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06号 実録、神との交信 中

 俺達は自己紹介を済ませ、館長であった男と本館へ向かう。そして訪問をするに至った具体的な経緯を話していく。


「そちらから訪問していただくのは、二度目ですな。なんでも交信器を調べたいとか」

「はい。私達クロイツェンは先日、聖剣の回収者と接触しました。その者は聖剣の誕生について興味を持ったようで」


 自己紹介に俺の名前や正体、聖剣の変化等は伏せられた。俺が望んでいたからか、セラテアがそう判断したかはわからないが、意図してされたように思う。


「フム。神から賜った聖剣は魔族を封印できる、と資料から解るのはその程度ですからな。何故封印ができるのか、どうやって作られたかに疑問を抱いた、と」

 なかなか面白いことを言い出す人物ですな。と館長はつけ加える。

「それで、魔導大臣はその考えに共感しまして、彼女の協力の元、神との接見……つまり交信器の起動が出来ないかと思いたったのです」


「……ですが……」


「知っております。交信器はあれから起動できた試しがないと。しかし、こちらも魔導大臣から預かってきた物がございます」

「なるほど……では、神との接見が果たされた際には……」

「勿論、わかっております。その件に責任を持って、記事にさせて頂きます」

「はい、是非とも。交信器が再び動いたとなれば、これ以上ない館の宣伝となるでしょう……」


(そういうことか……。確かにこれは、俺だけではどうにもならないな……)


 二人の会話を聞きながら、内容と歩みについていく俺。

 普段は陽気そうなセラテアが、落ち着いた様子で館長と会話するので別人に感じてしまう。


 俺達は本館へと繋がる扉を抜けた。

 元が城だったというだけあり、そこはクロイツェン城に近しい雰囲気を覚える。

 しかし、現在は博物館。展示物である調度品の数は城よりもずっと多い。また来客に、それを遠巻きに見る人、護衛をつけ団体になった貴族風。そして説明をする案内係と、ごくわずかに冒険者風も混じって、その中に見える。


 少しぼうっと眺めたので、二人と距離が離れた。俺は早足ですぐについていく。


「あれ……」


 俺は足を止めた。気になる展示物が目に留まったからである。


 石の碗が、同じく石で出来た台に乗っている。大きさは、碗が大皿程で浅く、台は六角形で碗より少し余る大きさ。そして碗には裏面に、台には側面にと、それぞれ見たこともない紋様が彫られていた。


「ああ、それが交信器……の模造品となります。……ここでは定期的に専門家を呼んで、展示品の検査を行っております。ですが、今回は交信器が動くかもしれないということで、急遽入れ替えた次第でして」

