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号外 平和な国と魔法使い

 ⎯⎯ここは平和なクロイツェン王国の都。ある日ここに、魔法使いの若者が現れました。

 魔法使いは普段隠れ里に住んでいます。ですが、里で手に入らない物は王都で手に入れるしかありません。そして魔法使いは気付かれないように変装をしているので、周囲もそれと気付きません。


 気付かない……はずでした。


 若者は用事を済ませ里へ戻ろうという時に、王国の兵士が盗みを働いた子供を殴る場面をたまたま目撃してしまいます。

 罪とは言え子供に容赦なく手を上げる兵士に若い魔法使いは怒り、兵士に魔法の火の玉をぶつけました。

 手加減をしたので兵士は軽い火傷で済みましたが、直ぐに仲間の兵を呼ばれてしまい、ここで魔法使いは自分がしたことの重大さに気付くのでした。


 魔法使いはこれ以上騒ぎが大きくなる前に大急ぎで里へと逃げ帰ります。そして、王都から走り続けようやく里につくともう一歩も動けなくなるのでした。


 しばらくして若者は眠りから目を覚まします。ですが疲れが取れて起きたのではありません。里の様子がおかしく不安を覚えたからでした。

 家の中から窓を覗くと、そこで見た里は驚くべきものでした。


 夜だと言うのに辺りは真っ赤に染まり、里のあちらこちらから火の手が上がって昼間よりも明るいのです。そして弓で射たれ、逃げ遅れた里の魔法使いたちを照らしています。


 慌てて外に出る若者。………すぐに足元に数本の矢が刺さります。

 尚も飛んでくる矢をかわしながら若者は逃げます。その途中に倒れた者も見かけますが助け起こす余裕はありません。ですが、里の人ばかりではないことに気付きました。

 どこかで見た鎧、それは紛れもなく王国兵です。里の人も抵抗していると思う他、自分の後を付けられていたのだと悟るのでした。


 やがて朝が来る頃には兵は居なくなりました。里の者は魔法で水を出し消火します。

 彼らは亡くなった者達の弔いを済ませると、廃墟となった里を後にし新たな里を築く為に旅立つのでした。

 中には復讐しようとする者もいましたが、大勢が亡くなりそんな気力がない者がほとんどでした。


 若者は王都から戻ってすぐに倒れてしまったので、都で何が起きたかを説明していません。

 直ぐに伝えられていればこの事態は避けられたかもしれない、若者はそう悔やみますが全てが遅いのでありました。

 それから僅かに残った魔法使いは姿を消し、以降王都に現れることはありませんでした。



 そうして百年……二百年……三百年……と時代が過ぎると王国に危機が訪れます。


 それは、西の隣国『アイゼンタール王国』が戦争をしかけてきたのです。


 アイゼンタールは先の戦、最西端の海洋国家『エインセイル王国』に勝利しましたが、それは甚大な被害を伴いました。その為国力を回復させる目的で、戦力として弱小のクロイツェンを侵略しようと試みます。


 アイゼンタールは精強な傭兵軍と強力な兵器を使います。辛勝し弱っているとはいえ、クロイツェンではとても勝ち目がありません。

 その危機に当代の王は、既に風化していた魔法使いの捜索へと急ぎ赴くのでした。アイゼンタールの到着まであまり時間は無い中、僅な望みを託します。



 そして三日三晩、不休の探索の末に王都よりずっと南の密林地帯で新たな魔法使いの隠れ里を見つけました。


 始め王は馬に乗り探索していましたが途中、馬が足を痛めその際の落馬が元でケガをしており、心身共に衰弱しています。


 そんな者が里に現れたのですぐに騒ぎになります。そして王はそこで初めて魔法使いの姿を見ます。一見は普通の人のようでしたが、その耳は長く、尖った型をしていました。


 王は里の長と話をしたいのですが、周りがそれを許しません。魔法使いは三百年が過ぎた今でも里を焼かれた事を忘れていなかったのです。


 やがて騒ぎが長引くと、向こうから濃紺の髪の長い女性が現れ、自分が長であると名乗りました。

 それを聞き王は驚きます。何故ならその女性は自分の娘程の歳に見えたからです。


 長を名乗る女性は見透かしたように、自分達が長命であることを明かしました。更に何故ここへ来たかも分かるといいます。

 ですが、長は話をそれ以上続けず、王のケガを魔法で治すと、彼をもてなすようにと下の者へ言うのでした。


 王は見張り付きで風呂に通され、そこから上がる頃には王宮でも口にしない豪華な食事が並べられています。国は質素倹約を良しとしています、更に三日間何も口にしなかった王は思わず喉をならしました。


 複数の魔法使いが同席する中、王は席に着くと長の女性は遠慮せずあがるよう言います。話があるのも解るがまずは食べてからだ、と。


 そう言われ王は、自分の目的を思いだすと食欲も堪え、膝を折り頭を床につけこう答えます。


 いただけぬ。過去した仕打ち、そして今は我が国の民が侵略に脅えている。なのに自分だけが贅沢をするなど、どうして出来ようか。それに私はそなた達を戦の道具として使おうとさえしている。


 それを聞いた他の魔法使いが言います。

 貴様! 言うに事欠いて我々を道具とは……!


