07号 立入禁止に入ってみた。
⎯⎯僅かに光が差す内部屋で、息を切らして道具袋を漁る。
そんな状況でも、しっかと右手に握られた蒼銀のペンは、器用にも石床に綴る。
その言葉が、これから起こる事に向けたものだと、俺は直ぐに理解出来なかった⎯⎯。
神との交信が終わった夜、宿のこと。
俺は部屋の机に向かい、今だ白い紙を睨みつけていた。
俺の目的は、聖剣の謎を解き明かすこと。それは果たされたのだろう。
だが、この結末を認められないでいるのも、また事実なのだ。
(こんなのってアリかよ……)
聖剣がペンになった。それはどこかで、剣に戻るのを期待する俺が居た。
しかし、たどり着いた真実は。
ペンを剣とする魔法であった。
大きく溜め息してもう一度紙を睨んでみても、書き出しは思い浮かばない。
すると。
“一つ、思い出した事があるのだけど„
突然持っていたペンが紙に綴る。
「どうした、ディアーデ……?」
普段なら少し苛つく場面であったが、現在は白紙である。
なので俺は咎めずに彼女を促すことにした。
“聖剣には、鞘があったはずなのよ„
(ん?)
自分の事だけ考えていた俺は、その言葉が直ぐに繋がらない。
“言ってたでしょう? 私をここから出すには『これ』を壊せばいいと„
「ああ……、そうだな。確か、魔族が創造した品か、聖剣に性質が近しい物だと……」
⎯⎯宿に戻る前、青年に確認をした。魔族製の物に心当たりがないかと。
聞いたことはないと言われた。ただ。
「ここにある物に、もしかしたら含まれている可能性はあります。……ただしその場合は、買い取って頂くことになるでしょうが」
「……どのくらいだ?」
そう言ってペンと手帳渡して具体的な金額を書かせた。その値段は。
「…………」
到底出せない金額に絶句した。現在の俺の資産の四十~五十倍か、記者として活動が軌道に乗っていない現状、貯め切るまで何年かかることだろう。
それだけではない。
復元出来る職人を探し、交渉し、復元に素材が必要となればそれを入手しなければならない。
そして復元出来て初めて、魔族製かどうか明らかに出来る……。
それはとても、現実的とは呼べない工程である⎯⎯。
“ええ。だから、手掛かりか何かにはなりそうじゃない?„
俺は小さく息を吐く。
聖剣を壊す。
納得出来ない真実を突き付けられ、今はもう、それに未練があまりないと気付く。
(壊してしまったほうが、いっそスッキリするのかもな。ディアーデも出てこれる……)
イズンには大切にしてくれと言われたが、自分の持ち物である以上は好きに使わせて貰おうと思う。
俺の心は決まった。しかし。
「鞘なんて、書庫にもそんな情報なかったぞ? 手当たり次第探すのも限度がある」
“思うのだけど、まだ見つかっていないから書かれていない……。そんな可能性もあるんじゃない„
「まあ、そういう考え方も出来るか……」
“となると、可能性として考えられるのは……„
「……アイゼンタール城、か……」
ディアーデは紙の余白に四角く枠取り、何やら描き込んでいく。
「これは、見取り図、か?」
“そう、思い出せる範囲だけれど。もう一枚„
俺は要求されるまま紙を出す。その夜は、城を探索するため、彼女と算段をすることになった。
⎯⎯朝、といってもまだ日の出前の薄暗い時間である。
まずは馬車でエインセイルを出発して、ターレスに向かう途中、城に最接近する位置で下車させてもらおうと考えていた。
宿の出入口の扉を開けると猫ほどの小動物が横切る。そしてそれを追うように顔向けると、足下にしゃがみこんでいる誰か。
その後ろ頭から、セラテアであった。
「おはよう、セラテア。今日は時間通りだったぞ」
王都を発つ時のことを話しながら俺は挨拶をする。
「おはよう……ライトくん……」
少し頭を上げ、こちらに向けた顔は。
「!? どうした!? まさか、寝てないのか?」
