様子を、リュイスは微笑ましく見守っていた。




  ⎯⎯現在⎯⎯


「もう……やめて……」


 ラファエルが話した内容。その真偽は、ディアーデの様子が物語っていた。

 彼女は地面にへたり込み自分の肩を抱いて、お姉さんも寄り添うようにディアーデを抱く。


(ディアーデ……)


「……失礼しました……」

 ラファエルの詫びにディアーデは首を横に振り。

「……いいえ、わたしも、かなしいのか、うれしいのか……よくわからないの……」


「あの、ラファエル様……」


「はい」


「貴方が、アイゼンタールと関わり深いということは分かりました。ですが、依頼の『悪魔の指』とは、どう繋がるのでしょう?」


「それは、悪魔の指を捜索して欲しい、というものです。少し目を離した隙に抜け出したようで……」


「はあ……?」

(あれ動いてたんだよな……。無くもないことだが、魔族の遺骸じゃこれは壊せないはずだしな……)

 俺はそう推理していたのだが彼は言葉を続ける。


「ただ、それは建前です。本物を……今ここに持っています」


 そう言って、彼が懐から出す皺枯れた棒……それが指であるとするなら、中指の二本ほどの長さで関節部分で曲げ伸ばしするように蠢いていた……。


「「…………」」

 その異様さに、言葉を失う彼女ら。


「建前はひとまず置いて、持ち出すことになった経緯を話しますと……」


 博物館では定期的に展示品の検査が行われる。それは悪魔の指も例外ではなかった⎯⎯。


「そんな時に、僕が検査をしたときの事……これを取り出す際に手に持った時に、突然右腕が勝手に動いて、左手の甲に悪魔の指の爪で、引っかくようにされてしまったんです。そしてその時出来た傷は……こんな感じでした」


「「……“たすけてくれ„?」」


 彼はその時に出来た傷を紙に写しとり、それを二人に見せた。だが問題なのは⎯⎯。


「ああ、やはり」

(んん? 何が起きているか情報が足りないな……!)


「これは……三百年前の文字……?」

「その通りです。王女」

「……王女はやめて……」

 ラファエルは肩をすくめて応えた。


「……僕はこれが、三百年前の文字で助けを求めていると知り、更に機会を待ちました。そして『お前は誰だ』と尋ねたのです」

「……なんと、返されたのですか?」

 ラファエルは首を横に振る。


「……今はお答え出来ません……確証が持てていないので……ただ」

「ただ?」

「もしその人物であるなら、()()()()()()()()()()()()を聞くことにしました」

(成程な、それは良いテかもしれん)


「それは……一体……」

「……三百年前に現れた魔族、そして……陥れられたアイゼンタールを知っているか、と」

「!! 何ですって!? それでコレは何て答えたの!?」

 ディアーデはラファエルに掴み掛かるように訊ねて。

「うぅ……アイゼンタールの件は分からない……だが、三国同盟に現れた魔族の件ならば……裏切り者が居た……」

「!?」

 ラファエルから手を離すディアーデは、彼の手からソレを奪う。


「答えなさい! その裏切り者を!」

“⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯„

「⎯⎯!?」

 ディアーデは机の上を悪魔の指で彫らせて、その名を見てがく然とした。


 何故なら、それを知り得るのは⎯⎯。


「ラファエル!?」

 呼ばれた彼は頷いて、その口からゆっくりと名前を刻む。


 ⎯⎯その名前の人物しか、あり得ないからである。

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