 しかし長は手を挙げ直ぐにそれを静止し言います。


 すまぬ、別にそなたを試した訳ではないのだ。酷なことをさせたな。


 構わない、改めて言う。すまなかった、そして……王国の為にその力、貸してくれ……頼む!

 王は姿勢を崩さず、声を絞り言いました。


 それを聞いた長以外の魔法使いは困惑するばかりです。


 やがて長が話します。


 王とは、王政とは大変なものだな。先祖の尻拭いを子孫がするなどと。

 周囲は話の意図が読めず不思議な顔しましたが、長が続けます。


 だが、そなたはそれをしてみせたのだ。これは、応えないほうが無礼ではないのか。


 では……!

 王は思わず顔を上げます。


 ああ。迫害の件については許そう。


 長よ! では我々にも戦に行けと、人を殺せと言われるのか!

 納得出来ない魔法使いは声を荒げますが、長はまあ待てと止めます。


 王よ、戦の件については条件を出させてもらおう。


 条件……とは……?


 我々を、王国民として向かえ入れるのだ。そして政治にも参加出来るよう約束すると、誓えるか?


 王は目をとじ瞬巡の後、力強く答えます。

 

 ……誓う。王の、名に置いて……!


 ……うむ、偽りはないようだな。すぐに戦いに長けた者を集めよう。


 ! ……感謝する、長殿!


 気が早いな、無事勝利せねば我々も国がなくなるのでな。それと……


 まだ、何か……?


 我の名は、イズンだ。……イズン═ワース。



 こうしてクロイツェン王国は、魔法使いという心強い味方を引き入れました。


 それでも魔法使いの中には今だ反対の声はありました。ですが長のイズンは、このまま外からの血を入れねばいずれは里も滅ぶ、保たん時は近い……そう答えると多数の里の人は納得するしかありませんでした。そのくらいまでに当時の魔法使いは衰退していたのです。


 王は魔法使い達を連れ急ぎ国へと戻ると、既に戦端は開かれアイゼンタールの軍は王都までおよそ半日という距離まで迫っていました。


 王の帰還に兵が沸き返ります。


 魔法使い達が戦に加わるとアイゼンタール軍を圧倒していきました。


 魔法のいかづちは丈夫な鎧を纏った敵兵を貫き、魔法の壁は武器の刃も兵器の炎も通しません。

 そして傷ついた味方の兵は癒され、火に囲われ身動き出来ない兵は水で消火すると、兵士の数で優勢に持ち込みます。


 やがて戦況は逆転し、決着を見せようとするところでクロイツェンはアイゼンタールに降伏を勧めました。

 ですがアイゼンタールは、それを受け入れません。彼らもまた、この戦で勝利することだけが国を存続させる唯一の方々だったのです。

 それを聞いた王や長は、やむなく彼らを討ち果たすのでした。


 こうしてクロイツェンが勝利を収めると、アイゼンタールがエインセイルから奪ったとされる聖剣を戦利品として手にいれます。

 当時のエインセイルは魔族に、次にアイゼンタールにと立て続けに戦をし、王族も既になく混乱を極めていました。なので聖剣は戦勝国であるクロイツェンが預かることに決まりました。



「……そして聖剣は、かつて魔法使いが住んでいた隠れ里に収められ、魔法使いが新たな道を拓いた証として大切にされていくのでした……」


 私は今、村の子供達に本の読み聞かせをしていた。声を上手く出せなくなったアンクの謂わば代理である。この本の内容は村の者なら恐らく誰でも知っているだろう。


 無論私も覚えているクチだが、それは内容というよりも目を輝かせて聞いていた人物を知っているからだ。


(……男子はそんなに楽しいのかな……)


「せいけんだって、カッコいい!」

 と、一人の男の子が言った。


 ……楽しいらしい。



 ⎯⎯彼が村から旅立ってからのある日、アンクがこの本を持って相談に来たのだ。


“子供達に読み聞かせをしてほしい„


 そう書いた紙と共に渡されたので、試しに本を開いた……のだがそこに書かれていたのは私では理解出来ないほど難解な内容で、開いた直後目眩に似た感じを覚えたものだ。

 その時の私は思わず本を閉じ、片手で顔を押さえながらアンクに話す。


「ちょっ、待ってまってマッテ……。これって、最後に聖剣だか出てくるやつよね? 表紙からして」

(こくり)

