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03号 お手柄、新人冒険者 中

 男達に追い付くと改めて自己紹介し、先の件を侘びた。

 また、男達は重装の男を中心に、戦士が二人、斥候が二人の五人組だと名簿で確認した。


「ともかく、同伴させてくれてありがとう」

「……ちッ、調子狂うぜ。何があっても知らんからな」

「ああ、気をつける」

 と俺はリーダーと会話するが他の四人は黙っている。警戒しているのか、別の理由かは今はわからない。

 

 俺は具体的な概要を訊ねると、行程は三~四日の予定だという。一日目に移動、二~三日目に探索、四日目に撤収し帰還だろうと言う話だ。

 だが実際に探索しなければわからないことも多いので、このテの依頼は日数がバラつくのはざらだ。


 現在は農道を歩き、農耕地を越えた目的地へと向かっている。今の季節は梅雨入り前の初夏なので、種まきは終わり、田畑の手入れをする人と少なからずすれ違った。だが彼らの風貌から少し距離をとろうする人ばかりだ。

 俺も挨拶したたけで驚かれてしまうが、冒険者だと説明して例の洞窟の事や休憩出来そうな所、水を補給出来そうな所の情報収集が出来た。


 彼らとの移動中の会話は全くない。あまりにも気まずいので会話のない理由を聞くが、体力の温存と返されしまいには、お前が話題を出せとまで言われた。


「うーん、じゃあ気になったんだが、この辺の地理は詳しいのか?」

「……いやそこまで詳しくねえ。昔の依頼で何度か通ったくらいだ。あの時は休耕地で魔獣掃討だったか、ここまで人は居なかったが」

「そうか、俺もこっち側はそのくらいでな、それでさっき聞いたんだが……」


 そう話を切り出し、先ほどの情報を彼らと共有する。それを聞くとリーダーは少し語りだす。


「俺達はあまり人の多いところへ行かねえ。ギルドならあのネエちゃんが話を通してくれるが、それ以外だといつもあんなでな……」


 あんな、とはさっきすれ違った人達のことだろう。彼らも違う所で苦労していた。


 しばらく歩くと情報通りの地点でリーダーは休憩を指示した。男達の一人が軽食の準備をし出す。一応は炊事番が居るらしかった。

 俺は勝手について来た(てい)なので世話になるつもりはない、一人離れて休憩をする。食糧は決して十分ではないが、自分一人なら数日分は保つ。


 休憩からふたたび出発し、情報通りの所で水の補給をすると向こうから話かけられる。


「……感謝するぞ。水の補給は俺達も不安なところだったんでな」


 よしもう少しだ、とリーダーは仲間に檄をとばした。

 そして日が沈む頃、俺達は洞窟の側で野宿し明日の探索に備えるのだった。


 朝になると打ち合わせをする。洞窟の広さから六人では多すぎる、四人にしようということになった。

 無論俺は進入確定、でなければ同伴した意味がない。当然リーダーも確定、俺が彼らの舵取りをするのは不可能だろう。となれば、戦士と斥候を一人ずつ、残り二人は陣の守りに残し、中の深さや消耗に合わせて半日か一日で交代すると決めた。

 

 はっきり言って俺は戦力外である。なので、その上で彼らの足を引っ張らず戦い以外で役に立たなくては。


 重装のリーダーを先頭に、戦士斥候、俺と続いて行く。戦士が松明を持ち俺はランプを使う。ランプを持つ左手に更に手帳、右手にペンと完全に手が塞がるので、後方の警戒を厳とする。

