03号 お手柄、新人冒険者 上
俺はターレスの冒険者を見送ると、次のパーティーをお姉さんに相談する。
「現在は、そうですね……。洞窟の討伐依頼を受注し新人のパーティーがおります。お見えになった時に交渉してみては?」
どうやら王都から南西の農作地帯を越えた所に、新たな洞窟が見つかったらしい。
洞窟とは廃坑や人の手で掘られた物ではない。元は小さな洞穴だったものを魔獣が住みかを拡げる為に自ら掘る、そしてその魔獣が入れ替わる度に繰り返し掘られ深くなっていく。
塞いでしまえば良いのだが、まずは誤って人が入り込んでいないかの安全確認が必要で、そのためには中に住み着いた魔獣も討伐しなくてはいけない。
また、人が入れるほどの穴を掘るということは、それの主もまた人並みの大きさである。追い出し、放置するわけにはいかない。
ぱらぱらと管理書をまくりながら話す。他のパーティーはいずれも、出発後か既に活動中らしい。
(仕方ない、お茶でも頼んでのんびり待つ、と)
「お姉さん、香茶一ついい?」
「申し訳ありません。カフェはまだ開いておりません」
(あっ、やっぱり『難い日』か……?)
「あ、あれおかしいな~……この前の朝は出してくれたのに、駄目?」
「はぁ……かしこまりました」
聞こえる程の溜め息を吐き、不満そうに返答した。
(うーむ、わからん。お茶一つでこうも応対が違うとは)
しばらくすると出してもらえたが、「この前は只の気まぐれですのでお忘れ下さい」……だそうだ。
日が高くなり始め、ギルドの人も増えて少しずつ慌ただしくなるなか、冒険者も現れては出て行く。いずれも一人か二、三人組の冒険者で今帰りなのか、これから出発なのかそんな事を考え始めた頃。
「ライト様、お見えです」
(んっ? と、ぶっはっ)
「げっほぇっほ…」
お茶を口に含んだまま呼ばれたので入り口を見やると、おおよそ新人と思えない風体の……? 冒険者、と言えるのか、一歩間違えれば賊ともとれそうな強面の男達がいた。歳も俺の父より一回り以上に見える。
新人と聞き、俺と同じくらいの年齢と勝手に想像してしまっていた。いや、冒険者はいくつになってもいいのだが。
(苦しい……変なとこ入った……。いくらなんでも想像と違いすぎだ)
口を隠しながらお姉さんに確認すると、ゆっくり頷いた。
(……ふぅ、平常心、平常心。いつも通りに話せばいい)
なんとか咳き込みを治め俺はリーダー風の男と交渉を試みる。
「あぁ、おはようお兄さん達。実は少し相談があるんだけど、今話せないか?」
「誰だあんた? 俺たちはこれから出発するんだ。手短に話せ」
「ああ。まず俺はライトだ。相談というのはその出発の件でな、洞窟に行くんだろ? お姉さんから聞いてね。それに俺も同伴させてほしいんだが、どうだろう?」
「お前がライトか、剣士を辞めた噂は聞いてるぞ。剣の次はなんだ? 魔法か?」
「あ~……記者だ。今の俺の武器は剣でも魔法でもない、情報さ」
それを聞き、男は鼻で笑うとこう話す。
「おい聞いたか? 記者だとよ。情報で戦えんなら、世話ねーんだよ」
男達は違いない、と言い笑い出す。
(……堪えろ、ここは堪えるんだ……)
「……いやぁ、実はそうなんだよ。だから困っててさ、同伴させてくれるパーティー探してるんだ。これも人助けと思って…」
「他を当たれ。戦えねぇなら引っ込んでな」
(駄目、か。……けど、ここまで言われるほどか……?)
そう考えると俺は冷静でいられなくなった。
「あ、あ、あ、そういう事言っちゃうとなー、良くないよなー」
「……ああン?」
「俺も記者だしなー。あ……ごほん、お兄さん達の今の対応をそのまま記事にしたら、どうなっちゃうのかなー?」
(あぶね、今「あんた達」って言いかけた……)
ひゅうー、と男達の一人が口笛を吹く。更に別の一人はお姉さんに話しかける。
「なあネエちゃん、あれって脅迫なんじゃないのー?」
(うッ)
お姉さんは少し考えるそぶりをし口を開く。
「……どうでしょう? あなた方の挑発的な言動が無ければ未然に防げたのでは? 売り言葉に買い言葉といいますから、今のやり取りであれば正当防衛と私は判断致します」
「あららネエちゃんはソッチの味方なのね」
「……その言葉に訂正を求めてよろしいでしょうか」
その言葉を発すると周囲の空気が変わる。
「私が味方なのではありません。ここに居た者が私でなくとも、そう判断されると考えたまでです」
「はァ?」
男達はギルドで働く者達に、じとっ、とした目を向けられていた。
「ぅぅぅ……お頭ぁ……」
「……ったく、ついてねェな……。おいニイちゃん、そこまで言うなら勝手についてきやがれ。おらお前ら行くぞ」
そう言うと彼らはギルドから出て行った。なんとか了承されたので俺もついて行こうとすると……。
「ライト様、こちらへ」
とお姉さんに呼び止められる。助け舟を出される結果に負い目もあり、内心怯えつつ向かう。だが彼女は彼らの名簿に同伴のサインを求めただけだった。
そしていつも通り「いってらっしゃいませ」と見送られ、俺は足早に彼らを追った。
(あっ、何も言わずに出て来ちゃったな……お礼も「いってきます」も言えてない)
彼らの背中を見つけたので少しペースを落とすと、この事を忘れないよう手帳にメモしようとした。
“……大した交渉力だこと„
(グサッ)
俺がメモするより早く刺されて痛かった。




