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04号 密着、魔導大臣 下

  ⎯⎯同時刻・ハイデン村⎯⎯


 ……この世界の始まりは、何もありませんでした。


 真っ暗な、闇。それがずっと続いているだけです。


 そこに一粒の光が現れて、初めて『世界』が生まれるのです。


 光の正体は神。けれど、もう誰も見た事はありません。


 もしかすると、他の呼ばれ方をされていたかもしれません。


 その神が闇から現れると、自分達が住む地上を創ります。

 次に地上を命で満たす為、海を創ります。


 しかし、その二つが作られ長い時が経つと、それはやがて現れます。


 魔族でした。


 魔族は、神が作った地上は海へと沈め、海から誕生した命を奪って回ります。

 それが魔族にとっての悦びであったからです。


 ですが、神はそれが面白くありません。

 大地を起こしても、生物が増えても、魔族にすべて無に返されてしまうのですから。


 こうして、神と魔族の長い長い戦いが始まるのでした。


 神は人を、魔族は魔物を、それぞれ生みだしては相手を滅ぼそうとしました。


 両者の力は互角でしたが、知恵のある神と人が僅かに勝り、魔族は滅ぼされるのでした。


 魔族が滅んだあと、世界は見るも無残な景色が広がっています。


 神はその世界で住む事を諦めると、何もない闇へと赴き、再び世界を創る。そして魔族と戦い、世界が滅ぶ。


 それを永遠と続けているのです。



 残った世界では人が増えてやがて国を作ります。


 中でも神の痕跡が多く残る国は大きくなりました。


 この世界では、マウンデュロス、グレイスバーグ、エインセイルです。


 しかし今から三百年前、この三国に魔族が現れました。何故現れたかはわかりません。

 魔族が居なくなったあとも語られる神が不愉快だったのでしょうか。


 魔族はエインセイルを特に攻撃します。神と言葉を交わせる『交信器』があったからです。


 事実、エインセイルの人は交信器を使い神に助けを求めました。

 彼らの願いは届き、神は彼らに一振りの聖剣を託し魔族を倒せと言いました。ですが、直接助けてはくれませんでした。


 エインセイルの人は必死に戦い、傷つきながらも魔族を倒すことに成功しました。


 彼らは再び交信器を使い、神に勝利とお礼を伝えます。

 しかし神は驚きの返答をします。魔族は倒されてはいない、聖剣に封印されているのだ、と。

 

 そしてその封印は、聖剣で人を殺めると解けてしまう、故に聖剣で人を殺めてはならぬ、とも言いました。


 エインセイルの人は、その言葉を深く胸に刻み、聖剣を大切に守っていくと誓いました。




「⎯⎯それだけ~?」

(……これだけなんだよぉ~……)

 子供たちの不満に応えられない私は、困り笑顔を返す。


 だが心の中では号泣である。



 魔法使いが訪れてからしばらくの日、今日も私は子供たちに読み聞かせをしていた。

 

 前日の評判は悪くはなかったのだが、本日はこのありさまである。


(これ以上はアンクでないと無理だよ~……)


 そんな事はお構い無しに、もっともっととせがんでくる。

 私は少しでも読めるところがないか頁を捲った。


「……あ」


 挿し絵がついてる。


「……魔族の絵……?」


 そこに描かれていた絵に、私は背筋に冷たいものが流れるのを感じた。


 ……巨大な体躯、太い腕脚、鋭利な爪、無数の目、そして忘れもしない邪悪な牛頭……。



「……ぷふっ」


 子供の一人が吹き出すと教会は笑い声に包まれた。その渦に巻き込まれ私の硬直は解ける。


 おっかしい~やら、なにそれーやら、らくがきじゃん~やら……かの魔族に容赦無い酷評である。


「あっははー……そうだねー……」

 と、私は適当に相槌しか打てない。


 すると、ぱん ぱん と二拍聞こえる。にこにことしたアンクがいた。


「あっえぇっと、今日の本はおしまいっ。みんな外で遊ぼう~」


 私がそう言うと、子供達はばたばたと立ち上がり、教会の扉を勢いよく開け、勢いよく飛び出して行った。

 元気すぎて少し危なっかしい。心配になった私は自然と彼らに向かって叫んでいた。


「気をつけてねー!」


 やや遠くから、はーーい……!と返事が戻ると、少し息を吐き出した。


 そう言えば今の本、読み聞かされた記憶がない。アンクなら知っているだろうか?