「ええ……。広報になんて報告しようかとか、どうやって記事にしようかとか、そもそも正直に書いていいものなのか……」
「……実は、俺もそんな感じだった……」
「「はあ……」」
俺達は溜め息を揃えた。
「? ライト君、荷物が少ないわね?」
「ん? まあな、歩きながら話そう」
俺達は街の外で出発を待つ馬車に向かう。
「俺は、アイゼンタール城に行こうと思ってる」
「えぇっ!? 行かないでって言ったでしょ?」
「聖剣の正体を報告する手掛かりが欲しいんだ。今のままじゃ俺も納得出来ない。だから、目先を変えたところまで、確認しておきたい」
俺はセラテアに聖剣の鞘については伝えない。ディアーデがセラテアを、魔法使いを信用していないと言うからだ。かく言う俺も、セラテアの陽気さを苦手に感じていた。
「気持ちは分かるけど、ライト君……」
「大丈夫、これでも冒険者で食べてきたんだ。本当に危険なら途中で引き返す」
荷物の少ない理由は、城の探索を終えたらここへ戻る予定だからだ。
道具袋の中は、冒険証は当然として、予備の半紙に保存食と、ポーションや包帯が念のために入っている。
⎯⎯馬車に揺られながらセラテアと会話する。話題は交信の際に使っていた言葉について。
聞くと『原初語』と呼ばれている言葉らしい。
専門家であれば既に解析済みだと言う。専門家でないセラテアが話せるのは、魔法使いならではの独学ということだった。
「クロイツェンに隠れ里を滅ぼされた時、原初語を使った魔法が失伝してしまったの。魔法は唱えるだけじゃなく、事象の想像を体内の魔力に伝えなければいけないから」
現在はその想像だけが失われて、事象の予測がつかなくなった。彼女は魔法の復元を試みた一人だと、そう話す。
馬車が予定の下車地点へ着く。
「本当に気をつけてね、ライト君。たとえ義賊でも、盗賊には違いないんだから……!」
「わかった! 王都でまた! 店主によろしく伝えておいてくれ」
最後尾の馬車なので、御者は店主ではない。
挨拶すると、馬車を押して補助をする。
それを少し見送って俺は、北の、アイゼンタール城へと歩き始めた⎯⎯。
アイゼンタール城は、剣士時代の頃でも入ったことはない。それは町や村といった拠点が遠いためだ。その分準備も必要になる。つまり資金が必要だ。依頼であれば報酬が出るだろう、だが興味本意となると、足が重くなるのも必然のはずだ。
自分が好きで冒険者をしているからといって、飢えたいわけではない。
油特有の粘つく匂いの中、やがて城跡が見えてくる。
今日の天気は曇りで少し涼しい。おかげで水も体力も少し余裕がある。
城の側。俺は城壁跡から城の入口を伺う。
(見張りは二人……やはり武装しているな……)
腰に帯剣しているのが見えた。上着の中も警戒したほうが良いだろう。
だが、このくらいであれば想定内である。
城は南向き。俺は城の東へ回り込んで別口を探す。ディアーデが語るには、牢に続く地下の入口から城内へ入れるとのこと。
目論見通り地下への入口は見張りがいない。
だがそれは、行き止まりのせいで置かなかったとも考えられる。
俺はペンと折り畳んだ城の見取り図を出す。
もし行き止まっていた場合、他の通路がないかディアーデに相談したい。
落城して三百年、一部が崩壊していてもおかしくはない。
“この辺りは、厩舎が近かったわね„
そんなことを彼女が綴り、慎重に階段を降りていく。幅は両手が余裕でつくほどである。
階段を降りきり、十メートル足らずで突き当たると、左右に道が伸びている。
地下であるはずなのに思ったほど暗くはない。どうやら、所々崩れていて光が漏れているようだ。
俺はゆっくり右を覗くと。
「……ぇ」
「!」
数メートル先からこちらを向く見張りの盗賊と目があってしまった。すぐに顔を戻す。
(いきなりかよ! どうする!?)