 手帳は地図録る為に使う。今回ばかりは下書きなんて余裕はない、外に出てからだろう。


 途中、敵と戦闘になると戦士の松明は俺が持つ。やはり住み着いていた。

 農地からそう遠くないため、収穫期になってから問題になるよりはいいと思う。


 奥へ進むにつれ、何度か枝分かれしていくが、俺は確実に地図を書記する。地図の録り方なら課題になるので、無論彼らも録れるはずだが、戦闘に集中出来るよう俺が録る。


 そうして洞窟はやがて行き止まる。ここまでは土竜、蝙蝠、穿虫といずれも人サイズではない。既に洞窟を出た可能性もあるが気は抜けない。また鉱物系の魔獣も、現在のパーティーでは苦戦しそうだ。


 行き止まると直近の枝分かれまで一度戻る。そして行き止まり方向へはロープを張って目印とした。

 それを繰り返しおおよその深度がわかり、水や食糧も消耗したので一度出ることになった。


 無事洞窟を抜けると既に日は傾いていた。洞窟に入ると時間の感覚はとかく鈍くなる。この日の探索はここまでとなった。


 陣へ戻るとリーダーが話す。

「今日はここまでだ。明日は予定通り交代してお前らだ。……あと」

「へい?」

「……そのニイちゃんの水と飯も出してやれ。……水くらい汲んで来たんだろ?」

 えぇまぁ、と聞かれた男は答えたが、口を軽く尖らせどこか不満そうだ。それを見た俺も言う。

「……いや、助かるけど気持ちだけ受け取っておくよ。水だけもらえるか」

 それを聞きリーダーは、ふん……と軽く応えるだけだった。


 探索2日目。戦士と斥候は交代しているが昨日と同じ要領で探索を続ける。


 洞窟の深部に巣食っていたのは数体の小鬼だった。穴掘りに夢中で気付かないところを一気に圧倒した。

 またここで全ての枝分かれを埋めた事になるが、迷い込んだ人は見当たらなかった。

 最後に念のためもう一度全ての道を確認し数匹の討ち漏らしを倒す。向こうも当然移動するのでこういう事もままある。


 出口へ向かう中俺が気になったのは、彼らの練度の高さだ。視界の悪い屋内でこれだけ統率を取り立ち回って見せたのだ。中級でも通用しそうなものだが……。


「おーい、戻ったぞ」


 先に出た男が仲間を呼ぶと気付いた仲間が出迎えへ来る。

「お早いお帰りで。もう終わったんですかい?」

「まあな。ニイちゃんの案内が正確だったからよ」

 突然引き合いに出されて驚く。


「大袈裟だろ? ちゃんと灯りの確保と地図の記録があれば迷ったりしないさ。それより、あんた達の戦いも見事な物だった」

 言い終えた瞬間に言葉を崩しすぎてはッとする。

「あっすまん、口が悪くなった……」

「構わねぇ。俺達も態度が悪かったしよ、お互い様といこうじゃねえか」

 探索を終えたことで両者共に気分が高揚しているらしい。


 そうしてわだかまりが、解け夕飯を共にし彼らと語らうまでになった俺は、そこで驚くことを聞く。


「……地図の録り方を知らない、って?」

「ああそうだ。俺達は課題ってのを受けた事がねぇ」

 まだ格付け制度が始まる前から冒険者なんだと続けた。


「そうだな……俺達がニイちゃん頃だ、冒険者募集の御触れが届いたのは」

「ん? 届いた? 出されたじゃなくて?」

 そう聞くと、しまったと言う顔する男。

「あぁ~わりぃ、話し方も下手になったみてぇだ」

「いや、いいんだ。続けてくれ」 


 先を促し話を聞くと、男達は東の大陸の町からの冒険者でそれ以前は大工だったという。だが、クロイツェンが御触れを出したことで町から徐々に人が消え、更には木材の輸出を始めると仕事は完全になくなってしまった。こちらで余らせるくらいなら外国で使わせるというのは理にかなっている。

(全ての木が建材に向くわけじゃないし、そればかりが木の使い道じゃないからな)


 ならばと初めは、クロイツェンで大工の仕事を求めたが考えることは他国の大工も同じ。既に大工は間に合ってると言われ早くも彼らは行き場を無くしてしまう。彼らは冒険者以外の道は残されていなかった。