「ねえ、アンクはこの本は読んだことある?」


 アンクに本を見せると、少し真剣な様子で読み始めた。

 彼女は顔を上げるとゆっくりと首を横に振る。


「読んでない、か。じゃあ、いつからあったのかな?」


 アンクは人差し指を頬に当て、顔を傾げた。わからない、か。

「うーん……」


 アンクは教会の一室を指さした。そこは神父様が普段詰めている部屋だ。

「神父様に? それもそうか。アンクも聞いてみない?」


(こくり)


 私達が神父様に尋ねると、村長が持って来た本だと言う。なんでも私達が冒険している時に、聖剣の碑を見に来た若者が置いていったと。

 これ以上は村長に聞いた方が良さそうだった。


 私は村長を尋ねに行きたいが子供達も見なくてはいけない。アンクは物書きの勤めが残ってると言うし。


「よう、ファム」


 教会の外でうんうんと悩んでいると男の声で話しかけられる。ディグだった。


「あれっ今日はもういいの?」

「まあな、それで……」

「調度良かった。村長のとこに用事があるから、子供たち見ててくれる?」

「いや、オレもお前に話があったんだが……まあ、戻ったらでいい。行ってこい」

「? ありがとう。じゃ、またあとで」


 ディグは杖無しで歩けるまでに回復している。それでも元のように動ける訳ではないが。

 今は採掘の事務をしたり、鉱夫の食事、つまり炊き出しなどをして出来る事をしている。


 私は読み聞かせを始めて、ここでの生活の充実感は更に増えた。


 けれど、私は……。

「冒険に、行きたいな……」

 思わず本音を溢した。


 彼と行けば彼に、一人で行けば家族や仲間にそれぞれ迷惑がかかる。

 もう叶わないのだと思っている。


 村長の家までは、最後の冒険にも通った道だ。その時と季節が違えども鮮やかに見えた景色だが。


 私の目に、今では酷く空虚に映った。


 村長の家に着き早速本の事を訊く。

 聖剣の碑を見に来た若者は、その後詳しい話を訊く為に村長の家に寄った。若者は村長からもてなしを受けて、その礼として置いて行ったのがこの本だと言う。


 この村には僅かだが、そういった旅人が来る。

 世界を冒険したから言えるが、この村はまだまだ裕福な村なのだ。旅人をもてなす余裕があり、冒険者にならずとも、生活出来るくらいには。

 そして肝心の本はせっかく彼の役に立ちそうだったのに既に発ったあとだ。村長は本中身を知らないと言った。出来る事なら早く確認して教えて欲しかったように思う。


 そんな事を考えながら、来た道を戻る。



 大臣が村に来た日、彼の家の両親は知っていた、彼を探していることを。村長や神父など、識者を尋ね回ったらしい。

 その時に彼の手紙こと記事を見せてもらった。記事というにはまだ遠いかもしれないが少し安心した。


 私は、次の記事が待ち遠しかった。



  ⎯⎯その後、王都⎯⎯


 蔵書庫で調べ物をしていると、閉城時間を告げられた俺は城を出た。石畳の上に長い影が伸びている。



 ⎯⎯蔵書庫には管理人の男とその孫娘の司書がいた。男は村長程、娘は俺より少し若いくらいの外見である。

 この二人は、劣化した書を新しい書に写すことを普段の仕事としているらしい。これまでの歴史や記録が消えてしまわないようにするためだ。


 許可証を見せるとすぐに該当書を出してくれた。大量の本の中から一冊を見つけるのは俺には出来そうもない。イズンの配慮に心の中で感謝する。

 また娘は「それを読むならあれもこれも……」と世話を焼いてくれたのだが、最終的に読み切れない程の本の壁が出来上がった。


 紹介された数冊の他、いくつかを読んでそこで気付いたことがある。それは国ごとの歴史に『元号』というものが付くということだ。これがなかなかに曲者だった。

 国が起こった年を元年と呼ぶが、しかし一方では何十年あるいは百年以上と経過しているのがザラなのだ。

 年代の並列化がしづらいことも、埋もれてしまいやすい原因なのかなと思った。


 ……ただ一番驚いたのは、まあ、この世界の成り立ちの内容だろうか。『神が現れて世界が創造される』ということを、一冊目に読まされた。これは、うん……驚きを通り過ぎて、飽きれを感じてしまった。