来た道を逃げた所で振り出しか、深追いされるとここへは戻ってこれない。
俺は咄嗟に、ペンを口にくわえて左右の壁を突っ張り天井側へ逃げる。
目一杯高さを稼いだ瞬間、盗賊がこちらの通路を覗く。俺からは盗賊の脳天が見えている。
!? !?!? !?!?!?
盗賊は突然目標を見失ってきょろきょろとしている。まるで幻でも見たかのようだが、信じられないとばかりに執拗にその場から離れない。
一方で俺は⎯⎯。
(はやく……は、や、く……いって、くれ……)
左右の壁等に、右手足左手足と支える場合、四つの支点、均等に力を入れるのがコツ、なのだが。
俺は右腕が極端に非力である、このままでは長く保ちそうにない。必死に左側の壁を押し、右肩を強張らせて身体を支える。
(たのむ、から……うえをむくなよ……)
盗賊はどのくらいその場に留まっただろう。一分か、二分か、それとも三分か、実際の時間など知るよしもなく、盗賊は突き当たりの左へ消えた。
(い、いったか……)
気を抜いて降りようした直後である。
盗賊は ひょこ と通路に顔を出す。
(! フェイントッ……やめろッ……)
右手足左手足で支えていた体勢から、両手両足で支える体勢になる。先ほどよりは楽な体勢であるものの、盗賊が居ては降りられない。
やがて盗賊は、顔を戻すとその場から離れていった。
俺は盗賊の足音が聞こえなくなるまで待ち、そして音を出さないように着地した。
左手で口を覆い、荒い呼吸を繰り返す。右腕を揺さぶり脱力させる。
(ついていないな……。見張りを増やされなければいいが……)
息の落ち着いた所で移動する。ディアーデは、鞘があると伝えたが、どこにありそうかまでは分からないと綴った。
どうも一部屋ずつ調べなければいけないらしい。
突き当たる度、慎重に左右を確認しながら進む。
地下に崩落は見あたらない。見取り図の通りに一階へ上がれそうだ。
一階への階段を昇り切る直前にも注意深く辺りを警戒する。
遠目に盗賊が見えた。しかし、それが見回りなのか、単に移動中か分からないのは辛いところである。
盗賊は、横から現れたもう一人と話だしたように見えた。
俺は気を取られている隙に、数歩左の飾り柱に移動すると、溜めていた息を少し吐く。
一階。縦横に広い空間で、見取り図からおおよその位置を割り出す。
今、背にしている飾り柱は円く、人間三人ほどの太さで、黒い。
それは柱だけではなく、城内全体が煤にまみれている⎯⎯落城したというのだから当然だが⎯⎯。また地下よりも明かりがまわっており、その様子がはっきりと、見てとれた。
俺は、ここから近い一室をひとまず調べることにする。移動しようと一歩踏み出すと。
ぱき……
と、砕けた瓦礫を踏む音が城内に反響する。
思わず柱に体を戻して様子を伺う。
…………
軽く息を止めるが周囲に反応はない。
(これは……思っていた以上に難しいぞ……)
目的があり、地理も多少分かる。余裕があれば当時に思いを馳せたいところでも。
されど、盗賊だけではなく、音にも気を使い移動するのは容易ではなかった。
一階は損壊が少なく広大だった。なのでそこはほどほどに、二階の探索を始めた。
今のところ盗賊とは、早く気付けたり、部屋に入ってやり過ごしたりと出来ており、派手に見付かるようなことにはなっていない。
そして、目的である聖剣の鞘も、それらしき物は発見出来ていなかった。
だが、それもそのはずだと、俺は今更になって気付く。
(! 行きどまりか……)
壁が崩れ通路を塞いでいる。瓦礫は大量であり、現在の俺一人の状況でどかすことはできない。
見取り図ではこの先に、いくつか部屋があるはずだが、どうしたものか考えてディアーデに小声で話す。
(……もしかして、立ち入れない部屋に、鞘がそのままなんじゃないのか?)
