号外 父は語る
※登場人物 レウス、テレサ、テレサ父、マオ、マオ母、スクレータ、マオ父、レウス父、テレサ祖父、テレサ母、スクレータ父……登場順「」付き。
⎯⎯付き 町人モブ。
(ありきたりな内容につき、地文全カット)
「……ってえ……」
「……! だいじょうぶ……?」
「あたりまえだろ! いつものことだよ」
「……いつもころんでるの……?」
「んなっ!?」
「……じっとしてて……」
「あ……すりきずが……お、おまえ……!」
(びくッ)
「あっ、おいまてってー!」
⎯⎯十年前~国境の町ターレス⎯⎯
「でけぇいえだ……」
「? おや、ぼくは何かご用かな?」
「え、えっと、ここにおんなのこが……」
「ああ、テレサのお友達か。少し待っていなさい」
「う、うん」
「やあ、お待たせ。おっと、どうしたんだい、テレサは隠れて?」
「その、さっきはありがとな。おれ、レウス」
「……て、テレサ……」
「テレサか。さっきのあれってまほうだろ?」
「!? テレサ、魔法を使ったのかい!?」
(ぶんぶん!)
「……レウス君、と言ったね? 詳しく、聞きたいな。中でお菓子でもどうだい?」
「そうか……テレサの魔法で傷をね。わざわざお礼を言いに来てくれたのか」
「かーちゃんがいつも、おれいはちゃんといいなさいって……」
「ふふ。うん、そうか」
(もくもく)
「……レウス君、魔法の事は僕達の秘密にして欲しい。お願い出来るかな?」
「え、どうして……? すごいのに……」
「うん。すごいから、なんだよ。けれど、テレサはまだまだ上手には使えない。だから、もっと大きくなって、うんと上手になってから、町のみんなを驚かせてみたくないか?」
「そっか~、じょうずになるまでひみつなんだな。わかった」
「ありがとう、レウス君。これからもテレサと仲良くしてくれるかい?」
「おお! でもひみつなんだな!」
「うん、そうだ。よろしくね」
「テレサは、なりたいものとかあるのか? やっぱりまほーつかいか?」
「……えと……よく、わかんない……」
「そっか。おれは、ぼうけんしゃになって、けんしになって、せかいじゅうをまわるんだ」
「ぼうけん、しゃ?」
「おう! このまちのひとにも、ぼうけんしゃがいて、たのしいっていってた!」
「……けんしって?」
「えっとーだからー、けんしになってーぼうけんしゃになってー……あれ、ぎゃくかー……?」
(くすくす)
「わらうなよー」
「ご、ごめん、なさい……ふふふ……」
「……ちえ……。そうだ……、テレサもぼうけんしゃになれよ。まほうで、おれのことたすけてくれよ!」
「……!」
「⎯⎯レーウスー」
「ん、マオ」
「……さいきんのレウスってば、『あのこ』とばっかりあそんでるー」
「おう、おれたちぼうけんしゃになるからな」
「……まーだそんなこといって、おんなのこじゃない。むりむりー」
「むりじゃねーし! あいつはすげーんだから!」
「ふぅん……すきなんだ?」
「ばッ!? ち、ちっげーし! ま、まあ? マオにはむりかもなー」
「なぁんですってー!?ならあのコがどうすごいか、おしえなさいよぉ」
「…………」
「ほーら、みなさい……!」
「……ひみつなんだよ……」
「ひみつ、だからな。だれにもいうなよ……」
「……だからマオにはむりなの。マオは、ぼうけんしゃにならなくていいよ」
(って、なんだあいつ……かえっちゃったよ……)
「⎯⎯あっちょっとどしたのマオ? 足に抱きつかれたらお仕事出来ないでしょー」
「……レウスが……ぼうけんしゃになっちゃう……」
「うん。よくウチへ冒険話を聞きに来てたもんね? マオもなるなら、お母さん応援するけど?」
「いらないって、いわれちゃった……おんなのこだし……まほうも、つかえないし……」
「あっらレウス君、そんなこと言ったの? 悪い子ねー。でも……」
「……うん……?」
「レウス君に秘密って言われたこと、話すマオも悪い子よー?」
「ぁあぅ……? なんでしってるの……?」
「まあ、これでも? 元詩人で元舞手ですからー? 耳はいいのよー」
「ぇ~……」
「はは、我が子ながら困った子ねぇ……。ねぇマオ、今お母さん言ったよ応援するって。冒険者に、なりたい?」
「うん……」
「よし。じゃあ、とっておきを、教えてあげます」
「……まほう……?」
「あ~…魔法とはちょっと違うかな~。……でも、冒険に役立てばレウス君、きっと連れて行ってくれると思うな~?」
「ほんとう?」
「それはマオの、頑張り次第」
「がんばる……」
「うん。でも、二つ約束してね?」
「なあに?」
「一つ目は秘密って言われたことは誰にも話さないこと。さっきのはレウス君も悪いけど、マオも悪い。いい?」
「……ごめんなさい」
「はいよろしい。二つ目は……、これから教えることは、完璧に出来るまで人に見せないこと。お母さんの前でだけ、それか良いよって言った時だけ。守ってくれる?」
「うん……!」
「……本当かなあ?」
「えっと……はい!」
「よし、いい返事だ⎯⎯」
(⎯⎯やあレウス君、今日もありがとう。でもごめんね、テレサはさっき別のお友達と遊びに行っちゃったなあ⎯⎯)
(⎯⎯……まあ、こういうひもあるよな。なにしよっかなー……お?)