 魔導大臣はこれをどこまで信じていることやらと、俺は正気を疑った。


 これまでの内容は流石に覚え切れず、メモをしたくて娘に聞いてみる。

 折角牢から出られたのに無断転写で逆戻りはごめんだ。


 メモくらいなら良い、らしい。

 メモを取り始めたそんな俺の様子を見て娘が訊く。秘密が知りたくないか、と。秘密という含みに抗えず、俺は知りたいと答える。


 娘は話す。どうして他の国は魔法使いを取り込まないのか、知ってる? と。

 ……! 確かに何故取り込まないのかと書かれた本はまだ見てはいない。


 ……居ないから、か?

 娘は首を横に振った。『現れない』のよ、と言った。


 詳しく聞くと、他国も魔法使いは取り込みたいのだが、取り込み方がわからない。魔法使いは嘘や偽心には敏感だから、と。

 国を富ませる力があれば適当なところで使い捨て、無ければ人心を欺いたと処刑されるとわかってる。かといって、そんな事は明かせないから本には書けない。


「大事なのは魔法使いかどうかじゃないのに……」


 そう纏めた娘に、教えてくれた礼を述べた。


 ……その恩返し、という訳ではないが彼女が積んでいった本も読んでやりたい。しかし残念ながら、全ては読みきれないと確信している。

 なので、他に気になった一冊だけを開いて見る。


 そこに書かれていたのは歴代の魔導大臣の関係図だった。

 曰く、初代の女弟子が二代、二代の息子が三代、同じく三代の息子が四代、四代の娘が五代、同じく五代の娘が六代、六代の女弟子が七代、七代の女弟子が八代、八代の娘が九代……となっている。

 

 息子。つまり男も魔導大臣になれるという事実を知った。

(……男があの姿を継承するとは……どんな気分なんだろうか、想像できない。いや……したくもない)

 順序立てて読まなかったせいか、これだけではあまり役に立ちそうになかった。

 

 メモを録りつつこのペンのこと、『王女』が気になった。字が書けるので休眠には入っていない。

 紙一枚分をメモし終わると新しい紙を出して、二人に聞こえないように俺はペンに話しかける。


(ディアーデ、と言ったか? ……どうして教えてくれなかったんだ?)

“別に。訊かれなかったから„


 は?


 意味がわからない。苦笑いして問う。


(何を、言ってるんだ? リハビリ時代に、人だと教えてくれただろう?)

“それ。貴方が訊いたのは()()のことでしょう。()のことじゃないわ„


 つまりペン()私、だから人だと答えたのか……と、気の利かなさに少し目眩がした。

 ……だが、その通りな気がしないでもないのでおとなしく折れる。


(はあ……、わかった俺のせいでいい。なら、教えてくれ。何があったんだ?)

“……嫌。今説明したところで、あの猫嫌いにも説明しないといけないじゃない。そんな二度手間したくないわ„

(い、いや、そう言わずに少し)

“しつこい……それ以上言うなら眠るわ„

(んなっそれは)


「それはずるいぞお前ー!?」


 俺は、はッとし口を押さえる。そして咳払いをした。

 二人に怪訝な目を向けられてしまう。


 しかし思った。俺は『使わせて貰っている』立場なのだと。そう、全然ずるくないのだ。

 なのでこれからは、彼女のことも気を使おうと思うのだった。


 しばらく読んでは録りを繰り返していると、蔵書庫に俺を訪ねて人が来た。


 一人は兵士で革袋を片手に三つずつで計六つ。もう一人は侍女で綺麗に畳まれた外套、その上に鞘に入った万能ナイフを置いて胸の前に持っている。

 褒賞金と俺の荷物だった。


 俺は侍女から万能ナイフ受け取ると普段の懐の位置へ戻し、次に外套を受け取りそれを羽織る。外套からは獣臭さ等はない。洗ってくれたのかもと思った。


 続いて兵士から褒賞金の袋を受け取るのだが、腕力の落ちた右腕に持てるのは、……一袋が精一杯だった。



 ⎯⎯そして俺は今、ギルドへと向かっている。人と会う約束をしているのもあるが、大金を運んでいることが大きい。五人の褒賞金を運ぶのは中々に疲れる。尚自分の分は早々に道具袋へとしまっている。一つ半分程軽かったのでそうだと思った。