“ああ、成程。それが見付かっていない、情報がない理由なのね„
彼女に肯定された俺は、探索方針を、部屋をしらみ潰しに探すことから、探索出来ない部屋を探すことに切り替える。
見取り図には塞いでいる地点に目印をつけておく。
おそらく発見出来るとしたら、次回の探索だろうと思い始めていた。
尚、今立ち入れなかった部屋は、上階の外から降りられれば入れそうではあったものの、生憎と今日は、ロープを持ってきていない。準備不足である。
心の中で少し嘆くも、俺は気を取り直し、探索に集中した。
⎯⎯三階。ここまで昇ると大きな崩落が目立ってくる。
二階が小壊という感じであれば三階は中壊といったところか。その為、城内も次第に明かりが増していた。
階段と空間に挟まれた壁に体を寄せている俺は、複数の盗賊がたむろする様子を伺っている。
探索も残すところ僅かである。だがその盗賊達に進路を阻まれていた。
(早くその奥を確認してここから出たいんだが……)
盗賊の移動を今か今かと逸る俺は、背後の変化が疎かになっていた。
雲の切れ目から太陽が覗き、硝子のない明かり取りの窓から陽射しが入る。
やがて陽射しは俺の影を作り、盗賊達のいる空間へと伸びてしまう。
そしてその影は、盗賊の一人に、気付かれてしまった。
「誰だ!? そこにいるのは!」
(!? くそ! ここまで来て……!)
体を深く戻し考えを巡らせる。
まず戦うことは論外。多勢に無勢な上、力も武器もない。
いっそいつぞやの時のように堂々としているか? いいや駄目だ、それをするには奥まで入りすぎている、油断を誘えない。
ならば選択肢は……。
「誰だ貴様は!!」
時間切れだった。ここまででほんの数秒の事である。
盗賊達は一斉に小剣を抜き、迫る。小剣は屋内でも取り回しがしやすいのだ。
俺は城から撤退を図る。目的地がすぐ近かったので『逃げる』という選択が最後になってしまった。
階段を降りると ピィーーーー…… と甲高い音。
おそらくは今の一人の指笛だろう。すぐに一人の盗賊が目の前に現れる。音の大きさや聞こえてきた方向から位置がわかったのだ。
盗賊は小剣を振り回す。通路が狭いので闇雲に振り回されるだけでも鬱陶しい。
背後の盗賊に挟まれたくない俺は、目の前の小剣を左腕で強引に受け止め、全力で盗賊に体当たりする。剣の使えない俺の最大限の攻撃である。左腕に激痛が走っているが、今は構っていられない。
俺と壁に圧迫された盗賊は「がはッ」と息を吐き、もがくも力がない。俺はすぐにその場離れる。
四方からは無数の足音が耳に届く。二階の降り階段につく頃には既に遠目で囲まれている事がわかった。階段を降りる途中、階下から現れた盗賊に飛び降りながら蹴りを入れる。
一階へ戻ってきた。しかし入口方向からは盗賊達。
俺とディアーデはこういう事態にも打ち合わせていた。一階の、とある一角へと走って移動した。
そこは広い空間に無数の内部屋が存在する一角で、そこに潜んだり、駆け回る事で盗賊達を撒こうという寸法である。だが。
(なに!? 扉に鍵だと!? 他の部屋は……!?)
⎯⎯やがて俺は、走り回って扉の無い内部屋を見付ける。そこには、大きな水瓶、乱暴に引き出されたチェスト、傷みの少ない衣装入れ、半壊したベッド。そして⎯。
背後からはばたばたと盗賊達の足音が近付いてくる。考えていられる時間は少ない。
俺は、これが最善の判断だと信じて、衣装入れの扉に手を掛けた……。
⎯⎯部屋に潜み、やがて足音が部屋の入口から聞こえる。視界が確保出来ておらず、全て音で判断するしか術がない。
入口の足音は微かになる。それはこの盗賊達の練度の高さを意味していた。
俺は慌てて無理な体勢で体を押し込めたので少し捩ってしまう。すると。
かちゃん
(!!)