 まあ、『特別』というやつですね。そう館長は笑いながら、もったいつけてつけ加えた。


「館長、何から何までありがとうございます」

 そんな相手にもセラテアは深く礼を述べるので、俺は少し気まずく感じてしまう。

 しかし彼女は、何てこと無い様な笑顔を俺に向けて、既に進んで行った館長の背中を追うのだった。



 俺達は本館から外れた一室に到着する。


「こちらが、本物の交信器となります」

 そこにあったのは先程見た模造品より傷んだ印象の石の碗と台であるが。


「模造品はただの石を加工した物でしかないのに対し、本物はその材質が一切不明なのです。お陰で復元も容易ではありませんでした」


 復元には僅かな欠片を集めて、地道に少しずつ接着していったそう。材質は石に似ているものの、魔動石の動力を伝える力が石のそれとは格段に違うらしいと、館長は話す。


「もしかしたら、復元が不完全なのかも知れません……」

「なるほど……、事情は大体理解しました。私も魔法使いです、何か違うことに気付けるかも知れません」

「おお、それは頼もしい」

「ですので、この場はひとまず私に預からせて下さい。きっと吉報をお持ちいたしますわ」

「……わかりました。宜しくお願い致します」

 館長は頭を下げると部屋を後にした。


 それを見送った俺は、交信器を見つめたままのセラテアに尋ねる。

「随分と自信ありげだが、何か思いあたることあるのか?」

「うん。単純に魔動石の出力不足だと思うのよね~」

 セラテアは交信器の周囲を観察しながら話す。


「魔動石の問題というなら、本来これに使われていたのは何処へ行ったんだ? それに今の話を聞くと、よほど高純度でないと駄目みたいな……」

「何処へ行ったかはわからないけど、魔動石ならあるわ」

「何?」

「さっき館長との話に出したでしょ、魔導大臣から預かってるって。これよ」


 と、セラテアは手のひらを見せてくる。そこには何も乗っていないようだが。


「そこに何かあるのか?」

「まま、両手を出してごらんなさい」


 俺は言われるがまま、両手で受けるようにする。セラテアはその上に何か置く仕草をすると。


「!? 何だ、これ……」


 俺の目には全く映らないが、両の手には確かに乗っている質感や重量を感じる。


「これが、最上級の純度の魔動石よ。空気中の目に見えない魔力がそのまま固体になった感じかしら」


 俺はそれを包むように触って確かめる。

 触感は研磨された石や鉄か、手のひらより少し大きく、円型で角が無い、熱も無い常温である。重さは大きさに対して軽いだろうか。

 目に見えないので適当に置くと無くしてしまいそうだ。


「……落とさないでね」

「……わかってるなら早く取り上げてくれ」

「はいはい」

 そう笑いながら、俺の手から魔動石を回収する。


「それじゃ、(それ)を縦にしてくれる? 裏底に嵌めるみたいだから」


 俺は了解して、言われた通りにする。そしてそのまま支えていると。


「……んん……、ぐ、ぐ、ぐ…………。ふぅ……」

「どうしたんだ?」

「……ライト君。残念なお知らせがあるわ」

 

(ん?)


「……入らない……」

「なんだと……」

「もう少しなんだけれど……これは、どうしようかしら……」

 セラテアは唸りながら少し悩み、答えを出す。


「削るしかないわね……」

「本気か……? というか、いいのかそれで……」

 俺は少し肩を落として応える。


「だって他にないもの。魔動石削る訳にはいかないし……。ってコトで、何か道具ない?」

「道具ったって……」


 突然言われたところでそんな準備があるはずもない。碗を裏に向けて置き、服をぱたぱたと触るがナイフとペンに手帳の感触しかない。

 そんな時、ふと思い出してしまった。


(そう言えば、これ……石床を彫ったことがあったっけ……)

 と、蒼銀のペンこと聖剣を取り出して見つめる。


「どうしたの?」

「いや、これでなんとかならないかなと……」

「『これ』ってあなた、聖剣でしょう……。もしかして、使ったことあるのかしら?」

「聞いてくれるな……。それで、出来そうなのか?」


 セラテアは、俺の手から聖剣を取ると再び唸り出して、試しとばかりに、かりかりと削り始める。


「うん。なんとか、いけるかもしれないわ」

「時間はかかりそうか?」

 俺は少し苦笑いして尋ねる。


「そうね、少し自由にして頂戴。館内でも見て回ってて……」

「わかった。また、後でな」


 聖剣を他人に預けるのはやや不本意であったが、俺はその部屋を後にした。



 セラテアの言葉通り、博物館を見物させてもらうとする。


 博物館だけあり、展示物は美術品に留まらない。

 例えば……、同盟国の城の縮小模型(縮小とは言え十分な規模)。

 ……古代の迷宮から出土した刀剣、具足(復元可能か怪しいほど朽ちてぼろぼろ)。

 ……悪魔の指(動いてる……)。

 ……大国で有名な美女の像(大きい。どこがとは言わないが)。

 他にも壺や食器等々、それぞれが硝子の箱を被せられ、展示されている。


 一階を見て回ったので次は二階へ上った。


 二階は主に、廊の壁を使って展示されている。

 年代毎のタペストリーやら、国々の国旗と歴史的な事柄を描写した絵画に、紛失して久しい書の写しだとか。

 そして大小二枚、紙に描かれている地図。それ見て冒険者に成り立ての頃を少し懐かしむ。


 小さい紙に描かれているのは、クロイツェンやエインセイルといった周辺地図。

 もう一枚の大きい紙は、世界地図である。


 この辺りの地形は『島』である。それが南北に伸びた楕円形、もっと正確に言うと卵の丸い方を北に向けたような、そんな分かりやすい島だ。

 そんな島のほぼ中央に休火山が構え、北と南を分断するように山脈が連なっている。

 北は、西からエインセイル、アイゼンタール、クロイツェンと等分される形をとっていて、南は複数の領地からなる『ラーゼンヘイム諸侯』となっている。


 一方で世界地図ではどうなのかというと。

 地図の中心より、少し北西の内海に囲まれて浮いている、握り拳ほどしか無い島……それがここなのだ。

 