 御触れから十年の後に入国し冒険者を三十年以上と、本業より長く続けた。なら地図の一つくらい書けそうなものだが、彼らは既に諦観し、もうそこまではせず今に至るのだという。

 昔は自由に国同士の往来が出来たが、現在は人の集中により安全管理の為に制限が設けられている。その為、帰るには大金を払い渡航証を発効してもらうか、中級に上がり出国許可を貰うかのどちらかだ。


 夜更け、眠る前に彼らの話を考える。

(こういう冒険者がいるとは考えたこともなかったな。気の毒な事だ……)

 ここまでの実力があるにも関わらず、彼らは何故昇格出来ないのか……、そこまで考えた所で俺の瞼は重くなるのだった。


 朝早くに、俺達は王都へ帰還を始めた。洞窟にはロープを張り“立入禁止„と書いた紙を付けてきた。


 行きにも立ち寄った水の補給場で王国兵と居合わせる。向こうから話しかけられると、洞窟探索の進捗の確認に向かっている途中だと言うので、既に終わった事を伝える。俺は洞窟で記録した地図を渡すと、「この規模を二日とは、なかなかのものだ」とそう褒めると早速塞ぎにかかると言った。

 兵の他長衣の人が居るので王宮付の魔導士なのかと思った。魔法で塞ぐのだろう。兵達は個々に馬に乗り向かって行った。



 ⎯⎯俺達は日が傾き始めた頃に王都へ到着し報告を果たした。


 そして報酬を得た男達はというと、開いたばかりの酒場で酒盛りを始めた。俺はそれに巻き込まれてしまう。大声で笑い、話す。酒も強引に勧められる、なんとも酷い光景である。

(あ……わかっちゃった。こいつらが昇格出来ない理由が……)


 この男達は「素行」が悪いのだ。冒険者とは王国の奨励を受けている。つまりそれは「王国という看板」を背負うということで、他国での粗相は国の責任となる。また国も「自国への還元」を求めて出国を認可する。要は「迷惑を掛ける冒険者は国から出さない」し「帰国の手助け」としての出国も認められないのも頷ける。


 俺は用を足すフリをして彼らから一度距離をとると、帰り仕度をする受付のお姉さんを見つける。カフェの給士はするが酒場の給士は別だ。

 俺は呼び止めてあの時のことを話し始めた。


「出発の時に助け船を出してくれてありがとう、お姉さん」

「? 何の事でしょう?」

(あれ話が伝わらない?)

「いやほら、同伴前に彼らと揉めたからさ。脅迫なんて言われたら、さすがに図星で困ったから、助かったよ」

「そのことでしたら、お気になさらずに。周囲も正しかったと言って下さいました。それに…」

「それに?」

「それに、情報を軽視した彼らに私達も短気を起こしましたので」

 どうやらそれがギルドの逆鱗に触れたらしい。この人が『難い』のは俺だけじゃないみたいだ。


「ですが、ライト様」

「はい?」

「ライト様も少々急ぎすぎだったのでは? 別に無理に彼らと行く必要は無かったでしょう?」

(あ……、ほんとだ……。気付かなかったってことは、焦ってたのかな……)

 大事な事に気付かされて少し反省する。

「……はい、気をつけます」


 お姉さんは本当によく気が付く人だと思う、頭が上がらない。

(……ん? あれ、もしかして……)

「お姉さん、もしかしてあの人達が地図録れないこと知ってて俺を同伴させた……?」

「……どうでしょう、考えすぎですよ」

 そう言うが、いつもよりずっと、柔らかい口調で聞こえた気がした。


「……? 少し騒がしくないですか……?」

「あ、はい。俺から言っておきます」

「いえ、そうではなくて外が少し」


 そう言われ外を見やるがそんな気配はない。だがお姉さんは確かに何かを感じとっているようで、気になった俺はギルドの外へ出てみた。

 すると夕陽の中、ここから少し離れた所をゆっくりと歩く複数の人影の周囲に人がざわついていた。俺は目凝らして人影を確認する。


(……!? あ、あいつら!?)