⎯⎯……なぁしってるか?あいつ、まほうつかいらしいぜ?
⎯⎯ほんとー?
「!?」
⎯⎯おーい、まほうつかい。
「……なにかよう?」
⎯⎯ほーら、へんじしたぜ?いったとおりだろ?
⎯⎯ちょっとだいじょうぶなの?いきなりひのたまとかださないでしょうね?
「………」「………」
⎯⎯ひのたまかあ、そいつはこわいなー。それじゃあ…せんてひっしょうだっ!
「!?」
「うわっ、なにするんだ……!」
⎯⎯なにってもちろん、まほうつかいをたおすのさ。まちをまもるためにね。ほら、みんなでまちをまもろう……!
「………!」
「まって!? ぼくは、まちのひとを……こうげきしたりは……あいたッ!」
⎯⎯こうげきしない?なら、たおされてくれるんだね?
「そんなぁッ…!?」
⎯⎯どうしたの?きみもまちをいっしょにまもらないか?
「わ……、わたし……、は……」
⎯⎯お、おいおい、ちかづくとまきこんじゃうよ?…おいってば。
「うぅあ、い……たぃ……」
「……ごめんね……」
⎯⎯っ!?
「ぃ、いた……く、ない……?」
「……ごめんなさい……」
⎯⎯……ふん、そういうことか。……まったくあぶないなあ、ふたりもまほうつかいがいたなんて。…なんとしてもまちをまもらなくちゃ。
「⎯⎯⎯⎯!?」
⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯
「おーい、みんなでなにして……ん……だ……?」
⎯⎯やあ、『けんし』。みんなでわるいまほうつかいをこらしめていたところさ。
「ぅぅぅ……」
「はっ……はぁ……」
⎯⎯⎯ ⎯⎯⎯
「おおおまぁぁぁえらぁぁぁ⎯⎯!」
「⎯⎯お、おとうさん、れうすが……」
「頼んだよ、お前さん」
「…………」
「……おぅ、宿屋んとこの。…………すまん」
「…………俺が助けるのはあんたの倅だ、お前じゃねえ」
⎯⎯ふむ。では今日起きた件で緊急集会を始める。まずは……。
「町長よ。まどろっこしいな、本題に入らんか?」
……ならば聞こう。エスティードの娘テレサと、マグスの息子スクレータの二人を、外へ出す気はないか?
「ほう、何故?」
⎯⎯二人は魔法使いと聞いた。この町に居られては町人は皆、不安になるのだ。
「なら、町人が不安にならなければ良いのではないか? それが出来ないであれば町人が出て行くか」
⎯⎯……それがどれだけ居ると思っておるのだ。その二人を出すのが早いだろう? 何もこちらも二度と会うなとは言っておらん。
「……ふぅむ、そうか。では、仕方ないな……」
⎯⎯そうか、わかってくれたか……。
「エスティードさん! それは…」「父さん! それは…」
「……一度店を畳んで、王都に移転しようかの」
⎯⎯!?!?!?
⎯⎯ま!? まて!? 正気か!?
「正気も何もなあ……。別にわし、この町の出というわけではないし、ばあさんも死んじまったし……。この町にはもう、未練がないんじゃよなあ……」
⎯⎯い、いや……! だからと言って店を畳むことはないだろう? この町の経済が立ち居かなくなる……!
「だから、そんなことわしは知らん。孫も居なくなるというなら、いっそ王都で新しい店を開いて孫の成長をそばで見届けたいわい」
⎯⎯………………!
「……なあ、息子よ。良い案だと思わんか?」
「…………はい。父さん、これからも側で商いを学ばせて下さい。……苦労を掛けるが頼む、君にも来てほしい。テレサには君が必要だ。そして、僕にも」
「………………もちろんですとも、あなた。この子と側で……支えさせて頂きます」
「おとうさん……おかあ……さん……うん」
「二人とも……ありがとう」
⎯⎯ばッ!? 馬鹿な!? そんなもの茶番だ! 第一、王都に……。
「土地はない、か? そうじゃな。だが、うちの店の倉庫ならある。改装すれば家にも店にもなるわい。……まあ、いまより多少窮屈にはなるがな」
⎯⎯ッ!?!?
「そんなに驚いて、わしを誰だと思っておったのじゃ……。別の町に倉庫を構えるなんぞ普通じゃぞ? 商いの基礎もしらんと町長か……」
⎯⎯………………………………
「さて、話は終わりじゃ。忙しくなるのう」
⎯⎯まッ! まだ、まだ終わってないッ!
⎯⎯いいのか! 出ていかせて!? 町が傾けば、そっちのお前達も困るんだぞ!?