 

(何で兵士が運んでくれないんですかね、っと……)

 兵士はライトと言う者に渡せ、とまでしか聞いていない。その一点張りだった。


 現在の王都は治安が良くまた、城からまだあまり離れていないので強盗に襲われる危険性は低い。治安が良いのは無論、魔導大臣がいるからだ。


 そう言う意味では、あの盗賊達は留守であったのに捕まった事になる。少し運がなかったかもしれない。しかし、俺と彼女を繋げてくれたのだから、こちらとしては幸運だったのかもと思った。


 やがてギルドに到着する。長い距離を歩いた訳でもないのに少し息をあげてしまった。

 そして俺は、立ち尽くした。入らないのか?


 ()()()()のだ。


 手が塞がり、引き扉の取っ手を掴めあぐねるだろう。袋を下ろしてもよいが、不自然極まりない動きは想像出来る。


 すると中から出て来る冒険者がいた。


 まず女性が二人、腰の左右に剣を一本ずつはく活発そうな剣士風と、冒険服だが清潔感のある癒術士か薬士。

 次に男が二人、背は俺より僅かに低いが肩の広い戦士風、そして弓と矢筒が目立つ長身痩躯の射手か斥候か。


 長身の男は俺に気付き「……ほらよ」と中へ通す。俺は「助かる」と礼を言う。


 思わず自分が、何事もなく冒険者を続けていたら、彼らのようだったのだろうか。そう思いながら振り向いて彼らの背中を見送る。


 やがてゆっくり扉が閉まる。

 ばたりと音を立てると、俺の胸にちくりと何かが刺さった。

 

「ただいまー、お姉さんいる?」

 挨拶として相応しくないと思いつつも、自然と口をついてしまった。お姉さんを呼ぶ事も含めて。


「ライト様……! 街の人から城に連れて行かれたと聞きました。何があったものかと……」

「ああ、いや昨日の盗賊を捕まえた事でちょっとね。……厳重注意だってさ。ところであの新人達はいる? 褒賞金を預かってきたんだ」

「彼らでしたら、今日はもうお帰りです。あまり良くなかったようで……。褒賞金はこちらで預かります」

「そっか、わかった。あとはよろしく」


 俺はカウンターに五袋乗せると、両腕が解放され一気に軽くなった。

 その袋を見たお姉さんは、一人の同僚に話しかけるとそれを二人で分けて、奥へと持って行った。


 その様子を見送ると聞き覚えのある声に呼ばれる。


「ライトさん、今新人って聞こえたけど、おれたちのこと?」


 レウスを始めとしたターレスの冒険者だった。

「おうレウスか、いやお前達初心者だろう? 違うよ、昨日居た男達さ。……盗賊じゃない方のな」

 そう少し笑いながら返すと、彼らは顔を見合せてからこう言った。


「先輩、お姉さんから聞いてない?」

「僕達、今朝昇格して新人になったんですよ」

「そうだったのか。いや知らなかった、おめでとう」

「はい、ありがとうございます。それでわたし達そのあと捜索隊に参加して、今は次の冒険をどうするか決めていたんです」


 捜索隊と聞いてイズンとの会話を思い出した。

「……魔獣使いの捜索隊の事だな? 何かわかった?」


 聞くと、東の国から来た魔獣使いは、北東の森を挟んだ平原から、衰弱死と思われる状態で遺体として発見された。遺体の損傷具合は一月前後、持ち物は冒険証と操る為の笛だけで、食料や金銭はなかったという。


 彼らが戻り詳しく訊くと、なんでもその人物は、キマイラの食についてギルドに相談していたそうだ。こちらの獲物を全くと言っていいほど口にしなくなったと。しかしキマイラの食など、この国のギルドにわかるはずもなく、その者は活動出来なくなったのではないかということだった。