俺の道具袋から不吉な音。その正体には予想がつくが、考えたくない。
今はそれどころではない!
袋越しの音なので極小だったはずだが、盗賊がそれに気付いたかは不明だ。
息を殺し、額に、肩に、背中に、腰にと冷たい物が流れる。
ちゃり……
と、盗賊の足に踏まれた砂利が鳴く。
き……ぃ……
次に盗賊は、半開きの衣装入れの扉に触れ、それが軋む。
俺は息を飲む。
がばっ
勢いよく衣装入れを開け放つ盗賊。そして、すぅーー…… と鼻で息をする呼吸音。
入口から男の声。
「居たか?」
「いいや……居ない」
盗賊は、内部屋から去って行った。
少しずつ慎重に顔を出し、誰も居ない事を確認すると。
俺は、ベッドの下から這い出した。
内部屋の隅で踞るようにして、荒い呼吸に大きく息を吐き、いまだ痛む左腕を右手で押さえる。
危ういところであった。俺は盗賊の意識を衣装入れに向ける為、わざとそれの扉を半開きにして、あたかも隠れたよう装ったのだ。
チェストに隠れるには引き出しを戻さなければならず、時間が足りないと踏んだ。
水瓶には蓋がされ埃も積もっていて、この状況で開ける勇気が俺には無い。
左腕の応急処置をする為、道具袋を開ける。
(くそ……。やっちまった……)
ポーションは割れていた。体を捩った時に、当たり所が悪く、ベッドの『背骨』にぶつけてしまったのだろう。
道具袋の中全てが、薬液で濡れてしまっている。
ひとまず冒険証を出し、ズボンや服に水気を吸わせた後、懐へしまう。
半紙と包帯は、いっそこのまま応急処置に使ってしまおうと考えた。
保存食は、干し芋と干し肉のポーション漬けが出来上がっている。
ポーションは万能薬。飲めば胃薬や整腸作用が得られるので害はない。ただ、「食べて腹を壊しても大丈夫」と言わんばかりのそれは、少々皮肉が利きすぎているのでは……。
そんな事を思ってしまい、自嘲気味に軽く吹き出す。これは決して楽しいだとか、余裕だからではない。
恐怖が振り切れてしまって笑うしかないのだ。
その間ずっとペンは右手に握られている。字を書く時の持ち方ではく、剣を逆手に握るような持ち方だ。
置いたり仕舞ったりする余裕も俺には無かった。
そんな持ち方であるにも関わらず、ディアーデは器用にも字を彫ってみせる。
“ごめんなさい„
俺は、俺がケガをした事に負い目を感じたのだと思った。
別にお前のせいじゃないさ、そう心の中で考えるのが精一杯。
そして俺の身に起きた次の事は。
突如として左胸に走る激痛。
ペンが、右手が、俺の意思とは無関係に、ずぶずぶと沈んでいく。
「おま……え、ど……して……」
俺の意識は、そこで途切れた。
(……何も見えない……。何も、感じない。俺は、どうなった……)
意識が戻るも自分の状況が分からない。
五感は何も働かず、体を動かそうとするも、まるで胴体から寸断されているかのよう。
(死んだ、のか……。いや……)
それはおかしい。何故なら『思考出来る事』に説明がつかないのだ。
(まあ『死』がどういうものかは知らないが……)
だがそこへ、何の前触れもなく突然と映る風景。
そこは俺が意識を失った内部屋である。そして、視界の主は手に棒を持って見つめている。
その手の指は、ほっそりとしていて女性であると分かる。また、棒は赤黒い。
「遅くなってすまない。……これはまた、悲惨な姿だな……」
(その声は……イズンか!? 待て。今、姿と言ったか……?)
手に持つ赤黒い棒をよく見ると、どこかで見たことがある。
(!?!? まさか…………う、うそだろ…………)
……俺は、一番入ってはいけない場所へ、入ってしまっていた……。
以上でミッドポイント終了となります。コンセプトの都合、人称視点がぐるぐるしています。これから更にぐるぐるしていきます、申し訳ないですがお付き合いください。