 軽く変な汗を出しながら尋ねると笑顔で肯定される。覚えていて嬉しい、そんなところだろうか。覚えているのは本の内容以上に、表紙を見ただけで目を輝かせていた人物の記憶の方が強い。


「えぇっ!? だってあれって絵本とかじゃなかったの?」

(ふるふる)

「でも全然、内容が違うような……」

(ふるふる)


 そう、私が昔聞いていた話もここまで難しくはなかったはずだ。

 戸惑う私に彼女はゆっくり口を動かして見せる。


『こどもたちにも、わかりやすいように、かみくだいて、よんでくれていたの』

「えぇ~…」


 どうやら神父様は高度なことをしていたらしい。


「いやっでも、あたしじゃなくてもよくない? ディグとか、カタリナさんとか……」

(ふるふる)

『ふぁむがいい』

「えぇ~……」


 

 ⎯⎯そんな感じで押し切られ、猛練習の末にここまで読めるようにはなった。無論、アンクに手伝ってもらったのは言うまでもない。

 少し難しくなるくらいであれば子供達の勉強になるとのことなので、このくらいで落ち着いた。


 静かに聞いていてくれていた子供達も、読み終わると少し騒がしくなる。

 ここは村の教会で親が働いている時はここに毎日のように集まる。なのでそのくらい賑やかなのは日常だった。

「ねえ、ファムおねぇちゃんおしえてー」

「んーなにかなー⎯⎯」

(アンクくらい賢ければ、こういうのも楽しいんだろうな……)

 私は子供達からの質問に答えながら、そう考えていた時である。


 突如、教会の扉がゆっくりと開いた。


「失礼する、こちらに神父殿は……おや」


 良く通る声でそう言いながら現れたのは、濃紺の長い髪と尖った耳の女性。正に今読み聞かせていた、魔法使いであった。

(流石に別人……よね? うん……)


「まほうつかい!」


 子供達もすぐ気付いたようで、わっと女性に寄った。


「おぉッと、どうしたのだ突然」

「こーらー、お客様に失礼でしょう?」

「えぇ~まほうつかいー」

「はは、元気な子達だな」


 女性は柔らかい声で返し、腰を低くして子供達の目線にあわせる。その服装は滅多にみない装飾が施された豪華な長衣なのだか、地についてしまっても汚れるのを構う素振りは見せない。


「皆で、何をしていたのだ?」

「えっとー、おべんきょうー」「おねぇちゃんから、ほんをよんでもらってたの」

「そうか。どんな本だった?」

「まほうつかいがでてきてー、えっとー……」

「ふふ、そうか。魔法使いか、それは光栄だな」


 こうえい? と返された子は首を傾げている。


「すみません、子供達が……」

 私が女性に頭を下げると、その人柔和な態度を崩さないまま立ち上がり、本来の要件を私に尋ねた。

「いいや、この村が明るいのは私としても喜ばしいことだ。先も尋ねたが神父殿はおられないのか?」

「はい、この時間は村のお年寄りの家を回ってお勤めを。あたしともう一人がその間の留守を」

「そうであったか、わかった、ありがとう」

(近くで見るとすごい美人、女のあたしでも緊張しそう……)

 

 開いた教会の扉から兵士が見えた。

 

「大臣、こちらでしたか」

「ん、今行く。ところでもう一つよいか」

 そう私に向き直し聞く。


「そなたは聖剣の行方を知っているか? ライトという青年冒険者に渡ったのだが」

「ああ、彼でしたら十日位前に冒険者を再開しました。たぶんまだ王都にいると思いますけど」

「行き違いか……、仕方ないな。金の髪で間違いなかったか?」

「そうです。この国で金髪なんて多いから大変そう……」

「いや、よい。邪魔をした」


 そう立ち去ろうとすると子供達は、えーと言うが彼女はごきげんようと返し、振り返ることはなかった。


(あの人が大臣……。ってあたしも仲間って言えばよかったかな)

 優しい印象の中に清廉された動き、隙のない人物だった。

(あとでライトの家に挨拶に行こうかな。今の話も伝えたほうがいい、よね)


「ねーえ、おねぇちゃんもっとよんで~」

「ああうん。……よし、じゃあちょっと新しい本持って来るね」


 そうしてファムは初めて見た魔法使いに少し浮かれながら、再び読み聞かせをする為に別の本を探しに行った。

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