 俺はすぐにその者の側に行き状況を確認する。


「おい…!一体何があったんだ!」

「お兄さん!」「先輩!」「ライトさん!」

 このバラバラの呼ばれ方、間違いない。ターレスの冒険者達だった。


「……別に大したことじゃない、ちょっと森に深く入りすぎて消耗しただけだよ」

 と、レウスは脇腹を抑えながら絞り出すように話す。

「ばかな……! 森に深く入ったくらいでこんな負傷するものか! 何に襲われればここまで……」

「……ら」

「⎯⎯え」

「……あれは……キマイラでした……森番の兵にも話しましたけど……」

 スクレータは俯きながらそこまで言うと、首を横に振った。


 「別の敵との戦闘中にそれが突然襲ってきて、わたしを庇ってレウスが……。わたしも魔力を消耗してたので、十分に回復する前に尽きてしまって…」

 彼らはゆっくり移動しながら、状況の説明をした。

(ばかな! 森の奧にキマイラなどいない! なら彼らの負傷はなんだ!?)

 俺は目を強く瞑りかぶりを振る。


 キマイラ、とは合成獣のこと。魔獣同士を人工的に掛け合わされたもので、それが自然に発生したり繁殖するなどあり得ないことだ。


(……ということはまさか、持ち込んだ人間がいるのか……!?)

「ちょっと、待ってくれ。それが事実だとして、どうやってここまで逃げて来たんだ?」

「あたしの弓と、スクレータの魔法で必至に追い払ったの……! 荷物も置いてきちゃったし……」

 そう言われると四人とも道具袋を持っておらず、彼らの装備はかなり悲惨な事になっている。更に観察するとまた別のことに気付く。


「……? テレサ、あの髪飾り止めたのか?」

「え!?」

 そう言われて付けていたであろう頭をぺたぺたと触って確認する。


「……そんな、落としちゃった……?」

「……悪い、おれが強くぶつかったから……」

「ちがう、レウスは悪くない! ……わたしも、今は髪飾りの心配じゃ、なかったね……」

 彼らの話を聞き、俺も酒の入った頭を必至に働かせる。


「先輩も、もういいかなあ? レウスを医者に見せたいんだけど~?」

「あっ、すまん。邪魔した……」

 そう答えると彼らはまだまだ歩いていく。そして、周囲の人はざわざわと話しだす。


 森で襲われたらしい、魔獣か盗賊か、まだ若いのに……。


(まずい、非常にまずい。このまま根拠のない噂が蔓延してしまうのは……。俺が、記者の俺がなんとかしなければ……そうか……!)

 まだ彼らの背中は見えているので、走ってすぐ追い付くと声をかける。


「なあ! ちょっと協力して解決しないか? 今すぐテレサを貸して欲しい!」

「えっ?」

「悪い、遅くなると逃がしちまう! 借りてくな!」

 俺は返答されるより先に、彼女の手を引いて走っていた。

「え? え? えぇ~!?」



 俺はテレサを連れてギルドへ戻った。

「ライト様、如何しました?」

「よかったお姉さん、まだ帰ってなかったんだ。実は……」

 と話を続けようとしたが割り込まれる。あの男だ。

「よう、遅かったなニイちゃん。もうお開きだぜ。……ん? ほぅ~、ニイちゃんもやるな、年端もいかない女子をここへ連れてくるたぁ」


(……は?)


「ライト様……?」「……お兄さん?」

「ち、違う! というかあんた達も手伝わないか? 臨時収入、あるかもしれないぜ?」 

「???」


 そう言うと、俺以外の皆が疑問符を浮かべるのだった。

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