「たぶんだけど、環境が大きく変化したことで餌の質が変わってしまったんだと思う」

 俺は自分の考えを述べた。

 そこへ偶然にも盗賊達が洞窟にいたキマイラを発見して餌付けして手懐けた。盗賊ならば家畜を襲い、商人から奪うなどの発想に至るはずだ。


「そういう技術を持っていた盗賊も、恐らくは元冒険者だったんだろうな……」

 冒険者として生活することの『闇』に触れた気がした。


「なるほど……、お兄さん。そんなことも、あるんですね」

「ああ。……それじゃ、みんな気をつけて帰れよ」


 口々に俺に挨拶して彼らはギルドから出て行った。

 それと合わせるようにお姉さんが戻ってくる。


「おかえり。ターレスのみんなから捜索隊の話を訊いてたんだ。ところで今は人待ちしてるんだけど、何か知らないか?」

「はい、まだお見えに……あら?」

 そう言うと入り口に目をやるお姉さん。


「ごめんなさい、まだやってるかしら?」

「はい、いらっしゃいませ」


 女性の声で詫びながら入って来る。この時間にしては慌ただしく人が入れ替わっている気がした。

 声の主はこちらへ近づいてくると、すぐ隣の席へと座る。他の席が空いているのにもかかわらず、だ。


「こんばんは、ぼくがライト君かしら?」

 陽気そうな口調で俺に向けて言う。

(ぼく??)


 俺をそう呼んだ人物は過去も現在もいない。少し気持ち悪さを覚えるも呼ばれた以上は返答する以外にない。


「あ、ああ。俺がライト……だ……」


振り向いて答えるも一瞬言葉に詰まってしまったのは、その女性が特徴的な外見をしていたからだ。


「魔法使い……」


「あ、この耳? やっぱり目立つかしら……」


 魔法使いの耳は、特にその『血』が濃いと表れると先程知った。

 他の特徴は、赤く長い髪でポニーテール、金の瞳に小さい眼鏡、薄紫の紅で貴族のよう。しかし服装は少し質の良い町人服と全体的に上品な印象だ。

 身長は席に座った俺と近いので、同じくらいなのかなと思った。イズンも結構あった気がする。


「ふっふ~ん? いつまでそうやって眺めているのかしら?」

「あっああ、悪い。初見の女性に失礼だった。……もしかしてお姉さんが、ワース卿の言ってた……」

「まあっお姉さんだなんて! やっぱり見る人には見えてしまうのね~♪ ぼくも見る目があるわ~」

 

 白々しく、くねくねと言い振る舞う女性。お姉さんと言ったのは正直な印象だからなのだが。


「……話が先に進みません、セラテアさん」


 受付(お姉さん)がカップが二つ乗った盆を持って言う。失礼します、と続けて俺と女性に茶を出した。


「ライト様、こちらはギルド広報につめている……」

「セラテア═シュラーフェンよ。あの子から聞いているわ、よろしくライト君」

 どうやらこの人がイズンの言っていた『エインセイルの件』で間違いないようだ。

(あの子と言わせてもらえるくらいには、信頼と信用が出来る人物、か)


「……それで、交信器って具体的にはどうすれば?」

 セラテアは一口飲んでから返す。

「うん、エインセイルに博物館があってね、そこの展示物の一つね」


 博物館があるのは知っていた。しかし当時は冒険者として駆け出しだった俺たち、観光などロクにしなかった。

 広報らしく、この手の情報に詳しいのだろうと思う。

 

「展示物なのにどうやって使うんです、それ」

「そうねぇ、私には出来てライト君には出来ないことかしら?」

 いや、それはそうだろう。でなければわざわざ人を介したりする必要はない。


「もーう、冗談よー。……古代の魔動器ってことらしいわね。これ以上は実際に行ってみてからね」

「そうか……」

「大丈夫よ、安心して。人の道に外れた事はしないから」


 当然である。


「……何事もなければ、ね」

(本当かよ……不安になってきた……)

 俺は渋い表情で顔を押さえた。


「とにかく、ライト君に依頼を出すわ」

「俺に?」

「私の助手として、エインセイルまで同伴しなさい」


 終始セラテアは、陽気な態度のまま、俺にそう告げるのだった。

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