(世界の大きさを知ってしまうと、ここは本当に狭いよな……)


 地図を眺め終えて、次の壁に目を向ける。

 等身大の肖像画のようで、そこには少女が描かれていた。


 黒いドレスを纏い、腰まで届く濃金……亜麻色の髪、碧の瞳。

 女性らしい体形をしたその人物の表情は。口角はやや下がり、目は釣り上がり気味だろうか。まるで、不満であるかの感情に汲み取れる。

 少し高く壁掛けられ、少女から見下ろされているような錯覚を覚える。それほどまでに精工な絵画だ。


 人物名は。


「ディアーデ……アイゼンタール……享年、十八歳……」

 俺は小さく呟いた。


 絵の概要では十六歳頃らしい。また、五十年程前に二度目の復元を終えたとある。そこから何故、彼女の表情が堅いのか分かった気がした。

 仇でもある敵国の姫に、同情を買われないようにしたいのだ。復元に際して、表情を歪められたのではと思うと、なんとも居た堪れない気分になる。


(遺すことを情けとしたいのか、はたまた後世まで語り継ぎたい諸悪としたいのか……)

 そんな事は国民のみぞ知る……それが俺に出来る、想像の限界だった。


 俺はたまたま側を通る案内役に、記者であることを説明した上でメモの許可を尋ねる。

 近くの休憩席でどうぞ、と案内された。


(まあそうだよな。他の人の邪魔になったり、インクを飛ばしたり色々……)

 俺は持ってきた羽根ペンとインクで手帳にメモを録る。おかげで、神との接見記録以外の事も書けそうだ。


 これで一通り見回ったのでセラテアの様子を見に戻ることにした。



 交信器のある部屋へ戻ると彼女は大きく頷いている。


「上手くいったか?」

「あぁ、おかえりなさい。ええ、魔動石が入ったわ」


 俺は底の窪みの目に映らない触感を確認して、碗を元に戻した。


「それじゃ、起動すると……」

「待って。流石に勝手に動かすのはまずいわ。館長に確認しましょ」

 何せ神の魔動器なんだから、何が起こったものか……。


 そう付け加えられては、俺は納得するしかない。

 聖剣を返してもらい館長に確認を取るため俺達は部屋を出た。



「⎯⎯館長」

「おお、いかがでしたかな?」


 館内で接客していた館長に、機を見て交信器の準備が整った事を話す。


「起動の目処は立ちました。ですが……」

「何か問題点が?」


「率直に言いますと、『何が起きるかわからないのが問題』と言えるでしょう。ですのでこちらは、閉館してから起動したいと考えているのです」

「む……それは、少し困りましたな」

 館長は明らかに不服そうな顔をする。


「普段であれば良いのですが、本日は生憎と予定が入っているのです……」

 新しい展示物の打ち合わせが、海外からの譲渡者との間で行われる予定だと話す。


「そちらの都合はいかがですか?」

「……明日の閉館後に起動となると、ここを発つのが明後日……。遅くとも明日の午後には街を出たいと考えておりましたので、厳しいかもしれません……」


 セラテアは冒険者ではない。故に長期間、職場から離れるのは望ましい事ではない。


「う~む……、わかりました。では起動の立ち会いには、私の代理を立てましょう。私も譲渡者(彼ら)との信用問題がありますし……」

「館長、よろしいのですか?」

「はい、打ち合わせと言ってもここではなく、搬入された倉庫でしますし、その後は食事に行ったりだとか、酒場で飲んだりだとか……」


 館内には入らず接待的なことをするようだ。


「では、代理に適切な者を今連れてきますので……」


 そう言って、その場を離れる館長を見送ると、俺とセラテアは、顔見合わせて少し肩をすくませた。

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