「おおッと、いかん忘れてたわい」
⎯⎯!?
「お前達、うちの店で働かんか? その家族も」
「「「「!?」」」」
⎯⎯…………ッ!?
「移転とは言え新しく店を開けるのじゃ、人は多いに越したことはない。商売が軌道に乗ればちゃんと住む所もやろうぞ。まあ、考えておいてくれ」
「エスティードさん!」
「おぬしは……」
「私は、スクレータの父です。かつて私は世界を回った学者で、今は魔動具や魔動器の研究を独自で続けています。聞けば息子はお孫さんから世話になったとのこと。私の知識で、商売のお役に立てますか?」
「おぉ、もちろんだとも。魔動具に魔動器か、これは商品が増えるな。にしても、おぬしも冒険者をしておったか。この町も捨てたもんじゃないな、見聞のある学者なぞそうはおらん」
「ありがとうございます。よし……、やったぞスクレータお前だけ町を出るなんてしなくていいんだ…!」
「とうさん……はい……!」
⎯⎯……………………………
「さて、今度こそ終わりじゃな。失礼するぞ」
⎯⎯……………………………
⎯⎯(町長……ちょうちょう…………!)
⎯⎯エス、ティード……。
「なんじゃ!? 町長どうした、酷い顔じゃぞ……」
⎯⎯昨日はすまなかった。私が、愚かだった……。だからどうか、町から出ていかんでくれ……! 頼む、この通りだ……!
「……はァ。本当だぞ町長。……この国はな、外から入った人間が多いんじゃ。故に髪の色が違うし、肌の色も違うし、瞳の色だって違う。なのに誰もその事に触れたりはせん。それは一人ひとりが違って当たり前だからじゃ」
⎯⎯……その通りだ……。
「だのに今更、魔法使いだのなんだのと騒ぎ立ておって。まったく、冒険者の頃の魔物や、盗賊のほうが恐ろしいくらいだわい。せっかくの商品も駄目にされるからな」
⎯⎯……その通りだ……。
「……わかった風なことを。まあ今回ばかりは、人の悪意も恐ろしいと、わしも思い知ったが」
⎯⎯……その通りだ……。
「おぬし……人の話聞いとらんだろ」
⎯⎯いいや! あ、いや、そんなことは、ない……。それで、だが……⎯⎯。
「⎯⎯……何!? わしに町長をしろとか!? 夕べも言ったがわしはこの国の人間ではないぞ……」
⎯⎯この国の人間ではないから、だ。わしのような人間では、古い考え方しか出来ん。これからはお前のような新しい発想が必要なのだ。
「じゃがなあ、うぅむ……」
⎯⎯……先程お前は言ったな? 違って当たり前だと。ならば町長が『この国の出か、外の国の出か違っても』当たり前だとなるのではないのか?
「! ……くくく…………やられたわい……。本当に……その通りだな……⎯⎯!」
「⎯⎯でていかなくて、よかったな」
「うん……! ありがとう、レウス……たすけてくれて」
「お、おぅ……」
「??」
「あ、あの……! ぼく、スクレータ。たすけてくれて、ありがとう……!」
「あーっ! おまえも、よかったな! おれはレウスだ、ってかくれるなよ……」
「……はぁぅ……テレサ……。その、ごめんなさい……」
「どうして、あやまるの?」
「えっと……みんなを、とめてあげられなくて……」
「ううん、いいんだ。……きみは、ゆうきがあるんだね。……ぼくもそんなゆうきがあれば、だれかをたすけてあげられるかな……」
「……ありがとう。スクレータも、きっとなれるよ……!」
「そ、そう、かな」
「??」
「まったくもう……レウスってば、むちゃしすぎ……。まさかまちのこ、みんなとけんかなんて」
「おお、マオ。あんとき、みかたしてくれてありがとな」
「あの、とき……?」
「うん、テレサ。あれはマオのとうちゃんだぞ」
「そう、なんだ……。あの……」
「ん? なに」
「えっと……テレサ、です。ありがとう、マオ……ちゃん」
「いやいや、べ、べつにテレサをたすけたわけじゃ……ごにょ……ごにょ……」
「??」
「なんだ? へんなマオ?」
「う、うっさいなあ! ……それから」
「うん?」
「あたしも……ぼうけんしゃになるから……。おかあさんと、ひみつのとっくん、してるんだから……!」
「とっくん! そうか、やっぱりぼうけんしゃになるには、とっくんしなきゃだよなー」
「えっと、さんにんはぼうけんしゃになるの?」
「おう!」「……うん」(こくり)
「そうなんだ……。じつはぼくもなんだ。とうさんがぼうけんしゃだったから……」
「ええ~っ、スクレータんちもかあ…」
「レウス?」
「マオはかーちゃん、テレサはじーちゃんがぼうけんしゃでさ。おれんちはだれもいない……」
「あはは……」
「だから、おれがなりたいってわけ」
「そっか……。それなら」
「うん……!」
(こくり)
「ああ……!」
こうして四人は、冒険者を目指すことになった⎯⎯⎯⎯
※ここでは自身の奥さん═テレサの祖母




